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ボイトレと楽器の調律を終えた所だった。苦手なフルートも練習して、なかなか上手に吹けるようになった。つい最近始めたのは、ギター。弾き語りなんていいなと思って練習して見ると、意外と楽しかった。


 ゲームはというと、あれから三日程ログインしてはいない。仕事はしないでも遊んで暮らせる生活だから、楽器弾き放題な生活なんだけど、それ以上に収入源である駐車場の様子を見たり、マンションの様子を見ていたら自然と時間が過ぎて行く。まぁ、たった三日ログインしなかっただけだからゲームもそれ程変わっていないと思うけど。そんな事を考えながら、私はAMOの公式サイトを開いた。


 すると、そこには吟遊詩人について変更のお知らせと書かれていた。あんなに簡単にレベルが上がる吟遊詩人だから、もしかすると……そう思ってページを開くと、思っていたのとは全然違っていた。内容は、吟遊詩人の転職書を削除するといった内容だ。

 実の所、あれのせいできちんとテストに合格した吟遊詩人が疎まれるようになり、なかなかゲームがしづらくなったと苦情がきたと公式サイトには載っている。私も、よくよく考えてみれば皆の冷たい対応も、きちんと演奏をしたら改善してくれたから……全てはこの転職書が原因らしい。

 でも、だからと言って演奏できない人の楽器も蹴っていいという理由にはならない。だって、楽器は演奏する為の道具、言わばパートナーのような存在であり、ボールのように蹴ったりする友達ではない。


 この前の男の人を考えながらイライラしていると、一番下に驚くべきアップデートが書いてあった。なんと、本日のメンテナンスまでにJOBLvが1のままの吟遊詩人は強制的に元の職に戻され、テストを受けなおさないといけないらしい。

 JOBの上げ方は、人前で演奏していいと思ってもらう事らしい。聴いた人が頭の中で思った事が素直にJOB経験値に反映されるとか……、演奏できる人なら簡単にレベルが上がるものの、出来なければ一生レベルは上がらないと書いてあり、私は頭を抱える。

だって、一生吟遊詩人のまま演奏して暮らせるわけではない。吟遊詩人の次は舞姫だ。踊らなければいけないんだ。


「踊るかぁ、できるかなぁ……」


 不安を抱えつつもゲームにログインした。何と、昨日ログアウト前に演奏した星に願いをのおかげでJOBLvはカンストしており、すぐに転職できる状態。

 そして、メールにはこの前私のヴァイオリンを蹴った人から謝罪のメールが入っているものの、読む気にならないから速攻に削除した。


「よし、気合入れてダンスの試験を受けよう!」


動画で踊って見たとかあるし、運動神経も悪いほうじゃないからいける! そう自分にガッツを入れて立ち上がる。転職場所を調べると、何とこの町、アウクレーベル城で転職が出来るらしい。

矢印を頼りに、私は舞姫転職会場へと走り出す。


 その途中で、水色の宝石で出来た綺麗なヴァイオリンに出会った。

透明感のある水色の宝石がとても綺麗なヴァイオリンだ。


「い、いいなぁ……、このヴァイオリン……」

「あー、お嬢ちゃんお目が高いね。そのヴァイオリンは、BASELvカンストから使えるレア楽器さ!」

「へー、BASEカンストってどれくらいなんですか?」

「Lv70だね!」

「……うわぁ、まだ1だ……」

「あっちゃー、60台になってから買いにきてくれよ。お値段もそこそこするぞ」

「うわぁ、吟遊詩人って人気出たんですか?」

「いや、カンストレア武器の中では一番安い。一番高い武器と比べると、そのヴァイオリンを50本買っても一番高い武器には追いつけない」

「ぜ、全然安いじゃないですか! あ、ヴァイオリンだと数え方は挺です」

「そのLvからしたらお高いっていうだけだな」

「あ、そうなんですか……」


早く、あのヴァイオリンを弾きたくてレベル上げに専念する事にした。けれども、JOBのレベルも上げないと、だから舞姫に転職する事にする。難しいようなら、先に僧侶になるのもありだけど。


ちらり、とフレンド欄を見るとMr.アマツキさんはBASELv30で、ミルキーさんがBASELv18。なかなか、BASEのレベルは上がりにくそうだった。


長い事時間をかけないといけないかな、なんて思いつつも矢印の案内に従って、舞姫転職会場へとやってくる。吟遊詩人転職会場とは違って、誰も並んでいない様子なので、さっくりと建物の中に入れてしまった。まぁ、時間が平日の朝だから、普通の人は仕事をしている時間帯だ。


「ようこそ、舞姫転職会場へ。転職の書廃止を受けて、現在は転職の書は受け付けていない状況ですので、テストを受けますか?」

「はい、お願いします」

「それでは、時間をあげますので千本桜のダンスをマスターしてきてください。踊り方は、この映像にありますので、お好きなだけ再生して練習してくださいね。時間等については無制限です、貴方が粘れるだけ粘ってください」

「はい、わかりました」

「時間が無制限なぶん、完成度を要求されますのできちんとマスターしてきてください。練習場所は、この建物内なら押す牙書を使っていいですから」

「はい、ありがとうございます」


お礼を言うと、ダンスの練習場所を探して部屋を回る。できれば、広くて誰も見て居なさそうな場所。そう思いつつ探していると、広いダンスホールのような場所にたどり着いた。


「ダンスホールなんだし、ここでいいよね!」


そう思えばすぐ行動。貰ったDVDのスイッチを押せば、千本桜の音楽と共に緑色のツインテールの女の子のダンスが映し出される。丁寧に、背後、正面、反転の三つがそろっている。難点なのは、踊っている女の子のツインテールが邪魔な事くらい。そこは、スローモーションを使って繰り返し見る事でカバーできそう。

 まず、一気に覚えようとしないで音楽の一節区切りつつ細かくダンスを覚えていく。そうして、ある程度覚えたら繰り返し踊り、完璧にマスターできたと思ったら次へ進む。

 そうして、最後まで踊って、全部通した時に、まだ所々間違える所はあるものの、大体は覚える事ができていた。後は、何度か踊ってモノにするだけだから、何度も映像を見ながら踊り、最後は映像なしで全部踊れってダンスの練習は終了。


そして、一番問題なのは人前で踊る事ができるかどうか。これが一番重要だ。今までは、誰も見ていなかったからのびのび踊れたけれど……、慣れている演奏とはまた違う緊張がある。

でも、ダンスは人前で踊らなければレベルなんてアップしない。腹をくくって、さっきの転職会場へと戻ると、案内してくれたおじいちゃんが出迎えてくれた。


「随分お早いですね。もう大丈夫ですか?」

「はい、たぶん」

「それでは、踊っていただきましょう」


そう言われ、お爺ちゃんが指を鳴らすと、ワン、ツーという声が聞こえてきた。この声は千本桜を歌っているボーカルの女の子と声が似ているものの、何処か棒読みで機械室な声だ。


映像を思い出しつつ必死に踊り、踊り終えた時にはお爺ちゃんが拍手をしてくれた。


「いやぁ、素晴らしい。踊りは完璧でした」

「あ、ありがとうございます!」

「これからは、貴方は舞姫です。頑張って踊ってくださいね」

「はい!」


必死に練習してよかったと思ったものの、特異な合奏の演奏ごとに踊りの練習が必要となるとちょっと大変だ。


「そういえば、この音楽も能力強化とかあるんですか?」

「もちろんありますよ。効果は移動速度アップですが、演奏スキルよりも高い効果が受けれます」


演奏が低いのはへこむけれど、能力は高いだからもっと満足してもらえるはず、そう信じて私はこの前演奏していた場所へと出向く。しかし、少し待っても人は通る気配はなく、諦めて城中央へ行くけど、人は居なかった。

 

 そして、最後の頼みである商店街どおりに行くと、NPCやらプレイヤーキャラクターが何人か鎮座しながらお喋りしていた。ここなら、人は居るからレベルが上げれる、そう感じて私は看板やチップ箱を用意するとラジカセの電源を入れて、音楽がなり始めた。すると、お喋りしていた人達はのんびりと喋りながらもこっちを見てくれる。


 踊り始めると、手拍子をしてくれるから恥ずかしいという気持ちは一気に薄れてそのまま最後まで踊り通せた。そして、確認するとJOBレベルは6。まずまずといった所だけど、やっぱり同じ人に何度も踊りを見せるのも退屈する事がわかってしまった。一礼すると、荷物を片付けて別な場所を探す。看板のほうは、パーティー募集中を消してJOB上げ中に変更した。


 暫くしていると、何処にも人が居なくてどうするか……そう思っていると、一組のパーティーが何やら船に乗っている。船の中をよく見てみると、結構な人が乗っていて……、一緒に船に乗れば大丈夫かもと思い、私も船のチケットを買う。ちょっと出費は痛いけど、現地でチップ貰えばいいかな、なんて考えながら誰も居なかった船の甲板で踊り始めた。


 すると、見る見るうちに甲板付近が埋まり、踊り終える頃にはJOBLvは18。そして、次はヴァイオリンを弾くかなんて考える暇も与えないくらいのタイミングで、船は目的の場所についた。


私は、船から降りなくていい事を使い、そのまま船から降りないで全員が乗るタイミングでまた踊り始める。また踊っている時に、何人かの別な舞姫さん達も参加してくれて……合計5人程で踊る事が出来て、無事に30までJOBカンストする事が出来た。

一緒に踊った人達からは、フレンド申請してもらい、次のJOBである僧侶になる為に、一度エルフの村に戻る事にした。


 他の人達からの話だけど、この吟遊詩人や舞姫だけは、特別にJOBのレベルが上がりやすい職なだけらしく、見てもらう人数がそれだけ上がれば自然とレベルが上がるらしい。

だから、これから上げる僧侶という職は物凄くレベルが上がりにくく、大変だから、早いうちに一緒に上げてくれそうな相手を探す事をオススメされた。

できれば、毎日パーティーを組んでくれるような相手。

パートナーになってくれそうな感じが理想らしい。


 そんな相手ができるといいなと考えながら、馬車に乗り込んだ。今回は相席の人は居なく、一人で馬車を貸しきり状態なのだが、こう誰も居ないと妙に寂しく感じる。


 じっと窓の外を見ていると、窓の外は全てノンアクティブの住処になっているらしく、大勢のプレイヤーキャラクター達が楽しそうに狩していた。中には、何人か踊っている人や演奏している人も居て、BASELvを上げながらJOBLvを上げているんだと実感する。


 皆楽しそうで生き生きとしていているから、誰かと一緒にパーティーを組むなんて本当に羨ましい。……いいなぁ、なんて思いながら見ていると、この前は長く感じた馬車の時間があっという間に過ぎていった。気が付いた頃にはもうエルフの町にはついていて、馬車から降りると、そこには初心者らしい人間種族のプレイヤーキャラクターがパーティーの募集をしていた。

いいなぁと思う反面、集まるエルフの数は凄く、あっという間に募集は終わってしまう。僧侶なんて物凄く多くて……、この先転職するかと迷っていたけど、よくよく考えてみると、私が人間種族の故郷へ行けばどうだろ?

 思いつくと、やっぱり色々と創造が広がってしまう。見た事もない村だから、このエルフの村みたいに自然豊かなのか、または城みたいに建物ばかり立っているのか。

このゲームの世界は、本当の現実のような風景ばかりだから色々と冒険心をくすぐられる。


 そうと決まれば、意気揚々と僧侶転職会場へと向かった。舞姫転職会場とは違って、僧侶転職会場は物凄い長蛇の列が出来ている。


「わー、凄い人数」

「それだけ、僧侶は人気なのよ。これくらいの人数で驚くなら、他の職がよくってよ?」

「そう言われてもなぁ。僧侶が終わればやっと、アイドルなれるんですよ」

「アイドル? 何それは何かしら?」


周りに居る人達はほどんど新規さんらしい。色々聞かれちゃうと、つい先輩面して答えてしまうのは人間の性ってやつなのかな?皆、興味心身に聞いてくれるから答えやすいっていうのはある。


「1つの職をLv30まで上げると、別な職になるんですよ。アイドルには、吟遊詩人と吟遊詩人の上位職の舞姫、そして僧侶が必要なんです」

「ぎ、吟遊詩人って言ったら、転職が難しいって有名なあの……?」

「ええ、私は楽器を選べなくてフルートでやったんですけど、もしかすると今は変わってるのかも?」

「それにしても、ピアノもろくに弾けないからなぁ」

「それ以外、僧侶の派生職なんてございませんの?」

「うーん、私が知る限りではないなぁ。ガイドブックに乗ってるかもよ?」


ガイドブックの職欄を見ると、アイドルという職はクロニクル職という職業になるらしい。舞姫は上位職で、僧侶だけは上位職は実装していなかった。

魔法使いには上位職が実装されていて、魔法使いは魔術師ウォーロックになる。弓手は銃士ガンナー、剣士は騎士ナイト

クロニクル職は、魔法使いと僧侶でソーサラー。魔法使いと剣士でマジックナイト。弓手と騎士でブレイヴ。


「あ、魔法使いと僧侶でソーサラーになれるらしいですよ」

「そうなんですの? まぁ、よかったですわ……」


皆胸をなでおろしているけど、ソーサラーの説明欄には範囲攻撃や属性寄与を得意とすると書いてあるから、僧侶さんの仕事とはほぼ遠い気がする。

回復や支援(強化魔法)のお仕事は、アイドルに全部持って行かれている状態だから。

言ったほうがいいのかな、なんて思いつつも実際やってみたら楽しいとかあるかもしれないし。

そう思って、あえて口に出さなかった。


「あ、でも私ヒーラー(回復職)がいいから、やっぱり吟遊詩人にならないと」

「ま、まぁそうですの? それは困りましたわ……」

「そっか、皆そういう事がしたいんだ」

「貴方はそうでなくって?」

「私は、音楽がすきだから」

「まぁ、そうでしたの……」


皆、やっぱりヒーラーになりたかったらしく、少し悩んでいるようだった。皆が続けていけるか少々心配になってくる。

「本職さんってやつかー。うーん、スキルの能力に演奏の上手とか関係ある?」

「え、えーと下手だとマイナス効果がありますね……」

「そ、そんなー」


「ねぇ」

そんな悲観的な会話の最中に、一人の男キャラが割って入ってくる。


「なんで、そこまでヒーラーに拘るの?」


その一言で、周りに居る人達は皆考え始めた。


「なんで、でしょう。私は特別な職だからって思いますわ。なんか、憧れの職というか」

「うーん、私は感謝されやすい職だから」

「私は、もちろん自分のプレイヤースキルを思う存分発揮できるから!」

「忙しい要になる仕事がしたいの」

「攻撃するの苦手なんだよねー」

「運動神経ないから……、守ってもらえる職がいいなーって」

「誰かについていったほうが、気が楽じゃん?」

「やっぱり、支援スキルを使うほうが楽しいんだよね」

「僧侶って、Lv上げや装備集めが楽なイメージがあるから」

「私、誰かを応援するのが好きで、趣味は辻補助なの」


理由は、本当に様々だった。私が共感できる事もあれば、共感できない理由もあったり……。

それでも、男の子は納得できてない様子だった。


「うーん、やっぱり無理に回復職を選ぶ理由がわかんないね」

「え、なんでー? 回復職楽しいよー?」

「それはわかるけど、こんな回復職がきついご時勢でなんで無理してまで続けるの?」


すると、周りの人達は顔を見合わせて、口をそろえて答える。


『そこに、回復職があるから』


皆の信念に感激するものの、私は実際の所ガイドブックに薦められて決めました、なんて口が裂けても言えない状況で……。


「で、貴方はどんな職業ですの?」

「アンタ達が嫌ってるソーサラー候補」


それを聞いて、全員が黙ってしまった。


「べ、別に嫌ってなんていませんわ。ただ、回復職がしたかっただけですの……」

「サブヒーラーだけど、ソーサラーだって回復は出来るよ」

「わ、私は補助魔法で応援がしたいの!」

「属性寄与の補助魔法は、ソーサラーだけの特権だよ?」

「パ、パーティーの柱になるような重要な職がいいのよ」

「それなら、騎士に転向すれば?」

「攻撃きらーい」

「明日のアップデートで、マーチャントとブラックスミスが実装されるけど」

「だ、誰かに守ってもらいたいなーって……」

「そもそも、回復職って守る職だよね」

「じゅ、重要職だし、レベ上げ楽そうだし」

「楽なのって、そこに居る音楽経験者のみだよ」


全員論破されて、誰も残っていない状況だった。なんだか、本職ヒーラーがおされ気味になっていて……、論破できる言葉が欲しかった。


「どんな状況でも、守れる力が欲しいんです。攻撃が通らないような敵でも、仲間を逃がせるような力が。少しの回復しかできないソーサラーに、それができますか? 回復ができないナイトにそれができますか?」


これは、単なる意地だ。でも、なんだか引けなかった。言葉で押し負けるから、その職をしちゃいけないなんて可笑しい。本人が好きな職をすればいい。好きな職をしたいから、ゲームをするんだから。


「ナイトなら、回復ポーションを飲めば? 逆に、ヒーラーより耐えるよ」


その言葉で、私はつまづいてしまう。何か、何か他に方法はないのかな、と思って必死に言葉を捜している時だった。


「あれ? このゲームってポーション売ってかしら? 売ってたのなら、私がほしいくらいよ。悪いけど、このゲームの回復職を舐めないでね」


後ろに立っていたのは、この前一緒の馬車に乗ったミルキーさんだった……!

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