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一部濃い腐表示があります、要注意。

「あれ、もうβテスト始まってるよね」

そう思って公式を見てみると……、今日の夕方6時から開始らしく、現在は5時58分。

微妙に、βテストが始まっていない時間だった。

――時間をよく見てからはじめればよかった。

後悔をしている間に、時間は6時01分。

慌てて再度AMOを起動すると……、そこには最初みた森が広がっていた。

勢いよく駆け出そうとすると、躓いて転んでしまう。


「うわっ!?」


他の人達が次々と私に躓いて転び始め、私は人々の下敷きになっていく。

重くて声が出そうにない時に目の前を見ると、1人の男が私の下から必死に足を引き抜いていた。


「おい、謝れよ」

「ごめんなさ」

「そこの男、お前がそこで寝てるから躓いたんだろ?」

「いや、僕はただMP回復させてただけだし。何処で回復させようが僕の勝手だろ?」


苦しくて重たかったけれど、後ろの人がどいてくれて私はどうにか立ち上がれったけれど、目の前の喧嘩は収まりそうにない。逆に、転んだ人達も乱入して酷い有様になっていく。どんなに責められても、私が転んだ原因である小麦君に見た目が似ている男は謝ろうとしない。

「あのさ、別にそこじゃなくたって回復できるだろ!?」

「そもそも、回復専用の宿屋は無料なんだし、そこに行けよ! 回復ボーナスだってついてるんだぞ!」

「だーから、何度も言うけど何処で回復しようが僕の勝手じゃん?」

「ゲームは、皆でやるもんなんだから、少しは迷惑を考えろよ!」

「はー? おたく、この部類のゲーム始めてー? このゲームのルールはね、最強な奴がルールなんだ」

「何よ、アンタ! まだ始まったばかりのこのゲームで!」

「僕はね、事前に行われたαテスト内の公式PvPで優勝した最強の人間なんだ。それが原因でマスコットだってやってるよ? 僕が一言言えば、おたく等全員アカウントBANにさせれるけど?」


その一言で、辺りはざわめき始める。目の前のマスコットだと主張する小麦君に非難が上がる中、小麦君はくつくつと笑いながら仁王立ちをした。


「お前さ、始めからその子が転ぶってわかっててそこで寝そべったんだな」

「それがどうかした? そんな事くらいで躓くほうが悪いんじゃ?」


小麦君は、さぞ面白いとでも言うように大声で笑い始める。様々な人達から罵声がとんでくるものの、お構いなしにニヤニヤとした表情は崩さない。


 その時、一人の女の子が小麦君に殴りかかった。すると、迎え撃とうと構えていた小麦君の体が一瞬にして消えてしまう。突然の事でざわついている中、一人の男が私の肩を叩いた。


「お嬢さんも厄介な奴に目を付けられたね」

「さ、さっきの小麦君は?」

「あー、あいつは……、BANされたんだ。ゲームの運営が禁止している事をやったからね。あいつの言ってる事は正しいけど、まだ続きがあるんだ。あいつは、チートを使って不正にゲームを改造して優勝したから、ただのマスコットなだけでゲームを続けていい存在じゃないんだよ」

「使っていた装備もRMTって言って、現実のお金を使って不正購入した代物だったからのよ」

「あんまり言いたくないけど、次からアイツを見たら絶対に関わらないようにね。アイツは、腐女子っぽくてあの外見を気に入ってるから、名前は変えても外見は絶対に変えないんだ」

「ったく、腐女子から人気が出たのはいいけど、なんでこう根暗な腐女子って性格悪いんだろうなって、お嬢さんどうかした?」


小麦君の中の人と自分の状況は酷く酷似しているように思えた。だからこそ、腐女子の血が疼くんだ。――あれは、同士だ。あれは仲間だ、と。

そう思ってしまうと最後、どんな性悪な奴だろうが、仲良くなりたいと思ってしまう。

座り込んでいた私は立ち上がり、決意をこめる。


「ううん、大丈夫。強くなりたいな、そう思っただけ」

「――そうか、頑張れよ。お前ならきっと、強くなれる」

「ありがと」


エルフの男の人にぽんと肩を叩かれて、私は歩き始めた。何やら、誤解されてる気もするけど、そこは気にしない。目標が決まったからだ。強くなり、そして小麦君に認められるプレイヤーになろう。そして、小麦君と仲良くなって、ショタ愛について語り明かすんだ。そう決めた私は強く歩き始めた。同士と仲良くなるために……。


そして、私はガイドを頼りに初心者案内所へと向かった。実の所、外見ばかり気にして詳しい情報等は全く調べてなかったから。様々な職業がある事を売りにしたらしい事はわかったのだけど、それがどんな職なのかもさっぱり理解していない。


「えーと、この辺りにあったんだけどな」

地図を頼りに歩いて行くと、そこにはマップで示された記号の看板が立っていた。きっと、ここが初心者案内所だ。

室内に入ると、早速NPCから職業案内という紙を手渡しされる。


Q運動は好きですか? → いいえ

Q暗記は得意ですか? → はい

Q一人で戦うほうが好きですか? → いいえ

Q歌う事は好きですか? → はい


『診断結果が出ました。貴方にオススメの職業は吟遊詩人バードです。僧侶クレリック舞姫ダンサーも経験し、アイドルになる事をオススメします』

「アイドルー!?」

思わず叫んでしまって、周りの人達が不思議そうな顔で私のほうを見るものの、目の前にはピンク色の矢印が出てきて、バード転職場への案内をされている。魔法使い《マジシャン》になろうと思ったのに、これはもう吟遊詩人を経験するしかなさそうで……、案内されるがまま吟遊詩人のテストを受けに行く。

案内された所には、エルフばかり立っていたから不思議に思い、ガイドブックを見ると、吟遊詩人という職はエルフ限定の職らしい。だから、エルフだけしかおらず、βから開放される限定職と言う事で人気も高いらしく、人が圧倒的に多かった。

その奥のほうでは、魔法使いらしい人達が魔法を唱えて次々と敵をなぎ倒していた。

羨ましいなぁと思う反面、オススメされたのが吟遊詩人なのだからと我慢して吟遊詩人の行列に並ぶ。

並んでいる最中に、どんどんと初期服のままの人が戻ってきて、そのまま魔法使いのほうへと向かって行ってるのを見て、不思議に思った。


「吟遊詩人って、絶対音感がないとなれないんだってさ」

「そうなんだ……」

という事は、先程の人は吟遊自身になれなかった人だろうか。

楽器に、ピアノかヴァイオリンでもあればいいんだけどと心配しながら、列に並び続ける。そして、前の人がテストへと向かって、別な人がテストを失敗して戻ってきた。私が並んでる間に成功をしたらしい人は、まだ見ていない。


「はい、次の方ー」

「は、はい」

案内された場所には、審査員らしきNPCのエルフが並んで座っていた。

そうして、一つの楽譜を手渡される。曲の音域からいって、これはヴァイオリンかもしれない!

「はい、フルートです」

「えっ、私ヴフルート経験は浅いのですが」

「ヴァイオリンは、スキルを上げないと使えないので」

フルートは、つい最近やりはじめただけだから、使いこなせるとは思えない。

緊張して振るえながら、手渡されたフルートを吹く。

曲は初心者用の曲である千本桜。

聞いた事はあるけれど、演奏した事はないので、楽譜を見ながら必死に演奏して、演奏し終えると辺りから拍手が起こった。

「いやぁ、完璧ではありませんがきちんと演奏できていましたよ。無事に合格を認めましょう」

「あ、ありがとうございます……!」

「そのフルートは差し上げましょう!」

「すいません、ヴァイオリンはないですか?」

「それは、ご自分で作るか購入してください」

「あ、はいわかりました……」


フルートを持ったまま外へ出ると、並んでいた人達が驚いたような表情をしている。

「あれ、吟遊詩人って歌えばいいんじゃ?」

「えーと、私の時にはフルートでしたね。私はヴァイオリンがよかったんだけど」

「ピアノも駄目なの?」

「わかんないです。選べ無かったですね」

「通りで、貴方以外合格者が居ないんだ」


すると、並んでいた長蛇の列から、ちらほらと出て行く人が増え、残ったのは片手で数えられるくらいになってしまった。

同じ職の人が少なくなって、少々寂しさを覚えながらも次はどうするかと考える。とりあえず、フルートは未熟だからヴァイオリンがほしい。そう思い、スキル欄を見ると、ヴァイオリンを使うためには、ある程度フルートで演奏してからでないと駄目らしく、当分スキルをあげる事にした。

 持っている楽譜は、テストに使われた千本桜のみ。これは、聞いた人の行動力を一定時間だけ上げる演奏スキル。30分能力アップが寄与されるらしい。そして、私が持っているのはチップを入れる為らしい空きビンと、フルートと楽譜と看板。人通りが多い場所でチップを狙いつつ演奏するのが吟遊詩人のレベル上げ方法だと理解した。

そして、ガイドブックには現在の場所はエルフの故郷と書いてあり、人間も暮らしている場所へと向かう為、地図に載っている場所から無料送迎用の場所に乗り込んだ。

馬車内はパーティー用を想定されているらしく、パーティーを組んで居ない人は、ソロ専用の相席専用馬車の列に並ぶ。そうして、待っている間に周りを眺めていると魔法使いらしい格好の人や僧侶の格好の人らしい人達も馬車に乗り込んできた。


「いいなぁ、吟遊詩人になれたんだ」

「あ、はい。フルートは少しだけ経験してたもんで」

「いいなー、ウチもなりたかったわー」

「そういえば、このゲームの職って全部把握してる?」

「いえー、ガイドブックに案内されるがままかなー」

「あ、知ってるわ。基礎職は、魔法使い《マジシャン》、僧侶クレリック吟遊詩人バード弓氏アーチャー剣士ソードマンなんよね」

「そうそう。それに、吟遊詩人だけ上位職があって、女が舞姫ダンサー、男が道化師クラウンになるのよ」

「え、そういう違いがあったんですか?」

「なんそれ、ウチも知んかったわ」

「あ、やっぱ皆新アップデート情報見て無かったんだ。舞姫は支援魔法、回復魔法特化で、道化師は異常攻撃や魔法特化等があって、道化師のほうはPvPをするなら必須で、舞姫は常に必須みたい」

「なんやー、回復目指すなら吟遊詩人必須なんか」

「うん、みたい。男だと、魔法使い、吟遊詩人、道化師でジプシーになるみたい」

「えー、ウチどないしよ。魔法使いに変えようか迷うわ」

「うーん、魔法攻撃で回復するんだから、ある程度育てたら魔法使いでもいいんじゃないかな」

「せやなぁ……、でもやっぱ回復職やってちやほやされたかったわー」

この瞬間だった、一瞬だけ魔法使いの人の表情が険しくなる。

「あー、それ皆考えるから、やっぱ回復職の難易度上がったんじゃないかな。僧侶実装時には僧侶が多すぎて、レベルが上がらないっていう事態が発生したから」

「え、そーなん? そんなに多いならウチも魔法使いにしとけばよかったわ」

「まぁ、今じゃ吟遊詩人のほうがちやほやされそうだけど、でもなんでちやほやされたいの?」

明らかに、魔法使いの人と僧侶の人はイライラしている。僧侶の人なんて、私の間横の席を足でガンガン蹴っているから、心臓の音がバクバクとなり、背筋が寒くなる。外を見ると、まだ移動にかかるらしく全然町なんて見えてこない。

「えー、やっぱ他人からチヤホヤされるのって気持ちええやん? 特別扱いされて、誰かからアイテム貰っていい気分になったり可愛がってもらいたいやん?」

「私は、パーティーに引っ張りだこになるのは嬉しいけど、アイテムとかは自力で集めたいな。っていうか、姫志望?」

「ええやん、姫。可愛い子だけが許される特権やで? 女キャラ作ったら、皆姫目指すもんやん?」

「やーだなぁ、その考え。そんなんだから、他の女支援が疎まれるんじゃない」

「それは違うで。可愛いくない人がパーティーに誘われないだけや。可愛い子はきちぃんと誘ってもらえるて」

「いーや、違うね。そういうアンタ等姫のせいでこっちは困ってるんだって。やっぱ回復やるやつなんて、ろくな奴が居ない!」

「らしいで、アンタ」

ケラケラと笑いながら、僧侶さんは私を指差してくる。

「どう見たって、アンタでしょ!?」

魔法使いさんは、今にも殴りかかりそうな勢いだけど、少ない理性でやっと抑えている状態だと見るだけではっきりわかる。顔はすごく険しくなり、無理に作っていた笑顔も完全に消えた。

「はー? ウチ魔法使いにするでー、回復なんてせぇへんでー?」

「こいっ、つ!!!」

魔法使いさんが殴りかかりそうになって、私はとっさの2人の間に入った。

「ストーップ、ストップストップ」


この時、私は僧侶さんがわざと怒らせる方向に誘導しているように思えてた。思い出すのは、最初に出会った小麦君。


「あのさ、僧侶さん。一つ確認したいんだけど」

「はー? なんや貢がれ姫」

やっぱりだ、この人がイライラしていたのも全部芝居だ。

「貴方さ、小麦君?」


その瞬間、僧侶さんの顔が一気に真っ青になっていくのを確認した。そして、私はその反応を見て小麦君だと確信する。


「小麦君の姿に拘ってたのでは?」

「削除されるから、しゃぁないやろ! 小さい男の子にすると、即効削除されるようになってしもてん!」

「ゲームの開発者に話して謝ったらどうです?」

「はぁ? ウチなんにも悪さしてへんで。それなのに、あっちがウチのキャラ削除するんや! 謝るのは向こうやろ」

「貴方、そういう性格だからBANされるんでしょ。もう通報したからね」


その言葉を聞いて、私は慌てた。だって、小麦君とショタ談義について語り合いたかったから。

リアルの情報でも聞いて、お茶でもしようと思っていたから。


「あ、待って。ショタって可愛いよね! ショタについてもっと話し合いたく……」

「あかんけど、もう終いや。話は次出会った時にな」


そう言うと、小麦君だった僧侶さんは消えてしまった。

手を伸ばそうとしても、擦り抜けてしまって……。


「止めときなよ、小麦君は可愛いけど、さっきの人は小麦君の本当の持ち主じゃないんだから」

魔法使いさんは私の手を持つと私の膝の上の戻す。

「そうなんですか?」

「うん、小麦君はアカウントハックって言って、アカウントを別な人に盗まれたんだよ。だって、急に人が変わったんだもん」

「そう、なんだ」

「たぶん……、小麦君みたいな容姿じゃないけど男キャラとして遊んでるらしいから、そのうち会うんじゃない? 1つ言えるのは、本当の小麦君はちょっと痛い喋り方だけど、あんな意地悪な言い方はしない子だよ。仲間思いのとても優しい子だった」

「会った事あるんで?」

「……うん。私、実はαテスト経験者で、ずっと薔薇の会っていうギルドのメンバーだったから。今は女キャラだけど、昔は男キャラだったんだ。その薔薇の会のマスターをしていたのが、小麦君なんだよ」

「小麦君は今でもその薔薇の会に居るの?」

「居ると思うけど、薔薇の会は女キャラじゃ入れないよ」

「べ、別キャラは……?」

「犯罪防止の為、1人1アカウントしか作れないんだよね」

「性別変更は?」

「吟遊詩人になったキャラは性別変更できない仕組み」

「そ、そんなぁ……」

「まぁ、薔薇の会に入れなくても探す当てはあるよ。フレンド申請送ったから、登録してね」


言われた通りに登録ボタンを押すと、フレンド欄に『ミルキー 雄ミルク美味しいでふ^p^』と言う人が表示されていた

「あ、どうも」

「それじゃ、もうすぐ町に着くから。小麦君の情報についてわかったら、お知らせするね」

「はーい」


小麦君に関する情報が更新された所で、更に探す意欲が出てくる。

このまま、ゲーム内でショタ萌えな友人達を見つけられれば……そう願いつつ私は馬車を後にした。

その後、さっきの魔法使いさんが別な人達とパーティーを組んでいる所を見つけて、一緒に混ぜてもらえばよかったと後悔するのだった。

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