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よくよく考えてみれば、VRMMOという物は最初にパソコンでゲームキャラクターを作ってからログインする物という事を思い出した。
別に、このVRMMOが始めてというわけでもない。
なのに、何故キャラを作り忘れたかについては久々にVRMMOをするからだと思う、いやそういう事にしておこう。
「はぁ……」
自分のそそっかしい癖に、ついついため息が出てしまう。
私は、AMOをする為に公式サイトからキャラクター作成画面を表示させたのだが……、そこには何と種族が表示されていた。
このゲームには種族はないと言われていたので、驚いてみるがどうやらつい最近人間以外にエルフが実装されたという事らしい。
情報が載っているサイトを見ると、魔法がきちんと実装されたのもつい最近で、それまでは道具の一つとして扱われていたんだとか。
その為、回復魔法や強化魔法だけ使ってソロをするプレイヤーばかりで、チャットのできるオフラインゲーム化していたんだとか。
この現象を改善させる為、道具として扱われていた魔法を魔法職としてきちんと実装させる事や、様々な職をこなして自分だけのキャラクターと育てるという要素も追加する事で、別なゲームとの差を測るアップデートがされたらしい。
様々な職をこなすという事についてはまだよくわからないものの、魔法職と剣士職でマジックナイトといった感じで、2つの職をこなさないとなれない職がある。
そう言われても、私には具体的なイメージが出来ずに、とりあえずそのうち覚えるだろうという事で、エルフを選択した。
理由はもちろんエルフのほうが美人だからという事と、新しいほうが好きだから。
昔、テレビで見た指輪物語のイメージで作っていく。
壮大なバックBGMを背に颯爽と馬を乗り換えるエルフ王子のイメージ。
エルフの種族紹介には、素早い動きや物理攻撃は苦手で、魔法が得意と書いてあるものの、やはりイメージでは弓が大事だ。
そうして、理想のエルフ王子を作り上げた私は名前入力に差し掛かった。
あのエルフ王子の名前を入力しようとしたものの、思いつくものはほとんど『既に使われております』という表示になってしまった。
仕方ないから、緑をイメージした名前にした。
英語の名前、リーフやグリーン等も使えなくて、最終的にいきついたのが『碧』。
緑からだいぶ離れてしまったけど、同じ自然をモチーフにした漢字だからいいだろう。
そして、キャラクターが出来た所でAMOを起動!
エルフ王子『碧』の新しい冒険が今始まる!
そう思ったものの、一瞬暗くなった後目の前に広がったのは、膨大な木々で覆われたフィールドと、大量に鎮座するエルフ王子。
映画のあのエルフ王子ばかりで埋め尽くされていた。
時々、あの映画に出てくる別なエルフも出てくるものの、ほとんどエルフ王子だった。
その光景を見た瞬間、私はそっとゲーム終了のボタンを押した。
現実世界に戻ってきて、ヘルメットを脱いだ私は頭を抱えた。
よくよく考えてみれば、有名所のキャラクターを作る事は誰だってする事だ。
某最後の物語のチョコボ頭の剣士君だって、エルフ王子の群に混ざっていたし。
私はそっと、エルフ王子『碧』を削除した。
削除する時間はリアル時間で5分。
この5分の間に、消えてゆく運命の碧は、映画の中のエルフ王子がしなさそうな大げさな仕草で泣くんだ。
その姿を見ると、一気に本物のエルフ王子のイメージが崩れていくのが見えて、金輪際有名所や物語の登場人物等は作らないと心に決めた。
下手すると、エルフ王子しかいないパーティーにエルフ王子として参加する事になりそうだし、そうなったら誰が誰だがさっぱりわからなくなる。
やっぱり、個性って大切だね。
そして、碧を消してる間に新しいキャラクターをどうするか考えていた。
コーヒーを啜ってる間に、手元にあった小麦君に目が行く。
……小麦君みたいな可愛い男の子でも作ろうかな?
そんな事をふと考えていた時に、ゲームの公式掲示板を発見し、取引欄の装備の値段を見て飲んでいた紅茶を噴出しそうになってしまう。
圧倒的に男の装備の値段が高く、特に男女共有のスカート等は比べ物にならないくらい膨大なお金が必要だった。
それに比べて、女の子の装備はお金が少なくてすむ。
今から始めようとする私には、たぶんこんな装備なんて手に入らない。
だから、安くすむ女の子にしよう、そう思った。
「男が多いのって、小麦君の影響かなぁ……」
独り言をつぶやきながら、公式画面を見てみると、エルフ王子の碧は消えていて、新しいキャラクターが作成できる所だった。
「さて、仕切りなおしするかな」
ペロリ、と唇を舐めるとエルフを選択して、女の子作り始めた。
こんなゲームだから、美男美女は特別じゃないんだろうけど……、それでも自分の子にするなら自分が納得できる子にしたい。
見た感じ、体を細部まで調整できるらしくサイトには他人が作った情報データも公開されていた。
でも、絵心のある私は自分の力を信じて自分でやりぬく事に決める。
「おっぱいは大きくて、肩幅の違和感はなさそうにして、太ももは大きすぎないようにして……」
何故だか、顔より体のほうを細かく作ってしまって。
気がつけば、趣味のボイトレやらヴァイオリンの練習そっちのけで、ゲームキャラの体だけで一週間の時間が費やされていた。
その間に、αテストは終了し、一度だけログインした私にもαテストの特典が届いていた。
αテストなのだがら、全データがリセットされて、現在はβテストへの準備段階。
次のβテストではデータリセットが無いぶん、βテストでやる人数は増えるだろう。
「どうしよう、結局一回もゲームできなかったよ……」
頭を抱えるけれど、そんな事をしてもゲームは出来ない。
かといってこだわらない事が原因で後から後悔なんてしたくない。
だから、私は最後の調整をするために胸の形を調整し始めた。
その後、体が完璧にできると次は顔だ。
「えーと、体はグラマーにしたから、顔は美人系で、と……。色白の青髪青眼で、眼は大きくして……」
ざっと調整するものの、鼻が低く思えたり口が小さく思えたり、逆に小さくすると逆に下唇が薄く感じたりと調整したい所だらけだった。
そうして、拘りに拘り抜いて新しい碧が完成した時には、既にβテストが始まっていて、碧という名前すら『既に使われております』状態だった。
「どうしよう、名前……」
タロットカードやら宝石やら、色々な所から名前を引っ張り出しては『既に使われております』のテロップが流れた。
こうして一時間が立って、もう諦めるか……、そんな事を考えている時だった。
大好きな音楽の用語を大量に入力していくと、詠唱で悪魔の『既に使われております』表示が出なくなった。
もちろん、漢字は使わずにカタカナの『アリア』で登録した。
こんな事なら、大好きな赤色で統一すればよかったと思いつつため息をついている時に、β期間中だけ見た目を自由に変えれるらしく、速攻見た目編集画面に映り、自分好みなピンクと白で統一する。
改めて見てみると、垂れ目がちな目がおっとりした女性のようを連想させる。
鋭い目はクールでカッコイイけれど、きついイメージが定着するからこのままでいい。
そうして、苦労してキャラクターを作り上げてやっとAMOを起動させると……。
――現在メンテナンス中です――
私は、そっとAMOを終了させてヘルメットを脱いだ。