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夢屋  作者: 西本 拓人
7/13

五章「龍の仔とレイディアント」

ぴちょん、ぴちょんと断続的に水滴が落ちる音が響く。

前方は真っ暗闇。しかし、歩き続けているために目が慣れたのか、両側の岩の壁ははっきりと見える。

そして時折、青く輝く星のような光がフワフワと飛んでくるので、足下を見るのに最適だが、よくその光を見ると……とてつもなく醜悪な蟲であった。

その時は

「ひっ…」

と声が漏れたが、慣れとは恐ろしいもので、今ではその蟲の光を頼りに歩いている。

「しかし……」

なぜ、ここまで広いのだろう。そして、なぜ長いのだろう。

両手を広げても石の壁につくこともなく、歩き続けていても一向に出口らしき光や龍の群れの姿などといったものも見られない。

「……本当に龍なんているのかなぁ…?」

と彼女を疑いたくなったその時、

グオオッ…

と重低音の、それでいて怒りに震えているような唸り声が微かに聞こえた。

彼は確信した。

必ず先には出口があるということを。

彼は駆け出した。

すると、巨大な隕石が落ちたかのように大きく抉れ、クレーターとなった地面が見えてきた。

そのクレーターの先に、光が見え、そこから風が吹き込んでいる。

つまり

「出口……」

出口だ、やったと喜ぼうと思った途端、クレーターからダイアモンドをそのまま鱗にしたような爬虫類の生物が両翼を広げて飛来し、唸り声をあげた。

『貴様…我がダイアモン・ドラグーン一族のテリトリーによく侵入出来たものだな…』

ダイアモン・ドラグーン…そうか…。

彼は即座に頭を下げ、敵意がないことを示し、

「ごめんなさい。…貴方の後ろに見える出口から人間の住む街に行けるんです。…本当に申し訳ないのですが、通ってもよろしいでしょうか?」

と許しを乞うた。だが、かの龍は

『ふざけるのも大概にしろ、人間風情が!』

「っ…⁉︎」

怨嗟を込めた鋭いに瞳に新崎を捕らえ、どんな生物でも震え上がるような怒号を飛ばした。

『貴様らが我らが魔族に何をした?…我らが貴様らに一体何をしたっ⁉︎……我はわすれん…貴様らが我らが一族の将来有望な若龍を殺したことを!…それさえも忘れてぬけぬけと「通っていいか」だと?…片腹痛いわ!』

つまり、彼が言うには昔、この世界では魔族と人間は争っていたらしい。

彼はこう聞いた。

「では、聞きますが何故ここに巣をお作りになられたのですか?」

『なに…?』

「だって簡単なことでしょう?…あなた方が忌み嫌っている人里が近くにあるのに、なんでわざわざここに巣を作る必要があるんですか?」

『貴…様ァ、…よくも…』

「僕は真実をついているだけです。…おそらく……貴方の先祖が好んでたんじゃないんですか?…人間という種族を…」

新崎はダイアモン・ドラグーンに向かい、諭そうとしたが、結果は

『そんな訳あるか!…我らは人間が憎い!…殺したいくらいに!……聞け、愚かな人間の子よ!…我が名はドラグニル…誇り高き龍の一族を束ねる者なり!…』

彼をより一層復讐心に燃え広がらせることとになってしまった。

さらにドラグニルが名を名乗った上で己が両翼を大きく羽ばたかせるとクレーターより10数頭のダイアモン・ドラグーンの群れが現れた。

……まずいな。…まだこの世界に来て自分の能力も確認してないのに

と思ったところで彼ははたと気づいた。

この世界に来て使えるようになった能力は一体なんなのだろうといった疑問に。

彼はすぐに確認した。

「ロード」でしたように左手で右手の甲に刻まれたバーコードに触れる。

すると燃え広がるように輝き、二つの英単語と一つ目の英単語に数字が隣にあった。

一つ目の英単語には見覚えがある。

「lode of accele?…これって、『ロード』の世界の…」

何故だ?…他の世界では使えないはずじゃと思考していると

待てよ…バーコードって「能力記憶」でバーコードじゃなかったか?…もし言葉通りの意味だったら…と彼は考え、

「やっぱね。…あったよ…ストック。…して、…この世界での能力は…」

と視線をそこに移動させようとした途端、チリッと何かが彼の頬を撫でた。

見ると、一筋の血が流れていた。

遅れて鋭い痛みが走り、声が漏れる。

「……っ痛…」

『な〜にゴッチャゴッチャやってんだ、クソ野郎。…さっさと構えろ。…死ぬぜ?』

と若い龍の声が聴こえた。その方を見ると、…もう全ての龍が風の層だろうか?…そのような球体の空気の層を纏っていた。

「……なんだよ、それ…。…っ⁉︎」

ドオンッ!と何かが大きく砕けた音が腹に響いたかと思うと彼の足元すれすれの地面が大きく抉れて砕け落ちていた。

「本気で…僕を…、人間を殺すつもりなのか?」

『………』

真意を問うても彼らはもう何も答えなかった。ただ、憎しみにまみれた怒り…いや、哀しげな眼をしていた。

新崎はため息を吐くと無言で右手を掲げ、

「……これが、僕の新しい力だ!…『grow』!」

と彼らと戦う覚悟を決め、能力名を発声する。

すると、膨大な風が出口より吹き込み、地面や天井を抉りながら新崎を取り巻いた。

竜巻にも似たその風の渦は次々と勢力を拡大していく。

その時、脳裏にある声が聞こえた。

『…その能力は…「風の魔導」と呼ばれるこの世界では類稀なる得意な力…気をつけて使ってください』

「ドリーマー!…って…あ…」

声をかけようとしたが言うだけ言ってすぐにその声は消えてなくなってしまった。彼は何か釈然としない思いをしたが、すぐにそんな雑念を捨てて、

「『grow』!…気動確保!」

新崎は叫び、風を身に纏って空中に飛んだ。

『させるか貴様!』

その時、ダイアモン・ドラグーン達が光を反射してキラキラと輝く粒子を含んだ風を一斉に発生させる。

新崎はそれに嫌な予感がして、大きく後方にgrowに自分を飛ばさせ、緊急回避した。

直後、先程、自分のいた場所がズタズタに崩され、黒煙を上げながら、破砕音を連続させる。

数秒後、

『チッ…何も見えんな…』

ドラグニルの忌々しげな声が聞こえたかと思うと、強烈な旋風が巻き起こり、煙が晴れた。

「ゲホ、ゲホッ…!…くっ…あぶな……っ⁉︎…マジかよ…」

咳き込みながら新崎は前方を見ると、一頭の龍が彼の前に立ちふさがっていた。

その龍が口を開くと同時に視界が白く眩い光に塗りつぶされ…、

『カアッ!』

それは一瞬のことだった。

新崎は全身が強烈な痛みにさらされつつも後方に吹き飛ばされる感触を感じ取っていた。

しかし、当然のことながら、何処か壁、もしくはなにか障害物に背中をぶつければ、背骨を折るのは必至だ。

だから彼は、なにかものにぶつかるほんの数秒前に「road of accele」で緊急回避すればいいと考えたのだ。

では、どのようにして、死角にある障害物を感じ取るのか。

それは

「grow!…頼む!」

空気の振動の変化をgrowを介して知らせてもらうといった、この世界ならではの能力を活用することによってだ。

彼を中心に空気の層ができて、包み込んで、若干厚くなり、それが背中の方のみ全身の層よりも範囲が広くなった。

これならば、感じ取る反応速度が彼の考えていた秒数より二秒ほど遅れても、そこまで影響はないはずだし、危険も避けられるはずだ。

……よし。…来いッ!

新崎は背後に集中するため目を閉じた。

すると、自分の体感速度が非常にゆっくりに感じられた。

そして…。

キイーーーーーン

「よっしゃ来た!」

金属音にも似た空気の振動の変化を感じ、彼は薄く笑みを浮かべ、

「行くぞ!…road of accele!」

全身が眩い白き光に包まれ、壁より突き立った石製の突起物に触れるすれすれで前方へと高速移動すると同時に、

「喰らえ!…ダイアモン・ドラグーン!」

その光の速さを活かし、龍の側頭部へと拳を突き立てる。強烈な打撃音が洞穴内に響き渡った。

『ガアアアアアアアアッ⁉︎…な…グウッ…!』

ダイアモン・ドラグーンは攻撃を受けた部位から大量の鮮血を流出し、脱力して地に倒れ伏した。

その龍はもうピクリとも動かない。

彼は真っ赤に血に濡れた拳を呆然と眺め…ガクガクと震え出した。

「ぼ…僕、こんな…、なんで…」

でも、そこから先は言えなかった。

側頭部がこんなにも弱いなんて知らなかったなどと口が裂けても言うわけにはいかなかった。

その時、一頭のダイアモン・ドラグーンが舞い降りて、血に塗れた龍に呼びかけた。

『レクイス!…小僧、貴様!…なんてことを!』

その龍は…ドラグニルだった。

『貴様…許さぬぞ。…皆…もう、洞穴を吹き飛ばしてもいい。…この人間を消せ』

ドラグニルはそうダイアモン・ドラグーンらに向けて告げた。

その言葉は攻撃表示にもなると同時に新崎への死の宣告でもあった。

「そんな……」

新崎は脱力して座り込み、彼らが織りなすダイアモンドダストの輝きを秘めた「死の風」を観た。

……僕はここで死ぬのか…、仕方ないよな。…夢とはいえ、命を奪ったんだ。…そうだよ、断罪されても仕方がないんだ。…でも、できるなら…

彼の脳裏に「トラベラーズ・ヘルパー」の顔が浮かぶ。


……彼女との約束を果たしたかった。


目を閉じ、自分の死を待つ。

その時、目頭から一雫の涙が零れ落ちた。


そして、……。

『死ね…龍殺し!』

死の宣告とともに風切り音が鳴り響いた。

彼がグッと顔を伏せたその刹那、核爆弾が着弾したかのような爆風と閃光が龍達の悲鳴とともに鼓膜を叩いた。

その後、

「よう、ガキ…見ねえ顔だな」

と肩に手を置かれる感触とともにそう低い声が聞こえた。

新崎は目を開け、その声がした方向に顔を向けようとした刹那、

「この馬鹿野郎ッ‼︎」

怒声とともに硬く握り締められた拳が新崎の頬に突き刺さり、大きく後方に吹き飛ばした。

壁に頭が強くぶつかり、彼が痛みで涙目になりながら、

「なにすんだ!…うっ…⁉︎」

抗議しようと顔を上げると、黒く光を反射する抜き身の大剣を背負う赤髪の大男は新崎の胸倉を掴み、

「ふざけんなクソがき!…なぜ大回りせず、『龍の御わす聖なる洞穴(Dragons dwell in a covern)』に入ってんだ馬鹿!…龍ってのはなあ、自分の一族をものすごく大事に思ってんだよ!…一頭でもそいつらにとっては家族なんだよ!…それをお前は!」

「ね、ねえ、それくらいにしてあげようよラース。…今、大怪我の龍はネイルが治してくれてるからさ」

また殴りかからんとする勢いで新崎を怒鳴りつけているラースに銀髪でポインテールの髪型をした少女が近付いて諭した。

ラースはチイッと大きく舌打ちすると、新崎を壁に叩きつけて離した。

「ゲホッ⁉︎…痛っ!…」

「ちょっと、ラース!」

その行為が気に障ったのか、少女はラースを注意しようとしたが、彼は無言でその場を離れた。

少女は新崎をかがむようにして見ると、罰が悪そうに

「ごめんね?…私たちのリーダーは短気だから…」

「いえ…、彼らの巣に侵入した挙句、彼らの仲間を手にかけたのは事実ですから…」

新崎は少女を直視できず、うつむいたままそう言った。

すると、彼女は

「そう……でも、その子はそう思っていないようだよ?」

と言った。

その言葉と時を同じくして重さを感じ、疑問に思った彼は顔を上げると、

『キイッキイッ』

一頭の小さな龍が新崎の肩に乗っていた。

「どう…したんだよ?…お母さん、心配して…」

新崎はその子龍を地面に降ろそうと手を伸ばした時、こんな会話が聞こえてきた。

話しているのは栗色でショートカットの中性的な人物と…この子の母親だろうか?

『…いいんです、連れて行ってやってください』

「なぜ?…私たちは…」

『はい、あの子は…長旅ができませんから…。あなた方のことは知っています。…探検隊であり、とあるギルドに属していると』

「ええ、ですから…」

『ここから立ち去った方が安全なんですよね?』

「ええ、…すぐに行かれた方が危険はありません」

『分かり…ました。…族長は言い聞かせますので、何卒あの子をよろしくお願いします』

「はい、私からもどうか…」

そして、その龍は人間たちをすごい形相で睨みつけているドラグニルの元に行き、説得を始めた。

数分後、ドラグニル率いるダイアモン・ドラグーン一族の群れは一頭の子龍を人に任せ、何処か人里離れた場所へと飛んで去って行った。

遅れて白衣を着た青年、ネイルから治療を受けていた龍も気高く咆哮するとその群れに続いて飛んで行った。

彼らを見送っている最中、新崎の肩に乗っている子龍は悲しそうに、そして、寂しそうに鳴き声を上げていた。

「ごめんね?…長旅ができないからって聞いたから…」

クシャと銀髪の少女が頭を撫ぜてやると、新崎の首筋に顔をうずめた。

そして、彼女は新崎と顔を合わせると

「私はエル…よろしくね」

と名乗り、握手を求めてきたので彼も彼女の華奢な手を握り、

「僕は新崎春。…春でいいよ。…よろしく…って、え?」

「街に行くんでしょ?…ほら、だったら一緒に行こうよ私たちとさ」

「でも、迷惑なんじゃ…」

そう言って、断ろうとするとエルは新崎の手を引っ張り、

「ううん、ぜーんぜん。…さっ、行こう!」

先に歩き出していたラース達に続いて、外に出た。





とある高台にある二人組の男が立っている。その内の一人が遠くを飛んでいるダイアモン・ドラグーンの群れにライフルを向けていた。

「狙えるか、射撃魔法で」

ライフルを持つ彼に男が問いかける、だが、彼は首を左右に振り、

「いえ、距離がありすぎて撃ち落とせませんね」

男は大きく舌打ちをして、

「くそっ…忌々しい」

猛然と飛び去るダイアモン・ドラグーンを睨みつけ、

「いつしか……レイディアント、お前らより早く、『絶境』にたどり着いてやる…!」

と宣言した。


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2014年12月14日 加筆修正


2015年6月21日 サブタイトル修正

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