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夢屋  作者: 西本 拓人
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第三章「現実世界」

気がつくと夢屋の中にいた。

「お帰りなさい、新崎君」

「ただいま、ドリーマー」

新崎は苦笑しながらそう言って、

「あの、それやりたいんですが…」

ドリーマーが手にしている水晶を指した。

「ああ、はい。…しかし、この『夢』は預からせていただきますので、一度現実世界戻られたらいかがでしょう?…」

彼はこのまま戻らないのもありだなという思いといや、一度出直すべきだとの思いに葛藤したが、結局、

「はい、また来ますね」

「ええ、…いつでもお待ちしております」

新崎はドリーマーから背を向け、夢屋を出て行った。


その時、ドリーマーがこう言ったような気がする。

「夜にまた…」

と。


相変わらず奇妙な雰囲気のデパートの中を歩き、正面玄関から外に出る。

すると、新崎はあることに気付いた。

「………あれ…?…夜じゃない」

前に見た幻想的な夜の風景…いや、現在の太陽に照らされた草原も魅力的だが、しかし、それとはまるで違っていた。

「うーん、ポカポカしてるな…」

煌々と輝く太陽に目を細め、草原独特の匂いを感じつつ、新崎は背伸びをした。

そして、改めて太陽を見る。

その行為を待っていたように輝きを増し、即座に彼を包み込み。

叫び声をあげる間も無く、新崎の意識はフェードアウトした。


ーーーーーーーーーーーーーー


目を覚ますとそこは彼の知るいつもの天井だった。

彼はガバッと上半身だけベッドの上で起こした。

ベッドの隣にある木製の机に置いたままの目覚まし時計は午前五時半を示している。

もう後二十分ほどでアラームがなりそうだ。

彼はため息を吐いた。

ーーーいつもの日常…。

朝起きて支度をし、学校へと向かう。放課は友人と話したりして下校時には家に。

変わらず、不思議なことなど何も起こらないそんな退屈な日常。

しかし、昨日見た夢は、不思議で奇妙で現実離れした幻想的な世界だった。

今日も…行けるだろうか?

いや、と新崎は被りを振って呟いた。

「また、行きたいな…夢屋に」

そして、夢屋のことについて考えているとふと右手の甲を見てみた。すると、

「…………あれ?…夢…じゃない…」


夢屋で焼き付けられた「バーコード」がそこにあった。


アラームが鳴ると彼はベッドから立ち上がり、そのスイッチを切って制服に着替え、二階に下りて行った。

リビングでは母が朝食をテーブルの上に用意してくれていた。

「母さん、おはよう」

「ああ、おはよう。…春」

新崎に目を向けずにせっせと洗い物を済ませている母はその挨拶も素っ気なかった。

朝食はパンとベーコンエッグ、そしてコーヒー牛乳。

彼はテーブルの前に座り、食べ始めた。

オーソドックスな料理で手抜きをしても誰でもできるものだが、味は少しも変わっていなかった。

食べ終わると、即座に三階に上がり、適当に今日のカバンの用意をする。

そして、登校時刻になるとリビングのカウンターに置いてある弁当を持って、学校へと向かった。

彼の通う学校は津金紀高校と言う名の高校で、歩いて三十分の距離にある。

その通学路の途中に小さな公園がある。

その公園は一つのベンチとイチョウの木があるだけという、何かさみしげな雰囲気を醸し出している。

それに加えて、下校時にも人が来ていることもない。

何か、忘れさられたような…。

彼はそれを見るたびに物悲しい思いにかられる。

「………まあ…な…」

彼はため息を吐いて天を仰いだ。

ーーー僕ももしかしたら、こんな公園のように寂しい人間なのかもしれない


学校に着き、三階奥の教室に入る。

そして、席につくと同時に始業のチャイムが鳴った。


今日も退屈な授業が始まる。


放課後、新崎は帰路に着いていた。

あの寂れた公園が目に見えてきたとき、肩を叩く音が聞こえ、

「やっほー、春!」

振り向くと、満面の笑みを浮かべた同じクラスの笹木 奈津がいた。

彼は咄嗟に右手をポケットに突っ込んだ。

「笹木…よう…」

彼女は幼稚園の頃からの幼馴染で、いつも明るく、どこかさっぱりとした感じがある。

とは言え、彼は小1の頃に交通事故にあい、一年ほど意識飛んでいたらしい。その時に記憶を完全に失ったのか、彼女との付き合いは結局のところ小2からだ。

その記憶がなく見るもの全てが新鮮であった新崎は小学三年のころからよく、クラスの同級生にいじめられていてそれをいつも救ってくれていたのが彼女だった。

そんな彼女のことを新崎は姉のような存在だと認識していると同時に記憶喪失である事を悟られたくないとも思っている。

だからこそ彼は。


「ねえ、今日はなんか元気なかったよね?……どうしたの?」

「……っ…いや、なんもないよ」

だからこそ彼は、彼女の人の内面が見えていると思えるような勘の鋭さを恐れている。

しかし、彼がいじめられていることを知り、助けることができたのもこのおかげなのだろう。

その点においては感謝し切れないが。

「はあ…また、小学生のころみたいにいじめられているの?」

笹木は呆れたようにため息を吐いて、そう訊いた。

「はは…、んな訳ないよ」

「何に悩んでるのよ」

「……」

「じゃあ、何を隠してるの?」

鋭い視線で彼を見据えて、訊く笹木の態度からして、本気で心配しているらしい。

ーー悟…られたのか?…嘘だろ?…必死に隠してきたのになんで…⁉︎

彼は焦ったが、数秒考えた後、

「ごめん、今は言えない」

と頭を下げた。

「え?…なん…」

「来週の日曜!…あそこの公園で話す。…それで、いいかな?」

笹木が聞こうとする前に彼は言った。

「僕の中で折り合いをつけておきたいんだ。…頼むよ」

「っ………。…分かった。…日曜日に待ってるから」

そうして、新崎は笹木と一言も喋らずに帰宅した。


夜、彼はベッドの上で横になっていた。

「はあ…なんで、…かなぁ?…必死に隠してたのに。…ちくしょう…」

頬を伝う涙を左手で拭い、一息吐くと、

「夢屋に行けるだろうか?」

小さく呟き、理論上同じ夢が見れる可能性があることを意識する。


強く願えばまた…!


そして、彼は静かに目を閉じた。

その時、バーコードが淡く輝いたのは見間違いではないだろう。


すると、夢の結晶を販売する『夢屋』の前に新崎はいた。

「え?…なんでいきなりここに…」

夢屋の奥から黒い影が現れ、新崎に向けて言った。


「こんばんは、新崎君。…そして、…ようこそ、夢屋へ」

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