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夢屋  作者: 西本 拓人
10/13

八章「初戦」

(え…?)

新崎は驚き、ラースを見る。

(まさか、俺たちが気づいて行動に転じる数秒前にすでにもうこの攻撃に気づいていたのか?)

「…だとしたら、…すごい才能だ…」

だが、そう思うと同時にある疑問が生じた。


何故、ラースが彼らのことを知っていたのかである。


それは二つ仮定できる。


まず一つ目、今敵対しているチーム『カイナス』はラース率いる『レイディアント』が所属しているギルドとは別のギルドに所属しており、彼らは今回以外にも幾度か対峙していること。

二つ目、彼らチーム『カイナス』は『レイディアント』と同じギルドに所属しており、またラース達と同じ目的を持ち、そのためにライバル視して敵対していること。


果たして、それらの内、どちらが彼らに当てはまるのか。

そう新崎が思考しているとラースが口を開いた。

「新崎」

「うえはい⁉︎」

「くすくす」

突然、声をかけられたのもあって新崎は驚いてしまい、後ろにいるエルに笑われてしまった…。

新崎は何か釈然としない心持ちで、ラースに

「何ですか?」

「ああ、ちょっと聞いてもらいたいことがあってな」

「聞いてもらいたいこと?」

聞き返すとラースは対峙している2人のうち、黒髪ロングのスナイパーライフルを背にしている男に声をかけた。

「おい」

「ああ…、分かった。少し時間やるよ」

「よし…」

彼らが了解したのを確認するとラースは新崎に「ギルドの内部」について説明した。

「ギルドってのは本来は一つの目的、もしくは全員が持つ一つの理念によって構成されるものだ。…確かに俺たちのギルドも表向きはそれに沿ってはいるが、よく見れば違う。…どう違うのか?…簡単な事だ」

ラースはここで一度言葉を切り、深呼吸し、


「全員が全員自分らの利益を第一に考えているからだ」


と告げた。

新崎はその言葉に対し、嫌悪感を僅かにだが感じ、

「え?…そんな、そんなのってただの…」

「ああ、お前にとってそれはただの『エゴ』だと思うだろう。…だがな、その考えが一人一人の境遇によってできたのものだとしたら?」

「あ…」

しかし、新崎はそこまで言われて何も反論することができなかった。いや、してはいけないと思った。

彼らに「それだけ」の境遇があるのなら、そう思うのは一般的で、尚且つ社会として罷り通っているというのなら別世界の人間である自分がこれ以上介入すべきではないと結論づけたからだ。


新崎は

「理解しました。…ありがとうございます」

とラースに礼し、するとラースはそんな新崎を無視して、二人組に視線を戻す。

「さて、いい加減始めようか?…待ちくたびれてるんだろう?」

その言葉を聞いた2人組の口元が歪み、

「OK。…今度こそお前らを越えてやる」

その言葉を皮切りにこの場にいる全ての人々が武器を手にした。


そして、戦いの火蓋が切って落とされる。


最初に動いたのはチーム『カイナス』だった。

「COLORS」

彼らのうちの一人が突然消えた。

「え?」

新崎はその相手の予備動作が全くなく、その「消える能力」について驚愕したが、ラースは全く焦っているようには見えず、逆に思考しているようにも見えずただ立っているだけだった。

その余裕さに多少なりとも憤りは感じたが同時に疑問もあった。

だが、それは刹那のうちに解決される。

「ネイル!」

「…『縫合』……」

ネイルがそう唱えるとそのネイルを中心に新崎らを囲うかのような青白く発光する糸の集合体が現出し、ラースはそれを確認すると自分の後方、ネイルに近付き、

「補助よろしく」

「……」

ラースは大剣を宙に掲げ、能力を展開、すると瞬く間にその大剣が炎に包まれる。

それに合わせて、ネイルがまた糸を現出させ、ラースを包み込む。

そして、次の瞬間。


「おらあっ!」


気合い一閃。

まさにその強烈な炎の一撃が自分自身を包む糸に燃え移りつつも、天高く撃ち上げられ。


「ごあっ!」

くぐもった悲鳴ともに力の解除された男が空から落ち、地面に転がった。


だが、その男もただやられるだけではなかった。

そう、彼は地面を転がる寸前に自分のジーンズのポケットから2丁拳銃を取り出し、地面を転がってからも木の幹に直撃する前にマガジンを薬室に装填、そして、彼らに向けて撃っていた。


「!」

ネイルは自ら発動させた「糸の集合体」で見えないながらもそれに即座に対応し、その集合体の強度を高め、完全に近い防壁として、弾丸を不発にさせる。


すると、それに苛立ったのか、もう一人の方がスナイパーライフルに弾丸を装填、断続的に撃ってくる。


「よし…」


ラースはそう呟き、新崎に声をかけた。


「新崎、さっきの『光化』か?…それできるか?」


「あ、はい」

新崎は素早く右手のバーコードに触れ、確認する。


「あと……三回か」

し終わると、彼はラースに頷く。


ラースはそれを見ると、


「OK。…じゃあ、速攻で勝つぞ」


ニヤと狼が素で逃げ出しそうな笑みを浮かべ、そう告げた。


そして、彼は新崎達の方に視線を向け、少し噛み砕いて作戦の説明をし、


「新崎に今回は決めてもらう。…俺たちはそれの補助。…簡単だ、異論はねえだろ?」


と締めくくると新崎はそれに多少なりとも驚いたもののすぐに了解した。


ラースのチーム『カイナス』攻略作戦はこうだ。


まず最初にスナイパーライフルの猛攻が止むのを待つ。


止んだら、即、ネイルが糸の防壁を解除する。


最後に新崎が能力を発動して、高速で敵に特攻するという至ってシンプルな作戦だ。


しかし、万が一ということもあるため、ラースが魔法を用いて新崎の周囲を常に警戒すると言っていた。


新崎はラースに指示された通り、防壁の裏側すれすれの位置まで近付き、作戦の決行を待ち、ラースは大剣を背に担ぐようにして新崎の後ろに控えている。


すると唐突に、断続的でありながらも普通の岩くらいなら粉々に出来そうな威力の銃撃が止んだ。


作戦決行ーーーーー!


ネイルはすぐに防壁を解除する。淡い光を伴う糸は残滓となりつつもその輝きを失うまで放ち続けていた。


新崎はその光の中を白銀の光と化しながら、突き進み。


「な…に…、疾…」


呆然と銃を構える間も無く、その男は新崎に殴り飛ばされた。


彼は血反吐を吐き散らかしながら、ノーバウンドで数メートルほど吹き飛び、地面を転がってようやく倒れた。


「ふう…」


それを見届けた新崎は肺に溜まっていた息を吐き、満足だと言わんばかりに能力を解いてその場に座り込んだ。


「てめえ…!」


しかし、その彼めがけて逆上した男が拳を振り上げて飛びかかる。


やば…⁉︎と焦るのも束の間、男がその拳を新崎の顔面すれすれのところで止まった。


何故、疑問に思う新崎。


だが、そう思うよりも早く男は新崎から引きさがっていた。そして、


「どうせ、戦いならリーダーが倒れた時点で既に負けてたんだ。…今更、俺が戦っても負けは負けだよ」


と言いながら、仰向けになって倒れこんでいる男を担ぎつつ、振り返り、


「ラース。…次はてめえらを超えてやる。…楽しみにしていやがれ、じゃあな」


と吐き捨て、新崎の視界から消え去った。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


2014年12月28日加筆


2015年5月17日修正


2015年6月15日修正

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