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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第2部『二つの太陽編』
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通りすがりの野犬に噛みつくのはアフリカではよくあること

 野菜村からそう遠くない村から狙っていこうと決めた俺はザビアスタ森林地区をより深く潜ってゆく。

 深い森になれば地面の隆起が激しく、苔の蒸した谷をドラゴンが翼をはためかせて超える。


 ――橋を設けて渡るのがデフォだが課金パワーはデフォルトすら粉砕させる。


 周囲に沸くモブのレベルが40台くらいのモブになっていることから先ほどまでの場所から比べたらいくらかは危険度は増している。

 とはいえ、マンダルア高地くらいの危険度だからそうそう遅れは取ることはないはずだ。


 「この辺からエルフのテリトリーになります」

 「エルフね。今回も友好的な種族じゃねえのか?」

 「今回?何を言ってるのかわかりませんが人間とは敵対関係にあります。我々が進めば敵意ありとみなして攻撃されるかもしれません」


 チュートリアのかわりに色々と喋るのは冒険者だ。


 「好都合だ。出てきたところを全滅させて、がっつり人間に対するヘイトを稼げば近くの村に報復に出るだろう。そうなりゃそこを一網打尽にしてエルフの労働力と村一つをゲットだ。エルフってあれでクラフト系スキル高いから街作りに便利なんだ」

 「……凄い黒い考え方をするんですね。もっと紳士的な人かとずっと思っていました」


 冒険者はレウスの背から俺を覗き込むと驚いた顔をする。


 「そういうことをしに行くって話だったろう。まさか冗談だと思っていたのか?」

 「いえ……野菜村、でしたか。そこでの行動を見る限り、あなたは本当にやるのでしょう。ただ、エルフとビーストの山賊では勝手が違うからどうするのか気になっていました」

 「やるこたかわんねーよ。戦って戦って戦って、潰す。敵を殴るだけの簡単なお仕事でっす」


 冒険者はどこかクスリと笑う。


 「強い訳です。英雄マーシー・セレスティアルを下したのが本当に思えてきました」

 「まあ、邪道っちゃ邪道だがな?あのくらいのスペックになれば正攻法で勝つのは難しい」

 「それでも勝ちは勝ち、なんでしょうね」


 冒険者の少女は真正面に向き直るとレウスを頭一つ分先に走らせた。


 「……進まねば、得られぬものも、ある、か」


 NPC冒険者の中には特徴的な台詞を吐く奴も少なくはない。

 運営のキャラ付けなんだろうがリアルで体感するとなんか無性に厨二センサーが発動して背中がむずがゆくなる。


 ――視界の先に巨大な狼が見えた。


 「……マスター!あれは――」

 「リグニカント――ガングリオン・ニザの眷属ですがどうしてこんな場所に?」


 冒険者とチュートリアが戸惑いの声をあげるが俺は逆に唇の端を吊り上げる。


 ――フィールドポップしたユニークボスだ。


 「ユニークストレングボスジャマイカ。40台フィールドのユニークならレアが期待できる。丁度いい、挽きつぶすぞ。来れるか?冒険者」

 「ネルベスカ・マノアです――やれるのですか?即席で」

 「アフリカではよくあること」


 俺はどう猛に笑ってやるとスプリットヘルムを叩きつけるように被るとバイザーをあげる。

 軽くチェーンソードを振ってトリガーを引くと唸らせ、デッテイウの腹を蹴った。


 「デッテイウ!初の騎乗戦闘だ。喰らいつけよ!」

 「あい――さーっ!」


 ――即席のパーティによる遭遇戦が始まった。


◇◆◇◆◇◆


 騎乗戦闘と通常戦闘には大きく分けて二つの違いがある。

 一つは通常戦闘で使える回避スキルの多くが使えなくなること。


 「攻撃を誘うんだッ!――今ッ!」


 ――森の中を疾走する狼と並進して二匹のドラゴンが奔る。


 巨大な灰色の狼であるリグニカントが木々を蹴り、俺とチュートリアの背後から飛びかかるが、デッテイウは大きく跳躍してそれを避ける。


 「――チュートリア!今だっ!」

 「はいっ!」


 ――バスターアローとスプレッドショットがデッテイウの背から放たれる。


 地面を抉ったリグニカントが硬直した一瞬に撃ち込まれた遠距離攻撃にリグニカントは雄叫びをあげ、併走するレウスの足が鈍る。


 「――くぅ!」


 所詮冒険者といったところか。


 「――ッチ!ヘイトを取る!」    


俺はデッテイウの腹を蹴り、空中に飛ばすとバックムービングで無理矢理後退すると正面に捕らえたリグニカントの後ろから機関砲を斉射する。

 地面に降りる一瞬の硬直をめがけてリグニカントが肉薄する。


 ――飛行系ペットの弱点は地上戦へ移行する際、着地点を考えないと狙い撃ちされてしまうことだ。


 「着地上等ッ!」


 突進してくるリグニカントを真正面に捕らえ、俺はもう一度デッテイウの腹を蹴り、デッテイウが翼で地面を叩く。


 ――そこから、ぐるりとデッテイウがリグニカントの頭上を横転する。


 チェーンソードが凶悪な咆吼をあげてリグニカントの首裏をかっ捌き、盛大な血飛沫のエフェクトがあがる。


 「――凄い」


 冒険者が感嘆の声を上げる。

 飛行ペットを使用した『飛翔モーションのキャンセルロール』――通称『離陸ロール』って奴だ。

 そこから交錯時にダウンスラストを仕掛けるのはタイミングが結構シビアだったりする。


 ――だからこそ、騎乗戦と空中戦では取るべきカウンターの選択肢として強力になる。


 空中で身を捩り、ターンアラウンドで旋回して着地するとデッテイウは地面を蹴り上げ走る。

 左に旋回したリグニカントの右側に抜けるように疾走し、スラッシュを叩き込むとそのまま半円を描きながら追従するリグニカントに機関砲を浴びせる。


 「……うっく…」


 振り回される加速度にチュートリアがついてこれず、呻く。

 冒険者とテンガに至っては見てるだけだ。


 「テンガ!支援!冒険者、ドラゴンの足を止めるな!ブレスを有効に使え!」


 騎乗戦闘の経験が無いIRIAは割と棒立ちになりやすい。

 正しい連携を取るなら地上戦に移行した方が楽ではあるのだが、『逃走モブ』を追撃するには騎乗戦闘を覚えておかなければならない。


 ――デッテイウのレベリングも必要だというのが本音だが。


 「チュートリア!騎乗戦闘の基本は遠距離攻撃による削りだ!絶えず変わる距離を考えない攻撃が基本!モーションを見切ってチャンスがあれば近接を叩き込むくらいの気持ちでいい!」

 「――っ!はいっ!」


 木々を蹴って中空に逃げるリグニカントを追ってデッテイウが走る。

 ガングリオ・ニザやガニパリヘルと一緒の狼系モブなだけあってスノウバンシーやオルガロンみたいな厄介な動きをしやがる。

 疾走するリグニカントを追撃しながらバスターアローの光が伸びる。

 だが、一陣の風となるリグニカントの尾を掠めるばかりで致命的な一撃を入れられない。


 ――回転し放たれた火球をデッテイウが横へ跳躍して避ける。


 避けながら機関砲の偏差撃ち。

 攻撃モーションからは左跳躍固定だから狙い打ち余裕です。

 威力の距離減衰が入るからマシンガン系の長距離狙撃はピアッシングショットで減衰回避と弾速増加を図るのが基本。


 ――機動力が高くなればなるほど、人の反応では追いつかなくなる。


 「マスター!早いですっ!」

 「動きをよく見てねえからだ!相手の攻撃こそ、アタックチャンスだ!バカみたいに撃って当たるかよ――見切ったぜ?これより、近接戦闘を仕掛ける」


 パターンは大体見切ったしモーションの『感覚』も見切った。


 ――騎乗戦闘で最も難しいとされる近接戦闘に移行する。


 デッテイウが地面を蹴る。


 「デッテイウ!疾走しろ!――ブースト!」

 「あい――さぁぁあっ!」


 デッテイウが咆吼をあげ一陣の風となる。


 ――騎乗ペットのスキル『疾走ブースト』。


 直進速度が向上するかわり、左右への方向転換が鈍重になる高速走行スキルだ。


 ――騎乗戦闘はこの『疾走』状態での操作が中心となる。


 疾走するリグニカントに肉薄し追いつき、追い越す。


 ――その刹那の瞬間にスラッシュの剣閃がリグニカントの足を薙ぐ。


 堅い皮膚をざりざりとチェーンソードが刻む手応えを感じながら追い抜き、背後にあるリグニカントの気配をそのままに走り抜ける。

 そのまま横に離れて距離を取ろうとするがリグニカントは執拗に距離を詰めてくる。

 正面に大木を捕らえ、俺は後ろをちら見してリグニカントの進路を確認して大木を右に避ける。


 ――急旋回のできないリグニカントが左に避け、俺は大きく右へ走り緩やかに旋回する。


 疾走距離が増えたことにより並進する形となり、リグニカントが足を止める。

 その刹那に機関砲を叩き込みながら旋回すると、真正面を捕らえる。


 「――ヘッドオン!鼻面貰うぜ犬畜生っ!――怯むなよっ!喰らいかかれ!正面――突撃ぃぃ!」


 ――真正面同士の突撃戦。


 足を止めたリグニカントと加速度を乗せたままのドラゴンが真正面から衝突する。

 チェーンソードを構え、『騎乗突撃ライドトランプル』の体制を取る。


 ――強大な怪獣同士がぶつかりあう衝撃に大気が震える。


 びりびりと体を伝わる衝撃を飲み下し、吹き飛ばされたリグニカントをデッテイウが踏み躙り、駆け抜けざまにダウンスラストを切り下ろす。


 ――真正面からの突撃戦は純粋に威力の大きさが強い方が勝つ。


 俺のような廃人達が検証し、出した結果が『速度に重さが乗り、威力が増える』という結果だ。

 だから、騎乗戦闘の時は基本、『足を止めない』のがセオリーだ。

 追撃を振り切り旋回しながらの遠距離戦を経てヘッドオンを取り続ける。


 「――凄い、これが……戦女神のレジアン」


 惚けている冒険者の下でレウスがどこか悔しそうに唸っている。


 「――なにボケっとしてやがるっ!追撃しやがれっ!」

 「「は、はいっ!」」


 檄を入れられ、惚けていたIRIAどもが正気に戻る。

 起き上がろうとするリグニカントにレウスのブレスが突き刺さり、バスターアローが被さる。

 地面で悶え転がるリグニカントに俺は腕の中で長大な機関砲を大きく回転させてどう猛に笑う。


 「――死に散らかせ犬畜生!がっとーざへぅ!」


 ――吐き出された弾丸が、リグニカントを吹き飛ばす。


 ◇◆◇◆◇


 ネルベスカ・マノアの瞳にはそれは鮮烈な激しさとなって映る。

 ドラゴンを従える戦女神のレジアンは圧倒的であった。

 ザビアスタの魔獣リグニカントは冒険者の中でも恐れられる魔獣の一つである。

 マーシー・セレスティアルのような『英雄』をもって討伐する魔獣に単身挑み、これを討伐――いや、蹂躙する様はどこまでも欲した強さであった。

 何物にも屈しない強さ。

 それは、単に魔物や人と相対した時の強さだけを指したものではないことは剣を取って理解した。

 だが、目の前の男はネルベスカの手の届く場所でそれらの強さで輝き、皆が恐れる魔獣を呼吸するのと当たり前に蹂躙する。


 「――騎乗戦は速度だけが重要じゃねえ!速度を取られたときの迎撃戦にも駆け引きがあんだよっ!」


 ――突進するリグニカントをドラゴンが華麗に避ける。


 凶悪な機械剣の切っ先が魔獣を抉り、血飛沫と苦悶の悲鳴を上げる。

 戦女神のイリアはドラゴンから振り落とされないように必死であった。


 「凄い……ッス」


 ――力が欲しく、冒険者となった頃の情熱を思い出す。


 利己的な人の欲望に揉まれ、身につけた仮面が剥がれていく。


 「そうらっ!――張り付くぞ!チュートリア!槍だ!」


 爪を振るうリグニカントの周囲をドラゴンがステップで幻惑し、その騎乗で伝説がどう猛に笑う。


 ――全てを笑って乗り越えられる、強さ。


 咆吼をあげ、体躯の色を変えて襲いかかる魔獣。


 「――二段階目だ!攻撃モーション変わるぞ!ガニパよっか楽な相手だ!ビビってんじゃねえぞ!」


 激しい熱の中で鮮烈に輝く強さにネルベスカ・マノアは失い欠けていた道を思い出す。

 暗雲の中に差し込んだ光に手を伸ばし、ネルベスカは剣を手に取る。


 「――ゆくか?少女よ。我が背は見物する臆病者に貸すためのものではない」


 ――戦を前にした、ドラゴンが猛る。


 「ウッス!」


 ネルベスカ・マノアはどこか笑っている自分を覚えた。

 強大な魔獣に向け、ドラゴンが地を蹴る。


 ――どこまでも苛烈な戦場に少女が駆り立てられた瞬間だった。


 ネルベスカ・マノアの長大な剣が魔獣に伸びる。

 戦女神のレジアンはにやりと笑い、剣を回し応える。


 「――冒険者、肉壁くらいはやってみせろよ?」


 不敵に、どこまでも不遜な物言いに不快感は感じなかった。

 強者のみが持つどこまでも傲慢な、だが、強者のみが認められる不遜さがあった。


 「――はいっス!」


 ――熾烈な魔獣リグニカントとの戦を戦女神のレジアンが蹂躙する。


 数多の戦を駆け抜けた戦女神コーデリアの如き峻烈さに、魔獣がやがて崩れ落ちる。

 戦女神のレジアンが高らかにあげる勝ちどきに胸が震える。


 「――完全勝利だッ!」


スラング解説

 アフリカではよくあること

 発生頻度の少ない事象を指して無理に納得させる方法。

 アフリカについてゲシュタルト崩壊することが、ままある。

 この際に指すアフリカとはおそらく架空の地域と思料される。

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