ゲームの話してて、「お前ブラックだな」と指摘されて納得。
領地メニューを起動するオブジェクトは村長の家にあった。
「これはこの村を守護する精霊を奉る像にございます」
村長の家は最早、立派な邸宅へと改修されつつあり、今は『竜魂』が占拠している。
テンガがじっとその像を見上げ、キクを振り返って像を指さす。
「これ、ひらけるよ」
「うん、言いたいことはなんとなくわかった。これで領地メニューが開けるのね?」
こくこくと頷くテンガは相変わらずだ。
お揃いの巫女装束に身を包み、あざとさ特盛りである。
いつかこの格好についても弄ってやらねばなるまいの。
「ロクロータ。一応、あんたが領主扱いになってるんだから開いてよ」
俺は像に右手で触れ、宝珠に触れるとギルドのメニュー画面に新しいアイコンが追加されていることを確認する。
新しいアイコンが明滅を繰り返し、正しく領地メニューが開けるようになっていた。
この辺りは他のゲームと一緒で住民数やら街の規模、徴税額のデータなど街の運営に必要と言われるデータが並ぶ。
俺はダイレクトに領主変更メニューを開くと『※※※※』となっている俺の名前から『キク』に変更する。
「そういや、あんたまだ名前入力してないんだ」
「まあぬ。犯罪者プレイするのに名前あると不便だからな。まあ、入力しなくても進むなら進めるまでは入力しないことにするわ」
リネームカードを買うのも現金が緩くないのですよ。
「ふーん、まぁ、いいわ。領主権限ありー♪これで各種ギルド誘致とかもできるわね」
「冒険者ギルドと商業ギルドは優先誘致な。そっから先は適当でいいわ。流通さえ確保して資源置き場を作れたら本格的な要塞はエクスブロ火山に移すからな」
「この辺りは水源地があるからいいけど、色々と必要になってくるアーティファクトがあるから、手に入れたらストックしといてね?」
『野菜村』の情報に目を通し、作業配分を割り振っていく。
比較的体力のある山賊に建築作業を割り振り、その指揮にクラフト系スキルの高い村人を当てている。
「この辺りはシュミレーションゲームとしては面白いのよねー。これだけやっててもいいくらいだわ。そこの住人にある程度指示が飛ばせて物資と報酬さえ渡したら建築なり何なり勝手にやってくれるから。自分で作ってもいいんだけど、ぶっちゃけいくつも作るのは面倒なのよね」
「但し、奪われたらまた最初っからやり直しという鬼畜仕様だがな」
「ギルド抗争が勃発すれば取ったり取られたりするからぶっちゃけ、愛着持って作ることができるのは保護ができる『小都市』くらいまでだもんね。その小都市にしたって、作るってなると酷い労力が居るモンなんだけど……本当に生産活動に対する運営の態度って心折設計よねー」
小都市をどこに作るかというのも結構、重要な問題になったりする。
だが、今はまだ、そう、今はまだ考慮すべき問題じゃあない。
「ロクロータ、労働力が足りないからちょっと攫ってきてよ」
「そうだぬ。村、一つ二つくらいありゃ充分か?」
「そうねー、50人弱あれば運営できるんじゃない?あとは自然増加を待つくらいなんだけど……レベルが低すぎるのもあまりねー。今居る冒険者達は修繕依頼を受けてやってくれてるけど、ある程度大きくなってくると襲撃被害を防ぐのに常駐冒険者数が重要になってくるからねー。この辺りのマスクデータは色々と検証されてるけど、結構ランダム要素強いから。まぁ、任せてよ?」
キクは屈託無く笑うと腕を捲る。
後ろでおどおどしながら聞いていたチュートリアが焦る。
「ちょ!キクさん!キチガイに油を注がないでくださいっ!な、なんてこと言ってるんですかっ!マスターにそんなの頼んだら一つ二つじゃ済まなくなるんですよ!」
「それが何か問題でも?」
「平和な村がうちのマスターのせいで阿鼻叫喚の地獄に早変わりですよ!血の雨が降ってしまうんですよ!この辺り一帯が全部そうなっちゃうんですよ!」
「それが何か問題でも?」
「いやダメでしょう!?まるで奴隷じゃないですか!人を攫うとかまるでアイテム感覚で人を扱っていますよ!」
「だから、それが何か問題でも?」
チュートリアの言葉は俺たちにとっちゃ何ら届かない。
「チューちゃん?あのね、私たちにとっては自分自身も使えるアイテムの一つなのよ?それを上手に使う必要があるなら、使うのが当たり前の話よ?」
――この分野にかけては俺なんかより、キクはえぐい感性を持っている。
経済を回す、ということはその地盤を作るということも含めての作業も入る。
掲示板戦士として色んなゲームを喰らい尽くしてきたキクは『流れ』を作ることにかけては貪欲すぎるといっても過言じゃあない。
ましてや、全てを『データ』という無機質な感性の中に落としこまなければレア武器の転売なんかやってられない。
前線に立つとなりゃ色んな武器がアレコレ欲しくなるのが常識だからだ。
「人の50人や60人でおたおたしてたらこの先持たないわよ?国の一つや二つ、滅ぼす覚悟は無いとね?だって、そうでしょ?世界相手にガチンコで遣り合うわけなんだから」
嬉々として語るキクにチュートリアは言葉を失う。
動き出した廃人達は仕様であっても止められないのだ。
俺を含めた廃人達というのはどこまでも貪欲に、それこそ、ストイックさを感じるまでに仕様を貪り尽くす。
「……信じられないです」
チュートリアが愕然として肩を落とす。
どこか寂しげな表情のチュートリアなど、最早、俺もキクも眼中には無い。
「あと、あんたのシールド、もうちょっと待って貰える?赤いのから物は入手したんだけど、強化とエンチャがまだなの。レア扱いだから素材の入手が赤いの待ちなの。赤いのは珍しく気にしてくれてるみたいで結構協力的だからそんなに時間はかからないと思うけど、それでもやっぱり、ね?」
俺が頼んでいたシールドの制作についてキクが難しい顔をする。
「いいさ。シールドは最低ジャスガができてエンチャボーナスが得られればいいのが俺のスタイルだから。エルドシールドでも最低限の強化さえしとけば、まだまだやれるさ」
俺は盾を装備を変更して盾の表面を軽く小突くと大きくため息をつく。
――本来ならば最終段階まで盾の強化に資源を割くツモリはなかった。
だが、この糞ゲーの仕様を考えるとその認識を改めなければならない。
武器より防具に金をかけた方がいいくらいに。
「この辺りの相手なら、充分すぎるさ」
街を作る労働力を得る為に周辺の村を潰しに行かなければならない。
山賊を探し、襲わせる作業からもう一度やらなければならない。
――街がでかくなれば当然、あの『無職童貞』と『眉毛』と出会う可能性もある。
そして、もう一人のログオンユーザー。
こちらも早くに接触しなければならない。
「ロクロータ?」
キクが俺の顔を覗き込んでいた。
「何か考え事?」
女ってのは妙にこういうところ、聡いのよな。
「いや、もうぞろ四月も半ばだなと思ってな。そろそろ2chから離れてるから何を騒いでいるのかわからんからウィキ情報だけじゃきっついと思ってな」
「そうねー、2chの纏めサイトくらいは見せて欲しいわよねコレ」
キクがヴォーパルタブレットをマテリアライズしてページをめくる。
「俺が読み切れてない闇パッチとかの情報があればそろそろ現れてくる頃合いなんだ。ここの運営は足が速いからな。初期組が出した最適解に修正をかけるならもうぞろ闇パッチが入るはずだ。それが命取りになる可能性も秘めているからな」
話を逸らしたツモリだったが、言っていてそんな時期だと思い直す。
ともすれば襲撃祭りも闇パッチが入ってる可能性もあったりするよな。
俺は一抹の不安を覚える。
「……キク。一応、そう、一応だが警戒はしておけよ?山賊襲撃法に闇パッチ当てられてるかもしれん。そうなりゃ武装蜂起もあり得るからな」
「大丈夫よ。それよっか、あんたの方こそ大丈夫なの?大体のモブのパターンを覚えてるとはいえ、ボスだとかエマージェンシー来たら詰むわよ。FF14のFATEのように集団でボコる流れなんか、こんな限定された状況じゃ作れないんだから」
確かに言われる通りではある。
今まで一度も遭遇したことはないが極希にエマージェンシークエストが狩り中に発動して高レベルのモブと戦う場合もあったりする。
――シャレにならないデスペナルティを貰うこの仕様だと、文字通り命取りだ。
「あんたに、これ、返しておくわ」
キクがヴォーパルタブレットを放る。
受け取って俺は眉を潜める。
「らしくねえな。利潤追求を図るなら相場情報は常に肌身離さず持ってなきゃならんだろうに」
「自分の記憶とあんたという労働量をトレードして得られるものじゃあないもん。ロストしたら期待利益が減っちゃうわ。それに、これからは制作作業がメインになるから今のところ必要な物でもないしね?」
キクの遠回しな気の使いように俺はふんむと頷き、ヴォーパルタブレットをインベントリに納める。
「それよっか、その巫女装束何?コスプレ?」
「レンジャーにクラスチェンジしたから弓に合うアバターを選んだのよ。これなら弓を持っても映えるでしょ?弓道部っぽくて」
「キクさんがバカで安心したわー。ゲームだから良いものの長いバタバタした袖なんか弓打つ時、邪魔にしかならねーじゃねえか。そういった細かいところまでつっこんでアセンブルしねえと知能の程を知られるのがオサレ道なんだぞ」
「うるっさいわね!私は日本人としての心を忘れないためにこう、巫女装束に身を包み和の神に祈りを……」
「クリスマスにキャッキャバッコンして一週間するころにゃ神社に行って姫初め、夏は夏で盆で墓参りするキクさんが和の神様?ちなみに、和の神様って名前なんてーの?」
「お釈迦様?」
「はいー、バカすぎてキクたんかわうぃー。それインドの神様でしたー。日本の神様って一杯居るんだぞ?なんちゃって巫女さんのキクさんは違うなー。デカマラさんに処女膜破られただけあるでほんまー」
「うるっさいわね!私の神様はお金様よ!神様はお願いしても何にもしてくれないけどお金様は集まればなんでもできるのよ!」
「無惨に打ちひしがれて雨に濡れてクッサイ体臭放つ負け犬女の匂いがプンプンするぜー、ちょっとお金様に頼んで処女膜直して貰えよ新古品」
「っくぅぁぁぁぁぁ!――あんたと居るとマジで私の寿命がストレスでホッハ!」
キクさんの顔が真っ赤になったところで俺は俺の仕事をしなければならない。
テンガの頭を軽く撫でると俺はぶらぶらと『野菜村』の中を見て回る。
キクが大量に運び込んだ資材でもって新しく家やら店やらを建てる村人や山賊の様子には戸惑いが見られる。
――占領したての場所だから仕方が無いとはいえ、仕方がない。
俺はふと、街運営のマスクデータについてIRIAの感情値が関係しているという推論を思い出し、どこまでも妙にリアルなゲームの仕様に眉を潜める。
「マスター」
後ろからついてくるチュートリアもどこか、戸惑いを隠せていない。
「周辺の村を攫いに行く」
「ですけど……この方法には賛同できません」
「なら、代わりの方法を用意してくれ。俺やキク、赤い竜は難攻不落の城が欲しいんだ。多くのログオンユーザー――レジアン達がこの世界に来れば俺達以上に『廃人』をやっている奴らも混ざってくる。そうなった時、戦えるだけのものが欲しいんだ」
「それは……彼らと協力して魔王を倒せば……」
「魔王を倒したとしても、帰還できる保障は無い。そうなれば奴らはこの世界を喰らい尽くすんだ。700年前の災害ってのはそういう話なんじゃあねえのか?」
「事実は……わからないです。けど……」
「時間ってのはあっという間に流れていくんだよ。ブレてちゃ、辿り着かない。そもそも、お前さん自身が欲しい物って一体なんなんだよ?魔王っつったってどこに行けば倒せるんだ?どれっくらいの強さで、どこに居るのかわかるんだったら倒してやんよ。そんな見ず知らずの敵より、確実に来る恐怖の方が俺は怖いね」
――魔王の書に記述されている事実が本当のことであれば。
ログオンユーザーの中には絶対にあの方法でもって危害を加えてくる人間も存在してしまう。
「あの山の上に1ヶ月以内に城をくれよ。そしたら、村人を襲うのを勘弁してやるよ」
それだけぴしゃりと叩きつけるとチュートリアは黙ってしまった。
俺は地図を広げ、付近に点在する村を確認する。
「コール、デッテイウ」
衝撃とともに現れた緑竜が眠たそうな瞳を俺に向けてくるが、俺は黙ってその背に跨ると腹を蹴る。
「……行くんですか?ご主人」
「ああ、周遊して山賊や村をみつけたら手当たり次第に襲撃してまわる。このっくらいの冒険者レベルだったら、まあ、俺一人でもなんとかなるだろう。そろそろお前のレベリングも本格的にやらないといけないからな」
騎乗戦闘と空中戦闘は全然別物だから、あまり対人には向いていないのが正直なところではあるが。
――逃げる敵を追う追撃戦も想定するなら、騎乗戦闘も覚えなければならない。
やることは沢山あるのだ。
いつまでもふんぎりのつかないチュートリアを俺は一瞥すると鼻を鳴らす。
「来ないなら、ここでさようならだ。ここで黙って待ってろ」
「……マスターはなんとも、思わないんですか?マスターは自分の世界でも同じような振る舞いをされるのですか?」
「思わねーよ。自分の世界でも同じようなことが常に起こってる。俺の世界は戦争も無い平和な世界なんだろうさ。だけど、どこいっても最大効率の苛烈な効率戦争でバイトや派遣社員が使い潰されてる。ゲームの中でも一緒。よくもまあ、テロが起きねえもんだと不思議だよ。当たり前のことを当たり前にやってるだけだ」
俯くチュートリアは多分、精神状態が『疑念』の状態になっている。
ファミルラでもイリアとのコミュニケーションが上手く行かない場合、『疑念』状態になって反応が鈍くなったり指示に従わなくなったりした。
まあ、直接操作メインだった俺や赤い竜にとっちゃどうでもいい状態だったし、そもそも俺の使ってたイリアはあんまし頭が良くなかったからな。
「……ご主人?ボクはもうちょっとチュートリア様の言うことも聞いてあげた方がいいと思うんですよ。ご主人は強いけど、誰だって強い人ばかりじゃないんですよ」
「なんだかやけに絡むじゃねえか。デッテイウ、そんなんじゃ強くなれねーぞ」
「ご主人が言うのもボクはわかるんですよ。他のドラゴンはみんな多分、ご主人に賛同するでしょうから。だけど、弱い人の気持ちも考えてあげて欲しいんですよ」
「甘えんな。強い人間だって弱かったんだ。それをはじめっから強い人間と勘違いして自分で努力しないで甘える弱い奴は強い奴に骨の髄までガブチョガブチョされて世の中の厳しさを味わうといい」
デッテイウが俯き、チュートリアは恨みがましい目で俺を見上げてくる。
「……マスターは強いですよ。だから、自由に振る舞える」
その言い草にカチンと来た。
「殺すぞてめえ。てめーが雑魚すぎんだよ。勝手に人を強くしてんじゃねえよ。てめえがやらないだけだろうが。ぐう聖ぶってメンヘラこいて強者に寄生する豆腐メンタルの他力本願思考が何も見えんで他人を語るな。俺がそんなに自由だってんなら今ここでてめえをぶっ殺すぞ」
どこか小さなため息をついてデッテイウが首を左右に振った。
「……いきましょう、ご主人。チュートリア様。チュートリア様、嫌でもご主人に付いてきて下さい。そして、それで選べばいいんですよ」
デッテイウに諭される形になったチュートリアがおずおずと背に跨る。
「……日が暮れるまでに最低あと一つ」
俺がそう告げると二人は神妙に俯いた。
なんか、辛気くさくて俺一人で行こうかと思い直したときである。
「ロクロータ!ちょっと待ちな!」
キクさんが村長の家から飛び出してきた。
俺はデッテイウの首を巡らせ、キクに向き直る。
「せっかくだから、テンガも連れていって!回復、一人でもいると助かるでしょ?」
「いいのか?生産に使うだろ?」
「あんたの下で少し勉強してきた方がいいわ。回復のタイミングとか連携のタイミングとか私じゃ基本的なことしか教えられないから」
キクの後ろから歩いてきたテンガが瞳をまんまるにして俺を見上げている。
「ま、いいだろ」
「ろーたーといっしょかー、てんがいるとはかどる?はかどる?」
テンガは何をしに行くかすらわかって無い様子。本当に子守押しつけやがったなキクの野郎。
「あと、ロクロータ。ついでで悪いんだけどもう一人冒険者連れていって貰える?」
「冒険者?傭兵扱いか?」
「うん。あんたが村を奪うって話したらついて行きたいんだって。村に居着く冒険者でレベルが高くなってくれると防衛が楽になるから育成も兼ねて連れてったげなよ」
「俺主導で請求すると報酬取られるんだが」
「向こうからの同行請求だから大丈夫よ」
冒険者ギルドに顔を出していると、希に発生する傭兵イベントだ。
街に常駐している冒険者からパーティに誘われる。あるいは同行を求められる。
自分から冒険者ギルド内のNPCに同行請求をしてもいいがその場合は報酬を相手のレベルに応じて取られてしまう。
逆に、相手から同行請求された場合は報酬が発生しない。
PTでの過疎職問題やメンツ問題を一手に解決してくれたのがIRIA積載型NPCの同行システムだからファミルラは流行ったのだ。
おずおずと村長の家から出てきた冒険者は俺が襲撃の際に倒したスレイヤーの少女だった。
「あの……ネルベスカ・マノアといいます。よろしく」
「適当にな」
冒険者の名前なんかいちいち覚えてられない。
次から次に取っ替えひっかえしては討伐やらダンジョンやらに行くのが仕様だから冒険者といえど使い潰しです。
「戦女神のレジアン――ロクロータ、さんですよね?」
「あん?」
冒険者の方が俺の名前を知っていた。
名声値が高くなれば冒険者に名前を知られることもあるらしい。
だが、だとしたら俺の名前は未入力の『※※※※』となるはずなんだがな。
「オーベン城要塞攻略戦に参加させて頂きました――それに、この姿を見て思い出して頂けますでしょうか」
スレイヤーの少女の服は言われればどこかで見たことのある服だった。
ツービージュドレス、ワンダーバングル、ダブルリボンブーツにプチフリルスカーフ。
青い髪の色には合ってねえと思うが、俺好みだが、故に面白みの無いコーデだ。
「会ったことあったっけ?キクさんより女子力は高いことしかわからん」
「あんたがカモった客よ。ふざけんなし」
キクに言われて思い出そうとするが思い出せん。
「武名は聞き及んでおります、足手纏いにはなりません。どうかご一緒させてください」
静かに一例する冒険者に何だか重っくるしい物を感じて俺は眉を潜める。
「まあ、相手からの同行請求だから失う物はないしいいか。イザとなりゃタゲとらせて生け贄にしてくりゃいいんだし」
冒険者の少女が眉を潜めるがキクが苦笑いする。
「――コールレウス!」
灼熱の炎を纏い、現れたレッドドラゴンが雄叫びを上げて応える。
俺は顎で示して冒険者に指示する。
「テンガ、あと冒険者。乗れ。モタモタすんなよ」
――時間はあるようで無い。
ヴォーパルタブレットの中、ウィキに貪欲なまでに広がっていく知識の海を一瞥する。
――俺の知らないまだ見ぬ猛者達が確実に世界を『喰っている』という焦りだけが俺を駆り立てた。
チュートリアの日記 よんがつじゅういちにち
ますたーにけがされたかとおもったけど、そんなことはなかった。
なまたまごおそるべし。
ますたーはあいかわらずのくずっぷりをはっきしてむらびとにざんぎゃくひどうのかぎり。
ゆうしゃとしてのじかくがまったくない。
ますたーはひょっとしてわたしだけにつめたいのだろうか?
そして、わたしだけがますたーのみかたがおかしいのだろうか?
ねるちゃんはますたーのことを「ししょう」とよんでるし、ますたーはなんだかんだいってねるちゃんにいろいろおしえている。
ますたーがつよいのはわかるけど、かんがえかたまでそまっちゃったらくずのなかまいりですよ。
てんがちゃんはてんがちゃんでほわほわしてるけどますたーはしっかりとめんどうをみてるし、いろいろとおしえているし、てんがちゃんもますたーになついている。
なんか、ねたましい。
しかし、いまはほんとうはにっきとかかいてるばあいじゃない。
てんがちゃんが、じつはなんか、すごいえらかったっぽくて、いま、えるふとびーすとにぼこぼこにされそうです。




