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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第一部『導入編』
62/296

『血便』――じゃねえ、『決戦』

 ウィングコマンダーアンノウンと魔王マルネジアのイリア。

 それらが複合された第3形態は全くの未知の敵。


 ――エマージェンシーミッションのアンノウントライアル


 遭遇する可能性すら低い難敵が、今、高度イリアAIを積載して相対している。


 「――力至らず、絶望し、死を辿れ」


 どこまでも冷酷に震える喉が鈴のような声を響かせ、背筋に氷を差し込む。

 地面を跳ねるようにうねるウィングコマンダーの突撃は予測がつけられない。


 「――自分を狙う時だけ、避ければいいッ!」


 俺の指揮に皆が即座に呼応し、理解する。

 どれだけ複雑な行程であっても自分の周辺からの接触を避ければよい。

 他人を思わずとも、自分のみに腐心する。

 どこまでも自分のリソースを自分の生存に振り分け攻撃の瞬間のみに、周囲連携へと思考をシフト。


 ――アタックチャンスを放棄すればおのおのが生存できるだけのスキルはある。


 迸る雷光の雨の中を走り、僅かにでもとアタックチャンスを探すが流石アンノウンというべきか。


 「――チャンスなんざくれねえか」

 「絶望に染まり果てよ。これが、世界の選択ですッ!」


 甲高く吠えたウィングコマンダーから障気が迸り、雷光の中を縫って迫る。

 鼻につく臭気がマジで便所。


 「――刈り取れザン・ポールッ!求めよ――魂の慟哭をッ!」


 さらに旋風を巻き起こしながら投擲された鎌に追尾される。


 「しつこい便所の黄ばみじゃねえんだよッ!俺の心は真っ白だぜ」


 ――逃げ場を失い俺は盾のジャストガードで鎌を弾く。


 「はいそれウソー」


 赤い竜がレイジスラストで鎌を打ち上げながら煽ってきやがる。


 「同意ね――アタックチャンス無いわよ?どうすンの?」


 攻略の、糸口が掴めない。


 ――大型の攻撃にすら隙を廃し、完全に殺しにかかっている仕様だ。


 覚えゲーなどという生ぬるい話は通じない。


 ――便所の底にふさわしい『糞』ゲームだ。


 だが、この絶望的な状況を切り開く打開策があるはずだ。

 全く用意されていなくても、必ず。


 「――カーマリィィィ!」


 真正面から盾で受け止め、突撃モーション中のウィングコマンダーと切り結ぶマーシー。

 周囲に降り注ぐ雷光に一切怯むことなく突撃し、届かぬ腕を伸ばす。


 「――マーシー・セレスティアル。認めましょう、あなたの意思を。運命に抗おうとする、意志を――ですがッ!世界の選択は変わらないッ!」

 「――認めないッ!断じて認めないッ!それは、私が選んだ結末ではないッ!」


 ――ガードし、強引に振るった剣の切っ先がウィングコマンダーの甲冑を掠めた。


 ウィングコマンダーはそのままマーシーを挽きつぶそうとし、盾の上で激しい火花を散らし飛び去る。

 金属同士が弾ける激しい音を響かせ、俺はその光景に一つの光明を見た。

 俺は迸る雷光の中、静かに体温が下がるのを感じ、追って昇り詰める高揚を静かに抑え込む。


 「いいぜ……マーシーちゃん、それだ」


 俺の熱が伝わったのだろうか、赤い竜、そして、キクが傍らに集まる。


 「――竜ちゃん、盾、使えるか?」

 「ドラグウィングシールドを持つ俺に隙は無かった!竜の鱗の固まりでできている俺がしびれうんこに負けるとでも?」

 「キク、狂気の霊薬は当然ストックあんだろうな?」

 「赤字狩りにさせる気?いいわよ。私のプライドの方が高くつくってこと、教えてあげるわよ」


 俺が盾を構え、ソードの切っ先をカマドウマに向けるとそれだけで理解させる。


 「キク、ばらまけ、そして合わせろ。竜ちゃん、感覚を掴め。一回でだ」

 「わかってるけど、何をするか聞いていい?」

 「――ファミルラでの限界クエスト『オーロラの魔姫』の再現だ」


 幾度も挑み破れた忌まわしき過去の難関クエスト。

 そのためだけに用意された極悪ボスを屠るためだけに磨いた神技を見せよう。

 俺がブレイバーを選択することに躊躇しなかった理由でもあり、また、赤い竜がヘビーナイトを選択することを後押しできる一手。

 使い込まれた星銀の盾が鈍く輝き、竜の羽と竜の宝玉で輝く盾を並べ俺達は覚悟を決める。


 「――マスター」

 「――ドラゴンは何者にも負けはしない」


 竜の誇りをイリアに伝え、赤い竜は踏み出す。

 追って駆けだした俺が追い抜き、そして、赤い竜が俺を抜く。

 交錯する閃光となって俺達はウィングコマンダーに肉薄する。


 「――受け取りなさいよッ!秘蔵のポーションなんだからッ!」


 背後から投げつけられた狂気の霊薬が血を熱くする。

 心臓が跳ね上がり、視界が赤く染まりはき出した息で火傷しそうになる。


 「来いィィ!ウンコマンンン!」


 俺の咆吼に応えウィングコマンダーが青い輝きを発し雷光を纏い突進してくる。


 ――『雷撃渦突<ライトニングフルドライヴ>』


 俺は当たれば即死するその超衝撃に真正面から飛び込む。


 ――星銀の盾が青白い輝きでその超衝撃を受け流す。


 一度、二度、そして、三度――


 雷光が弾け、衝撃が輪となって広がり、俺は質量に押されブーツの踵が火を噴くのを見た。


 三度、四度――そして、幾度でも。


 「な、なんでッ!」


 俺の真正面、驚愕の瞳で俺を見返すカマドウマが居た。

 俺は真っ向から額を叩きつけ吠えたくる。


 「電子の海のウメハラが決める画面端ィッ!」


研ぎ澄ました感覚が生まれる雷撃渦突のモーションのヒット間隔を的確に捉える。


 「ナイス――連続ジャストガードッ!今だっ!」


 赤い竜がブレードを振るい、駆け込んだシルフィリスが追撃を加える。

 マーシーのディバインブレードが側面からウィングコマンダーを焼き払う。


 「あっちゃんッ!スイッチ!」

 「――おーよッ!」


 ステップで攻撃範囲を抜けると背後に立った赤い竜が盾を構える。


 ――同じように連続ジャストガードで雷撃渦突を喰らい止め、俺は確信した。


 ヒットストップモーションの存在。

 即座にショットガンに持ち替え、フレンジショットとスプラッシュショットで弾丸の嵐を作る。

 微々たる量しか前進せず、雷撃を周囲にまき散らすウィングコマンダーはその瞬間においてそこで『止まって』いた。


 「なぜ――」

 「昔、オーロラの魔姫という仕様限界を超えたモブが居た。捕らえられないほどの高速、そして、超威力の突進。だが、それは俺達廃人によって倒された。その時に使われたテクニックが『ジャストガードによる足止め』だ」


 狂気の霊薬によるノックバック無効があれば、仮に、そう、仮にジャストガードをしくじっても一回だけならのけぞりモーションが無くなるから立て直せる。


 「世界の選択だとか訳のわかんねえこと言ってやがったな?そっくりそのまま返してやんよ!お前がヒットストップで足を止めるのも『仕様』という名の世界の選択だッ!」


 再度、入れ替わり俺が赤い竜と盾を変わる。


 ――『盾』という武器の仕様の限界を迫った使用法。


 赤い竜のドラグウェンデルが凶暴な輝きを持ち、赤い旋風となる。

 着実にダメージを奪い、ウィングコマンダーの装甲を穿つ。

 モーションを終えて上空へ逃げるウィングコマンダーが再度、突進をしてくる。

 そこへ走り込み、星銀の盾を構えた俺が待ち受ける。


 「挽きつぶしなさいッ!ウィングコマンダーッ!」

 「――来いッ!」


 超重量の体躯を小さな盾で受け止め、雷光が激しく弾ける。

 迸る稲光をかいくぐり、皆が必殺の一撃をウィングコマンダーにたたき込み、漆黒の鋼鉄が火花をあげる。

 凶悪に変貌した鎌を盾で受け止め、真正面からカマドウマとガンを切り合う。


 「――その手法には弱点があることを知らなくて?」

 「あん?」


 声掛けによる意識の中断をさしているならばそれは無意味だ。


 ――ダイレクトに反応を返してくれる仮想現実において、一度掴んだ攻撃判定間隔を手放すものかよ。


 単調なリズムゲーと同じだ。


 「――どんなものも、いつかは壊れる」


 みしり、と俺の盾が軋む。

 即座にスイッチに入った赤い竜と代わり、俺はソードで斬りつけながら盾の表面を見る。


 ――僅かにだが亀裂が入っていた。


 「その盾ごと破壊してしまいなさいウィングコマンダァァァっ!」


 ああ、なるほど、そういうことか。

 俺は存外にこの魔王のイリアとやらがアホなので面喰らってしまった。

 それを聞いていたのだろうか、キクさんがどこか小馬鹿にしたようにカマドウマを笑う。


 「――バッカじゃん?幸運の神のレジアンってのがどんなものか理解してないみたいね」


 その片手には鍛冶用の槌が握られている。

 反対側の腕に金敷きを抱え、どこか冷淡な瞳でカマドウマを睨む。


 「生産職あんまナメてんじゃないわよ?」


 激しく降り注ぐ雷光の中、キクは振り上げた金敷きを地面に叩きつけるように置くとインゴットをばらまく。

 雷光が爆ぜる中、甲高い金槌の音が響く。


 「――ぶっ壊れる矢先に作ってやンさぁッ!」


 ――インゴットがみるみる形を変えてゆく。


 傍らを通り過ぎるウィングコマンダーに一瞥をくれることもなく高速で金槌を振るい形を整えていく。


 ――一撃のもと薄く伸ばされた鉄が二撃目で煽られ、高速で振るわれる槌が形を整える。


 空中に放ったインゴットが殴られた瞬間に取っ手と釘にバラけると一撃を叩き込みアイアンターゲットが完成する。


 「チンパンマン!新しい盾よ!」


 ――チンパンマンとは俺の昔のプレイヤーネームだ。


 「ありがとうゲリオバさんw勇気りーんりーんチンパーンマーンw」


 できた矢先にマテリアライズされたアイアンターゲットを走り込み、ピックアップすると俺は即座に装備を取り替え、エルドターゲットをマテリアライズする。


 ――交錯し、雷光の中を駆ける。


 ウィングコマンダーの突進軌道の中に滑り込むと新しいアイアンターゲットで連続ジャストガードに入る。

 金敷きを抱え、再度雷撃の中を走り回り、赤い竜がマテリアライズしたドラゴンウィングシールドを拾いあげる。


 ――キクの瞳が鋭く引き絞られ、雷撃の雨を読む。


 駆け出し、稲妻の谷間を見つけ出し金敷きを叩きつける。

 手の中で翻った金槌が火花を散らす。

 砕け散った竜鱗が散り、赤銅色のヒイロカネが溶け新たに盾をかたどると散った竜鱗が宝玉を中心に盾を象る。


 「させる――ものかぁっ!」


 ――ウィングコマンダーが再飛翔し、キクを狙う。


 その間に、俺が滑り込み、ジャストガードでヒットストップで食い止めるがその軌道は修理作業をするキクへと一直線に向かう軌道だ。

 だが、キクは不敵な笑みを浮かべると舞うように金槌と竜鱗を捌き、竜具にもう一度息吹を与える。


 ――ウィングコマンダーが俺を突き抜けキクへと疾走する。


 「――させてもらいますのんよぉーッこらセクロスどっこいしょぉッ!」


 金敷きを回収することなく、爆炎水晶を設置しダッシュで駆け抜ける。

 突進で励起された爆炎水晶の爆炎がウィングコマンダーの装甲を弾き飛ばし、黒金が爆炎を曳いて走る。


 「本当の生産職は飛び散るウンコの死ぬ光景の散りざまも生み出すッ!」


 かっこよく吠えるキクさんの女子力ゼロが輝いて見えるわ。


 ――雷撃の中を交錯して駆ける俺と赤い竜はシールドを構えウィングコマンダーを待ち受ける。


 そこへ狂気の霊薬が再投入され、俺たちはいよいよもって最終局面に移行する。


 ――無尽蔵に生み出される盾と、圧倒的な技術力。


 積み上げた火力を前に、いよいよもってカマドウマが覚悟した。


 「……これが、レジアンなの……こんなの……こんなの……勝てる訳が無い」

 「理解するのにラグったな?そのラグが命取り。さあ、選べ、お前の運命は死刑か死刑、今ならさらに死刑のサービス付き。ラグ奈落怨雷ンへようこそがっとーざへぅ!」


 アイアンターゲットで連続ジャストガードしながら俺はどこまでも獰猛に笑ってやった。

 さぁ、最後の一手を詰めようか。


 「見たなッ!覚えたなッ!マーシー、やれッ!受け止めろッ!」


 惚けているマーシーに活を入れる。


 「――ラストくらい決めてみせろッ!俺はカス野郎だぜ?お前の妹だろうと血祭りにあげてやンぞッ!」

 「――はいっ!」


 短く答え、マーシーが剣を掲げ盾を押す。

 くだらねえゲームのくだらねえシナリオなんざ理解したくもねえ。

 どんだけ臭ぇ姉妹愛を抱えているかなんざ理解もしたくねえ。


 ――だが、伝播した熱は確実に俺の闘争心に火をつけた。


 それだけを評価して、最後の最後、マーシー・セレスティアルに見せ場をくれてやる。


 「ディバイン・イグニッションッ!」


 自己バフをかけ直し、淡い燐光に包まれたプロフテリア騎士団の聖騎士が咆吼をあげる。


 「――受け止めるッ!」


 大地に突き立てた盾が輝きをもって魔王のイリアを迎え撃つ。


 ――激しい雷撃の中、白い騎士は輝ける盾で魔王の放った空の王と対峙する。


 ジャストガードの青白いエフェクトと強化された盾にかかった魔法の燐光が激しく輝き、ウィングコマンダーの雷撃と弾け合う。


 「――カァァマリィィ!」

 「そんな……あなたまで、なんでっ!」


 引き継がれた熱は伝播し、広がり、不可能を崩す。


 「――世界の選択が私と、あなたをを引き裂いたというならッ!」


 幾重にも広がる燐光の中、マーシーは告げる。


 「――取り戻すッ!なにもかもッ!――これが、私のぉ――」


 ――雷撃渦突の中、激しい雷光に浮かび上がる姉が、妹に告げる。


 「――選択だッ!」


 完全に足が止まったウィングコマンダーに廃人達が群がる。

 空を蹂躙する黒金の装甲列車の稲光の中、赤い竜の腕の中で咆吼があがる。

 振るわれた竜具は何者より強く、自らより強い強者を屠る。

 俺の弾丸が嵐を作り、シルフィリスが続き、そして、赤い竜が吠えた。


 ――『ヒューリーバーサーク』


 怒濤の連撃を最後と認め、振るい切る。

 放たれたクロスエンドの凶刃がひらめき、ウィングコマンダーアンノウンの漆黒の鎧を瓦解させる。

 ばりん、と鈍い音が響き空間が砕けた。

 どこまでも目映い光があたりを包み、迸る燐光が俺たちを包む。

 激しい閃光が嵐のように渦巻き、遅れて轟音がやってきた。

 それらがすべて優しい風に流され、再び瞳が世界を映すと力なく倒れる少女――カーマリィを膝に乗せ、マーシーがどこか柔らかく笑って涙を流していた。

 赤い竜が珍しくブレードを回し、天上に突き上げて俺に笑みを向ける。

 キクがにっと白い歯をみせて笑い、その傍らでテンガが首をかしげている。

 シルフィリスがどこか疲れたように眉尻を下げながらそれでも笑っていた。

 マーシーの膝の上、静かに横たわるカーマリィの胸がわずかに上下している。

 長く、苦しい戦いが終わった。

 ぼろぼろになった銃を突き上げ、俺は勝ちどきを上げる。


 「――完ッ全ッ勝利ィィィッ!!」


 静寂を切り裂く銃声より高い喝采があがる。


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