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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第一部『導入編』
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CGコンプしても妹ルートが無えよ畜生。

 小型ボスであるカーマリィ・ドゥ・マルネシアと巨大ボスのウィングコマンダーアンノウンとの乱戦は熾烈だった。

 ――適正レベルを明らかに無視した無理スペックのボスモンスター2体を相手に戦わなければならないのだから。


 「竜ちゃん!対人戦の要領だッ!ガチで行けッ!」

 「――おーよッ!」


 乱戦の中に現れたカマドウマにショットガンで牽制を入れるとストックチェーンでウィングコマンダーアンノウンの頭上へ飛ぶ。

 シルフィリスが大剣でウィングコマンダーの真正面から斬りかかり、キクがチャージを一段階のままアタックチャンスに叩き込む。


 ――攻撃速度に明かな違いのあるウィングコマンダー相手には現状でフルチャージのチャージスマッシュは入らない。


 雷光突撃を開始するウィングコマンダーアンノウンの雷光を鼻先に置きムーンサルトで軌道変換して避けると、武器を持ち替える。


 ――着地と同時にホールドの先置き。


 予測通り現れたカマドウマをがっちりとホールドする。


 「――なっ」

 「――実戦経験の差だぜ?そうらよっ――」


 『サブミッション』でダメージを与えてからの『叩きつけ』、『ヘッドバッド』の格闘コンボでのダメージを奪ってからの『スルー』。


 「それ、どっかーん!」


 放り投げた体躯が受け身を取った直後にキクがチャージスマッシュで打ち上げ、打ち上げた先で赤い竜が両手のブレードを背に『クロスブレイク』のモーションに入る。


 「――せーのっ!」


 強烈無比な斬撃がカマドウマを斬り裂く。


 ――強引に作り出したアタックチャンスに即座に最大火力を叩き込む連携を取る。


 一瞬遅れてフィールドを舐め尽くすように走り抜けるウィングコマンダーアンノウンの雷光をそれぞれが散って避けると、憤怒の形相で起き上がるカマドウマにマーシーが肉薄しターゲットに割り込む。


 「ほうのーしー、みちたりてきたるはかいびゃくのー『豊穣』」


 ――テンガが長い詠唱を経て設置した自動回復領域に滑り込む。


 次々に滑り込んではHPを回復させている他の連中を確認しながら、俺は一人でウィングコマンダーを相手にするシルフィリスのサポートに回る。

 ストレンジアクションの雷撃大旋回の中に『稲妻ステップ』で切り込み、至近距離での『ブッパ』で装甲を砕く。

 シルフィリスのブレードが巨大な槍を砕き、激しく打ちあう。

 フィールドを埋め尽くす雷光をかいくぐり、熾烈な乱戦を戦いの最中、マーシーが荒々しい『ハウリング』を響かせ、カマドウマとウィングコマンダーの前に立ちはだかる。


 ――互いに突進をしてくるカマドウマとウィングコマンダーの直前でマーシーの姿が無くなる。


 横から俺とキクが放ったチェーンフックがターゲットを取ったマーシーを無理矢理引っ張ったからだ。

 激しい衝突音と雷光の爆ぜる音が響き、カマドウマとウィングコマンダーが衝突する。


 「積極的に狙ってくぜ?」

 「ええ」


 ――強力なモブと乱戦になった場合、難易度は必ず上がるものではない。


 複数の敵に意識を払わなければならないことから確かに難易度は上昇するが、それは同時に得られる選択肢が一つ、増えることとなる。

 弱小の火力しか持たないゲリラが強大な火力を持つ軍隊と相対したときまず、何を考えるか。


 ――相手の火力を奪い、自分のものとしてしまうこと。


 「『共殴り』させたら獲得経験減るじゃーん」

 「クリア優先」


 強大なモブの攻撃力をそのまま、誘導して自分たちの火力にしてしまえばいい。

 元々はヴォルガノガンサとワイバーンから複数タゲを貰った場合の立ち回りとして考案された立ち回りだが、強力なモブが複数闊歩するフィールドではどこでも使える手法。

 俺と赤い竜が乱戦の中に飛び込み、それぞれのターゲットを優先して奪ってゆく。

 それに追従する形で他のメンバーを引っ張り、動きを誘導してゆく。


 「合わせろ赤い竜ッ!」

 「おーよっ!」


 ――空中に飛ぼうとするウィングコマンダーを激しい弾丸の雨が叩き落とし、赤い竜の大剣が縦横無尽に奔る。


 大火力で一気にターゲットを引くと俺は横目でマーシーと打ちあうカマドウマを捕らえる。

 起き上がるウィングコマンダーの正面を誘導しながら、赤い竜を誘導し、意図を察したキクが射線から逃れる。


 「――オワ――レッ!」


 ――激しい雷撃が迸る。


 雷光をステップ、攻撃スキルで避ける。

 放たれた雷撃が通り過ぎ、遠くで打ちあうカマドウマを寸分違わず貫き、青白い爆発を上げる。

 俺と赤い竜は互いに親指を立てるとそのまま、背中合わせに散る。

 俺がカマドウマに、赤い竜がウィングコマンダーへ。


 「なんで……さっきまでと違う?……一体何がレジアンの力に……」


 狼狽するカマドウマにダッシュからの稲妻ステップで肉薄し、俺はショットガンを突きつける。

 爆ぜた銃口から吐き出された銃弾がカマドウマのドレスの上でいくつも弾け、俺はステップで巨大な鎌の旋風の中を踊る。


 「――高度IRIA型モブの特徴は負荷を押さえた限定フィールドにおける高度な状況判断。それは限りなく人に近い」


 ムーンサルトで頭上を越え、頭上から弾丸がカマドウマを貫く。


 「――一般人相手にゃ無双できるんだろうよ」


 着地と同時にジャンプで振るわれた鎌を避け、後退すると即座にダッシュでカマドウマの側面を駆け抜ける。


 ――軽業スキルを駆使して対人戦闘の基本である『張り付き』を行う。


 「だが、俺達は廃人だぜ?」


 ――振り向いた時にはステップで後退し、背後を奪っていた。


 カマドウマがどれだけ鎌を振るおうが俺の身体を掠められない。

 操作が一歩だけ遅れる先行する世界に意識が到達する。

 次に行われるアクションに、ただ、間違えることなく反応を入れてゆく。

 視界という画像から与えられる情報を受け止め、思考という行程を省き、血肉が覚えた反応を正確に返す。


 「――だから、何だと言うのっ!」


 ――幾人もの人間を、幾人もの廃人を血祭りに上げるために積み上げてきた血肉が息吹を持つ。


 「チート使ってもPSとメンタルがカスいんだよ。もう一度レベル1からマラソンして来いッ!」


 最大火力の『ブッパ』が至近距離で決まる。

 弾丸の壁がカマドウマを押し上げ、即座に入り込んだキクがハンマーを振り上げる。

 直上から斬り降ろすシルフィリスの強力な斬撃がカマドウマを叩き落とし、赤い竜が誘導したウィングコマンダーの突撃に轢かれカマドウマが地面を転がる。

 AIモブと誤認してそのハイスペックに戸惑っている間に勝負を決されれば危なかった。

 だが、カマドウマが俺達の情報を戦闘中に把握し戦闘に修正をかけるより精緻に俺達は情報の修正ができる。

 そして、そこからどのような戦術を取ることが最適なのかも。

 また、その中でどのような連携ができるのかも。


 ――多くの情報を血とし、それを達する技術を肉に宿す。


 そうして放たれる熱が息吹となって絡まり合う。

 俺は腕の中で銃をぐるりと回し、宝珠の中に納める。


 ――現れたブレードを手に、左手に盾を持つ。


 ウォーリアスタイルに変貌し、ぐるりぐるりと剣を弄び、カマドウマに牙を剥く。

 情報の修正をはじめるカマドウマが狼狽えている呼吸が手に取るようにわかる。

 片手剣と盾を使うローグの取るべき有効戦術、その際の適正距離、取るべき戦術、対応すべき危険手――


 「――やはり、危険。レジアンが――世界を滅ぼす」

 「さぁ、殺戮のお時間だ。面白く死に散らかせ」


 駆け出した俺の目の前にウィングコマンダーが割り込む。

 だが、俺は相手のAIにさらに複雑な演算を要求してやる。


 「――マーシー、救うんだろ?妹のお茶目なワガママくらい受け止めてやれよ。そいつがでかいおっぱいを持つ姉のテンプレだぜ?」

 「――承知したッ」


 マーシーが大地を揺らし突進する。

 『ハウリング』が響き、ほんの僅かに動きの停止したウィングコマンダーを駆け上がり、ダウンスラストで額を割ってさらに飛ぶ。

 飛翔する俺を見上げたカマドウマと視線が交錯し、俺は悪魔の笑みで嗤う。


 「――俺より強ぇ奴が居るんだぜ?」


 ――視線が動いた瞬間にカマドウマの腹を竜槍ガングラスタが貫いていた。


 激しい衝撃が螺旋の旋風を描き、弾けた力がカマドウマを押し出す。

 驚き、突き出された槍を見るカマドウマの眼前には竜槍ガングラスタを2本抱える赤い竜が居た。


 ――もう一本、だと?


 これには俺も驚いた。

 だが、赤い竜はにんまりと嗤うと、力を誇示する竜のように竜具の力を振るう。

 幾重にも翻り突き出された『ハードピアッシング』の衝撃で浮いたカマドウマに衝撃を伴う投擲――『バスターランス』を叩き込み、カマドウマの小さな体躯を吹き飛ばす。


 ――着地と同時に、俺が赤い竜の前に割り込む。


 ダッシュで眼前に肉薄し、剣を振るう。

 それに合わせてカマドウマが障気を伴う強力な斬撃を合わせてくるがそこに俺の姿は無かった。

 剣撃モーションをキャンセルしてステップで背後に回り込み、『スラッシュ』が首筋に叩き込まれる。


 ――『急所狙い』クリティカルと『背面攻撃』補正の乗った一撃だ。


 ウォーリアと違うが、的確な攻撃を求められるアーチャー系の補正ののった一撃は決してウォーリア系にひけを取らない。

 片手剣型ローグへのスイッチが高度IRIAに更なる困惑を与える。

 割って現れたウィングコマンダーがカマドウマを挽きつぶし俺に突撃してくるが幾度も相手にしたウィングコマンダーの突進を『ジャストガード』で防ぐことは難しくはなかった。

 追ってきたマーシーとスイッチして俺がウィングコマンダーのターゲットを引くとマーシーはカマドウマと俺の間に割り込む。


 ――状況が変遷して盾役2枚による乱戦。


 ウィングコマンダーが第2形態へ移行する。

 飛行形態へ変形したウィングコマンダーが高速で飛翔しカマドウマを掠う。

 ウィングコマンダーの背に立つカマドウマはようやく、そう、ようやく混乱から復帰し自らの優位性を把握する。


 「――人が脆弱であることには変わらない。あなた達はその肉の限界を超えない」


 ――モブスペックによる対象の圧倒。


 俺はここに来て勝利への一手を詰めた確かな手応えを感じた。


 「カスいな?思考停止した豆腐メンタルが敵になるかよ」


 第2形態に移行したウィングコマンダーの上、カマドウマは俺を見下ろし怪訝な顔をする。

 俺はどこまでも得意げに嗤ってやった。


 「仕様の限界を超えるのが廃人だ。何度も超えた、超えてやるよ、今、ここで。覚えておけ、俺の剣は攻略不能の妹ルートを貫通する」


スラング解説

豆腐メンタル

豆腐のように脆い脆弱なメンタルを指す蔑称。

 遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ)の主人公、武藤遊戯の別人格、闇遊戯が「ドーマ編」で描写された精神的もろさを茶化してこの言葉が生まれたという説がある。

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