あwあwもう、らめぇwキクさんに中田氏されて逝っちゃうわーw
ウォールがまだ健在のうちに第二形態に移行できたのはある意味、助かっていた。
全身を覆う蛇を全てパージしたデンジャーカオスキマイラから現れた死せるドラゴンの首は障気の塊を吐き出し額から伸びる骨を激しく打ち付けウォールを突き崩す。
「わ、わぁあっ!」
崩れるウォールから転げ落ちるテンガを拾い上げ、俺は地上に降りる。
禍々しく輝く赤い瞳が俺を捕らえ、デンジャーカオスキマイラの首が伸びる。
骨関節が蛇腹のように伸び俺の側面を捕らえ、俺はテンガを抱えたまま地面を転がる。
「――つぁ……」
ごっそりともっていかれたHPと意識。
眩む不調は毒によるものだろうか。
テンガを突き飛ばすと俺はよろよろとその場を離れる。
「えと、あー……ヒール?あ、違う、『リフレッシュ』!」
使うべきスキルの選択ができないあたり、相当AIとしては脆弱なテンガ。
だが、それでも毒を除去してくれるだけでもありがたい。
ポーションを躊躇することなく飲み干すと、俺は第二形態に移行したデンジャーカオスキマイラと対峙する。
――先ほどまでの鈍重な動きとくらべるとその進みが早い。
獅子の頭二つの上に生えた太いドラゴンの首はまるで、というか、もはや、というか蔑称のままだ。
「ところでテンガ、これをみてくれ。これをどう思う?」
「すごく、おおきいです」
うしきた。テンガならストレートにやってくれると思ったよ。意味は無いが。
大きいだけではなく、移動速度が増加したデンジャーカオスキマイラはそれだけで脅威だ。
プロフテリアの大剣まで進行されれば負け確定のこの戦いにおいてその進行速度が上がるということはそれだけ脅威が増すということだ。
「くっそ、修正されてやがる」
デンジャーカオスキマイラの攻撃速度は俺の知っている速度ではなかった。
大規模戦闘という皆が遊べるコンテンツということで割と対処が可能なレベルでまとめ上げられていた攻撃速度に上昇が見受けられる。
その差異を修正して俺はショットガンをリロードする。
――複数標的である蛇を相手にする場合と違い、今度は本体を徹底的に叩く必要がある。
「ロクロータ!こいつ前より硬くない?半立ち状態でもガッチンガチンなんだけど?スタン値溜まって萎えてくれる気がしないわよ!」
「それはお前に女子力が無いからだ。キクさんじゃデカマラさん興奮しないってさ」
背後から回り込みチャージスマッシュの強力な一撃を叩き込むキクが眉を潜める。
明らかに修正の入っているデンジャーカオスキマイラはその耐久力に加え、高い防御力をも持っているみたいだ。
正面に入り込み、獅子の頭が繰り出す牙を『ステップ』の無敵時間ですり抜けるとゼロ距離まで肉薄してからの『フレンジショット』からの『スプレッドショット』。
「――最大火力だッ!」
クールタイムを無くしたゼロ距離からの複数ヒット判定のショットガンは巨大モブ相手には下手な火力職より大打撃を与えることができる。
ゼロ距離ブッパをでかい金玉――じゃなくて獅子頭にぶちこんでみるがノックバックすら奪えない。
「っとぉ!」
稲妻ステップでその場を急速離脱したところにドラゴンヘッドによる連続食らいつき――通称『ピストン運動』
抉れたブレド大橋の飛礫が無惨に飛び散り粉塵が巻き起こる。
「やめて欲しいわーブレド大橋さんが妊娠しちゃうわー」
軽口を叩いてみるが余裕は全然無くなっている。
――ウォールが壊されたことにより進行を開始したデンジャーカオスキマイラを押しとどめる物は何も無い。
「どうすんのよ!ロクロータ!このままじゃ本当に大剣妊娠しちゃうわよ!」
「くっそう、こんなところだけ修正しやがって!やっぱり叩かれすぎて硬くなっちゃったのやもしれん」
今のDPSだとこれを押し留める方法は無い。
ペットアタックをしようにもキクと俺でそれぞれ大規模戦闘への参加人数枠で2匹のペットを割り込ませているから、これ以上減らしてしまえば前線が手薄になる。
マーシーを上がらせて迎撃に回すことも考えたが、鈍重なホーリーナイトが一人追いついたところでどれだけのダメージを出せるか。
「やるしかねえだろう。キク、アイテムを全部吐き出せ」
「合点!テンガ!やっちゃいな!」
キクがローリングスマッシュで殴りながらにっと笑う。
「てんちかいびゃくのー、えーとーいかしょーりゃくー!『韋駄天』」
テンガが適当極まりない呪文と同時に自分にバフをかける。
――移動速度を引き上げる巫女のバフスキル『韋駄天』
テンガがちょこちょこと走り回り、デンジャーカオスキマイラの進行方向に爆炎水晶を並べてゆく。
やはり、とは思っていたがキクも手を打ってはいたらしい。
俺は爆炎水晶がデンジャーカオスキマイラに踏まれる直前にショットガンをぶち込んで励起させる。
――ブレド大橋上にいくつもの巨大な爆炎が立ち上る。
「てぇりゃあ!」
その爆発の煙を割いて飛び出したのはキクだった。
大きく跳躍したキクのチャージスタンプがデンジャーカオスキマイラのドラゴンヘッドを叩く。
反射的に伸びたドラゴンヘッドが伸び、額の骨がキクを貫くがキクは何の痛痒も示さずにドラゴンヘッドへ再度、チャージスタンプのチャージを溜める。
「狂気の霊薬!?なんてモン持ってやがんだ」
これには流石に俺が驚いた。
ポーションにも色々種類はあるが、これはノックバック効果を無くす霊薬だ。
効果時間こそ短いがスキル潰しを多様してくる敵に対しては非常に効果的ではある。
だが、その制作には高価な素材を使うこととカンスト近いまでの『ポーション制作』のスキルが無いといけないはずだ。
「テンガがつくったー」
合点がいったよ。50レベルカンストの今の俺達には作れなくても、最初からハイレベルなテンガであれば作れないこともない。
「どっせい!どっせい!潰れろ!潰れてしまえ!」
滅多糞にハンマーを振るうキクさんは障気やら汚汁やらで目も当てられないくらいに汚くなってしまっている。
だが、それだけ余裕が無いのも事実だ。
「キク!下がれ!」
狂気の霊薬の効果時間はそう長くは無い。
効果が切れる前にキクの前に割り込み、俺はマナポーションを飲み干すとチェーンフックでドラゴンヘッドに肉薄し、そこから『ムーンサルト』を決める。
――空中で身を捩りながらの『フレンジショット』と『スプレッドショット』。
空ブッパと呼ばれるテクニックで弱点部位にチェーンストックで肉薄して大打撃を与えるコンボスキルだ。
激しい銃撃が硝煙と閃光でドラゴンヘッドを包むが、ドラゴンはぎろりと俺を一瞥すると赤く瞳を輝かせた。
――ストレンジアクション『旋回毒撃』
通称、『グラインド発射』と呼ばれるストレンジアクションに弾かれ俺は地面に落ちる。
――空中では無敵となれる回避スキルが全く無い。
地面に落ちてまだ死んでいないことを確認すると毒で抜けていく力を覚え、ポーションのクールタイムが終わっていないことに気づき絶望する。
「えと、あーと、リフレッシュ!……ヒ、ヒールの方がいいかな?」
「テンガ!リフレッシュが先!ヒールはヘイトを……きゃぁ!」
指示をしていて集中力が落ちたのだろう。
デンジャーカオスキマイラの足が挟み込むようにキクを捕らえる。
――青く輝くドラゴンヘッドの瞳。
デッドアクションの合図だ。
「――え?」
「ギャァァアアアアオォォ!」
甲高い咆哮と共に、ドラゴンヘッドがキクの身体を咥えて持ち上げる。
大きく跳躍し、地面に首ごと叩きつける。
――抉れた地面の中に首を突っ込み大きく獅子の頭が咆哮を上げる。
脈動する腐肉の塊が膨れあがり、ドラゴンヘッドの首を伝わる。
もりあがった首をかけあがり地面の中へと突っ込まれた首へ到達したそれは一拍遅れて大爆発した。
障気を含んだ風が目に痛い。
――デッドアクション『咬突毒爆殺』
抉れた地面からゆるやかに首を上げたドラゴンヘッドはどこか誇らしげに俺を見下ろしていた。
地面にキクの姿は無かった。
広範囲多目標攻撃を主体とするデンジャーカオスキマイラの前衛殺しといわれるデッドアクション、その通称は――
「嘘だろおい……『中出し』されて逝っちまうとか薄い本とかそういうレベルじゃねえぞ?コレナンテエロゲーだよ」
ぞくりと背筋が凍る。
大規模戦闘におけるデスペナルティの検証はされていない。
だが、確実に死んだキクの死体が残っていないということはプロフテリアの大剣にリスポンしているはずだ。
――そう、あって欲しい。
俺は半ば願望にも似た心持ちで地面に抉れた穴を見て、力を無くしていた。
「わ、わぁ……キ、キクにゃが!キクにゃが!」
狼狽するテンガは戦力として十分とは言えない。
折れた心と身体をその場に置き、俺は貴重な時間を無駄にして呆然と見上げる。
ゆるやかに進行してくるデンジャーカオスキマイラが俺をあざ笑っているように見えた。
楽勝とほざいていた俺の作戦を全て無に返すため、デンジャーカオスキマイラが歩を進める。
押しとどめる術は無い。
どう計算したところで、まだ、第3形態を残すデンジャーカオスキマイラの進行を止める方法は、無い。
遠距離火力職の最大の欠点は十分な火力を得られないことだ。
高レベルの火力スキルを持たない俺では一人でコレを止められない。
「ろーたー……どうしよう!ろーたー!」
テンガが俺に駆け寄り揺さぶってくる。
最早、どうにもならないことを知ってるから目の端に涙を溜めてるんだろうが。
そう、どうにもならない。
大雑把なゲームバランスで作られたこのエルドラドゲートオンラインの大規模戦闘にはこの時点からプロフテリアの大剣の破壊を止める方法は無い。
「マーシー……聞こえるか」
俺は右腕の宝珠に語りかけ、それがマーシーに届いているか確認する。
「はい……これが、『パーティ会話』というものですか?」
「キクのリスポンを確認してくれ。それが終わったなら……全軍に突撃を命じろ」
――このどこまでも絶望的な戦況の中、俺の身体はそれでも勝つことを欲していた。
心も折れ、進行を止められないことも理解している。
――だが、勝つために動くことを身体も、そして頭も、心以外の全てが覚えていた。
キクの死亡、デンジャーカオスキマイラの現状と混乱させる要素の全てを受け止めきれず呆然としている俺の口はすらすらと指示を出す。
「――相手の『アターシャの剣』をいかなる犠牲を払っても必ず、折れ」
見開いた瞳にデンジャーカオスキマイラが映る。
――そう、口にして理解する。
これは、戦力ゲージ戦なのだ。
勝利条件はデンジャーカオスキマイラの撃破ではなく敵の戦力ゲージを無くすこと。
その為の『アターシャの剣』での領土戦、そのためのデンジャーエネミー。
だからこそ、最後の賭けに出る。
「デンジャーカオスキマイラがプロフテリアの大剣に到達する前に折れば、俺たちの勝ちだッ!マーシー!その場を離れて最も近い剣へ走れ!」
――何本かの自軍の剣は折れるであろう。
だが、それより早く一本でも折ることが叶えば。
「……承りました。必ずや」
俺はそれまで、少しでもデンジャーカオスキマイラの進行を留めるため銃を構える。
右手の宝珠が明滅を繰り返し、続きを告げる。
「それと、ただ今、強力な助っ人が参戦しました。戦場人員を入れ替え、間もなくそちらへと到着致します」
――地上を走る赤い竜の背に跨った深紅の騎士。
遠巻きにどこにも悪びれる風もなくその男はどこか飄々として細い目をさらに細めて俺に向けてのたまいやがった。
「やあ、ロクロータさん、手伝ってやんよー」




