通称股間なアレを鈍器で殴るとかマジ女子力ゼロ
デンジャーエネミーの脅威には二つ、ある。
まず一つはボスエネミー特有のスペックの高さ。
これだけで1パーティ、概ね6人分くらいの人員を持っていかれる。
現状のように優勢、それも何もしなくても勝てる状況であるのであればそれは取り立てて問題にはならない。
NPC中心で編成された我軍の戦力とウォーリアシュレッドに対応する味方の戦力はほぼ拮抗しており『アターシャの剣』を連続で破壊されることが無い限り、敗北することはまずありえない。
だが、デンジャーエネミーを真に警戒しなければいけない理由は別の理由があるからだ。
「FEZのモロパクリはいいけど、めんどくさいからって全ゲージ爆破とかマジやめて欲しいわ」
――『プロフテリアの剣』の完全破壊。
つまり、どれだけ劣勢であったとしても完全に敗北するという文字通り一発逆転を狙えるモンスターなのだ。
通常AIを積載したNPC相手の大規模戦は複雑な戦術が要らないかわりに大量のモブが相手となる。
それらの難易度はある程度の戦術を理解していれば今、俺が作った戦場のように『何もしなくても勝てる』状態まで状況をもっていくことが可能だ。
それは、つまり、今、俺やキクが意識しているように大規模戦闘というコンテンツを『大量のモブを狩れるレベル上げの作業の場所』にしてしまう。
そうなると、刺激も緊張感も無くなってしまう。
そうならないために、運営は『デンジャーエネミー』のコンテンツをNPC相手の大規模戦闘に加えたのだ。
俺は静かに一つ指を鳴らして分析する。
――我軍の戦力と敵戦力の比率、そしてデンジャーエネミーの対応に割ける人員と戦力。
ほんの3秒。だが、長い3秒間。
この一瞬にも敵は進軍し、状況を動かす。
だが、その3秒に見合う価値のあるジャッジを下さなければならない。
「デッテイウ。お前は西の戦線に残れ」
「え?」
「……『アターシャの剣』を三本折られたら反動ダメージで負ける。西側のキクがテンガとドンガメまで引き上げて押し切られることがあれば、最悪四本だ。とかく、説明してる暇なんざねえ」
俺はデッテイウの背から飛び降りると地面を蹴って走り出していた。
「――わかりましたっ!ご主人っ!ご武運をっ!」
西側の方が敵陣へ向けて深く自軍エリアが伸びており、リスポンした味方軍が敵の前線とぶつかるまで時間がかかることや、デッテイウまで不在にして西側まで劣勢になって際の巻き返しとそれを行えるだけのタイムリミット。
東側戦線のキクがジャッジミスで崩壊させた場合の再構築と巻き返し、中央部分へ割ける戦力とその割合、それらの戦力が移動するまでに動く戦況の想定。
――それらを一瞬で予測し、論理構築を飛ばして結論を判断させるのが『経験』だ。
西側の戦線からブレド大橋に向けて走る。
遠く、オーベン城要塞から進行するデンジャーカオスキマイラが大きく嘶いた。
鈍く、重く響く咆哮に俺は目を細め、地面を激しく蹴り飛ばし大河に飛び込む。
――大河の途中に設けられた岩場を蹴り飛ばし、河を昇る。
おそらくは、奇襲用に設けられたオブジェクト。
ブレド大橋や比較、岩場の多い上流、下流が主立った進行経路になるのに対してその途中は進軍が難しい環境に作られている。
だが、全く進軍できない状況ではなく一定以上のスキルがあれば踏破できるようになっている。
――予測されない箇所からの進撃を可能にするルートとして作られたものだ。
「全く、ちゃんとしたクロスボウ用意しとくんだった」
俺は浅瀬と岩場を飛び回りながら、ブレド大橋にチェーンフックを投擲する。
引っかかったフックを引っ張り、あわせてジャンプしてやる。
――軽業とアイテム知識の複合モーションスキル『フックジャンプ』
チェーンフックを引っかけた場所に引っ張られるように俺の身体が飛ぶ。
トラップ系インスタントダンジョン踏破で軽業とアイテム知識が復権を果たした移動スキルだ。
立体機動装置ばりに高速で移動し、俺はブレド大橋の欄干に手をかけ、軽々と飛び橋の上に降り立つ。
のろのろと進行するデンジャーカオスキマイラを前にソードとショットガンを手に小さく息を吐く。
――高レベルユニークであることには間違いはない。
「ロクロータっ!」
遅らばせながら、キクさんもやってきてくれた模様。
地面を走ってるってことは亀を戦線に置いてきたようだ。
「キクにゃーまってよー!」
キクの後ろをちょこちょこと走っているテンガの姿を見ると、東側の戦線が少し手薄になってしまったことを想像する。
だが、その判断についてとやかく言うツモリもないし、言ったところで今からどうなる訳でもない。
全ては起こってしまった後のことでそれらをこの場で論じる事ほど、愚かなことは無い。
今、この一瞬一秒が後戻りできなくなってゆく中、己というただ一つ自由なパーツでもって全てを動かす覚悟をする。
「デンジャーカオスキマイラだっ!パターンは理解してるなっ!適正人数はいねえぞ?やれるかっ?」
駆け寄ったキクが巨大なハンマーを振り回し、大地に打ち付け獰猛に笑う。
威風堂々、女の子らしさなど何処吹く風。
「デカマラでしょー?ぶっ潰してやんよー」
「やんにょ!」
実際声にして聞くと卑猥で、かつ、そんなこと臆面も無く言えるキクさんの女子力が本当にゼロ。
テンガが俺たちの前に立ち小さく胸を張ると俺はデンジャーカオスキマイラに向き合った。
「あれは?NPCは使わないの?」
「マーシーにはこういうときの指揮を執らせている。まだ戦場は動いてんだ。俺以外の言うことを聞かせられるのはアホでもマーシーしかいねえだろ」
「高レベルだから楽できると思ったんだけどねー」
「選べるものを即座に選んでいくしかねえだろ?ぶっ飛ばしてくれや」
俺たちはどこか乾いた笑みを浮かべるとデンジャーカオスキマイラと対峙した。
ぬらぬらと粘液を滴らせた何本もの蛇が全身を覆うその魔物はみるだにおぞましい。
膨れあがった黒い6本の足で地面を蹴り、黒いライオンの頭を二つ持つそれは一般的に知られる鷹と蛇とライオンを足したキマイラの姿からかけ離れた化け物である。
誰かがキャンタマ袋と陰毛の塊だと言ってたけど頑張って見ればそう見えなくもない。
デンジャーカオスキマイラは赤い瞳を俺達に向けると、黒い霧は吐き出し大きく吠えた。
応じて、俺達はそれぞれの獲物を構える。
「――さぁ、ぶっ潰してやんよ。がっとーざへぅ!」
◇◆◇◆◇◆
デンジャーカオスキマイラの大規模戦での役割というものを割愛して、大型モブとしての特徴だけを拾いあげるのであれば。
「広範囲ブレス!来るぞ!」
俺の警告に合わせてキクがデンジャーカオスキマイラから距離を取る。
追って、いくつもの蛇の頭から吐き出された毒液が放物線を描きながら広範囲にばらまかれる。
毒液は地面に当たると半球状の障気を生み出し、一瞬であたりを禍々しい色に染め上げていく。
――鈍重な広範囲攻撃を主体としたモンスターとなる。
一発逆転を狙える大型モブであると同時に、人数が確保された大規模戦闘においては複数人を相手にすることを想定したこの大型モブにはとかく、範囲攻撃が多い。
至近距離まで踏み込み、『スラッシュ』で蛇の頭を切りつけると、チェーンフックをデンジャーカオスキマイラの背中に引っかけてフックジャンプで跳び上がる。
眼下を通り過ぎるライオンの頭が牙を引き、食らいつかれた大地が激しく抉れる。
背後に飛び乗った俺はダウンスラストをその背中に刻みつけると、追って伸びてきた蛇の頭を避けて空中で身を捻ると地面に降りる。
「よっこらセクロスどっこいしょー!」
――キクが目一杯に振り上げた大槌を振り降ろす。
獅子の額に振り下ろされた強力な一撃が豪快な炸裂音を響かせ、大地を揺るがす。
ハンマー用火力スキルの『チャージスマッシュ』だ。
スキル使用時のチャージにより威力が高くなる大剣スキルの『チャージエンド』の大槌版と捉えても差し支えはしない。
細かい仕様の違いはあれど、強力な攻撃力を誇る大槌の攻撃力をさらに強力にする近接職屈指の火力スキルだ。
「そらッ!そらぁっ!はい、どっかーん!」
ばっこんばっこん金タマみたいにぶら下がる獅子の頭をハンマーで楽しそうにブン殴るキクさん。
自分のものだと思うときゅんと尻の穴がすぼまってしまうから本当に女子力ゼロ。
「かがのみてー、てんちほーのーにいかしょーりゃくー」
背後から杖を振りながらテンガが舌ったらずな呪文を詠唱する。
舞い散る燐光が呪術的な文字を虚空に印象し、淡い光を放つとそれらの文字が大地を這い、キクの足下に陣を敷く。
敷かれた陣が鳥居を描き、しゃん、と鐘の音を響かせるとキクの身体をぼんやりと光が覆った。
デンジャーカオスキマイラの蛇たちが一斉に伸び、キクを叩くがその手前で呪術文字が広がり、勢いを弱めてキクの鎧の上を滑っていく。
――シャーマン系最上位『巫女』のクラススキル『和魂』。
デバフ系スキルを多く持つシャーマン系の火力派生タイプの『巫女』は優秀なデバフを多く持つ。
シャーマンの持つデバフにサモナーの持つ召還魔法という結果、トリッキーなクラスだが火力もサポートもしなければならないというこういった状況では非常に心強い存在ではある。
「テンガって巫女だったんだ」
「残念AIなんだけど――ねっ!」
ハンマーをぶん回し、伸びた蛇の頭を潰すキクの傍らまでショットガンを乱射しながら戻り、俺はカートリッジを装填し直す。
――大人数を想定されて作られた大型モブの耐久力は並じゃあない。
弱点部位を的確に狙い、大ダメージこそたたき出しているもののそれでもダメージソースとしては微々たるものだ。
「ナイト3匹くらいで囲めりゃ楽なんだろうけどっ――なぁ」
「ナイト職3人くらいじゃどーにもならないでしょーにっ!」
繰り出される蛇の猛攻をかいくぐりながらぼやく俺にキクさんがマジレスしてくる。
俺が言っているのはFEZの召還獣としてのナイトのことで、職業としてのナイトのことではない。
強力な力を持つ召還獣に対して、それら召還獣を駆逐するための召還獣がFEZの場合ナイトと呼ばれる召還獣なのだ。
こういった強力な一手に対しては大概の場合、対抗策が設けられている。
だが、ファミルラの場合、デンジャーエネミーに対しては同じくデンジャーエネミーをぶつけるか、あるいはプレイヤー大人数で即殺してしまう以外方法が無かった。
――これが大味だと言われている理由。
大人数戦という魅力的なコンテンツなのだが今ひとつバランス調整が足りない。
スラッシュの一撃を半ばカウンター気味に蛇の頭に叩き込みながら俺は後ずさる。
気がつけばキクやテンガも後退していた。
「……やべえな。押しとどめられる気がしねえ」
「こんなことなら、デンジャーエネミーの召還素材、無理しても作っておくべきだったかしら」
最早ブレド大橋の半ばまで来ており、背後には敵が設置したウォールがそびえ立つ。
このままでは壁とモブに挟まれて挽きつぶされるのも時間の問題だ。
「キク、背後に回れ。その間に少しだけタゲを取ってくれないか?」
「え?」
「スキルをセットする。そのあとに変則的だが、俺がタゲを取る」
「大丈夫ですかい軍死様」
「エースプレイヤーを指揮するにゃー自分も空気以上のプレイヤースキルが必要なんだぜ?それっくらいはやってみせてやんよ」
俺はソードを納めると、空いた片手に店売り初期ボウガンを手にする。
それだけでキクは俺がやろうとしていることを理解したようだ。
「テンガ。あんたはフックでウォールの上に行きなさい。そこからロクロータを支援しなさい。わかる?」
「なんとなっく!」
どこまでも緊張感の無いテンガがどこか頼もしく思えてしまう。
チェーンフックで壁の上によじ登るテンガの後ろ姿を見届けるやキクはハンマーを頭上でぐるりと旋回させ、デンジャーカオスキマイラに向き直る。
「無茶はすんなよ?スキルセットが終わるまででいい」
「商売メインでも、生産素材は自分で取りに行くのはたしなみの一つなんですのんロクロータさん。心配いらないわよ」
キクはどこまでも頼もしく笑うと、ハンマーを振るいデンジャーカオスキマイラに突撃していった。
俺は手の甲の宝珠を軽く叩くとウィンドウを眼前に開き、スキルを確認する。
――これまでの戦闘の蓄積で溜まったスキルレベルが新たなモーションスキルを解放させていた。
俺はアーチャー系のスキルツリーを手早くチェックしていきそのスキルを解放する。
新たにアイコンの光ったそのスキルこそワンダラー系の必須スキル。
俺はそのスキルツリーを選択してやると次いで銃系のスキルを確認する。
特殊スキル扱いの銃スキルだが、期待していたモーションスキルの発動を満たすスキルレベルは確保されていた。
――これで、準備は整った。
カートリッジを装填して俺は手の中でボウガンとショットガンをぐるりと回し、空へ向ける。
「さぁ、その汚ぇ陰毛を一本残らずブッパしてやんよ」




