スキル解説その2キャンセル「もうだめぽ」
「スキル制の最大の利点っていうのは覚えているか?」
「はい、自由に個性を作れる、ということですよね?」
「そう、自由に作れるというのは無限の選択肢があるということになる。その無限の選択肢を楽しむのがゲームでもあるのだが、強くなる、というところに目的を絞ると、その組み合わせ方を考えなければならない」
「無目的にスキルを上げられるほど時間が無い、ということでしょうか?」
「そうだ。好き勝手にスキルを上げていたら時間がいくらあっても足りない。その方向性を定めるのが『クラス』でもあるんだが、もっと先を見据えてスキル育成を走らせていかないといけない」
「もっと、先、ですか?」
「そうだ。今まで言った話ってのはあくまで『一般人』レベルが知っていればいい話、『廃人』と呼ばれるくらいに強くなるには『一般人』と同じ考え方をしてたら、いつまでも奴らと同じ場所で足並み揃えて足踏みしてることになるからな」
人に先んじるには人と違うことをしなければならない。
それは集団の和をみだすこともしばしば。
そういった集団を利用して頭を一つ抜く方法はあるのかもしれない。
だが、それでもその集団から頭一つだけ抜けるだけで、本当に抜き去りたいと思うならば和を乱してこそ自分の欲しい物が得られる。
「与えられた時間というのは同じなんだ。一日24時間。その中で生活や仕事、学業といった割り振られた時間の他に空いた余剰の時間でゲームができる。そういった世界に居る場合、他の人と同じことをしていたら他の人と同じだけしか進めない。わかるか?」
「えと……同じ速度だと同じ時間で進むと、同じ距離しか進めない、ということですね?」
「そうだ。だから『目的地』というものを定めてやるんだ。何処に行くのも『自由』なら何処に行ったっていい。だが、ふらふらあっちこっち行っていればやがて迷うだけ迷って『目的地』がどこだったか見失う。その間に他の連中はちゃっかり『目的地』に到着してたりするんだよ」
「はぁ……」
基本的な廃人の考え方だが、赤い竜もキクもこの辺りはしっかりしている。
廃人、とは別の『効率厨』と呼ばれる人間の考え方なのだが『効率厨』を超えた先にあるのが廃人の領域なのだ。
「俺が居た別のゲーム――別の世界の話をちろっとしてやろうか。『クラス』制の話にまた戻ったりするんだが、考え方だけを中心に聞いてくれ」
「はい」
「俺が操作できる――干渉できるその世界の人間同士がアイテムを倉庫を通じて共有できたりするんだが、そういった場合、強クラスを選択した人間をいわゆる『オワコン』と呼ばれる状態まで育成して、がっつり金やアイテムを揃えられる状態にして他の人間に別のクラスを選択させるという方法がある」
「『オワコン』?」
「コンテンツオワタの略。コンテンツってのはまぁ、その世界におけるダンジョンだとか攻略対象のことなんだが、そのコンテンツを総てクリアできる、あるいは対応できる状態にしておくのがいわゆる『オワコン状態』という。まあ、本来の正しい意味はその世界が衰退して終わってしまう状態を指して『オワコン状態』って言うのが正しい使い方だけどな」
「えと、その……つまり、強クラスのレベルの高い人を育成して別の弱い人も育成するということなんですか?」
「一人で二人、三人と育成する場合、まず真っ先に強クラスを育成するってのは効率厨にとっては当たり前。廃人にとっては儀式みたいなモンだ。その間にその世界のことを知ることもできるし、余力で他の職のコンテンツも喰える。そうして、自分の個性に合った場合、その職に乗り換えていけばいいだけの話だからな」
そこまで脱線した後に、俺は本題に入る。
「以前に服の話はしたよな?覚えているか?」
「女子力の話ですよね?キクさんががっかりだったということは理解しました」
「お前さらりと酷いな。そうじゃなくて、服を決めるときにはまず、『コンセプト』から決めるって話だ」
「あ、はい」
「あれと、まんま同じ。『クラス』というカテゴリはそのまま服ではなくて、キャラクターの『コンセプト』になる」
「え?」
「服飾の場合は見せたい『コンセプト』によって服の組み合わせを考えたりするんだが、キャラクターの場合は作りたい『コンセプト』によってスキルを組み合わせるんだ」
まさか、服とスキルの話が繋がるとは思っちゃいなかったろう。
どこか底意地の悪い笑顔を返して俺は乱暴に纏めてやる。
「乱暴に纏めるとだな?『クラス』っていうのがメインとなる服、『スキル』ってのがその服を活かすためのアクセサリーだ。その『コンセプト』を活かすためにアクセサリーを選ばないといけないし、『崩し』と一緒で他との差別化を考えるなら自分だけが求められるスキルを持たなければならない」
目をしばたかせ、必死に考えるチュートリア。
一事が万事とはよく言ったものだが、一つに精通すると他の別の状況でも考え方を流用できたりする。
「でも、服を選ぶのとスキルを選ぶのじゃ全然違いますよね?服は可愛く見られればいいですけど、スキルだと冒険の状況によって変わったりもするから」
「クラス制ってのは求められる『コンセプト』が決まってるから、選択の幅が少ないんだが、逆にスキル制のように自由であれば、その『コンセプト』を自分で決めなくてはならない。その時に考えてやらなきゃいけないのが、『特化』という考え方なんだ」
「『特化』ですか?」
「冒険していれば色んな状況に遭遇する。理想的なのはその時々の状況に合わせて適切な対応を取るというのが理想なのかもしれないが、現実はその逆なんだ」
「え?状況が違えば、その状況に合わせるのが適切だと思うんですけど……違うんですか?」
「有名な台詞があってな?『レベルを上げて、物理で殴ればいい』というまあ、ネトゲ……こういった世界とは関係ないんだが、別の世界の言葉があってな。その世界は8属性の属性に応じて戦うことを求めたんだが、結論、そんなの考えたり覚えたりするくらいなら物理攻撃でぶん殴って済ませてしまおうという話だ」
「凄い乱暴な考え方ですね」
「だが、あながち間違っちゃいない。たとえばどんな敵だろうと『火力』で押し切れるスタンスなら、火力を特化してどこまでもその火力で押し切るように自分を作る。それで応じれない場合のみ、火力以外の少ない選択肢で対応してやればいい」
「対応できない状況が出てくると思うのですが」
「だが、他の状況を挽きつぶせるだけの火力という長所がある。その長所があるから、状況から必要とされる要素というのが極端に少なくなるから、結果として、その場その場の最適解を求めるより、何か一つに特化して総ての状況をその特化した特徴をいかにして活かすか、という思考の帰納的還元化……まあ、ぶっちゃけ単純化ができるんだ」
「えと、すみません、何をおっしゃってるのか実はさっぱりわからなかったりします」
惜しいな。ここで頑張ればゆるふわからゆるゆるにランクアップできたものを。
だが、こういったことを教えるのもネットゲームの醍醐味である。
相手がNPCっていうのがどこか残念ではあるのだが。
「ぶっちゃけ、考えることが少なくなるんだよ。色んな状況に出くわすたびに何が必要かだとか、どうしなければいけないだとか考えるんじゃなくて、自分の持てる最大の武器をぶつけて挽きつぶす。潰せなければ潰せるように修正する。これしか考えなくてもいいんだ。お前の頭のドリルと一緒だよ。ドリルでも礼服を着なくちゃいけない場合もあるだろうし、カジュアルにならなくちゃいけない場合もある。だけど、まあ、大概の場合どこ言っても『チューちゃんはゆるふわドリルだ』で済ませられるだろうに」
「あ!なるほど、だから魔法職は優遇職なんですね!というか、マスター私をバカにしすぎですっ!」
俺がチュートリアのドリルをびょんびょんしてるとその手を払って思いっきりむくれる。
ひとしきり嗤ってやると俺は続けた。
「そ。あいつら後ろから魔法連発してりゃ敵が蒸発してくれんだから、覚える敵のモーションも少ないし、楽だろう?その火力でも殺されるならせいぜい立ち回りを考えるくらいで済むから強いんだよ。つか、話が逸れた」
「すみません」
謝りながらも自分の理解が繋がっていている喜びを覚えたチュートリアはどこか嬉しそうだ。
「だから『クラス』と『スキル』の組み合わせを考えるときに自分の『コンセプト』を『特化』を考慮して定めてやる必要があるんだ」
「自分の『特化』ですか」
「『火力』だとか『防御』、あるいは『支援』になるのか。まあ、大概、敵との戦闘を考慮した場合、『火力』になるんだがそれを考慮した上でスキルを組み合わせていく」
俺はそこで、自分が選んだ解答について提示してやることにした。
「さて、という訳なんだが俺はぶっちゃけファミルラでソロ向きに前衛火力職でカンストして色々やってるから、色々とこの世界のデータと照合してあとはほんの少しの差異を調整しながら『ブレイバー』という『コンセプト』を定めたんだ。『ブレイバー』自体はファイター系でいうと防御系のウォリから派生する防御派生、前衛火力職という前提に防御を足したいわゆる汎用型、つまり器用貧乏な職業なんだ。地雷職、すなわち不遇職だ」
「はぁ……特化していないから、不遇職、なんですかね?」
「そ、火力としては魔法職があったりするし、防御はパラディン系がガチ。じゃあブレイバーさん何すんのーってお話になるわけですよ。わかる?」
「むー、ちょっとわかりません」
チュートリアに俺のゴールを理解しろといったところで無理がある。
一般人レベルの話を理解し、その上で職に精通し、さらにはスキルの詳細にまで精通した挙げ句、武器防具のデータまで理解しないと俺がやりたい形は見えてこないのだから。
「そこに『スキル』を足して、取り得るべき『コンセプト』を考慮すると俺はこれが『最強』になると思うんだがな」
俺はニヤニヤしながら自分の考えを披露する。
「ブレイバーのコンセプトは多分、火力職でありながら防御に派生特化することで汎用性を高めた職業だ。俺の特化方針は基本、『火力』だよ。そうすると、在る程度の防御性能を保持したまま、十分な火力を実現できる。ただ、それでも汎用性だからどこまで高めても大型モブ相手に充分な火力を期待できるかといえばそうでもないのが実情なんだ。だが、俺の目標とする獲物相手にゃ充分以上の火力を叩き出せる」
俺がどこまでも底意地の悪い笑顔を浮かべると、どこか怖じ気づいたチュートリアがおずおずと尋ねる。
「……マスターは何がしたいんですか?」
「PKさ。プレイヤーキリング。大型モブは一撃で倒す火力を得られなくても、元々火力職のファイター系列で上げていけば丁度バランスとしてはプレイヤーキャラクターを一撃で屠れるだけの火力は確保できる。そして、一撃で殺されないだけの防御力も持つことができる。あとはその一撃を入れるだけの手数を増やしていくだけの簡単作業だ。レッツ血祭り」
「やっぱり悪人思考じゃないですかっ!この殺人犯っ!」
驚くチュートリアに対し俺は溜息をついて返す。
「お前なぁ、俺ぁPKもしてきたけど、それ以上にPKもされてんだぞ?狩り場で横から殴られるのは当然だし、粘着されたりもする。そんな奴らに無抵抗示したところで次の反応があるまで延々と殺され続けるだけだ。そんな奴らを黙らせるには、俺に手を出したら痛ぇぞってことをわからせてやる必要があるだろうが」
「話し合いで解決すればいいじゃないですかっ!」
「ンなもん相手に燃料投下するだけに決まってンだろうが。NPK鯖行けよで議論終了だ。殺せる仕様なのに居る方が悪い」
「それじゃ、相手の人と一緒のクズじゃないですか」
「クズだもん。それに俺みたいなソロプレイヤーじゃ結構な死活問題になるからな。狩り場での横殴りもそうだが――やがて人が増えてくるこの仕様だってな」
第一次限界クエスト、第二次限界クエストでNVタイプに人が増えるという話だ。
――だったら当然、その中に俺と同じようなPK思考を持つ人間も混ざる。
油断していたら轢き殺されることだって無くはないだろうさ。
「そうなんですか?」
「……PKプレイヤーが精神的にクズだっては同意してやるよ。だがな?殺すってことは殺される覚悟もある連中なんだぜ?一般人プレイヤー達と精神的なタフさが違うんだ。プレイヤーキリングなんて殺す方にはデメリットの方が多くてメリットなんざ何も無い。それでもやれるのは奴らが普通の遊び方に飽きた『廃人』達だからなんだよ――そんな奴らが一緒に居るのも紛れもないゲームとしての現実なんだ」
開き直ってしまえばなんのことは無い。
PKの議論についてはスキルと関係ないので俺はさくっとそこで終わらせて次の説明をしてやる。
「話は戻るけど、スキルを育成するにあたって考えてやらなきゃいけないのは『関連スキル補正』と『クラススキル補正』を考えてやる必要がある」
「『関連スキル補正』と『クラススキル補正』?」
「剣スキルには両手剣、短剣といった『同武器カテゴリ』や片手斧、片手槍みたいな『片手カテゴリ』といったカテゴリが似通っている場合のスキルを高レベルで保持している場合、高レベルで保持しているスキルと同レベルまで成長度合いに補正がつくんだ」
「似たような物や状況だから覚えやすいって話ですか?」
「そ。だからキクの便所紙女はバーバリアンの両手槌スキルを上げて、補正で鍛冶スキルを伸ばすといったことができるんだ」
「クラススキルボーナスってのは何ですか?」
「そのクラスを選択している時に補正が得られるスキルだ。ウォーリアだったら片手剣や両手剣、片手盾や軽鎧なんかが対象になる。クレリックだって光魔法対応してんだろ?」
「はぁ」
「スキルを育成するときにはこれらを考慮してクラス選択や伸ばすべきスキルを選んでいく。まあ、はじめのうちは無難に同系統職の他スキルを選んで他クラスを選択できるようにしてやるのがベターだな。クレリック系は回復職として優秀すぎるしサモナー系やパラディン系の回復スキルじゃ回復職として回復が間に合わないことも多々あるわけだし」
「マスターは何を選ぶんですか?」
「アーチャー系のローグ。レッツ犯罪者」
「悪人じゃないですかっ!」
「PKスキルの多くはローグ系のアサシンが結構もってるからな。『インビジブル』然り、『バックスタブ』然り。火力系が全滅だけど、剣スキルで応用できる今の状態ならこっちの方が攻略には向いてるっちゃ向いてるんだ」
「攻略?エルドラドゲートの攻略ですか?」
「ああ。武器防具はウォーリア系をそのまま流用できるし、足すとしても短弓――俺の場合はボウガン――『機械弓』を盾の代わりに追加するくらいだしな。俺の完成形としてはどうしても道具知識から関連派生していく『機械知識』のスキルを伸ばしてやる必要があるからな。『急所狙い』や『狙撃』系のスキルもアーチャーならではの強みだし、近接での撃ち漏らしがあってもこれで対応できるという」
機械弓系、さりとて短弓系の機械弓カテゴリは片手武器を装備しながらでも使えるという利点がある。
両手剣は基本スキルしか使えなくなり火力としては見れなくなるがそれでもダンジョン踏破を考えるならば基礎スキルのみでトラップ対応していかなければならないウォーリアよりも汎用性が高くなる。
「でもマスター?ローグはアーチャー系ですよね?ファイター系からいきなりアーチャー系の上位職に転職できたりするんですか?」
「俺のパーペキな育成計画をナメちゃいかんぜよ――ローグの必要条件スキルは『短剣』『剣』『短弓』『長弓』『軽鎧』『潜伏』『解錠』『盗み』『道具知識』『買収』『軽業』『闇魔法』『格闘』『罠』スキルの合計値が300以上。対して俺の今のスキルは剣スキル50、軽鎧スキル50、潜伏50、道具知識43、闇魔法スキル38、軽業スキル50、格闘スキル46とウォーリアで鍛えたスキルでなんとか転職が可能という計算だ。こうしてぱちぱちとパズルみたくスキル育成を考えていくのもまた、楽しみの一つだ」
――脱出不能のデスゲームともなれば、また意味合いは変わってくるのだが。
「……凄いですね……最初から計算尽くだったんですか……」
「悪人なめんなし。悪いことをするってことは善人ぶったバカ野郎どもより賢くなくては世の中渡っていけんのですよ」
自分でも適当すぎると苦笑が零れちまう。
俺はさらさらとカウンターで書類に『ローグ』と書き込むとむっつりした親父に手渡し、ステータス画面を開いて職業欄が『ローグ』に変更されていることを確認する。
「ひゅう♪新しい職ktkr♪クラススキルも色々あるしこの瞬間って胸が躍る。ひゃっほう♪」
「ああ……私のマスターが本当に正真正銘の悪人になってしまった」
どこか落胆するチュートリア。
俺はそんなチュートリアに構わずぽちぽちと装備を弄りながら職業紹介ギルドを後にしようとする。
だが、そんな俺の気持ちのいい気分に水を差すようにそいつらはものものしく職業紹介ギルドの入り口で待ちかまえていた。
「――みつけました」
――どっかで見たことのあるNPCだった。
往来を物々しい鎧を着込んだ騎士を何人も引き連れ、職業紹介ギルドを囲みその女は大きなおっぱいを揺らして毅然と俺を見つめる。
「お久しぶりです。壮健すぎて何より。戦女神のイリアとレジアンですね?ご同道願いたいのですが」
騎士団を従えたその女性が誰だったか俺は思い出そうと必死になる。
「……えーと、どちらさん?」
隣で口をぱくぱくとさせているチュートリアがやがて震え出す。
「私の名前はマーシー・セレスティア。プロフテリア騎士団の副団長。あなたがたを殺人、強盗の容疑で捕縛しに参りました。我々にとっては恩人であるあなた方なのですが、いささかやり過ぎたようですね」
「なあチュートリア?こいつ何言ってん?つか、この人だぁれ?」
俺の理解が未だに追いつかず、チュートリアに聞いてみる。
「ま、マスターのバカっ!プロフテリア騎士団の人ですよっ!オーベン城要塞で不敬なことばっかり言っちゃったあの人です!ああ、どうしようっ!やっぱり怒ってる!怒ってるんだ!」
慌てふためくチュートリアに俺はようやく合点がいき思い出す。
「ああ、おっぱいの人か。つか、普通おっぱい挟めくらいで怒る?それよっかお前ががっとーざへぅしたことで来たんじゃねえか?」
「ま、ますたーの方ががっとーざへぅしてたじゃないですか!わ、わたしは……」
「してたよね?してたよね?はいー、チュートリアちゃんの人生終了ー♪これから楽しい囚人生活←NEW!」
そうやって冷やかす俺の背後から騎士の一人が手をかける。
「触るなよ。ぶっ殺しちまうぜ?一人ぶっ殺そうが二人ぶっ殺そうがこちとらゲームじゃ殺人犯。NPCなんざモンスターと同じでいくらぶっ殺そうが心は痛まねえよ。クラス経験値に変えてやンぜ?」
俺がそう凄んでみせるとマーシーと名乗った女騎士はどこか涼しい顔で微笑んだ。
「――プロフテリア騎士団相手に引くことを知らない勇敢さは、まさに戦女神のそれと同じですね」
マーシーの身体が俺の視界の中、淡く発光する。
――メインクエストの表示だ。
「あなたの釈明は陪審員がいくらでもお聞きします。ご同道願います」
「ふむ……」
俺は淡く発光するマーシーの姿を改めて認め、小さく頷く。
どうやら事態が動き始めたようだ。
「お約束の報酬の件についても、じっくりと話し合いたいので」
マーシーがどこか挑発するように俺を笑った。
吊り上がる唇の端を撫でて、俺は不適に笑い返してやる。
「……いいか?陪審員に釈明する機会がある。その機会を上手に使え」
「え?」
こいつにできるかどうかはわからない。
だが、俺は十分なだけの額を渡すとマーシーだとか名乗った女騎士に向かい合った。
「気が変わった。ついていってやるよ。ローグになってしょっぱなから牢獄ぶちこまれるとは思っちゃいなかったが、それもまあ、面白いってことで。もうだめぽーw」
「マスタァっ!全然面白くないですよっ!冗談じゃなくて本当に本当に正真正銘の悪人になっちゃったじゃないですかぁっ!」
スラング解説
「レベルを上げて物理で殴ればいい」
KOTY受賞某RPGの攻略スレでの返答。
二次曲線的にパラメーターが上がり、数多くの属性を持つ敵に対応するためには結果、物理攻撃が一番有効であったとのこと。
「もうだめぽ」
「もうだめぽ」とは、「もうダメだ・・・」、「オワタ」といった意味
完全に追い込まれてこれ以上どうしようも無い時に使用される。
「だめぽ」のみで使われることも多い。
WINMX使用者一斉検挙時に2chダウンロードスレにて警察がやってきた際の実況中に使われたことが発祥。




