肉便器ちゃん6歳
惨憺たるものだった。
「ふぅ、完全勝利」
俺はどこか遠くを見つめ、小さく呟いた。
その傍らにはえぐえぐと恨めしく泣く戦女神(元)が地面にボロ雑巾のようにうち捨てられていた。
「うぅ……えぐっ……ひぐっ…酷いです。あんまりです」
「そう、争いとはいつだって酷いモノなんだ。いやだね、戦争反対。ノーモア暴力」
「もう……お嫁に行けないぃぃぃ!」
元々装備していた法衣やら兜やらが地面に散乱し、全裸となった戦女神(自称)が涙ながらに俺を訴える。
「レベル1にしたあげく裸にひんむいてあんなことやこんなことまでして!私ぃ……私ぃっっっ!」
「装備は勝手に外れただけだろ。俺がやったのは全裸でオタオタしてるお前をフルボッコにして戦闘不能になって倒れたから電気按摩したくらいじゃないか」
「揉んだ!さわった!な、舐めた!」
「そりゃPKしたら死体撃ちとか日常茶飯事ですから。せっかくハイロゥさんのおかげでリアルな触感を楽しめるなら、楽しまなきゃ。でもなんつーかレベルが低くなって貧しい胸がさらに貧しくなったからあんまりなー」
どこか得意げな俺の言葉に戦女神(笑)が顔を顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「それだけじゃないもん!それだけじゃないもん!」
「ああ、尻の穴があるのか確かめたり、指を……」
「言うなぁっ!言・う・なぁぁぁぁぁっ!」
怒鳴り散らす戦女神(幼女)に遮られ、俺は賢者タイムを終えふぅと溜息をつく。
「余は、満足じゃぁ。さらなるエロスを求め、次のパイオツ山のビーチク峠に行かねばなるまいのぉ」
「変態だぁ……私のパートナーが変態だぁ……」
どこか青ざめた顔をして戦女神(全裸)が嘆く。
俺はとりあえず、一通り操作的な物を学んだので強制ログアウトが来る前にログアウトしようとするのだが一向にメニューウィンドウが開かないことに疑問を持つ。
だが、少女(戦女神)を好きにした後で気分が割とスッキリしていたことから俺は強制ログアウトが来るまでもうちょっと遊んで見る気になっていた。
「さて、行くとするか」
「ふぇ?」
一人で神殿らしき場所を出て行こうとする俺を見て、少女は疑問系の声を上げる。
出口へ向かう俺はさりとてオープニング用に出てきたNPCを気にとめる道理が無かったりする。
「え、あ?ちょっと待って!待ってくださいぃ!」
「何だよ。オープニングもう終わりだろ?なんか、契約だか願い事だかってのも終わったっぽいし。後は自由だろ?」
「そ、そうなんだけど……」
「ビバ!エルドラドゲートオンライン!今から乳揉みの冒険が始まるっ!コレ、ナンテエロッゲ~♪」
「ちょ、ちょ、ちょ待って下さいぃ!」
ふらふらと出て行こうとする俺を必死に止める少女(元女神)に引っ張られ俺はげんなりして振り返る。
「あんだよ。まだ何かあんのかよ」
「いや、だから、私も一緒に行くことになるんですよ!」
「あん?」
「説明聞いてなかったでんですよね?私は、あなたのサポートをするために遣わされた女神で……」
「いらねーよ、ウィキはさらってきたし、仕様は身体で覚えるから」
「訳がわからないです!でも、でも!この世界は危険が一杯なんですよ!」
「それが何か問題でも?」
「今この世界は一部の街を除いてモンスターが闊歩していて街から街へ移動するのにも命駆けなんですっ!」
「それが何か問題でも?」
「そんな中を一人で右も左もわからず歩き回るのは自殺行為ですよっ!」
「それが何か問題でも?」
俺は軽く跳躍してみたり、くるくる回ってみたりしてNPCを小馬鹿にしつつも操作性の確認をしていた。
どこか半ベソなNPCは俺に哀願するように見上げてくる。
もはや着れなくなった法衣をたぐりよせて半裸で見上げてくるこういう表情エロいなぁ。
「わ、私も今はレ、レベルが1ですし、ひ、一人ではきっと……」
「それが何か問題でも?」
「お、お願いです。い、一緒に連れてってくだひゃい……」
俺はその言葉でぴーんと来た。
「はっはぁ、噂は本当だったみたいだな」
「う、噂?」
「ファミルラの後半のクソアプデで人離れが激しかったら、本気出したエルドラじゃ色んなゲームのいいとこだけパクリまくったって話だ」
「え、え?」
「まさか、AIパートーナーをチュートリアルキャラクターとして配置していたって訳か」
俺は合点が言って頷く。
「えと、どういうことなんでしょうか?」
「自動プログラムで動く、NPCをパーティキャラクターのように連れて歩いてソロでも疑似パーティを組める気になれるシステムだよ。割とボッチプレイヤーが多い日本人向けのシステムで、PT必須な場所でもなんとか攻略できたりできる」
「な、何を言ってるのかさっぱりなんですけど、それって割と普及してるものなんですか?」
「今じゃな。歴史的な確証は知らんが『リネージュ』のペットあたりが走りなんだろうけど、『グラナドエスパダ』みたいにAIキャラをシステムの中枢にもっていったゲームも少なくは無いし、色んな形でパートナーキャラクターってのは普及してるはずだ。ファミルラもIRIAのAIを育てて入力機能以外の独自行動を取ることをシステムの中心に据えたゲームだったからな」
「そ、それってつまり?」
「俺にゃー要らないってことだ」
俺はそう言って面倒くさそうに少女を見下ろす。
「前回それでどれだけ煮え湯飲まされたと思ってんだよ。AIに任せて突破するダンジョンとかAI育成放っておいた俺にとっちゃリタイアマラソンの苦行以外のなんでもなかったぞ?今回は完全にプレイヤーの入力だからプレイしたのに」
俺は苦々しい思い出を思い出し、苦い顔をする。
「今回は基本ソロで行く。っつか、突き詰めるとソロ以外の何物もねえからな」
そこは基本方針でもある。
俺はそこで話を切り上げようとすると、NPCは俺の服の裾を引っ張って引き留める。
「お願いですぅ!見捨てないでっ!おんもこわいですっ!一人じゃこわいっ!せめて街までっ!街までぇぇ!」
哀願というより駄々をこねるみたいに引き留めるNPCの無様さに、これは強制チュートリアルだと察した俺は諦めて溜息をつく。
「何このギャグみてえなチュートリアル導入。俺、どっかでフラグ間違えたかな」
とりあえず、色々と聞きたいこともあったがそれはおいおいチュートリアルクエストが進めばわかるだろうと思い、俺は聞いてみる。
「おめー名前なんて呼べばいいのよ?」
「え?」
「名前だよ。おい、とか適当に呼べばいいんか?」
「な、名前ですか?わ、私はあなたのパートナーなので名前はあなたが決めるものだと……」
「ネーミングイベントもこっちから主導かよ。つか、自キャラの名前より先にってファミルラみたく嫌な気配しかしねえな」
自キャラの名前よりパートナーの名前入力ですよ?一体どうなん?
「あ、あの、私の名前は……」
どこか期待を込めた眼差しを向けてくるが、考えるのが面倒だ。
「肉便器ちゃん6歳でいいや」
「……そこはかとなく嫌な響きなんですが」
禁止ワード設定がどの程度のものなのかわからないけど、NPCに露骨に嫌な顔をされた。
俺はせっかくだから、NPCの性能を試すのにからかってみる。
「肉便器ちゃん6歳って俺の居た世界じゃ、豊穣と排泄の神様だったんだぞー、それをおまえー、なんとなく嫌とかメッチャ失礼じゃないか」
「そうなんですか?豊穣と排泄を司るってなんか、おかしくないですか?」
「お前、豊穣ってつまりあれだろー?命がたくさんってことで、子宝に恵まれるってことだろー?排泄ってつまり、食べたものをうんこするってことだから、うんこが巡り巡って新しい命になるとか、つまり豊穣。そんなんだからおかしくないだろー」
「命のサイクルを司る神様の名前なんですか……でも、なんか嫌です。侮辱されてる気がします」
「お前、本当に失礼だなー。肉便器ちゃん6歳はみんなに愛されてるんだぞー?結構がんばり屋さんで5,6人くらいのお願いを一気に引き受けたり、最後は気絶するまでがんばったりする偉い神様なのに」
「具体的にはどのようなことをされる神様なので?」
「神様だもん。聖的なこと」
俺は清々しいまでの笑顔で言ってやったのだが、NPCはお気に召さなかったようだ。
『チュートリアのにっき』さんがつにじゅうよにち
いせかいから、れじあんがきた。あたまがおかしかった。えろいことされた。
おきざりにされそうになった。まちまで、つれていってくれることになった。
ねーむをもとめたら、にくべんきちゃん6さいとつけられそうになった。
たぶん、えろいなまえだからことわった。
ちゅーとりあとよばれることになった。れじあんの、なまえはわからない。
だけど、わかることが、ある。ふくを、くれた。やさしい。
そして、ぜんらで、はねまわる、へんたいだ。