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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第一部『導入編』
32/296

謙虚に気前のいい主人公。

 ぶらぶらと街をチュートリアと歩き、どうしたものかと考える。


 「マスター、世界の平和の為に頑張りましょうね♪」


 どこか嬉しそうなチュートリアが憎らしい。


 「俺ぁ帰りたいよ」


 道ばたの石をけっ飛ばし、壁に跳ね返る。

 そんな俺の落ち込んだ様子を心配してチュートリアが覗き込んでくる。


 「マスター……?」

 「新作マックも喰いてぇし、見たいアニメの続きだってある。それよっか母ちゃんが心配だよ。あれで結構無理すっから身体壊してなけりゃいいんだが」

 「……お母様がいらっしゃるのですか?」 

「木の股から産まれてきたとでも思ってんのか?母親もいりゃ父親も居るよ。現実にも心配事はいっぱいあんだよ。それをずっとほったらかしてこんな異世界でのんびりずっとゲームなんかしてていいものか。こっちゃの世界より俺ぁ家族のことが心配だよ」


 チュートリアがどこか複雑な顔をする。


 「私も、マスターの気持ちは、理解できます」

 「あん?」

 「……私にも母がいましたから」


 どこか寂しそうな顔をするチュートリアを今度は俺が怪訝な顔で見つめる。


 「私は……レジアンを導くイリアとして選ばれましたからわがままは言えませんが、叶うことなら、母にもう一度、会いたいと思ってます」

 「木の股から産まれたんじゃねえの?」

 「マスターは失礼です!私だって普通に産まれてきて父親も母親も居ましたよ。ヤックモという小さな村です。こんな都会と違ってのどかな村でした。戦女神の祝福を受けてイリアとなってからは……エルドラドゲートで世界を学ぶために両親に別れを告げてきました」


 どこか寂しげな表情をするチュートリアが人間くせえ。


 「心配じゃねえのか?」

 「心配ですよ?ですが……魔王によって世界が滅ぼされれば両親も悲しい思いをしてしまいます。ですから、世界を救うまでは我慢してます。私は戦女神のイリアですから」


 なんか俺とは違ってよい子ちっくな思考で腹が立つ。


 「なんだかなぁ……疲れるだろ」

 「はい?」

 「俺だって母ちゃんは心配だ。だけど、心配してるのは母ちゃんのためじゃなくて心配してる自分に酔うためだ。あと飯とか洗濯とか。だから、結局ゲームの中にブチ込まれてもレベル上げやレア掘りしたりして遊んでるし。もそっと自分中心に動いていいんじゃねーの?」

 「マスターはいつだって自分中心じゃないですか」

 「そうじゃなくて、てめーだよ。見ててイライラすんだよ」


 俺の言葉にどっか戸惑うチュートリアが居た。

 俺はログアウトできない苛立ちを別の理屈に変えてチュートリアにぶつけているだけだ。

 たまたま、イライラしてて目の前にチュートリアっていう目障りなのがあったからそれに文句を零しているだけ。


 「世界の為だとか、誰かの為だとか耳障りのいい理屈並べたててよ?それに酔いたいってんなら酔えばいいさ。でもそれって自分の為だろ?そいつぁ理解できんだよ。でもよぅ?神様のイリアだからだとかそういった理由でやってるなら、やめればいい。見て見ろよ。どいつもこいつも好き勝手生きてる。なんで自分だけが訳もわからん理由にもならん理由でしたくもねえことしなくちゃなんねえんだ?何やろうが自由だろ?結果、その自由のせいでめちゃくちゃ痛い目見るとしても自分で選んだことなら我慢できるけどよぉ。訳わからん理由で痛い目みたらその理由のせいにすんだろ?そういうのって俺、見てて一番イライラすんだわ」


 支離滅裂もいいところだ。

 自分でも何を言ってるか、わかりません。


 「弱くて雑魚で戦えないってんなら何度でも負けてくりゃいいじゃねえか。命さえ取られなけりゃ何度だって戦える。それっすらできない豆腐メンタルがあっでもねーこっでもねーとか理由つけて弱音吐いてるのも見ててイラつくんだよ。負ける度胸もねえ勝つ覚悟もねえ雑魚がいっちょまえに小綺麗な理屈並べ立ててプライド保ってんのって不様じゃねえか」


 俺はそこまで吐き出して、どうにも自分が惨めに思えてきてやめた。


 「母ちゃんに会いたいってんなら、会ってくればいいじゃねえか。甘えてくりゃいいだろ。別に俺ぁ一人でもやってけるし十分楽しんでる。ログアウトできねえってのが不便だからあーだのこーだの言ってるだけで、別に困ってる訳じゃあねえ」


 どこか心細そうなチュートリアがそれでも反論する。


 「ですが、いきなり戻ってしまったら母に心配されてしまいます。イリアなのにレジアンを放って使命を果たせずにいるなんて知れたら何のために別れる決意をしたのかと」

 「それがイライラするんだよ。自分はいい子にやってるように見られたいって理由だろ?いいじゃねえかそれが理由なら理由で。世界を救うだとか魔王がどうとかなんざ、そのついででいいんだよ。疲れるっつーか、楽しくねえだろ」


 俺はそこまで言ってこれからどうしたものか考える。

 赤い竜が『狩りに行きたい、禁断症状が』とかシャブ中のようなことを言い出して夕方まではとりあえずキクも俺も好きなことをして時間を潰すことにしたが、ぶっちゃけ何もすることが無い。

 赤い竜にあわせて武器や防具の強化をしようとも思ったが、それすらもどうにも億劫になっていた。


 ――レベル50くらいまでならグランドラゴンですら無強化で倒せるのが課金特典の強みでもあるから。


 キクからはとりあえず、代理販売を頼んでいたこれまでのレアが捌けて纏まった金が入ったので強化も含めた使い道を考えていたのだが。

 ギルドを作るとなると街を作らねばならず、そのための資金も考えると手をつけるのもどうかと考える。

 俺は一つ、最高の暇つぶしを思いついた。


 「なぁ、チュートリア」

 「な、なんですか?」


 どこか怯えたようなチュートリアに俺は意地の悪い笑みでぽんとジルを渡す。


 ――軽く5mはある。


 メートルではなく、メガだ。

 端的に言えば500万だ。


 「どうせならぱっと使って来い。お前の取り分だ」

 「えと、えーと……ええっ!?」

 「そろそろ街歩きも鎧じゃあがっさいし、俺もちっくら服でも見てこようかと思ってたところだからよ?せっかくだから好きなモンでも買ってこいよ」

 「だ、だからといってこんな大金!」

 「いいじゃねえか、てめえだって無償労働してた訳じゃねえだろ?それなら、それは正当な対価だ。てめえの金をてめえで好きに使って何が悪い」

 「で、ですけど……マスターには色々と教えてもらっていますし、助けても頂いています。私は全然お役に立てていないですから報酬なんて……」

 「それがイラつくっていってんだよ。一人の人間があれ欲しいこれ欲しいもなくていい子ちゃんな訳ねえんだよ。なぁんにも欲しがらないってのは欲しがる度胸も無くて与えられた物にだけ満足する甘ったれだ。使って来い」


 適当な理由ここに極まれりだ。

 ぶっちゃけ、IRIAに大金持たせて好きに使えといったらどういう風に使うのか見てみたいというのが本音。


 ――ファミルラのIRIAは勝手に買い食いして所持金を減らしてくれやがったからな。


 チュートリアがどんな経済観念を持っているのか見てみたい。

 5mという大金は少なくはないが、それでもそうやって遊ぶには悪くない金額だ。

 ぶっちゃけるとですよ?

 性別選択もなく男キャラでプレイして服飾選んでもなんの楽しみも無いのですよ。

 自分でコーディネイトするにしても男より女の方が楽しい。

 だけど、自分でどうなるかわかるコーディネイトを見るより他人がどう考えてそうしたのかというコーデを見るのが楽しい場合もあるのだ。


 ――主に小馬鹿にするためだが。


 「いなかっぺがせっかく街を自由に歩けるんだろ?せっかくだから、楽しんでこい」


 俺は嫌らしく笑うと、チュートリアを一人にして足早に立ち去った。


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