表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第四章
251/296

アグネスに何百年も喧嘩を売り続ける種族

 要約すると、だ。

 エルフ、ドワーフや獣人といった連中の一部は七百年前に生き延びるために魔王と結託していたらしい。

 最初、人間の味方だった魔王は神々の侵攻から人々を護るためにいろんな知恵を授けたが持てあました人間はそれを亜人に向けたことで、そのやり方が気に入らなくなって離反し、その知識や力を人間に振るうようになったから『魔王』と呼ばれるようになったとか、ならないとか。

 そうして魔王になった後、亜人を助ける為にあっちゃこっちゃで大活躍する訳なんだが、それと一緒に居たのが魔王のイリアたるアターシャちゃん一行。


 「――緑の射手エリンは、その魔王のイリアの中のエルフでとかく、射撃戦を得意としたイリアだって話よ?あんだーすたん?」

 「あんだーすたん」


 球根神殿(俺命名)の中に設けられた広間で俺はキクさんに説教されていた。

 なんだろう、このいたたまれなさ。

 キクさんがまるでデキの悪い子を諭すような感じで俺に教えてくれる。


 「つか、あんたが持ってきた魔王の書にも出てきてるじゃん!なんで知らないのよ!」

 「すんません、俺、ぶっちゃけ途中から真面目に読んでませんでした」

 「読めよ!クリアすんのに大事な資料でしょうがっ!」

 「いや、言われて思い出したけど、あれでしょ?序盤からなんとなく居るキャラ立ってない存在感薄いヒロイン。ヒロインとしてついてきてはいるものの、なんか別にこれ、ヒロインとして存在してる価値なくね?っていうアレ」

 「これ、あんた楽しませるために書いたラノベじゃないんだけど?」


 言い訳してみたけど、ダメでした。

 なんか、今の俺、どこかで見たことあるなーと思ったら、わかった。

 どこか呆れた様子でため息をついているチュートリアが俺をバカにしているのを見て、これあれだ!

 これ、チューちゃんだ!俺今最高にチューちゃんしてる!

 そう思うとなんかムカムカしてきた。


 「おいチュートリア!」

 「なんですマスター」

 「なんで俺がチュートリアポジよ!これお前のポジションだろ!」

 「いや、なんとなくわかっちゃう私居るからアレなんですけど別にそんなことないですよね?私が悪くなっちゃうんですかまた」

 「いやお前が俺にきちんと教えておかないからだろ。緑のたぬきエリン、エルフで射撃が得意な魔王の天ぷらソバですって、そうすりゃ俺だって覚えられたかもしれないのに」

 「マスターはまず絶対真面目に聞きませんよね?あと、聞いたとしても覚えてませんよね?そこのところ自覚ないと思いますけど、赤い竜さんとおんなじですよ?」

 「おま、ちょ!それ本気で傷つくぞ!赤い竜と一緒とか人として終わってるだろ!お前、言っていいことと悪いことあるんだぞ!お前、自分がキクさんとおんなじですよって言われてみろ、ほら、哀しくなるだろう」


 後頭部をすぱぁんと小気味よくハタかれて、キクさんが怒る。


 「やかましいわ!あと、そこ!『あ、ほんとだ』みたいな顔すんなし!てめえら主従揃って私バカにすんのも大概にしろし!」


 キクさんが憤慨するが、俺には何が問題になっているのかさっぱりわからん。


 「つかよ?元々魔王や魔王のイリアと結託してたんだろ?それが今さら魔王のイリアに神域の扉開いてなんか問題あんの?」


 俺の素朴な疑問にロウリィが答える。


 「魔王もシアン・ブルーもそれは『新たなるレジアン』が来るまでと時限を決めていたのじゃ。シアン・ブルーは言っておった、滅びの道を辿る者に生きるべき者が追従する理は無い――魔物を使役し、世界を滅ぼさんとする魔王はやがて、異界から来た精霊に討たれるであろうと。我らはその助けとならねば、ならないと」

 「よくわっかんねえな。それまでは正義の味方で弱小部族助けて俺達来たら自分が悪の親玉になるってか?導線甘くね?」

 「――世界の悪意と、戦えと。天使がこの世界に顕現したことにも意味があろう。魔王の真意、そして、世界の異変――知らねばならぬことは数多ある。それを知りに神樹アンダインへ向かわねばならぬ」


 俺はそれでも引っかかる話に首を傾げる。


 「いや、それでもよ。獣の奏者エリンが魔王のイリアかつエルフでエルフ達がそれに従っていたことが何の問題が?」

 「ロクロータ名前間違えんのも大概にしろよ?それ怒られるからね?――『緑の射手』エリンは魔王のイリアの仲でも生い立ちが特殊なのよ。人間の奴隷で、そこを魔王の救われ魔王の奴隷になり、力を得た。その魔王を迫害した人間に対してよくは思ってないわ。エルフ達から聞いた話じゃ、人間の侵攻を受けた部族を救うのに容赦ない殺戮をするって話よ?」

 「え?それどこのシナリオ?俺聞いたことねえんだけど」

 「あんた本当に戦うことしかしてないわね。ウィンミント達からよ?えぬぴーしー……ちゃんと他人の話を聞きなさいな」


 どこか言い淀むキクさんに俺はどこか危うさを感じる。

 しかし、それ自体、俺も持っている危うさで、それが果たして正しいことか、間違っていることなのかわからない。

 ロウリィはどこか呆れたようにため息をつく。


 「しかし――噂に違わぬな。ネルベスカ帝王の前でもやらかしたと聞く。さぞ、ネルベスカの連中も肝を冷やしたであろう。エルフ共も、考えを改めざるを得なかったようじゃ」

 「何の話?」


 いよいよもって察しの悪い俺に、ロウリィが告げる。


 「――エルフは、魔王と共に墜ちるつもりであった。じゃが、幼いウィンミントを道連れにするには哀しかろう。だから、せめて儂らに託そうとしたのじゃ。我らを挑発し、そのまま返そうとしたのはそうした理由らしい。知らずとはいえ――大変なことをしてしまったな?」

 「墜ちる?なんだ、オークにやられて快楽墜ちでもするツモリ?」

 「似たようなモノ――といえば、侮辱に過ぎるが魔界の瘴気に墜ちたエルフは――ダークエルフになる。そうなれば、長くは生きれまいよ。やがて、瘴気が蝕み悪魔へと墜ちる。奴らの選択は人に隷属するより過酷ぞ」

 「ちょっと考えりゃアホな選択だってわかりそうなものだがな?反対する声がでかけりゃ自浄されそうなもんだが」

 「正しい選択とするしかない――そして、それほどまでに緑の射手エリンへの信奉が深くエルフへ根付いているのじゃ。儂らも――幾度、助けられたことか」


 どこか感慨深くため息をつくロウリィお婆ちゃん。


 「――この件については儂からは何も言えぬよ。儂らが逆の立場であれば――選択したやもしれん。事実――忘れられた竜の楽園がそのまま無くなれば、我らもまた、あの北の最果てで滅びを迎えていたのであろうからな」


 原生民族の考えることはシティボーイの俺にはよくわからん。


 「国民総動員で自殺するようなもんだぜ?正気じゃねえよ」

 「人間の社会に帰属したネルベスカの将軍のようなエルフも居る。がしかし、ありとあらゆる手を尽くし、救ってくれたのがエリンじゃ。生きるということは理屈ではなく、感情であろうな――しかし、その感情がこじれると大変なことにはなるがの?わかっておるのか?ロクロータ殿は」

 「何が?」

 「――盛大にやらかしおってからに、あとが大変じゃぞ」


 皆の視線が一様にどこか怪訝なものになるが俺にはよくわからん。


 「何がどう大変かよくわからんが別にいつものことだろ。小さなもめごとを解決する最終手段って何か知ってるか?」

 「武力行使かの?お主のやり口を見ていればそうしか思えん」

 「残念はずれ。小さな火だねは爆弾で何もかもぶっ飛ばす。そうすると跡形もなく消えて綺麗さっぱりだ」

 「残念じゃがそれは発破したお主に飛び火しておるからな?」


 ロウリィが意味深に言ってくれるが俺にはさっぱり理解できん。


 「さっぱりわからん。エルフさんも急に協力的になったし。理解おいてけぼりにするストーリーとかほんとやめて欲しいわ」

 「――神々の力を得たイリアがどれ程、強力か、知らぬ訳ではあるまい。かつて、魔王はエリンをエルフと知らずに助けた。救って欲しいのじゃよ――エリンを」

 「知らねえよ――そんなこと」

 「知らないからこそ――救われることもあるのだ」

 「俺にゃ救えねえよ――救いたきゃ、自分で救え」


 ぼりぼりと頭を掻くと宛がわれた部屋へ向かう。

 緑の壁の廊下に点された花のランプがぼんやりとした光で廊下を浮かび上がらせ、とってもファンタジー。

 部屋の前でエルフの兵隊さんが軍靴の踵を鳴らし敬礼してくれる。

 持っているのが長銃でこちらはとってもナウい。

 草で編まれた扉に黄色の花で印がつけられており、その辺りがどことなくやっぱりファンタジー。

 黄色が俺の部屋だからここでよろしい訳です。

 俺はひらひらと手を振ると部屋に入り、真っ暗な部屋の中に辟易する。

 魔法的な光が付いていると思ったがランプは光を落としており、この花ランプも電球切れたら交換しなきゃダメなのかと下らないことを考えてしまう。

 それよりか、パターンとして襲撃を予想しなくちゃならないと考えるとどうにも気が滅入ってきてエルフ共を全滅させるのも悪く無いと思い直す。

 俺は静かにストームザッパーを手にすると、霊環に手を伸ばす。


 「――ライト」


 静かに輝く光の中、浮かび上がった部屋の中に居たのはウィンミントだった。

 俺が訝しげに眉を潜めて見つめると、ウィンミントはどこか恥ずかしそうに俯き、俺を見上げてきた。

 他に潜伏してるような連中が居ないことを確認すると俺は部屋を間違えたのかと部屋を出て行こうとする。


 「あ、あの――」

 「ここだと思ったんだけど、間違えた」


 斧をマテリアライズして納め、俺は部屋を出てみるが兵隊さんが居なくなってる。

 そして、部屋の扉の花の色を見ると黄色で間違い無い。

 しかし、ファンタジー的にはこの色が黄色ではなくオレンジの可能性もあるから俺は他の部屋を見てみるがやっぱり黄色が無い。

 俺は白色の部屋のチュートリアに聞いてみる。

 白色の部屋ではチュートリアが部屋の角にある花弁の浴槽で水浴びをしている最中であった。

 水気を帯びた髪を貼り付けた白い肌がそそるが、しかし、チュートリアだ。


 「お風呂♪お風呂♪びばのんの――ひぁあっ!」

 「俺の部屋ねえんだけどどこにあるか知らない?」

 「ま、ますたー!え、えっち!見ないでくだひゃい!」

 「ぶっ殺すぞ?お前達の風呂の倫理観がさっぱりわかんねえよ――それよっか俺の部屋ねえの!知らね?」

 「黄色のお花があるところですよ!来る途中にありませんでした?早く出て行って下さい!」


 俺に物を投げつけ背を向けるチュートリアが心底腹立つ。

 人が風呂入ってる時にゃ躊躇なくタオル巻いて入ってくるくせしやがってなんで一人で全裸で入ってる時に覗くと怒るんだ?

 いや本当にこの世界の倫理観と真っ向から戦いたい。

 俺は嫌がらせでドアを力一杯閉めて壊してやるとその場を立ち去った。

 黄色の花の部屋はやっぱりウィンミントの部屋しかなく、俺は確認するためにもう一度入ってみる。

 薄暗い部屋の中、どこかぼんやりとしたウィンミントが居るだけでやっっぱりこの部屋しかねえ。


 「あ、あの――」

 「俺の部屋がねえ。つか、屋敷の時もそうだし最近俺を外で寝させるのが流行ってるの?竜舎あればそれもいいけど、デッテイウさんも本当に迷惑してるしいい加減にして欲しいんだけどよ」

 「あ、こ、ここがロクロ――ご主人様のお部屋に間違い……ありません」


 どこかたどたどしく伝えるウィンミントに俺は怪訝な瞳をぶつける。

 俺に睨まれ、恥ずかしそうに顔を俯けるウィンミントをよくよく見れば薄着であった。


 「じゃあお前の部屋が無い訳?」

 「私はエフ・マイナの長なので、そういった部屋が――あの、あったり――しま、す」


 どうにも歯切れが悪いウィンミントが首輪の鎖を弄りながらたどたどしく告げる。

 その首には円卓でつけてやった首輪がそのままにされている。


 「じゃあ、寝ていいのね?ここで寝ていいのね?いやぁ良かった良かった。本当に最近俺の部屋ねえからマジでこのまま浮浪者一直線かと思ったぜ」


 俺は草で組み上げられたベッドに入ると、なんかゴムのように柔らかいでかい花びらの毛布を引き寄せる。

 ファンタジーベッドだが、これはこれで寝心地が良く、花びらから香る薄く甘い香りが心地良い。


 「あー、なんか良い匂い。だがどっかで嗅いだ記憶があんな。便所の香りだこれ」


 バラの香りって一般的に便所の芳香剤でしか嗅いだことがねえしの。

 エルフのファンタジーベッドを堪能している俺の横に、ごそごそとウィンミントが入ってくる。

 ウィンミントは俺の胸元に這い上がると潤んだ瞳で見上げてくる。


 「あの……その、どうか、優しくして下さい」


 熱っぽい瞳といいこのエルフは一体何がしたいのか。


 「なんで優しくせなならんのよ。そういう関係じゃねえだろ」

 「いえ、それは覚悟の上です――ですけど、私が、はじめてなので……」

 「ほーん。はじめてなのね。で?それがなんか理由になんの?」

 「わ、私はご主人様の奴隷で……わかってはいるのですが……痛いと聞きます――だから、どうか――」

 「イタい?俺自分でもイタい自信あるよ?昔、苛められてたし」

 「――っ!そういう趣味――あの、今日はムリでも、覚えますから――私、てっきり、逆だとばかり――」

 「俺の趣味ガンダムやで?覚えられんの?機械やで機械」

 「き、機械――そういった……でも……し、資料にはあるので……その、が、頑張って、みます」


 どうにも話が噛み合ってない。

 俺はそろそろ寝たいのであって、お話がしたい訳じゃあない。


 「それよっか、そろそろ降りてくんね?お腹に乗られると辛いんだけど」

 「そ、そうですよね。わ、私が下になるんですよね」


 奴隷だから床の上で寝るとか、そんな話か?

 だけどウィンミントは狭いベッドの上、俺の脇にくるまる。

 いよいよもって何がしたいかよくわからん。

 俺は起き上がるといい加減寝させてくれないウィンミントに苛々する。


 「つかよ?一体こりゃ何の話だ?俺もう寝たいんだけど」

 「だ、だから、その、私は奴隷として――ね、寝る、お、お話ですよね?」


 本当にエルフって種族は何が言いたいかハッキリしねえから苛々させやがる。


 「だーかーらー!寝るんだから寝させてくれって!もー何なの?エルフって本当に何が言いたいかハッキリしねえんだよ!ハッキリ言えよ!ハッキリ!」

 「奥に出して下さい!はらま――」

 「ハッキリ言いすぎだ!」


 飛び上がり壁を駆け上り天上角に張り付くと俺は恐怖でどっと背中が冷たくなるのを感じた。

 ベッドの上、どこか潤んだ瞳で俺を見上げるウィンミントが薄着の裾を掴み、するすると上げていく。


 「は、はしたないと、思って下さっても、構いません……ですが、ご主人様の前だけです。どうか、あなたの犬として可愛がって――」

 「待て、待て、ウェイト!ウェイウェイト!シッダン!ようし、ようし、良い子だから近づくな、近づくな――近づくなって!がるるる!」


 俺は壁をゆっくりと這いながら距離を取り、にじり寄ってくるウィンミントを犬のように威嚇する。

 これじゃどっちが犬かわかんねえ。


 「私のような――幼い体は……やはり、お嫌いですか?」

 「大好物だよ!そういう問題じゃあねえ!いきなりなんでこんな展開になってんだよ!いつからネトゲじゃなくて抜きゲになってんだよ!――前に出るな!そこから先に来たらダメ!いいか!動くなよ!動くなって!」


 俺は地面に降りると四つん這いでウィンミントを威嚇する。

 いつでも入り口にダッシュできるように臨戦態勢を取り、俺は危険な幼女を警戒する。


 「――やはり、私じゃ、ダメなのですね」

 「ダメだよ!お前じゃなくてもダメだよ!それR18!アグネスがこっち来ちゃう!」

 「古い言い伝えにあります――『来いよアグネス――」

 「来るな!伝えんな!そんな下らないこと伝える前に倫理観伝えろよ!」

 「――小学生は最高だぜ』」

 「バカだろ!?何百年アグネスに喧嘩売り続けてるんだよ!」


 むしろ、今来てアグネス。

 そういや一番最初に会った頃も『酷いことするツモリでしょエロ同人みたいに』みたいな俺の世界の格言を言ってたし、伝わっていたとしてもおかしくはねえが伝えるものが間違っているのが確定的に明らか。


 「ツッコミどころ大満載でどこから突っ込めばいいかわかんねえ」

 「あの、前で――後ろは、怖いです」

 「もう黙れよ!直接的表現使わないから許されると思ってんのか!推定有罪!」


 俺が腕でバッテン作って黙らせると俺は貞操の危機を感じ必死に訴える。

 幼女相手だろうと容赦は、しない。


 「ハァァ――ハァァ――怖ぇ怖ぇ、俺の童貞センサーに引っかからないまま懐に入るとは。貴様、一体何が目的だ」

 「あ、あの……げ、幻滅されてしまったのでしょうか?」

 「エロ幼女は好物だ。但しオカズとしてだ。主食じゃねえ。俺が聞きたいのはそこじゃあ、ない。言え、貴様の何が俺の貞操を狙う。理由如何では本気でシバき回す」


 ウィンミントはどこか申し訳なさそうに俯く。


 「エフ・マイナを護る為に……奴隷ならば、抱かれなくちゃと」

 「抱っこのことだな?アグネスくるからそういうことにしとくぞ?よし、それで?」

 「わ、私はザビアスタエルフの酋長として、レジアンの庇護に居なければならないので、今一度、繋がりを強固にしなくちゃと思って」

 「政略結婚的なお話か?親父に伝えて来い、ブン殴られるぞ」

 「ですがっ!そんな繋がりすら無い私達が庇護を受けるには、私が体を差し出すくらい――」

 「じゃかあしい!俺ぁ神様でもなんでもねえぞ!見捨てる時ぁ見捨てるしそこに責任なんざ一切持たない!助かりたきゃ勝手に助かれ!できなきゃ死ね!死に散らかせ!」


 俺が吐き捨てるとウィンミントはぽろぽろと泣き出す。

 大粒の涙がほろほろと頬を伝い、床に膝をつく。


 「うぅ……うぅ……あぁぁん!」


 声を上げて泣き出すウィンミントに俺はいよいよもって苛々がホッハする。


 「なんで泣くし!意味わかんねえよ!」

 「円卓にも――あなたにも頼れなければっ――私はっ――どうすればっ!うぅぅ――あぁぁあ!」


 わんわんと泣き出すウィンミントに一体俺はどう接していいかわからなくなる。

 最初はどうにか落ち着かせようと思っていたが、俺はいきなりなことで錯乱していたに違い無い。

 不意打ちばっかりしてきたからそうだが、人間、不意に想定外のことが起きると一瞬の混乱をきたすものだ。

 問題は、その混乱の間に押し切って確殺までもっていけるかどうかで確殺までもっていけなければ駆け引きにもっていかなければならない。


 ――あやうく俺は童貞を殺されるところだった。


 「――ッ!」


 俺は力一杯拳を握ると、泣きじゃくるウィンミントに力一杯拳骨を落とした。


 「うぁぁッ!あぁぁッ!――ぎゃんッ!」


 可愛らしい悲鳴を上げるが、俺は泣きじゃくるウィンミントの前髪を掴み怒鳴りつける。


 「じゃっ――かましいわ!寝取れば護って貰えると思ってんのか?容赦無くヤリ捨ててやるよ!くっだらねえ話の読み過ぎなんじゃねえのか?今の異世界はガキなんざこさえてもヤリ捨てて逃げる男ばっかで俺も漏れなくそんなクズだぜ?犬のようにそこに四つん這いになって股ぁ開けよ、股ぁ裂けて壊れるまで遊び倒してやンよ」

 「ひぐっ――ひぐっ――」


 悪辣で獰猛な瞳に射貫かれ、ウィンミントは恐怖に身を竦める。

 そんなウィンミントを突き飛ばし、鼻を鳴らす。


 「理解したか?ガキ。誰も助けちゃくんねえ。弱さを見せればとことんしゃぶられンだよ。てめえが弱いから俺達にエルフが喰われた。要らなくなったから興味が無くなった。それだけの話だ。いよいよもって情勢がやべえからって文字通り寝返って手のひら返したところでだよ」


 本当に救いようがなく、救えない。


 「他のエルフがみんな死に散らかすのはわかった。お前達だけでも助けようと俺達に押しつけたのもわかった。で?俺達がお前達を助ける理由は?俺達にゃ種族の持つ恨みつらみなんざ知っちゃこったねえし使えるモノは使う、使えないモノは捨てる、邪魔なら殺すの三つしかねえ。オナホールを命で買う程の損得勘定ができねえ程のバカだと思ってンなら俺も相当バカにされたモンだよなええよ?それとも魅力的なヒロインがいねえからだとかっていうタワゴト本気にしたクチか?どっちにしろバカじゃねえか」


 女の為に命張るってのは確かに格好いいだろうね。

 だけど、その女、よくよく手前さんを利用してるかどうか考えるこった。

 命張るに値する女だったら賭けてやってもいいが、利用されるツモリはさらさら無い。


 「しがらみもなく生き延びたきゃ有能さを示し続けろ。それができないならしゃぶられて喰われろ。それが人の持つ自然の理だよ」


 俺は吐き捨てるとまだ泣きじゃくっているウィンミントを放り、部屋を出る。

 しかしまあ、賢いバカも居るところにゃ居るモンだ。

 俺が廊下に出るとロウリィが壁に背を預けて立っており、どこか面白そうに笑っていた。


 「――意外とウブなんじゃのう?狼狽えるお主を見られるとは思わなんだ」

 「なんだババア、喧嘩売ってんのか?」

 「英雄色を好む。どうじゃ?うちの孫娘喰ってみんか?」

 「バカ言ってんじゃねえよ。こっちの世界来てからこの方チンコも立たねえよ」


 俺が立ち去ろうとすればのこのことついて来やがる。

 俺が狼狽えたのがよほど面白かったのか、ケタケタと笑ってやがる。


 「いいではないか妾の一人や二人。上に立つ者、それくらいの器量を見せねば器の小ささを見られるぞ?」

 「世俗を離れてるワリにゃ俗な話すんだな。そいつぁ男の欲望を肯定する言い訳だろうに。お前さんの旦那もヤリチンだったのか?」

 「いいや?儂に旦那はおらんぞ。祭司で生涯独身じゃ」

 「はぁ?じゃあ、孫ってなんだよ」

 「養子の子供じゃ。落盤で死んだ親無し子じゃったが、これも帝国に殺された。身よりといえばもうこれが残した穀潰しくらいじゃ」

 「そうかい。大事にしろよ。ろくでなしにくれてやんじゃねえぞ」

 「そうさの。孫自体がろくでなしだからより酷いろくでなしを見せてやろうと思っただけじゃ。手一杯の勇気をもって迫ってみてもこうして袖にされれば少しはまともになろうて」

 「自分で面倒見ろよ。任される方もたまったモンじゃねえ」


 俺の皮肉にケタケタと笑うロウリィにいい加減辟易する。

 面倒ごとがどうのこうのとか言っていたが、こういうことか。


 「エルフは本当に訳がわからん。元ドワーフ派の俺としちゃ、こいつらの頭のネジどっか外れてんじゃねえかと思うよ」

 「儂への口説き文句としては色気がないのう。まぁ、エルフとしてもあの判断には思うところがあるのじゃろう。見てみたくなったのじゃろう――異界の精霊の力というものを」

 「比べられてんの?魔王のイリア如きと」

 「そうじゃよ。見てみねば、わかりはすまい」

 「結果見てから勝った方に賭ける賭け事って対象にされる方からすりゃ相当に失礼な話なんだがな」

 「体までベットインしたウィンミントが一人勝ちじゃの、それであれば」

 「お婆ちゃんジョークがお下品でしてよ」

 「ウェットに濡れ濡れじゃ。まだまだウ乙女じゃよ?お古なバージンじゃがの」


 本当に年を取るとたくましくなるのな。

 俺は面倒臭くなり、肩をすくめる。


 「――要するに、魔王のイリアをぶっ殺せば何も問題ねえわけだ」

 「ラヴェランドラ、カーマリィを下し、羅刹鬼ツクシロを退けた。アターシャも退いたと聞く。しかし――エリンは古き魔王のイリアぞ。アターシャやシアン・ブルーと共に魔王を支え続けたイリアじゃ。並大抵の相手では、あるまい」

 「知らねえよ。俺ぁシナリオにゃ興味ねえんだ。廃人未満の半端野郎の魔王ちゃんに仕込まれた連中がオバコン基準の廃人相手になるかよ」


 どのみち、そう、どのみちなのだ。

 今、戦うか、後で戦うかの違いしか無い。

 喰えと言われなくても、喰らいにいかなくちゃならない。


 「――墜ちたなら、地獄の底まで墜としてやる」


 吐き捨て鼻を鳴らす。

 ロウリィはそんな俺を優しい目で見つめると、呟いた。


 「エリンと同じじゃ……拒み、そうして、一人で戦い続ける。疲れるじゃろ」


 深いところにある、嫌な部分を触られたと思った。

 だが、俺は険を隠すことなく、鼻で笑った。


 「そう思うならもう風呂に入ってくんなよ。疲れが抜けやしねえ」


 ロウリィはどこか楽しげに笑う。


 「儂は入っとらんぞ?気遣ったツモリなんじゃがの?」


 ――どこまでも喰えないババアに俺は背を向けた。


 「まぁ、あとのことは儂に任せておくがよい――それくらいには、有能じゃからの?」


 ◆◇◆◇◆


 貞操の危機を感じた俺は急遽寝床を確保しなくちゃならなくなった。

 そうして、色々考えた上で俺は最も賢い選択をしたはずなんだ。

 だが、それなのにキクさんはメッチャ怒ってくる。


 「訳わかんねえよ!なんで私が一緒に寝なくちゃなんないのよ!」

 「いやキクさんだったら俺、間違いが起こらない自信絶対あるから!な!?寝させてくれよ!」

 「な?じゃねーよ!バカにすんのも大概にしろ!チューちゃんとこにでも行けばいいじゃない!」

 「チュートリアのところに言って事情説明したら絶対うるさいだろ?俺寝たいの」

 「じゃあテンガのところにでもいけ!」

 「絶対徹夜で麻雀しちゃうよ。な?見ろよ、後はキクさんしか残っちゃいない。キクさんだったら寝床にゾウリムシが入った程度の違和感しかねえから大丈夫だって。俺、野宿した時とかパンツの中によくゾウリムシ入ったし」


 俺が謙虚に我慢してあげるって言ってるのにキクさんは何故かおこなご様子。

 今にも噛みつきそうな勢いで怒鳴る。


 「ケツの穴でコロニー作られて死ね!」


 草のドアを破られ、速攻で鉄のドアを作られて鍵をかけられる。

 俺はまた宿無しに戻り、どうしたものかと途方に暮れる。

 こう、なんつーのかな。


 「――俺、絶対部屋運ねーわ。嫌がるデッテイウさんが恋しい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ