糞列車。つか、本当に汚いタイトルばっかだよ。
『ワガイカヅチニ、ヒレフセ、ソシテ、クダケチレェェッ!』
――雷光の重機関車が稲妻を爆ぜさせ蹂躙する。
一匹の蛇、というにはその異様は異質で、暴力的すぎた。
雷光のレールの上を走り、その進路上の障害を全て砕くその姿は――『暴走列車』
――最終形態、列車状態、通称『糞列車』
ウィングコマンダーは外した装甲を尾に繋げ、両手の槍を衝角とし翼の生えた一匹の蛇のような姿で高速で走り回る。
その姿から、ウンコマン列車形態として『糞列車』の蔑称で呼ばれる。
――雷光が励起する甲高い音が鳴り響き、大気が唸る轟音が流れてゆく。
音が質量となって叩きつける感触に俺は獰猛に笑う。
「チュートリアっ!轢かれないようにガードしてろっ!回復はアイテムだ!」
「は、はいっ!」
チュートリアにはガードを指示し、回復はポーションによる回復を指示。
『ヒール』による回復はヘイトをもっていってしまうことから、高額だろうとアイテムによる回復を優先させる。
「――ガチだガチだガチだガチだガチだッ!ガチガチやろうじゃねえか」
最終形態に移行したウィングコマンダーの猛攻を『ステップ』『ガード』を駆使し、受け流す。
――盾の上で弾ける火花に、視界を焼かれる。
そのギリギリの高揚に俺は高揚する。
縦横無尽にフィールドを突撃して回るウィングコマンダーを捕らえるのは容易ではない。
雷撃を地面に放ち、帯電した雷光のレールの上を剣の翼を展開して走り回る。
――『超電磁トレイン』
最早、魔法職でなければ攻撃チャンスは無いくらいに高速で走り回るウィングコマンダーはまさに近接職殺しである。
――俺の真正面から青白い雷光を纏い突進してくる。
暴風が『ステップ』で避ける俺を薙ぎ、視線だけでウィングコマンダーを追う。
――ぎゃりぎゃりと装甲が火花を上げて石畳を削り、旋回するウィングコマンダーが再び俺の背後を襲う。
真正面からの攻撃がきたと思えば、即座に旋回して背後からの攻撃に移行する。
タンカー職だろうとパターンを覚え、『ガード』が唯一防げない背後からの攻撃に対応しなければならない。
ステップで再度、回避すると俺は真正面を高速で流れるウィングコマンダーの横腹に開いた穴を真正面に置く。
――高速での突撃だけが、ウィングコマンダーの脅威ではない。
装甲に開いた穴が輝き、吐き出される雷光。
――走行中に時折放つ横撃ちの『雷撃』。
ジャストガードで防ぐ俺の盾の上で弾ける雷光を押し漕ぎ、俺は剣を伸ばしてみる。
――だが、切っ先が届くより早くウィングコマンダーは上空へ飛翔する。
それらを避けて、アタックチャンスをうかがってもすぐさま上空へとそのまま飛翔――通称『銀河鉄道』となる。
『銀河鉄道』状態から、目の前全てが青白くなる程の雷光――『超放電』俗称『大放尿』を放つ。
――視界を埋め尽くす程の雷光が降り注ぐ。
ステップで直撃を避け、舐めるように複雑な軌道を描き地面を走るいくつもの雷撃の舌を盾で防ぐ。
「――チィ!」
「マスターっ!」
ガードを誤ればごっそりとHPを奪われてしまう。
『置きポーション』と呼ばれるHP満タン状態でもポーションを飲み、常に回復できる状態を維持しておく。
そして、最終形態に移行する前に飲んだスタミナポーションでスタミナの減少を防ぎ『ステップ』の回数制限を解除しておく。
――最終形態はアイテムが切れ時が、本当のデッドラインとなる。
「わ、私も――」
「来るなッ!」
フィールド端の安全地帯に引き下がらせたチュートリアが一歩前に出るが、俺はそれを押しとどめた。
本職のタンカーではないクレリックがこの猛攻の中に突っ込めば回復が間に合わず沈んでしまう。
相性は最悪でも、軽装火力職の俺がソロでやりあうしかない。
再び地上に戻ってきたウィングコマンダーを認め、俺は覚悟を決める。
「チュートリア!ハリケーンチルド!開けッ!」
「はいっ!」
チュートリアが妖精の入った小瓶を解放する。
猛り狂った風の妖精が可愛らしい咆哮を上げ、光となって消えると竜巻が巻き起こる。
――強力な竜巻は飛行系モンスターのAIを地上限定にする。
地面に落ちたウィングコマンダーの頭部を容赦なく斬りつけ、『スラッシュ』を放つ。
――幾重にも閃く銀光が火花を散らし、スラッシュの青白い軌跡が深く、鋭くウィングコマンダーの額を斬り裂く。
弱点に当たったことを告げる鋭いエフェクトと血を後にひき、起き上がったウィングコマンダーが青白く輝く。
『――オォォォオオオッ』
――起き上がりデッドアクション『グランダッシャー』
地面にいくつもの雷光が落ち、雷光がレールを造る。
ウィングコマンダーが突進形態を取ると、文字通り全てを挽きつぶしながら突進を開始する。
――バリバリと石畳を剥ぎ、雷光の暴風となったウィングコマンダーが縦横無尽にフィールドを挽きつぶす。
何度も往復し、フィールド全体を挽きつぶすそのデッドアクションは『便所のモップがけ』と呼ばれる。
便所モップの飛沫というには凶悪すぎる雷光の粒子がまき散らされ俺の肌を焼く。
ぎりぎりのタイミングで俺は『ステップ』を繰り返し、ウィングコマンダーの突進を避ける俺は自然と笑っていた。
――スタミナの制限を解除していても、死と隣り合わせの状況。
それをねじ伏せる快感が俺をどこまでも高揚させていた。
フィールド端のチュートリアとて無事ではない。
ガードの上からごっそりとHPを持って行かれ、苦しそうに呻く。
ポーションの使用を指示しているのに、使うことを躊躇っているチュートリアに指示を出す。
「回復を躊躇するんじゃねえっ!」
「でも、マスターが使う分のポーションがっ!」
「舐めるなよっ!軽装職の神髄は――こっからだッ!」
俺は効果の切れたスタミナポーションを再度、飲むとデッドアクションを終えたウィングコマンダーと対峙した。
上空AIが制限されたウィングコマンダーが再度『超電磁トレイン』に移行する。
――俺はどこまでも獰猛に笑い、牙を剥いた。
「さぁ、試してみようじゃないか」
――超高速の縦横無尽の突撃。
近接職であれば上位スキルが無ければアタックチャンスなど全くないこのモーション。
これこそが、俺にとって最高のアタックチャンスとなる。
最初のモーションこそ、軌道を見るために回避に徹したが、2回目のそれに俺は奥義をもって応じることにする。
雷光を迸らせながら突進するウィングコマンダーを『ステップ』の無敵時間で受け流す。
稲妻のように通り過ぎるウィングコマンダーの速度は近接職の攻撃が来る前に安全圏へと逃げ切る。
――はずだった。
「――シッ」
だが、稲妻となったのは俺の方だ。
ジグザグに『ステップ』を駆使し、その速度に追いつき、追い越す。
――通称『直角キャンセル』。
『ステップ』は進行方向に90度以上ずれた『ステップ』で硬直をキャンセルできる。
連続でステップすることで走る以上に早い速度どころか、『ダッシュ』スキル並に早い移動速度を弾き出す。
だが、『直角キャンセル』には弱点が存在する。
たとえば、『ステップ』で前に進んだとしよう。
次にできる『ステップ』は『右』もしくは『左』となる。
一度横方向に硬直キャンセルしてから再び『前』に進むこととなる。
その僅かな横方向への移動が結局、移動距離を長くしてしまい『ダッシュ』スキルのような直線高速移動より時間がかかる場合がある。
――俺が、エンジェルハイロゥを購入した理由はここにある。
コントローラーやキーボード入力じゃできない微妙な方向調整を自由自在に行うことができれば、どうなるか?
「な、なんですか……その『ステップ』……ま、まるで、『稲妻』じゃ……」
「これが、『稲妻ステップ』だッ!」
――『右斜め前方』から『左斜め前方』へかっきり90度。
『稲妻ステップ』と呼ばれる幻のテクニックを自由自在に操れるようになる。
前、右、前という同じ3回の『ステップ』でも移動距離が違う。
――その速度なら、高速でひり出される『糞列車』に追いつくことができる。
『ステップ』の合間に『スラッシュ』を織り交ぜ高速移動するウィングコマンダーを斬りつける。
高速で流れていく景色を置き去りにして、俺は高速の領域へ突入する。
左右に激しく振られるGに耐え、剣を振るう軌跡すら後に残し、火花を置き去り『糞列車』に追従する銀の稲妻となる。
――二条の雷光となり、俺はウィングコマンダーと切り結ぶ。
俺を中心に旋回しようとするウィングコマンダーだが、ハイロゥにより方向調整が可能となった『稲妻ステップ』には死角は無い。
――相手の旋回半径に合わせて反対側に切り返す時に深く併せてやればいい。
がくんと首を引っ張られる加速加圧に意識を持っていかれないようにしながら俺は旋回するウィングコマンダーの腹に『スラッシュ』の閃光を叩き込む。
――これは対人戦で俺が最も欲した要素でもあった。
大型モブより小さな人間キャラクターを叩く対人戦での軽装同士の高速戦闘において、いわゆる『張り付き』をしてきた俺にとっちゃウィングコマンダーの大きさなんか目をつぶってても当たる大きさだ。
――このどこまでもアナログな調整に対応できるのがハイロゥを欲した理由。
横腹から放たれる『雷撃』を連続『ステップ』の無敵時間で飲み込み、雷撃発射口を斬りつける。
爆発し炎上する雷撃発射口を認めるや、次々と潰して回る。
――研鑽された知識と、積み上げた技術、そして、どこまでも高度な環境が作り出す神技。
己の持てる全てを持って、振るわれる不条理を覆す。
「これが……廃『神』……」
稲妻の降り注ぐオーベン城要塞の最上階。
夜空に一匹の魔獣と俺が人智を超えた戦いを繰り広げる。
繰り出される銀閃が雷光を斬り裂く。
無数の雷光が降り注ぐなか、一筋の雷光となり俺は『翼の指揮官』へと斬り込む。
――ただただ、『便所』を手に入れる為にッ!
「チュートリア!ヒールだ!」
「はいぃぃっ!」
俺は全ての雷撃発射口を潰すとチュートリアに指示を出す。
『ピアッシング』でフィールドの中央に走り込んだチュートリアが盾で『ガード』をしながら『ヒール』の詠唱に入る。
俺が奪ったヘイトを一気に持っていかれ、ウィングコマンダーのターゲットがチュートリアへ向く。
『超電磁トレイン』の猛攻を凌ぎながら、俺達はチャンスを伺う。
ごりごりとチュートリアのHPが削られ、ポーションの使用を迫られる。
『稲妻ステップ』とて無敵時間が無限にあるわけではない。
削られたHPを回復するのに、霊薬の消費は防ぐことができない。
――ユニークボスが強いと言われる理由。
それは俺たち廃人仕様にカスタマイズされた基準の強さ。
一見攻略不能に見えるが、多くの廃人達は不可能を可能にしてきた。
――それらを全て、叩き伏せ、『勝ち』上がる。
それが俺の『スタイル』。
そして、ついに機は満ちる。
『コレデオワリダァぁっ!』
――デッドアクション『超電渦突』
全身に雷土を浴び、真っ白に帯電したウィングコマンダーが槍を突き出し突進する。
放たれた雷撃はフィールド全体に及び、逃げ場など無い。
俺は『ガード』で待機するチュートリアの背後に爆炎水晶を設置する。
石畳を抉り、飛礫を飛ばし、衝撃が輪となり突進するウィングコマンダーのデッドアクションは強力を超え、文字通りの『デッドアクション』となる。
――盾職初見が迂闊に『ガード』などすれば即死する。
だが、だからこそ、攻略の糸口は通常の突進より『遅い』その速度となる。
超威力だが、僅かに速度が劣る。
それは、今までの速度で戦っていれば戸惑いを覚える。
「タイミング――今ぁっ!」
だからこそ、チュートリアが突進を『ジャストガード』で対応する。
――その瞬間だ。
「これがっ!ラストぉぉぉっ!」
俺の『スラッシュ』が爆炎水晶をぶった斬る。
チュートリアの背後で爆炎水晶が励起し、光を集め、弾け飛ぶ。
「――死に散らかしやがれぇっ!」
――広がる爆炎。
後方への『ステップ』で避けた俺はその爆炎に巻き込まれるウィングコマンダーの両腕の槍を見た。
頭、左右の槍、そして腹を巻き込んだ爆発。
――連鎖して、一気に壊れ、弾ける、『部位』
雷撃を溜め込んだ部位が爆ぜ、雷光が空に立ち上る。
――『連鎖崩壊現象』
一部のボスは破壊可能部位を一定時間以内に連鎖して破壊することでその部位に溜め込んだ雷撃や魔力を暴発させ強力なダメージを与えることができる。
激しい爆発の中、まぶしい稲光を迸らせ、ウィングコマンダーが激しい光となって砕けてゆく。
『ウ…グ…ウ―オオオオオォォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!』
――断末魔の悲鳴を上げ、爆散し光の粒子となって天へ昇ってゆく。
オーベン城要塞の『翼の指揮官』が最後の煌めきを残し、消え去る。
そこに残された赤く、赤く輝く『思考者の椅子』。
光り輝くトイレを前に俺は、その高揚を声に出して告げる。
「――勝つと、決めた。その意志を人はこう言う。『ケツ意』」
「納得……いかない……いかないよぅ……くすん」
爆炎水晶の爆発に後ろからぶっ飛ばされたぼろっぼろのチュートリアが便器に顔を突っ込んだまま呻いているが、俺はガン無視する。
「オベン城のウンコマン攻略完ッ了ッ!完ッ全ッ勝ッ利ぃぃっ!」




