空飛ぶ一本グソ。
『死セヨ』
ウィングコマンダー第二形態。
禍々しい槍を一本に合わせ、背面の翼を水平に広げる。
開いた口の中に胸から上を格納し、頭部が前に下がる。
四肢の足が鎧を纏い、雷光を吐き出し折りたたまれる。
完全変形雷撃戦闘機状態のウィングコマンダー。
――通称『青い一本グソ』状態。
大気が唸り、雷光を迸らせ、ウィングコマンダーが飛翔する。
大空から降りた翼の指揮官は文字通り一本の雷光となって降り注ぐ。
「チュートリアっ!ガードっ!理解しているなッ!」
「はいぃぃッ!」
空からヒリ出された一本グソは雷光を纏い、容赦ないタックルを繰り返す。
それを俺はステップで避け、チュートリアはヒールを待機させたガードで凌ぐ。
――傍らを通りすぎる風圧が熱い。
チュートリアの盾の上をウィングコマンダーの剣翼が薙いでゆき、激しい火花が散り、チュートリアのグリーヴが石畳を削り後ずさる。
「ぐぅぅ……私にもできるよ!できるはずっ!」
『タンカー』としての『クレリック』は受けたダメージ以上の『ヒール』を自己にかけることで耐え凌ぐ。
雷光突撃が当たった瞬間、ウィングコマンダーは上空に飛翔し、そのまま宙返りし、再度同じターゲットに急降下タックル。
チュートリアの盾の上で雷光が弾け、一瞬、変形を解いたウィングコマンダーが力任せに振るった槍がガードの上から容赦なく殴る。
遅れて発動したヒールがチュートリアの削られた体力を回復させ、変形を解き、地上に降りたウィングコマンダーに俺は攻撃を加え、チュートリアの槍が盾の隙間からウィングコマンダーの腹を突く。
「てやぁっ!」
おっかなびっくりと盾の影に隠れ、再び『ヒール』の詠唱に入るチュートリアだがそれでいい。
――強力な回復スキルは敵の敵愾心を強力に煽る。
いつまでも攻撃しても回復スキルがあればいつまでも死ぬことがなくなる。
だからこそ、敵は回復スキルを使うキャラクターを優先して狙うのだ。
「FFとか、そうだもんな」
俺の呟きを聞いてか聞かずか、アタックチャンスを作るためにタンカーを努めるチュートリアが必死の形相でウィングコマンダーの攻撃を凌いでいた。
「本当に、私で防げるのでしょうか!マスターっ!」
「大丈夫。別に俺、ソロでもイケるから」
別に、俺がヘイトを取って回避を駆使して倒してもいいのだが、IRIA育成を考えるとここで『タンカー』を覚えてもらうのがいいと思ったからだ。
「二人で雑魚乱獲をしている時にも少し教えたが、本格的な『タンカー』としてのチュートリアの運用はこれが初めてだ」
「……はいっ!」
「言っただろう?俺は『廃人』だよ。お前が潰れてもウンコマンくらい、ぶっ潰してやんよ。好き勝手やってみろ、お前のマスターはチャチじゃねえんだよ」
ラッシュの間を抜けて、俺は通常攻撃のモーションを置いて突進するウィングコマンダーに引っかける。
――僅かなアタックチャンスだからこそ、確実に決める。
操作を誤り、強力な攻撃に引っかかれば俺の方も大ダメージを負う。
嵐のような猛攻の中を縫い、確実に『スラッシュ』の銀閃を刻み、ウィングコマンダーの装甲を削る。
「わかりましたっ!……マスター、お任せ致します」
『ヒール』でひたすらヘイトを稼ぐチュートリアが落ち着くのを見計らい、俺はウィングコマンダーのモーションを見る。
――アタックチャンスの多い第一形態との最大の違い。
それは高速で飛び回り、遠距離職のロックすら外し、目視することすら難しくなることだ。
はるか上空を飛翔し、雷光を振りまく『雷光爆撃』。
俺は即座に軌道上へ逃げ、雷光の範囲から逃げる。
衝撃が何度もチュートリアの盾の上で弾け、重鎧のヘビースタンドLv1をもってしてもガード上からノックバック効果を発動させる。
――流石、ユニークボスというところか。
ガリガリと盾の上で弾ける雷光が青白い粒子となってチュートリアに降り注ぐ。
「きゃああっ!」
「大丈夫だ!防げてる!それでいいっ!」
俺はそう励ますことで、IRIA特有のバッドステータスを防止していた。
――『恐慌』。
恐怖に駆られたIRIAが錯乱して訳のわからない行動を取る。
チュートリアがガードを放棄して弓での攻撃をするようになれば、そこで俺は次の手を考える為に僅かな混乱が思考に生じる。
――ガニパリヘルの二の舞だけは避ける。
死ぬことが許されないのだ。
それくらいは慎重にならなければならない。
だが、だからといってアタックチャンスを無駄にするのだけは避けなくてはならない。
僅かな地上形態に戻る瞬間に、俺は足を重点的に攻撃し、鎧に亀裂を入れてゆく。
真正面から対峙する形になるチュートリアには腹を狙うように指示している。
足を砕き、腹を壊し、着々とダメージを蓄積させていく。
『ナギ、ハラウッ!』
――遠距離でウィングコマンダーが変形を解き、地面に降りる。
腹の口が青く輝き、雷光が収束していく。
「マスターっ!」
「来るぞッ!『雷撃砲』ッ!」
――デッドアクション『雷撃砲』。
なぎ払う形で発射された雷光のレーザーがガードするチュートリアを飲み込む。
獲物を捕らえた雷光がチュートリアに狙いを定め、固定される。
ガードの上で弾ける雷撃が青白く弾け、重鎧のチュートリアがノックバックでじりじりと後ずさる。
――俗に『ゲロビーム』と呼ばれるタイプの攻撃である。
長距離射程のレーザー攻撃には複数回の攻撃判定があり、なぎ払うように放たれたレーザーは獲物を捕らえればそれを溶かしつくすまで終わらない。
俺はチュートリアの背後でレーザーをやり過ごしながら、カルパス肉を食う。
少なくなったスタミナ最大値を回復させ、ステップ回数を元に戻す。
超高速の敵に来て貰えるのは重装系のみ。
軽装職はその超高速に追いつかなければならない。
――ならば、その速度に追いつく技術を見せなければならない。
「知ってる?『ゲロビーム』の出展て連邦VSジオンのビグザムの『メガ粒子砲』が最初なんだって」
「今その話必要ですかっ!?必要ですかっ!?」
ツッコミ入れられるってことはまだ精神的には余裕があるみたいだ。
雷撃砲をやり過ごすと廃熱の為、一瞬、ウィングコマンダーの動きが止まる。
翼が広がり、翼の間からオレンジ色の蒸気が噴き出し、ウィングコマンダーが空を仰ぐ。
その瞬間、俺とチュートリアは『ピアッシング』『ステップ』で一気に距離を詰めて獲物を繰り出す。
俺の『スラッシュ』が腹を切り払い、ステップで即座に側面に回る。
一瞬遅れたチュートリアの『ピアッシング』が同じ場所に突き刺さり、火花を散らす。
――俺はここで最後に『ステップ』の微調整を確認する。
そこに、ハイロゥだからこそできる『ステップ』の着地キャンセルの感触を確かめておく。
――それは、最終形態を相手にするには必要な技術であるからだ。
廃熱モーションから復帰したウィングコマンダーが再び変形して飛翔しようとする。
再びアタックモーションに入ろうとするが、そうなれば再びアタックチャンスを得るまで待たなければならない。
「一気に決めるッ!」
「はいっ!ホールドチェーン、使いますっ!」
チュートリアがアイテムのホールドチェーンを放ち、ウィングコマンダーを地上に引きずり降ろす。
ヘビースタンド持ちのチュートリアが投げつけた鎖がウィングコマンダーに引っかかり、ウィングコマンダーが地面に落ちる。
――万能道具ホールドチェーン。
フック付きのこのチェーンはワンダラー系の装備品と言われるくらい重宝するアイテムである。
ヘビースタンド持ちが敵に投げつければその重さで敵を引きつけることができる。
ボスモンスターにはそこまでの性能を発揮することは無いが、俺が欲したのは引きつけることではない。
――アタックチャンスとして一瞬のスタンを奪うこと。
そのワンチャンがあれば火力を叩き込める。
軽装職はそのワンチャンを見逃すことなく、火力とならなければならない。
――俺はこれがタイミングと見極め、スタミナポーションを飲む。
ヤクルトにも似た味のポーションを嚥下すると、途端に力がみなぎる。
連続ステップで背後まで回ると脚部の装甲に『スラッシュ』と通常攻撃の連打。
――斬り降ろしから、横へ剣を振り抜き、切っ先を回転させてからの斬り上げ、斬り降ろし、突き込みから、回転してのなぎ払い。
「そお――りゃっ!」
連撃からの『スラッシュ』。
幾重にも星銀の剣が翻り、激しい火花を散らす。
速度に追いつかない火花がどこまでもスローに感じる。
――火力を決めた感触にアドレナリンが高揚させ、俺は獰猛に笑った。
バリン、と響き渡る部位破壊の音を確認し、これで最終形態の準備は整ったと確信する。
――俺にあわせてウィングコマンダーがにやりと笑った。
『フハハ!フハハ!オモシロイ!……ゼンリョクデ、アイテニナロウ!』
高らかに響く哄笑。
全ての装甲をパージし、再構築。
『翼の指揮官』ウィングコマンダーがその真の姿を現す。
――ウィングコマンダー最終形態。列車状態、通称『糞列車』




