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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第三部『宵闇の天幕編』
201/296

酔った本人は楽しいかもしれないが、他人は不愉快な件について。

 僅かな時間とはいえ、色々と準備できる時間があれば必死に準備するのはネトゲプレイヤーの基本。

 閃光玉は作れるときに作るし、はちみつの採取と回復薬グレートは基本必須。

 ドワーフの里は素材に関しては色々と取りそろえてあり、弾丸やポーションといった消耗品の補充をかけるには十分だった。


 「……ほぉー、古い文献にはあったが銃器ってのはそうやって扱うモンなのだな」

 「こうした竜具を手にかけるというのも鍛冶冥利につきるわな」


 俺達が作業を始めれば次第にドワーフ達が集まり、一緒に作業を始める。

 工房の片隅に移り、あーでもねえこーでもねえとくっちゃべりながらの作業だ。

 排他的なイメージのあるドワーフとは幾分違い、俺達がやっている作業に興味を持ち一緒に作業を始める。

 弾丸作りは時間をとかく浪費する作業だからぶっちゃけ手伝ってくれるのは非常に嬉しい。

 クラウディアも自分で弾丸を作ってはいるものの手が足りず、ドワーフの手を借りている状態だった。


 ――銃器は強力だが弾丸の確保にとかく難があるのが欠点なのだ。


 「まあ、覚えてくれるというならこっちもありがたい限りなんだがぬ」

 「よくわからんが、どのみちここを出ていかねばならんのだろう。なら、外の技というのも覚えておいて損はなかろうて。実物を見るのははじめてじゃが銃というのは昔、ドワーフ達が選んだ武器とも聞くしのう」

 「本物の豆タンク運用をするなら銃器を使うのもドワーフの選択だったしな」

 「アダマスを弄れるなら、面白い物も沢山作れそうじゃて」


 今ひとつドワーフ達が何を考えているのかわからないが、特段、この遺跡を離れることには遺恨はないようだ。

 それがどうにも俺には引っかかる。

 普通、住み慣れた場所を離れるとなれば相応に名残惜しくなったり郷愁を感じたりするもんじゃないのだろうか。


 「この鉄火場を離れるのも寂しいが、それが定めとあれば仕方あるまい」

 「……そんなもんなのか?」

 「ふむ、戦女神のレジアンにとっては不思議かの?」


 ドワーフがどこか不思議そうに尋ねるので頷く。


 「普段、皆殺しとか平然とやっちゃいるが普通の連中が何考えてるかわかんないわけじゃないんだ。住んでた場所離れて別の場所に行けと言われりゃ抵抗の一つでもしたくなるんじゃねえのか?」

 「だろうの」


 ドワーフの爺いはさも当然の如く頷く。

 通路ではどこか俺を憎たらしそうに見つめる爺の娘が荷物を纏めていた。

 ユニコーンから進化してロリコーンを経た童貞から見れば食指が動きそうないいロリ娘ではある。


 「ロウリィ様がお決めになったこと、と言えばそれまでじゃろうが、昔から決まっていたことなんじゃよ。転移の遺跡を開くことが決まれば、我々はこの地を去らねばならない。古いドラゴニュート達が定め、そして、我らの祖先もそれに同意した。そうしなければ大いなる災いにより身を焼かれるからだという。まあ、今となればこうして、お前達のような連中が来て問題を次から次に持ってくるということなのだろう。帝国も動いているとなれば我々もいつまでも古代のガラクタと一緒に心中するのもアホらしいて」


 俺は訝しげに眉を潜め、尋ねる。


 「そいつは魔王のイリアも知っていることなのか?」

 「そうさな。魔王のイリアも知っていよう。だがな、儂らにとっては魔王だの神様だのはどうでもよいのだ。神は実際に気まぐれで我々を救いはしないし、魔王とて魔物を使って我々に危害を加える。危害を加えてくるのであれば戦いもすれば逃げもする。しかし、そうでなければ話くらいはする。白き賢者シアン・ブルーもまた亜人だと聞くしの」


弾丸を作りながら談笑をするドワーフはどこか楽しそうに答えた。

 外からの人間ということで普段、話せない話題で話せることも嬉しいのだろうか。


 「ザビアスタはここより暖かいのだろう?若いのはともかく儂らにはこの寒さもちと堪える。願ったり叶ったりじゃよ」


 ドワーフはそう言って俺にできあがった弾丸を放る。

 希少素材であるエネルギーセルを用いたエネルギーパックだ。

 ビームランチャーの数少ない弾丸で補充が難しい。

 難無く作れる機械知識は頼もしい限りだ。


 「しかし、ちぐはぐじゃのう」

 「あん?」


 ドワーフは俺から視線を逸らし、クラウディアとチュートリアの方を見る。

 クラウディアは慣れない手つきで弾丸を一生懸命作り、チュートリアは鎧や武器をドワーフに見てもらっている。


 「イリアなのじゃろう?お主のような男についていくには甘きに過ぎる。もっと仕込まねば戦場から置いていかれように」

 「遺跡に籠もってばっかなのによくわかんのな」

 「武具を見ればどのような戦場を走ってきたかくらいはわかろう。目を見ればどれほど苦労したかもわかろうよ」


 ドワーフはどこか面白くなさそうに呟く。


 「おまえさん、イリアを全く信用しておらんな?」

 「自分一人で戦場をどうにかできるくらいじゃないと覚悟とは呼べねーだろう?」


 ドワーフの爺はどこか難しい顔をする。


 「だが、竜神の……あの赤いのは信用しているという。あの赤いのもまた、自身のイリアを信用しておらん。ほんとうにちぐはぐじゃのう」


 深いところを突かれたが、俺は相手にすることなく弾丸を作る。

 ひとしきり――大量にこさえた弾丸をマテリアライズして納めると俺はどこかため息をついて肩をすくめた。


 「元々、ちぐはぐなんじゃねえの?レジアンっつー異世界の人間を呼んでまで魔王っつーのをどうにかしなくちゃなんねえってこと自体がよ」

 「皮肉じゃの。骨の入って無い話じゃ。味気ない冗談というのも聞いていて面白くは無いわい。これだけ人を殺すことに――目的を達するために追い求めることのできる人間が、そのちぐはぐを当たり前とするかね?」


 俺を逃がそうとしないドワーフに肩をすくめて応えてやる。

 ドワーフの爺は俺を鼻で笑うと道具を仕舞いはじめた。

 赤い竜も装備の整備が終わった頃合いで、腹を空かしてそうな顔をしてやがる。


 「そろそろ飯にしようか。レジアンも我々、ドワーフの料理ははじめてじゃろう。女衆が腕によりをかけている」

 「そんな美味しいモンなら、楽しみだ。ちなみになんて名前?」

 「ドワーフが作る鍋、だから、ド鍋じゃ」


 ド鍋。うん、ド鍋。


 「それ、俺の故郷にもあったで」


 土鍋ね。


 ◆◇◆◇◆


 ド鍋自体は不味くなりようがなかった。

 辛みのある調味料使った水炊きみたいなもので、とかくでかい鍋に沢山の具材を突っ込んで煮立てるものだ。

 見たことのないでかい獣の頭まで入っていて、深くコクのある甘みの利いた非常に美味しい鍋料理だった。

 まあ、要するにドでかい土鍋なんだろうね。

 大勢のドワーフ達に囲まれて談笑しながら鍋をつつけば下らない話にも花が咲く。

 外の世界――といっても俺にはこの世界のことなどよくわからない――の話を執拗に聞かれる中、うちの女どもが答えていた。

 赤い竜は倒したモンスターの話を聞かれており、特段お話することの無い俺のところには気を利かせたロウリィがきて色々と話していたのは覚えている。


 ――飲みニケーション、喰いニケーションとしては上手だ。


 こうして小さな種族のまとまりを強くしているのだろうかと考える。

 そんな団欒を終えてしまえば、よそ者の俺達は部屋に戻ってあとは休むだけだ。

 ドワーフさん達が寄越してくれた客間というのにはふっかふかのベッドと樽のストーブがあって、ロッキングチェアで寛ぐこともできる快適仕様。

 俺は樽ストーブの上で謎の貝をバターで焼きながら寝る前の夜食をこさえていた。

 酒は普段飲まないが、このつまみにそれは無いだろうと思い、ほんの少しだけ飲んでやろうとドワーフから買ってきたファイアーポットなる銘柄の酒を傍らに置き、謎の貝に垂らしてやる。

 バターと酒の甘い匂いが狂わしいぐらいに立ちこめ、俺は鼻歌を歌う。

 手にした箸をカチカチと鳴らし、やーらかい貝肉をつついて箸先についた煮汁を舐めてイケると確信した時だ。

 やかましいのがやってきた。


 「マスター!寝る前にちょっと!」


 ――チュートリアとクラウディアだ。


 その後ろにはどこか面倒事に巻き込まれ、辟易とした表情を隠そうとしないマノアが居た。


 「ねえ?マスターはクラウのことをどう思ってるんですか?あ、なんですかそれすごい美味しそう。私も食べていいですか?ひとつください」

 「人の部屋に入ってきていきなりなんだってんだ?それと、俺の楽しみ奪おうとすん――あ」


 さっくりと奪われた貝達は女どもの胃袋の中に消えていき、俺の手の中の箸だけが所在なげに宙を彷徨う。

 はふはふもきゅもきゅと音を立てながら貝を咀嚼する女どもはそんな俺に構うことなく指を舐めるとマシンガンのようにまくし立てる。


 「色々あって聞くことができなかったんですが、この際だから確認しちゃおうと思ったんですよ。あ、この貝おいひい。マスターはクラウのことどう思ってるのかなって。この間、雪山で遭難した時、クラウがマスターに迫ってたしマスターもまんざらじゃなさそうな雰囲気だったからこれは確認しておかないときっと大変なことになるだろうと思ったんですよ」


 なんだろう。

 俺はそんなことの為にせっかく育てた謎の貝をこいつらに奪われたのか?

 チュートリアの隣ではクラウディアが顔を赤く染め俯いた。

 だが、俺は許さない。お前も俺の貝食べたろう。


 「私たちは一応、魔王を倒さないといけないという使命があります。私もその使命については最近色々と考えることはあるんです。魔王って一体なんなのかだとか、魔王のイリアは一体何がしたいのかだとか、そもそも私たちイリアがなんで漠然と魔王を倒さなくちゃいけないなんて強く思っているのかだとか。これバターで焼いたんですか?バターで貝焼くなんて知らなかったし。でも、それはとりあえず横に置いておいてそれでも命がけの戦いをしなくちゃいけない中にあって誰が誰をどうしたとかそういった感情って色々と面倒なことになると思うんですよ。だから、この際ハッキリさせちゃおうと思ってきたんですよね」

 「つか、なんでお前そんな必死なの?」

 「ひ、必死なわけないじゃにゃいですかかか!ななな、何を言ってるんですかマスターわ!」


 急にどもりだしたチュートリアを訝しげに見上げ、俺はマノアに視線を向ける。

 謎の貝をちまちまと齧りながら味を確かめるマノアが多分、一番この状況について理解しているだろう。

 俺の視線を受けてマノアは肩をすくめる。


 「いや、みんなで寝ようという時になってですね。ぶっちゃけガールズトークが始まったわけなんスよ。それで、チュートリアもよせばいいのにクラウにその遭難した時のことを聞くもんだから、ヒートアップしてッスねぇ」

 「私は、その……気持ちに、変わりはありません」


 細く震える声で呟くクラウディアが恥ずかしさに身を捩らせ、小さくなる。

 それは寝なきゃいけない今、俺んところに夜襲かけて俺が大切に育てた謎の貝を奪っていく理由になるのだろうか?


 「それでいっそのことマスターに本当のところを聞いてみようと思ったら美味しい謎の貝があった訳なんです!」

 「なるほど、よくわからん。本当によくわからん」


 俺は新しい貝をストーブの上に置き、どうせこいつらみんな食べちゃうだろうと思って小さいド鍋を作ることにした。

 レシピはちょっとかわいげのあるオバちゃんドワーフに教えて貰ったからばっちりだ。

 なんでもゲリィの素になる謎の辛い野菜を粉にしたものを入れてあとは塩と謎肉を入れて基本のスープを作り後は適当になんでも食材を入れる。

 フロストロクラブなる謎の蟹を入れて適当に野菜をちぎって入れていくうちに女どもは勝手に部屋の奥から箱を引っ張ってきて椅子代わりにストーブの側に置いて自分たちのお椀を持ち出しやがった。


 「まあ、私はぶっちゃけ師匠の恋愛沙汰なんてどうでもいいッス。むしろ、師匠がまともな恋愛を送れるならそれはそれで見てみたい気がするッスっよ」

 「そうです!だって、マスターですよ?あ、マノア、それまだ煮えてないから。歩いた後に血が流れてないことが無いわけですし、ずっと一緒に居る私だって生傷絶えないんですよ?目に付いた片っ端から殺して回る殺人鬼が普通の恋愛とかちゃんちゃらおかしいですよ」

 「でも……私にはとても素敵な人に見えます」


 はにかみながら俯くクラウちゃん可愛いな。


 「精一杯フォローしてくれるクラウちゃんマジ天使やな。だけど、クラウ?そしてチューちゃんにマノア?なんでみんな俺の夜食食べる気満々ていうか食べていくの?おいたんお腹減ってんのやけど」

 「いいじゃないですか。マスター、私、育ち盛り。知ってます?ちょっとだけ私、胸、大きくなりました!何か飲むものないですか?」


 飲むものが揉むものに一瞬聞こえて『ねーよ』って答えそうになった。

 つか、なんで俺がお前の貧乳事情を知ってなくちゃならんのだ。


 「ッス!自分、師匠のおさんどん勉強させてもらいまッス!あざッス!あったッス。これ適当に飲んどこ?」


 マノアの野郎、勢いでなんでもごまかせると思ってやがるなこいつ。


 「あ、私も頂きます」


 さりげにクラウもマノアから酌されて飲みはじめる。

 なにこれ。おいたんそろそろ怒っていいだろうか?

 そんな俺をよそにかしましいガールズトークが始まる。


 「そもそも、クラウは何でマスターのことを?私、実はあんましマスターとクラウの出会いについて知らないんだけど、どういう経緯でまうたーはひといっひょにねうべふかにきたの?」


 口の中に物を入れたまま喋るチューちゃんはしたない。


 「えっと……私がサンダウンバレーに捕らわれているのを救ってもらったんです。街のならず者全てを相手にして戦ってくれて……捕らわれていた私を助けてくれたんです」


 頬を染めながら語るクラウディアにマノアが突っ込む。


 「順序逆じゃないッスか?街全部をたたき潰したならず者がサンダウンバレーに捕らわれてたクラウを殺そうとしてたッスよね?」

 「そ、そんなことないです!あ、あれはきっと照れ隠し的な何かだと……」


 真っ赤になって否定するクラウだが、マノアの言ってることの方が真実だ。

 なんだろう。俺はここに居ちゃいけない気がする。


 「イリアになるためにずっと不自由をしていた私を縛る理不尽の鎖を、ロクロータ様は振り払ってくださったのです。皆が……ロクロータ様を悪し様に仰りますが、私はロクロータ様をお慕いしております」


 どこか目が座ってきたクラウディアがハッキリと告げる。

 だが、チュートリアが鼻を鳴らす。


 「みんなが悪し様に言うって言うけど、本当に悪いんだもん!知ってる?ヴォルヴでは罪の無い人達を殺して回って広場に死体の山を積んだんだよ?サンダウンバレーでも多分アレでしょ?きっと皆殺しコンプリートしなくちゃって理由でクラウに襲いかかったんだと思うんだけどそこんところどーなの?」


 チュートリア恐ろしい子。なんで俺の心境までわかるし。こいつエスパーか?

 マノアは心底どうでもよさそうにちびちびとグラスを傾ける。


 「ぶっちゃけ、クラウがあのろくでなしを好きになるのはこう、真面目な人間がどこか悪いそぶりをする人間に惹かれるようなモンっつーか、自分に少し優しくしてくれた人間にコロッとなびいているだけのチョロいアレだからどーでもいいんだけど、私としちゃぶちゃけ、チュートリアがそこまで必死になる理由がわかんねえッスけどね?」

 「え?私、必死かな?そう見えたりしちゃう?」

 「だってあのろくでなしが誰とくっつこうと別に関係無いし、むしろ童貞が所帯もって大人しくなればそれはそれで色々と平穏になるんじゃないかと思うんスけど、そこんところお付きのイリアとしてどーなんスか?つか、イリア的にもしッスよ?アレに誰か好きな人とかできたときどうするッスか?」


 マノアの奴、ぶっちゃけ俺に対して師匠としての尊敬とか尊敬とか尊敬とか全くないんだろうなこいつ。

 別に尊敬されるような人格じゃないのは自覚してるけどぶっちゃけ凹むわー。


 「あのマスターが誰かを好きになる、ねぇ……」

 「正直、同じ故郷ってことで幸運の神のレジアンなんかといい案配になったりすんじゃねーかと思ってたんスけど、どっちも童貞処女のヘタレだから多分、お互い強がって無理なんじゃねーとか思っちまう訳ッスよ」

 「その、幸運のレジアンとロクロータ様の関係は一体どのような……」


 すげーかしましくなってきた。

 つか、なんでこの娘達は当事者たる俺がいるこの部屋でそんな話をするんだ?

 俺が作ったド鍋をつつきながらヒートアップしていく連中に俺はどこか苛立ちを隠せない。


 「そうかなぁ……キクさんとマスターならこじれた童貞と喪女同士でお似合いだと思うんだけどなぁ」

 「チュートリア、自分かなり上から目線ッスけど、多分、他人から見たら自分も似たようなモンっスからね?」

 「そんなことないよねぇ?クラウ」

 「それよりそのキクさんという方は一体どんな方なのですか……」


 いわゆるこれがガールズトークという奴なのか?

 俺はどうにもいたたまれなくなって謎の貝とか鍋とかを諦めて寝床に入る。

 いつもは気を遣ってくれるクラウですらなんか顔を真っ赤にして話に熱中してやがる。


 「なんなんだろね、本当に。俺、ご主人だったり師匠だったり恩人だったりするんだろ?多分。だったらもそっと俺に気をつかったり労ったりするのが本当じゃねーの?つか、ガールズトークとか俺の部屋じゃなくて自分たちの部屋でやれよ。なんで俺ンとこまできてやるし」


 毛布を頭から被り、ぶつくさと文句を垂れながら寝ようとする。

 やいのやいのと騒ぐ声が高くなり、何度か怒ってやろうかと思ったが飲み込んで寝返りをうつ。

 やかましい音が隣で鳴っていても寝られる体質の自分をこの時ほど喜んだことは無い。

 何度か寝返りをうつうちにやがてうとうとと意識が微睡んでくる。

 このまま眠れるもんだと思っていたら、急に暑苦しさを覚える。


 ――耳にぞわりとした感触を覚え、ケツの穴がすぼまる。


 「ねーマスター!起きないと耳食べちゃうぞー!はんむんむん……」

 「うるっせえな!耳元で大きな声出す――ひぁぁぁああ!なに!?なぜ?ほわい!?なんで耳食べられてるし!」


 ド鍋や謎の貝じゃ飽き足らず俺の耳まで食べようとしてんの?この子達!

 鼻にツンとくるアルコールの匂いをまき散らし、顔を真っ赤にしたチュートリアがとろんとした瞳で俺を間近で見つめる。

 両腕を俺の首に回し、酒臭い息を吐きかける。


 ――見れば顔を真っ赤にしたクラウとマノアが取っ組み合いの喧嘩を始めていた。


 「ますたーはすこし、わたしにたいしてあいじょーがたりない」


 ぐりぐりと頭をおしつけ懐くチュートリアがすっごいうざってえ。


 「懐くな!愛情がどーとかじゃねーよ!何でいきなりあいつら喧嘩して――うっわ!酒くっさ!くせえ!」


 床に転がっている酒瓶は俺が酒蒸し用に用意してた奴とちょっとだけ飲んでやろうと思ってた酒だ。

 すっからかんになった瓶の数を見ればその後に何本か足したのだろう。

 相当に酔っ払った女どもが俺の部屋で暴れ回っている。


 「クラウさんギブ!ギブギブ!あー!首が回る!回っちゃいけない方向に回るッス!それ、ダメダメっス!あ、あー!あぁぁ!!あふん……」

 「――ッカゲンにしろよ?ロクロータ様の弟子だからってちょづいてっとシバき回すぞ?」


 あれクラウさん、実は相当酒癖悪かったりします?

 気絶したマノアを放り投げたクラウディアがのしのしと歩み寄り俺に絡まるチュートリアの首根っこを捕まえる。

 どこかとろんとした瞳を座らせてチュートリアを睨むと額をくっつける。


 「私のロクロータ様に何をしてらっしゃるのでしょうか?うらやめしい」

 「なんて言ったのくらう?私のマスターに何をしようとしてたの?いやらしい」


 がちんがちんと額を打ち鳴らし、二人のアホが火花を散らす。

 美少女二人がおいたんのために争うのは別に嫌じゃないし、嬉しいことなんだと思う。

 だけど、それって別に俺が寝る時じゃなくてもいいと思うんだ。

 俺が勃起できるようになったらいつでも相手してやんのにな。


 「つか、おまえらどっかよそでやれよ!明日も早いから俺ぁ寝たいんだよ。なんで人の部屋に勝手に入ってきて――」

 「「ちょっとうるさい黙ってて」」


 俺は黙ってのそのそとベッドを出る。

 俺は釈然としないものを感じ、とりあえずその場に爆炎水晶を適当に設置して部屋を出ると竜ちゃんの部屋に行こうとする。

 後ろの方で盛大な爆発が起こり、ドワーフ達がなんぞと飛び出してくるが知ったこっちゃない。


 「何で俺が部屋出ていかにゃならんの?つか、なんか最近俺の扱い雑過ぎない?」


 俺はぶつくさと文句を垂れながら廊下を歩き、慌てふためくドワーフどもを尻目に赤い竜の部屋を訪ねる。


 「おーい竜ちゃん一緒に寝よう……」


 ノックも無しに部屋に入るとどういう訳だろう。

 全裸のシルフィリスが赤い竜に覆い被さるように押し倒し、赤い竜が珍しく困惑している。

 こりゃあ、あれか?

 そういうことだったりするん?


 「わおう」


 とりあえず俺はアメリカ人のように驚いてみせ肩をすくめるとそそくさと後ずさる。

 俺と目を合わせた二人は顔を真っ赤にして見合わせるが俺は咳払いを一つ。


 「ンん、これは失敬した。続きはWebで」

 「あっちゃん!ちがっ!」

 「ロクロータ殿!これは決して……」


 バタンと扉を閉めて気まずい雰囲気の中俺はもう諦めて外へ出る。

 他人のラッキースケベに遭遇するとすっげえ気まずいのな!

 俺に、安住の地なんてなかったんや。


 ――これまでの話を話し終えるころ、ようやく俺の相棒は大きくため息をついた。


 「で、ボクを召喚して竜車で寝ることにしたんですね。ボクもそろそろ寝ますんでご主人もゆっくりやすんでください」

 「ちょっとは構えよ!俺、お前のご主人様!」

 「そうですか、大変でしたね。明日も早いからもう寝ましょう。ボクも眠いです」


 心底どうでもよさそうに大きな欠伸をデッテイウにされて俺は少し凹んだ。

 

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