黄ばみパンツと下痢便と、ウンコマン
「ド変態っ!ド変態っ!ド変態ぃぃっ!」
「そう褒めるなって」
俺は城の中に配置されたモブを切り伏せながら後ろで喚き散らすチュートリアを小馬鹿にする。
「騎士団の偉い人ですよっ!聖王都プロフテリアの騎士団といったら世界最強!その偉い人になんてこと要求してるんですかっ!アホもここに極まれりですよっ!戻ったら不敬罪で牢獄行きなんかになったらどうするんですかっ!」
「NPCキルして逃げるに決まってんだろ?ハッハー」
尖塔の頂上へ至る螺旋階段を走り、俺は高らかに笑う。
薄暗い石材の尖塔は蝋燭の明かりで煌々と不気味に輝き、不安を煽るが俺には演出にしか見えない。
壁に叩きつけられた血の後が凄惨さを演出するが、それがどことなく我慢しきれずはじけ飛んだウンコのように見えるからオベン城って恐ろしい。
「それって多分殺すってことですよね?殺すってことですよね?」
最早、涙目になってるチュートリアを引き連れ、俺は高低差のある階段を上手に利用して城内配置のモブ、キルバミンパンツァーの斧を避ける。
黄色い炎を包んだ鎧状のモンスターは血に染まった巨大な斧を振り回す。
手すりの上に跳躍し、背後を取ると、振り向き様の振り払いを再び跳躍、頭上を飛び越え背後から切り払う。
キルバミンパンツァーが巨大な斧を振り上げ、振り向き様に振り下ろす。
俺は尖塔の螺旋階段、中央に長くつり下げられたシャンデリアの上に飛び乗り避ける。
――斧を振り下ろした先に待ちかまえていたチュートリアの槍が伸びる。
チュートリアがキルバミンパンツァーの額に『ピアッシング』で突き込み、大ダメージを取る。
斧を引き上げる時にはチュートリアが『ステップ』で後退する。
俺はシャンデリアの上から跳躍し、キルバミンパンツァーの真正面からソードによる連撃を繰り出し、ノックバックを狙う。
――そしてトドメの『スラッシュ』。
キルバミンパンツァーの腰を切り裂き、黄色い炎が吹き上がり鎧がボロボロと崩れ落ちる。
ドロップされたアイテムを拾いながら俺は呟く。
ドロップ品のネーミングが『聖水』。
「キルバミンパンツァー……キバミパンツから零れた聖水って、なんか、汚ぇよな。流石オベン城」
「次、来ますッ!ゲルジェリーベンジャミーですっ!」
中央のシャンデリアを垂れてその黄土色の粘液状のモンスターが震える。
震えた身体から飛ばされた飛沫をチュートリアが重盾で防ぎ、俺は手すりの上に跳躍、そのままシャンデリアの上に跳躍して斬りつける。
包み込むように四方から伸びた粘液を俺は後ろに『ステップ』し、シャンデリアから墜ちることで避ける。
そして、縁を掴むことで避けると再度壁を蹴って階段へ跳躍、タイミング良く手すりを蹴飛ばしシャンデリアに飛び乗り『スラッシュ』。
軽業スキルができる『特定地形アクション』――『壁蹴り』だ。
引き裂かれ、分裂したゲルジェリーベンジャミーに弓に持ち替えたチュートリアの『ダブルショット』が突き刺さる。
光となって消えたゲルジェリーベンジャミーから離れ、俺は階段へ飛び移る。
そこにはゲルジェリーベンジャミーの飛沫を防ぎ、どこか黄土色になったチュートリアが居た。
「……マスター、なんかゲルジェリーの攻撃は必死に避けてましたね?毒効果以外に何かあるんでしょうか?」
「ゲルジェリーベンジャミーってどう見てもゲリ便じゃねえか。ばっちいだろ?お前、寄るな。ゲリまみれで臭いし、ばっちい。俺も変態だけど、流石にスカトロ趣味は御免こうむるわー」
「ひ、酷いですっ!そ、そんなこと言われたらなんだかそんな風に思えてきちゃったじゃないですかっ!ま、ますたー!ふ、拭いてもらっていいですか?」
「スカトロのチュートリアルとか需要ないわー。ちょ、少し離れろこのクソまみれ」
「酷いよぉ!マスター酷いよぉ!あぁん!なんか、この液体汚く感じてきたです!」
「やだよ!ばっちい、寄るな!さわるな、あ、こら!手を俺のシャツで拭くんじゃない!くそっ、くそっ、ウンコしたくなってきた。畜生、漏れそうだっ!」
泣き出したチュートリアを蹴飛ばし、俺はそのまま階段を駆け上がる。
やがて、見えた尖塔の終わりに俺は夜風を感じた。
◇◆◇◆◇◆
そこは開けた円形のフィールドだった。
巨大な満月が霞の中でぼんやりと、だが、強烈な光を放ち俺たちを照らす。
塔の尖塔としては広すぎる円形のフィールドには激しく争った亀裂が走り、どこか生産な印象を覚える。
生温い夜風と、優しく、強すぎる月の光がどこか不気味で。
隣でチュートリアが静かに震え、槍の穂先を下げた。
満月が静かに昇り、頭上に昇る。
遠く、遠く、風を叩く音が聞こえる。
月の中から生まれた小さな影がやがて、大きくなる。
「あれが、オーベン城要塞に巣喰う大空の悪魔――」
月の光の中、影は徐々に姿を大きくし、その全貌を俺たちに晒す。
神々しく、不気味に。
そして、どこまでも恐ろしく。
四対の剣の翼を持つ獅子。
その首から先は禍々しい鎧となって。
巨大な槍を両腕とし。
腹に巨大な口を持つ。
――雷光を従え、それは久方ぶりに尖塔に立つ挑戦者を見下ろしていた。
「翼の指揮官――『ウィングコマンダー』っ!」
悲壮なチュートリアの叫びに、俺は盾を掲げ、静かに燃えた。
「……オーベン城要塞、最強にして、ユニークボス。ウィングコマンダー……」
ウィングコマンダーが静かに俺を見下ろし、槍を向ける。
『――ヒサシク、イドムモノハナカッタ。ナニヨウダ』
「お前が持つ『思考者の椅子』を奪いに来たんだよ」
ウィングコマンダーはどこか楽しげに笑い、槍を交差させて振るう。
稲光が落ち、フィールドに突き刺さり、岩盤が飛ぶ。
『――カカッ!ゼイジャクナイカイノユウシャガッ!ミノホドヲシレッ!』
『思考者の箱』――ウォシュレットトイレを求め、今、熾烈な戦いが幕を開ける。
下で戦う騎士達の運命、そして、俺達の便意をかけて。
「――ぶっ殺してやんよッ!オベン城の『ウンコマン』ッ!」




