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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第三部『宵闇の天幕編』
175/296

ジーナ、涙の対面。そして彼はガンダムF91になる。


 エルドラドゲートに入るとそこは石材の壁に覆われた廊下だった。

 壁に叩きつけられた血の跡が黒ずんでこびりつき、風化している。

 乾いたクソの据えた臭いが充満しており、とても居心地のいい場所ではない。

 長く暗闇に沈んだ廊下が俺達を誘っている。

 ジーナが喉を鳴らし、静かに息を吐く。


 「――ちつにくちゃん怖いの?」

 「悪いかよ――」

 「今ちょっと可愛いと思った。お前、女だったんだな」

 「――あんたの悪態が心強く感じるよ。何度殺しても死にそうにないこの腐ったゾンビ野郎」


 意味も無く遊底を引き、薬室に弾丸を装填するジーナがそれでも悪態を返してくれる。

 俺はインベントリから出した機関砲を両手に背後のクラウディアを振り向く。

 いまだ引きずってはいるが両手に持ったショットガンの銃口は震えていない。


 「赤ゲート――討伐系エルドラドゲートは単純だ。出てくる敵を次から次にぶっ殺していけばいい。戦闘エリアとなる広間に次から次へとポップしてくる雑魚を一定数処理すればボスが沸く。雑魚戦闘の合間に適宜、弾薬の補充やメンテを行え。暇が無けりゃ武器を入れ替えろ」


 純粋に戦闘を楽しむ人間向けに作られた赤ゲートダンジョンは至極、単純だ。

 だが、単純故に純粋に難易度が上がっている。


 「ねえ――教えてよ」

 「何をだ?」

 「――あんた、本当に一体、何者なの?」

 「知ったってどうにもなんねえだろ。俺はこの仕事が終わればまたどっか行くし――お前さんとは二度と会うこともない」

 「だけど――これから、うん、ひょっとしたら、死ぬかもしれないんだよ?」

 「死なないね――残念なことに」


 どこか不安げなジーナに俺は機関砲を振って答える。


 「――死ねるなら死んでしまいたいよ、いっそ――だけど、それを許してくれちゃいないんだ。この世界も――俺もな」


 死ぬという感覚は無い。

 そういう意味では死ぬことを本気で恐れたことは、無い。

 だけど――それより、『自分』が居なくなってしまうという感覚が怖かった。

 NPC達に囲まれて、笑っている自分を想像するとゾッとした。


 ――それを『死』というのなら、怖い。


 いっそ、心がすり切れる前に死んでしまえば楽になれるんだろう。

 残念だが、そういった弱いことができる時期は現実で過ごしてしまった。


 「――この戦いが終わったら、ビムシルドに残る気、ない?」


 どこか不安そうに尋ねるジーナ。

 もじもじとする様は可愛く、NPCじゃなきゃぐらっとしそうだ。


 「あんたとならさ?……きっと、うまくやっていけると思うんだ。いや!その――クラウとの用事が終わってでもいいんだ……うん、きっと、私、あんたとなら上手くやっていけるから……ダメ?かな……」


 俺は鼻で笑ってやる。


 「――それは『死亡フラグ』だ」

 「しぼーふらぐ?」

 「戦場に出る前には賭け事の支払いを済ませる。約束はしない。サラダはきちんと食べる。鉄則だ」

 「え、なにそれ?ジンクスかなんか?サラダ?」

 「――気にしない方が丁度いいってこった」

 「なにそれ?――ひょっとして……はぐらかされた?」


 廊下を抜ければそこは朽ちたアリーナになっていた。

 赤茶色に焼けた土の上にはいくつもの頭蓋骨が並んでいる。

 空は赤紫色の厚い雲に覆われ、稲光にくすむ。

 紫色の障気が立ちこめ、無人の観客席には朽ちた槍や矢がささり、乾いた血で彩られている。


 「――ようこそ『亡霊の巣窟』へ」


 無人の貴賓席からねばつく声が響く。


 「生きるということは素晴らしい――足掻き、悶え、抗い――朽ちる」


 ――青白い炎が燭台に点り、柱に括り付けられた髑髏の瞳が輝く。


 「末期の輝きは我らに叶わぬ憧憬――なればこそ、彼らに思い出させて欲しい」


 障気の中で、土が盛り上がる。


 ――突き上げられた腕が大地を掴み、崩れる。


 削ぎ落ちた肉を引きずりながらそれらは姿を現す。


 ――フレッシュゴーレム。


 人を継ぎ接ぎし、歪な姿に変えた不死の兵隊。


 「――末期の灯火を、断末魔の悲鳴を――行き場の無い慟哭を!」


 フレッシュゴーレムの間を青白い霞が泣き叫ぶ女をかたどり漂う――バンシーガイストだ。


 ――初期配置が終わり、声が告げる。


 「最後の最後まで――生きてみせよ」


 俺は肩をすくめて機関銃を構え、唾を吐く。


 「……周回するたびにこれ聞くの?次回から設定オフで頼みたいわ」


 ◆◇◆◇◆


 ――圧倒的な量の薬莢が宙を舞う。


 吐き出された弾丸が耳を焼く咆哮を上げ、目を潰す閃光を上げる。

 痺れる腕の中で暴れる対の機関砲が弾丸の嵐を作り、薬莢の雨を降らせる。

 立ちこめる腐肉の匂いを硝煙の匂いが覆い、爆ぜた肉片が宙に舞う。

 壮大な導入とは引き替えに、難易度はイージーモード。

 次から次に現れるバンシーガイストとフレッシュゴーレムをひたすら撃ち殺す単純作業。

 それもそのはず――


 「相変わらず――数が多いよ!」

 「そうだね」


 ――シルバーチップのアンデット特攻弾をぶっ放し続けているからである。


 フレッシュゴーレムは近接では打撃が難しい高い位置に弱点である頭部を置いているが移動速度は遅く、攻撃範囲内に入らなければ簡単に迎撃できる。

 間に入るバンシーガイストは放っておけばMP減少とスタミナ減少、視界を狭めるデバフがかかる『亡者の叫び』を使ってくるが基本、HP自体は低い。

 フレッシュゴーレムに近づかれる前に的確に狙ってやれば簡単に落ちてくれる。

 まさに――ガンナーの運用チュートリアルとも言える編成だ。

 過剰なまでのレベリングを終え、適正な装備を持ち、きちんとした戦術で応じればクリアができない訳がない。

 機関砲による『デスペラード』で強引にフレッシュゴーレムどもをバラバラの肉片に変えてやると一緒に巻き込まれたバンシーガイストも沈む。


 ――吐き出しきった弾倉に新しいベルトを差し込んでやる。


 「――そろそろ来るよ!」


 ジーナがマシンガンの弾倉を交換し、俺の側まで『バク転』で寄る。

 バックステップでクラウディアも寄り、ショットガンの空ケージを吐き出す。

 真正面のゲートが開き――そこから巨大な鎧が現れた。

 異常に巨大な左腕に円形の鋸を盾のように構え、右腕が巨大な蛇となっている。

 黒い炎のように影が吹き上がり、鎧の隙間から零れている――


 「――あれが私が倒せなかったヴァンパイア――『アルタタの騎士』だ!」

 「初見だが――やってやれない相手じゃない」


 貴婦人や貴族然として灰色にしてコウモリ置けばヴァンパイアというような簡単なヴァンパイアではない。

 染み出した影から生まれた――ゾンバットを取り巻きとして静かに歩を進めてくる。

 ゾンバットに集中していれば本体に与えた攻撃が回復され、ゾンバットを放っておけばこちらが削られる。


 ――ボスらしい、複合的な組み合わせだ。


 「――クラウ、取り巻きのゾンバットの駆逐を頼む。ちつにくちゃんと俺はあれに火力を集中させる。チェーンソーのブーメランにだけ気をつけろよ?」

 「「はいぇす了解!」」


 それだけ告げて俺は機関砲を唸らせ駆け出す。

 俺を追い越し肉薄したジーナにゾンバットの群れが列をなして覆い被さる。


 ――そのゾンバットの群れの横からクラウがショットガンを抱え飛び込む。


 『フレンジー』『スプレッド』の『ブッパ』でゾンバットの群れを弾丸の壁で押しつぶすと身を低くしたジーナがアルタタの騎士へ肉薄する。

 射程を詰め、有効射程で頭部へと射撃を集中させる。

 だが、有効な打撃が入った感触が無い。

 ホーンヘルムに守られた頭部から零れる影が炎となりジーナへ迫るがステップで避け、弾丸を撃ち返す。

 そのどれもが有効打にはならない。


 ――朽ちてなお固さを失わない鎧の表面で弾けた弾丸が火花を上げる。


 俺は突き出た腕の肉の部分に射撃を集中させる。

 血しぶきが爆ぜ、鎧より効果的な打撃を――エフェクトで確認する。

 アルタタの騎士が後方に跳躍し、俺達から距離を取ると再びゾンバットを召還し――左腕を大きく振るう。


 ――伸びた腕がジーナをなぎ払い、振り抜かれた腕が鋸を水平に投げる。


 空気を切り裂く甲高い音を立てて放られたチェーンソーを俺とクラウウディアは跳躍し――


 ――鋸の軌道が変わり、俺達めがけて上昇する。


 そこからさら引きつけて――『ムーンサルト』で避ける。

 ほぼ同時にモーションに入った『ムーンサルト』で中で翻り、交錯した俺とクラウディアはそれぞれ――機関砲とバズーカを同時に発射した。


 アルタタの騎士の上で爆ぜた爆炎と弾丸が胸部の鎧を破壊する。

 剥離した胸当ての中には充血した瞳がらんらんと輝いており、心臓に牙を伸ばしていた。


 ――壁に叩きつけられたジーナがライフポーションを嚥下し、後退する。


 アルタタの騎士の胸から伸びた触手が地面に潜り、頭蓋骨を拾ってくる。

 カタカタと鳴った顎から障気が零れ、魔法を詠唱する。


 ――部位破壊と同時に攻撃手段を増やすボスだ。


 赤ゲートのボスはやはり戦闘職が楽しめるように色んな手管を使ってくれる。


 「ちつにく赤く腫れ上がってんぞ」

 「――油断しただけだ!」

 「私が――狙撃します」


 油断を排し、マシンガンを構えたジーナの背後でクラウディアがスナイパーライフルに持ち替える。


 ――現れた瞳が弱点であることを察したのだろう。


 俺は逆にデザートラプターとm9に持ち替える。


 ――『バックス』が居るなら『バックス』が動きやすいようにスイッチする。


 ミドルフロントからバックスまでこなすのが『ガンナー』の強みである。


 ――アルタタの騎士が跳躍する。


 散開し、着地地点のストンプの衝撃波を避けると一斉に銃声が響く。

 スライディングから伏せ撃ち姿勢に入り――『フレンジー』でクラウディアのスナイパーライフルが弾丸を吐き出す。

 ローリングで起き上がり伸びた触手の追撃を避け、次の射撃地点に移動する。


 ――その足下、俺とジーナが腕を避け、銃を振り回す。


 『ダッシュ』で足下に滑り込んだジーナが『デスペラード』で両足に弾丸を爆ぜさせ、フックジャンプで頭を取った俺がホーンヘルムを叩き割る。

 膝を砕かれ、傾ぎ、頭部が爆ぜたアルタタの騎士が振り回した鋸を大地に付き刺す。


 ――砂を割って現れた鋸が走り、俺達を追いかける。


 直進方向への速度は速いが横方向への誘導の少ない鋸をステップでずらし、ゆらゆらと揺れて弾丸を撃ち続ける。

 俺の傍らに来たジーナが両腕を広げ――俺はムーンサルトで足下を空ける。


 ――滑り込んだジーナが『デスペラード』で周囲に迫る鋸を叩き折る。


 持ち替えキャンセルで――機関砲を構えた俺の『フレンジー』が真正面から弾丸の壁を作り、アルタタの騎士の巨躯を押し返す――

 沈み込んだアルタタの騎士の鎧の影が吹き上がり、鎧が爆ぜる。

 中から現れたのは肉の塊であり――その中心にようやく本体を見つける。

 気色の悪い肉の塊の中に無数の触手を従え、灰色の肌を惜しげもなく見せつけてくる儚げな女。


 ――静かに憂いをもった瞳で俺達を悲しげに見つめてくる女のヴァンパイアだ。


 「――生きることは、楽しいデス……か?」


 意味の無い問いかけに、俺はリロードの音を甲高く響かせて答える。


 「哲学の授業はここじゃやってない」


 何かを問いたげなヴァンパイアの肩が吹き飛ぶ。


 ――観客席まで登ったクラウディアのライフルだ。


 ジーナは鼻を一度だけこするとマシンガンを乱射させながら突っ込む――


 ――伸びる触手を砕きながら突っ込み、銃口をヴァンパイアの顎下に突きつける。


 「――割と楽しくない」


 爆ぜた銃弾が顎を叩き上げ、仰け反った腹にもう一方の銃口を突きつける――『ゼロファイア』。

 ガンナーの瞬間ホールド技で問答無用の急所攻撃――


 ――硬直時間を『サマーソルト』で強引にキャンセルするとムーンサルトで俺の射線を空けてくれる。


 「――レベリングで挽きつぶすのは、最高に楽しいわ」


 俺はデザートラプターにシルバーチップホローポイント弾を装填し――魔力を集中させる。

 淡く輝いた銃身が吠える――


 ――ガンナースキル『バスターショット』


 MPを大量に消費し、チャージし威力を高めたガンナー最強の火力スキル。

 射程こそ縮まるスキルだが――ギリギリの射程距離は感覚で掴んでいる。

 ギャァン、と甲高い咆哮を上げて吐き出された青白い弾丸が――ヴァンパイアに吸い込まれる。


 ――爆発四散するヴァンパイアを見下ろし俺は銃口を下ろす。


 大地に染みを残し消えていく肉の海を見つめ、ぐるぐると銃を回しホルスターに納める。

 そうして――終わったと思った瞬間。

 視界に刻まれる――『Emergency』

 障気が消え、厚く覆っていた雲が晴れ、歪んだ地表を映す空に浮かぶ月が赤く輝く。


 「――実ニ、善い」


 乾いた笑いが響き、貴賓席にそれは姿を現した。


 ――漆黒のローブをはためかせ、生気を失った灰色の肌。


 わかりやすいほどに――わかりやすい。


 「アルタタの騎士を――下し、生きることの『価値』を示しタ。我らニハ――久しく覚えナイ『命』の燃えル音――」


 ――ヴァンパイアだ。


 「かつて――かつて――700年の昔、新たなる神々達に銀の弾丸に滅ぼされた我らは――久しく待ってイタ――人は悠久を生きズ――業が尽き、技が無くなり――そして、銀が無くなる時まで――そして、今、再び人は『命』を継ぎ、『銀』を――産んダ」


 ヴァンパイアは漆黒の外套を広げ、腕を震う。

 骨で作られた十字架に――一組の男女が吊されていた。

 そのどちらも下半身が無く――綿をぶら下げている。

 ジーナが震える。


 「お……親父ぃ……母さん!」

 「アストラの檻の中――我ヲ討ち滅ボシた『メープルケットの星屑』はモハヤ失われタ。お前タチ人に我に抗うスベはナイ――死霊と化しタ肉親に――喰わレ、同胞と――」

 「許さないッ!絶対にぃ――ぜった――」

 「――ラセツキにたばかられ――我が眷属となったお前の父と母ガ――お前に生を与えたように死を賜ル――かつて魔王が我を滅ぼシ――そして、今再び、魔王が我に受肉セシように――」


 吊されたゾンビの口が動く。


 「……ジーナ」


 呻くように吐き出された言葉にジーナが首を振る。


 「やだ……やだよ……親父ぃ――」

 「すまんな……恨んで、いるのだろう……母さんを――サーナを殺した……ワシを……」

 「恨んでねえよぉっ!事故だったんだろぉ!――知ってるよ!あんた……私が家を出ても――ずっと、ずっと仕送りしてくれてたじゃないか!」

 「ワシは……」

 「……それしか無かったのくらい、しってるよ!だってあんたは私の親父じゃないか!不器用で!下手くそで!そのっくせ意地っぱりで!ごめんもありがとうも言えない――私の父さんじゃん!」

 「――ジーナ……」


 感情をあらわにするジーナの横で俺はインベントリを開いて装備をしまう。

 テラスの上のヴァンパイアは愉悦に歪んだ表情で告げる。


 「――最モ小さき命が繋ぎ――そして断ち切れる音――それのみが我が愉悦――さあ、殺し会うトいい」


 もったいぶって語るヴァンパイアの物言いに俺は少し、飽きた。


 「壮大なこと言ってるけど中身ねーよ。はよ巻いてくれや。つかもう撃っていーい?」


 もうそろそろ我慢できなくなった俺が尋ねる。

 ヴァンパイアは俺に視線を向け、忌々しげに顔を歪めた。


 「――キサマ、人ではないな?」


 ジーナが振り返る。


 「よくぞ俺の正体を見破ったな人じゃないよ童貞だよって話じゃねーんだろ?はよ巻いて巻いて」

 「――古き神々を導イタ――イニシエの精霊――ダガ、未だアストラは英雄の道を閉ざし――神々の円座に至らズ――なれば、我らハそのカガヤキを喰らう――ラセツキよ!汝は我に最高の糧を――」

 「もうしんぼうたまらん!――はい『ロケラン』撃ちますよー」


 俺は変更した装備欄を有効にし、最終兵器『ロケットランチャー』を発射する。

 数多のハリウッド映画で雑魚どもをぶっ転がしてくれるあの『ロケットランチャー』

 そう、単発式のアレとは違い、コマンドーでも使ってくれる『ロケットランチャー』

 ゾンビなら一発のあの『ロケットランチャー』さんですよ。


 ――ジーナの後ろで俺は4連ロケットランチャーを容赦なくぶっ放す。


 噴煙を後に引き、シュゴォ、と風を切り円筒型の弾丸が飛翔する。

 発射され、自重で沈み、後部から噴射された噴煙で飛翔した弾丸が立て続けに4発。


 ――貴賓席の上に掲げられたジーナの親父とかおふくろとか構わず容赦ないロケット弾の爆炎が焼き払う。


 十字架ごと無慈悲に焼き払うロケットランチャーの爆炎が膨れあがる。


 「男は黙って100tメック!はい次『ミサイル』ー」

 「え?ちょ――」


 次に撃つのは裏タブに設定した『ミサイルランチャー』。

 ロケットと何が違うの?と聞かれたら誘導してくれる『ミサイルランチャー』。

 ロケットでいいんじゃないの?と聞かれても障害物を越えてくれる『ミサイルランチャー』。

 威力は一緒だよね?と聞かれてもちょっとだけ範囲が広い『ミサイルランチャー』。

 撃ちきったロケットランチャーを取り替えてコンテナを掲げ、ミサイルをぶっ放す。

 鉛直に撃ち出されたミサイルが軌道をかえて爆風の中に降り注ぐ。

 爆炎が消えないうちにさらに爆発を重ね――爆風を割ってヴァンパイアが本性を現す。

 広がった影から伸びた肉を束ねた腕が広がり、巨大な腐肉の塊となり膨れあがり――


 「――我が肉体ハ不滅ッ!愚かな人間ヨ、そのムリョクさ――」


 ウィンドウを開き、撃ちきったロケランとミサイルをしまう。

 そうして、最終兵器を装備してあげることにする。

 俺は両肩に長大な機械砲身を吊し、両脇に抱え――真っ赤に燃え上がる肉片に最後の一撃をくれてやる。


 「あんた!え?――」

 「俺ねーこれが撃ちたかったんだよ――ビームランチャー!」


 ガチャガチャと変形し、砲身を開くそれが青白い光を充填させる。

 びりびりと腕に伝わってくる振動に俺のテンションが最早MAXです。


 「ウェヒwウェヒw勃起するわーw俺がガンダムで守りたい世界で月は出ているか!?火力がダンチでバスタービーム!でもどちらかと言えばウェスバァァァァ!」

 「ちょぉぉお!ちょぉぉぉおおお!」


 ――ギャァァァァアァンと大気を張り裂く青白い光芒を爆ぜさせ、吐き出す。


 光が貴賓席をなぎ払い、観客席ごと青白い爆発の中に飲み込む。

 ごっそりと俺のMPを持っていった――『バスターショット』『フレンジー』の載ったビームランチャーが跡形も無く消し飛ばす。


 ――wikiに書いてたのだ。


 ガンナークエストの最後はメープルケット工房の店員の好感度を上げていればレア武器を買えるからそれ使えば楽勝だって。

 ミサイルかロケランのどちらかでもあれば楽に戦えるけど、せっかくだから全部使ってみたいやん?


 ――圧倒的なパワーレベリングの前にはボスだろうがシナリオだろうが粉微塵に吹き飛ばす。


 本当はここでジーナちゃんが親父の死を乗り越え、銃に対しての恐怖心を超えてだとかの茶番があるのだが、なんか見てるの面倒になったんだよね。


 ――跡形もなく消し飛んだヴァンパイアにジーナが脱力する。


 1人だけスカっとした俺がさわやかな笑顔で告げる。


 「ンー――超気持ちィ」

 「気持ち……気持ちいじゃねえっ!――お、お前にはこう、なんか!ないのかよっ!」

 「すっげーだろ?ビームだよビーム!こういう高火力レアはレア素材使った弾丸の使い切りだけど、やっぱロマンあるよな!☆」

 「ロマンがあっても情緒がねーよ!あたしの親父とおふくろどこいった!」

 「こりゃーあれだね!消し飛んだね!ビームだもんビーム!やっぱビームはすげーわw」

 「お前絶対悪い奴だっ!お前の方がヴァンパイアとかそんな奴よりよっぽど悪い奴だ!」

 「あれ俺言わなかったっけ?悪い人だって――ンー、マイナス決算だけどこのスカッとする感覚――やっぱりガンナーさん楽しいわー!」


 俺は蒸気を吐き出すビームランチャーをしまい、開いたゲートを指し示す。

 なにもかも吹き飛ばされ、唖然とするジーナがいきり立つが俺は完全に無視する。

 どこか拍子抜けしたクラウディアが小さく笑ったが俺は肩をすくめて答えてやる。


 「――アンタ!一体人の人生なんだと思ってンだよ!」

 「さぁ?――俺の人生じゃないから知りませんでしてよ?」


 ――用の無くなったインスタンスダンジョンももう間もなく崩壊する。


 ドロップしたアイテムを回収し――のたのたと撤収する準備をする。


 「あいつきっとワタシの親父やお袋を弄んだんだぞ!ワタシにも一発殴らせろよ!つかお前を殴る!絶対に殴ってやるぅぅ――!」

 「――お前の家族を奪った宿敵もグールになった親父さんお袋さんも俺の涙のビームランチャーで悲しみの果てに討ち滅ぼすことができた――」

 「お前撃ちたいって言ったよな?言ったよな?忘れてねーぞー!それのどこに涙があったんだ?言ってみやがれー!」

 「悲しい犠牲だった。だけど、ジーナ。君だけは忘れてはいけない。君のお父さんも、お母さんも――君を愛していた」

 「だろーよ!だろーよ!粉微塵だよ!遺品の一つも残っちゃいねーよ!」

 「愛は形じゃないんだ――その思いは、いつだって君の胸にー」

 「何いい話にしてまとめよーとしてやがんだゴラ!」


 俺は足取りも軽く、未だ涙を拭えずに居るジーナから逃げる。


 「アーイイハナシダナーw」


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