雑魚は纏めてから狩れ
「ひぃああぁぁあっ!」
チュートリアの切なげな悲鳴がマンダルア山岳に響き渡る。
大量の敵を引き連れながら情けない悲鳴をあげて、逃げるがやがて追いつかれる。
だいたい、重鎧装備による移動速度に制限がかかっている状態で逃げようとしても追いつかれるだけだというのに。
俺はそんなチュートリアに構わず、自分の狩りを続ける。
山道をうろうろとしているマグリブツという熊とも蛙ともつかない二足歩行モンスターをみつけるや、その頭を片手剣――エルドソードでぶん殴る。
ターゲットを取るや、走り回り次々にマグリブツを『釣って』まわる。
「たぁぁすけてマスタぁぁぁっ!」
同じような状況なのだが、俺には笑いしかこみ上げてこない。
5、6体を引き連れながら走り回り、俺の後ろを仲良く並んで追いかけ回す状態になったところで俺は両手剣――エルドブレードに持ち帰る。
剣を後ろに寝かせ、大きく腰を落とす。
――チャージエフェクトの風が足下から吹き上がる。
いきり立って襲ってくるマグリブツに寝かせた大剣を容赦なく――3回転。
――大剣用モーションスキル『サークルエッジ』。
大剣スキルの20以上で覚えられる範囲殲滅型の主力スキルでなぎ倒す。
激しい衝撃に光となって散っていくマグリブツを蹴散らすと、遠くでずっと追いかけっこをしながら逃げ回るチュートリアを眺める。
「ますたぁぁぁ!こ、こっちも!こっちもお願いしますぅぅ!」
俺は颯爽と無視すると、別の敵を探して走る。
やることは変わらない。
片手剣でアクティブのマグリブツを殴り回り、範囲攻撃で仕留めるの繰り返し。
時折、マグリブツの中に牛と羊を足して二で割ったようなグレングルというこのマップの強モブを見つけると、俺は片手剣と盾に持ち替えてガードとステップを織り交ぜ、テクニカルに戦う。
こうして、雑魚相手には両手剣の範囲攻撃を有効に使いつつ両手剣スキルを。
強モブ相手には片手剣と盾のスキルレベルを伸ばすように心がける。
それでも片手剣スキルの伸びが足りないから、アクティブのモブが反応する前に片手剣で殴り――
「ますたぁ!ますた!まぁすたぁあああっ!」
「ちょ、ばか!おまっ!」
グレングルと殴り合ってる最中に10匹以上トレインしたチュートリアが乱入してくる。
そのまま10匹以上居るマグリブツを俺に押しつやがった。
俺は即座に武器を大剣――エルドブレードに持ち替えるとステップで群れの攻撃を抜けながら『サークルエッジ』のチャージを溜める。
「ちっくしょうがっ!」
『サークルエッジ』はチャージすればする程、威力が大きくなるスキルだからだ。
――装備性能から確殺は簡単ではある。
だが、敵の数が多くなることで、攻撃範囲の外に撃ち漏らした残敵の掃討をしようとするなら、攻撃モーションに入ったグレングルをなんとかしなければならない。
最後のステップを使い、距離を取りソードとシールドを再び装備しなおすと、グレングルの角による突進をジャストガードで防ぎ、攻撃して削る。
だが、残ったマグリブツが即座に群がり、背後から俺を殴りダメージを蓄積させてくるもんだから、俺は即座に群れから走り抜け、距離を取る。
マグリブツより足の遅いグレングルが置いてきぼりにされる形で、マグリブツだけが先行して接近してくる。
俺はその横を走り抜けるように交錯して、回避しながらソードモーションの振り初めの剣の切っ先をマグリブツの首に引っかけるように振るう。
先に到着したマグリブツの背後からは俺を殴れず、残り2匹のマグリブツがあたふたと回り込もうとする。
だが、即座に閃いた俺の片手剣のモーションスキル『スラッシュ』が最初のマグリブツを切り伏せると、残り二匹も『スラッシュ』に巻き込まれダメージを負う。
あとはそれぞれ、一発ずつ切り込んでやれば光となって蒸発した。
その頃にはグレングルが追いつき、遠距離から岩を投擲するがステップで避けると俺は距離を詰めて盾スキル『バッシュ』で突き飛ばす。
ノックバックし、気絶したグレングルが頭をぐるぐると回し衝撃から立ち直る前に俺は片手剣を振るいながら背後に回り、相手の首の後ろめがけて『スラッシュ』。
丁度、MPもスタミナもからっけつになるが、グレングルはうなり声をあげ、ふらふらとよろめきながら地面に倒れ伏す。
遠く隠れていたチュートリアが全てを殺し尽くした俺を見て驚く。
「お、おぉぉ……す、凄いです!」
こいつてめえで何したか全然わかっちゃいねえ。
「凄いですじゃねえよっ!お前、俺を殺す気か?殺す気なんだな?PKか?PKやるんだな?受けてやンよっ!」
「わ、わ!お、怒らないで下さいっ!わ、私だって危なかったんですからっ!」
「俺の方が余計危ないわっ!お前、それ、MPKって呼ばれる殺し方だからな?次やったら殺意ありとして俺もてめえを殺すぞ!」
「う、うぅ……そ、そんなツモリじゃ……」
「ツモリじゃなくても、そうなんだ。敵を釣るだけ釣って人におしつければモンスターにやられて人が死ぬ。モンスターを使ったプレイヤーキリング。だからMPKっていうんだよ」
俺はからっけつになったMPとスタミナを回復させるため、その場に座り込み、大きく息をついた。
「アクティブ――好戦的なモンスターは最寄りの人間を狙う。発見してから攻撃に移行するまで時間があるからその間に殴るか、逃げるか決める。あとは発見される範囲に入らないことだ」
「でも、マスターはその敵を殴ってから逃げてましたよね?」
「そうした方が反応が早いからだ。さっさと集めて、さっさと殺す。その単純作業が経験値を溜める速度の弾き出す方法なんだ」
「わたしもマネして見ようと思ったんですが……」
どこか申し訳なさそうにするチュートリアだが、俺は溜息をついた。
「できるわけないだろ?俺はファイター、お前はクレリック。職も違えば戦法も違う。それを同じように戦おうとしてもかえって死に散らかすだけだ」
「……なら、助けて下さいよぅ?」
「冗談じゃねえ。まだレベル50にすらなってないんだぞ?その時点で他人の力を借りようとしてるようじゃ、99なんて夢のまた夢だ」
俺は鼻で笑ってやると、チュートリアはどこか落胆したように俯いた。
畜生、やる気はなかったんだがまた『心折り』状態になりそうだ。
「と、とにかくだ!テンプル志望クレリックとファイターを一緒にするのが間違いなんだ。ファイターは軽装、お前の場合は重鎧、俺は走ってマグリブツやグレングルから距離を取れる。お前の場合は重鎧による速度低下効果が発動して、逃げ切ることができないんだ。前提となるところから違うんだ」
顔をあげたチュートリアが俺の方を見る。
「……どうすればいいんですかぁ?」
どこか泣きそうな顔のチュートリアに俺は大きく溜息をついた教えてやった。
「まず、さっきも言ったようにこういったモブが集まるエリアでの狩りの仕方は一つ。『集めて処理する』だ。クラス選択の時に言ったように、魔法職が強い理由は圧倒的な火力で集めたモブを高速で殲滅できる殲滅速度の速さがあるからでもあるんだ」
「でも、一生懸命集めたんですが……だめでした……」
「軽装はその機動力を活かして戦う必要がある。なら、重装はその防御力を活かして戦う必要がある。俺はお前にエルドボウとエルドジャベリン、エルドタワーの3つを渡したよな?それが答えでもある」
チュートリアは小首を傾げる。
「与えられた物から、物事をつなげて考えるんだ。わかるか?」
チュートリアは一生懸命考える。だが、途端に眉尻を下げて考えるのを諦めてしまう。
「わかりません」
「元々お前は鈍くさいんだ。俺のように走り回って敵を集めるのは非効率なんだよ。かといってナイト系のようにヘイト――敵からの敵愾心を煽るようなスキルもない。であれば、長弓で長距離の敵を撃ってダメージを与えて『こっちに来てもらう』んだ」
「敵に、来て貰う?」
「重鎧と重盾の防御力は高い。俺みたくジャストガードを使わなくても、十分に敵の攻撃を『弾く』だけの防御力を持っている。それで敵を集めるだけ集めたら、片手槍の『スウィング』で一網打尽にしてやるんだ。弓レベルが上がってくれば『アローレイン』を使う。広範囲殲滅型のモーションスキルに何があるかをチェックして、どれが火力をたたき出せるかを常に確認しておけ」
俺が説明してやるとチュートリアは目を見開いて驚く。
「す、すごいですっ!な、なんでそんな戦い方を知ってるんですか!?」
「どうやって育成するかっていうのはその職がどういう戦い方が得意なのかっていうのと一緒なんだ。どの職をやっていてもそうなんだが、相手がどんな戦術で戦うのかというのをあらかじめ理解していないと連携が取れないんだよ」
「でも、マスターは基本ソロ……あの、一人で戦う方が多いと」
「そう。固定メンバーでの狩りっていうのは確かに連携も取れるし、いつものメンツが集まれば最大効率で狩りができる。だけど、いつものメンバーが必ず集まるなんて珍事件滅多にねえよ。だから、基本はソロで効率を出しつつ野良で他のパーティと組んで効率をはじき出す。その方がいつものメンバーを待ってるより早いからだ」
「……そうなると、初めての方とも連携をしなくちゃ、いけない?」
「そうだ。『廃人』なんて呼ばれる人間はたいていソロで活動してる時間が長い。その時その時で使える時間というのを最大限有効に使おうとすると、ソロになってしまうからなんだ。仲良しこよしで強くはなれないんだよ」
俺も、キクとパーティを組まないのはそういった理由だからだ。
レベルの低いキクと組めばその分、俺は足を引っ張られる。
そうなれば、俺の効率が下がり俺はキクの為にずっと時間を使わなくちゃいけなくなる。
無論、キクの為に割く時間もこれからゼロではなく存在する。
だが、だからといってレベリング全部を他人任せにする奴は重荷になるから廃人達からは疎まれるのが常だ。
「なんだか、殺伐としてますね……それだと、誰とも仲良くなれないんじゃないかと思ってしまいます」
チュートリアがぼそりと呟くが俺は訂正する。
「それは違うぞ?『自分のこと』すら面倒を見れない奴が『他人』と一緒になっても、まずい状況になった時、『自分』を助けられない。『自分』すら助けられないのに『他人』なんざ助けられるか?そういう奴は決まってこういうんだ……『あいつの動きに問題があるから、こうなった』って」
俺の指摘にチュートリアが自分を省みる。
「確かに……私じゃ、マスターの足手まといです……」
「そうだ。俺は『自分のこと』は自分で面倒見ることができるから、『他人』であるお前を助けることができた。逆だったらどうだ?二人仲良くお陀仏だよ。突き詰めたソロプレイヤー同士の連携ってのは何も言わなくてもお互いが何をしたいかわかるし、よしんばわからなくても状況をどうにでもしちまう。普段からその気構えを持っていなくちゃならないんだ……つか、こんなこと言わせんな恥ずかしい!」
俺はどことなく説教臭い自分がむずがゆくなって尻を掻く。
――本格的な狩りを開始してから1日が経った。
俺は自分のレベルとスキルを確認するためステータス画面を開く。
――ベースLv37、片手剣31Lv、両手剣33Lv、軽盾Lv29Lv、軽装Lv25、軽業18Lv
目下必要とされるスキルだけを確認するとこんなものである。
俺は右手の甲にある宝珠をスマートフォンよろしくスライドさせるとチュートリアのステータスを見た。
――ベースLv29、片手槍11Lv、弓13Lv、光魔法23Lv、重装Lv26,重盾Lv17
レベルとスキルが全然マッチしていない。
俺は大きく舌打ちする。
「ふんむ、やっぱりな」
一日狩り込めば序盤領域は簡単に駆け抜けれると思ったが、そうでもなかったようだ。
「どうか、したんでしょうか?」
「チュートリアのスキルにばらつきが出てる。光魔法と重装、重盾は伸びてるけど片手槍と弓のレベルが全然上がっていない」
「でも、ベースレベルはそれなりに上がっているので問題無いんじゃないかと」
「パワーレベリングって知ってるか?」
「パワーレベリング?」
「今、俺とお前はいわゆる『パーティ』を組んだ状態になってる。この状態で戦うと『経験値』がお前にも入る状態になるわけだ。これを悪用すると、俺がお前のベースレベルだけを無理矢理引き上げてお前は何もしなくても強くなる」
チュートリアの顔が輝く。
「わぁ!凄い!それいいですねパワーレベリング!是非やりましょう!」
「馬鹿だなーコイツ。そんなのできないように制限かけられてるに決まってるだろ」
「そうなんですかっ!」
「楽して簡単に強くなられてみろ、一生懸命やってきた奴らが怒るにきまってるじゃないか。そうならないようにしっかりと、罠がかけられてるんだよ」
俺の言葉にチュートリアが眉を潜める。
「このゲーム、装備できる物の基準は『スキル』のレベルに依存する。成長装備も『スキル』のレベルを基準に成長していく。当然ベースレベルが50以上になれば今装備しているエルド装備は使えなくなるよな?」
「は、はい……」
「そうなると、レベル50以降、お前はずっと今の装備のまま、レベル20相当のエルド装備で戦い続けなくちゃならなくなるんだよ」
「それは、無理だということでしょうか?」
「ああ。装備による補正は無視できない。逆に、そうすることで意図的にパワーレベリングを回避しているのがエルドラの特徴だからな。ベースレベルとスキルレベルをバランス良くあげていかなくちゃならない。ベースをパワーレベリングしてもスキルを上げるためにもう一度マラソンして来いっ!って話になるんだよ」
俺はそう告げると、そろそろ回復したMPとスタミナを確認してカルパス肉をかじる。
あわせて立ち上がった、チュートリアがどこか不安そうな顔をして俺についてくるもんだから、俺は舌打ちした。
キクはチュートリアが俺のパートナーだと言っていた。
どういう条件か、どういう理由だかは全く、わからない。
だけど、現にログアウトできず、このゲームの中に閉じこめられ俺は生活しなくちゃならなくなった。
そして、俺が知るエルドラドゲートオンラインの仕様と唯一違うのがこのIRIA積載NPCがパートナーであるという事実だ。
VRMMOみたいだとはしゃいでたが、そんな生易しい問題じゃあ、ない。
――俺は、この世界から生きて帰らないといけないんだ。
命懸けのゲーム攻略。
「ジョークにしちゃ、笑えない仕様だ。理不尽でないことだけが、救いだが」
意味のわからない俺の呟きに目をしばたかせるチュートリアが俺を心配そうに見ている。
戦えるように、教えてやらなくちゃ、いけない。
IRIA積載NPCがパートナーという仕様であれば、それもゲーム攻略の一環であるから。
「チュートリア、俺が指示するとおりに動け。『戦い方』を『教えて』やる」
どこか厳しい物言いにチュートリアは慌てて返事をする。
「は、はい!」
「ポジションはそこ、そこから右前、左奥、右後ろにマグリブツが見えるな?弓の射程だと左後ろも喰えるが、まずは、3匹。これを連続で弓で撃て」
「え?……あ、はいっ!」
俺の指示通りチュートリアがエルドボウに矢をつがえて撃つ。
岩場をうろうろとするマグリブツの背中に矢が突き刺さり、マグリブツがチュートリアを認め、棍棒を振りかぶって走ってくる。
怯えて逃げだそうとするチュートリアに俺は厳しく怒鳴る。
「左奥!すぐにだっ!重鎧の防御力は高いんだっ!死にはしないッ!」
気を取り直したチュートリアが左奥のマグリブツに狙いを定め矢を放つ。
風を裂いて飛んだ矢がマグリブツの肩に突き刺さり、マグリブツは悲鳴を上げるがすぐさま怒りの咆哮に代わり、チュートリアめがけて走ってくる。
――一匹目のマグリブツがチュートリアに肉薄する。
逃げようとするチュートリアだが俺はさらに厳しく告げる。
「まだだッ!右後ろ、撃てっ!釣れっ!」
一匹目のマグリブツが棍棒を振り下ろしチュートリアを殴るが、幾重にも重ねられた白銀のプレートの上で鈍い音を立てる。
横殴りの一撃がチュートリアの頭を叩くが、白銀の兜の回りに青白いエフェクトが輝きしっかりとダメージを軽減していた。
――放たれた矢が3匹目のマグリブツを貫く。
「盾と片手槍に持ち替えろ。そこから後ろに下がりながらガードッ!」
3方向から狙われることになったチュートリアにそう指示すると、チュートリアはあたふたと盾と槍を手にしてのろのろと下がる。
エルドタワーががっしりと岩盤に突き刺さり青白い光を放ちマグリブツの棍棒による連打をしっかりと防ぐ。
だが、微量だが削られるHPにチュートリアが鼻白んでいる。
「そこで『スウィング』ッ!クールタイムが終わり次第連続で3発ッ!」
おっかなびっくりだが、鋭い軌跡の槍の横払いがマグリブツの腹を薙ぐ。
軽く身体を浮かせたマグリブツが3発目の『スウィング』で光の粒子となり、天に昇る。
それを見届けて、どこか放心したようなチュートリアに俺は手にしていたカルパス肉を口の中に押し込んで嚥下すると告げる。
「そうだ、それでいい」
「た、倒せたっ!倒せましたっ!や、やった!やれましたっ!マスタぁっ!」
よほど嬉しかったのだろう。
チュートリアは駆け寄ってきて俺の首に飛びついてきた。
まさかそんなことされるとは思わず2個目のカルパス肉を食おうとしていた俺はチュートリアに飛びつかれる形になる。
――重鎧に全身を固めた奴に体当たりされるようなもんである。
「ぎゃぁああっふぅゥゥ――ッ!」
地面に押し倒され、俺の肺の中身が絞られマグリブツみたいな情けない悲鳴を上げる。
「マ、マスター?」
それだけではない、立ち上がろうとしたチュートリアの膝が俺のドラゴンボゥルをぐっしゃりと潰していた。
「あぉぉぉぉぉ……槍が、槍がっ!俺の槍っ、つか宝玉?宝玉?わ、割れう、割れてう…あひあひぃぃぃ……ッ!」
「わ、わ!ごめんな……わあっ!」
立ち上がろうとしてバランスを崩し、重盾でもってネックギロチンをかけてきて俺はとうとう意識が眩んでくる。
「……ぴぃけぇ……かぁ?……ぴ、ぴーけーなぁうけてたふぞ!」
「ご、ごめんなさいっ!で、でもやれたんですよ!わ、わたしやれましたよ!見ていて下さいましたよね!マスター!」
どんだけ纏め狩りができて嬉しいんだよこのNPCは。
俺はどこまでも人間臭いチュートリアが嬉しそうにしている顔を見て振り上げたい拳の行き先をなくし、うなる。
「やれましたね、上手に殺れましたー!俺も殺る気かこの野郎!」
「ひぃぁ!でも、マスターの言うとおりにしたら上手くいったんですよ!わっはー!」
俺は痛む喉を押さえ起き上がると、嬉しそうにしているチュートリアの鼻をつまんだ。
「いい気になるなよ?お前は基本の戦術の一つを覚えただけだ!弓と槍と盾を使えるってことは、遠くに居る敵を弓で撃って弱らせて、威力の高い槍の投擲でさらにダメージを与えて完封したり、それでも近くに来た敵をバッシュでスタンさせたりもできるんだ。それだけの装備がありゃグレングルだって今の状態で狩れるはずなんだっての!お前に合わせて狩り場下げてるの理解しやがれっ!」
いつまでも抱きついてるチュートリアが本当の女の子みたいに柔らかいもんだから照れ隠しに怒鳴りつけてやる。
俺は減ったHPを確認しながら、睨むがどこ吹く風。
チュートリアはマグリブツをまとめ狩りした高揚で気づいちゃいねえ。
「あとは、何回もやって身に覚えさせるんだ。そうやって『できる』事を増やしていく。『できる』ことが増えれば『やれる』ことがわかってくる。その中で他に『できる』ことがないか考えていくんだ」
「はいっ!」
――こうやって素直に頷くところファミルラのキャラクターと変わらない。
俺はどこか懐かしい感覚を覚え、山中を闊歩するマグリブツを眺めた。
「とりゃーえず、40くらいまではサクっと上げるか」




