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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第一部『導入編』
11/296

大事なことから、先に言えと。

 「つか、装備全部売り払って全裸とかアホじゃね?あっはっはは!ロクロータらしいと言えば、ロクロータらしいんだけどさ!」


 どこまでも清々しく笑うその女は軽装の装備に両手槌を背負っていた。

 格好こそファンタジーだが、俺は知っている。

 奴が俺の本名を今、言ったように俺も逆にこいつの本名を知っている。


 「キクもエルドラにインしてたんか」

 「そうだよ!やるっつってたじゃん。今日、携帯鳴らしても出ないんだもん!」

 「そういや携帯電源切ってたな。ゲームやってるときに携帯鳴ると萎えるだろ?」

 「エロゲーの時はね。だけど、一緒にプレイするなら、萎えないじゃん?電話くらい出ろよー全く本当にもー」

 「スカイプにはINしてたんだがな」

 「別部屋で通話してたでしょ?そっちに誘ってくれればよかったのに」


 拉致された俺を追って遅れてやってきたチュートリアが息を切らせて尋ねる。


 「あ、あの!そ、その!そちらの方は……」

 「これが、あんたのイリア?」


 キクはチュートリアを見て、俺に尋ねる。


 「俺の?チュートリアルキャラクターだとずっと思ってたんだが」

 「仕様、違うみたいだよ?ファミルラのキャラクターみたいに自律AIでプレイヤーを補助するパートナーみたい」

 「ナニソレ?すんごく面倒でね?」

 「あっはは!あっちゃんファミルラの時も全然AI育ててなかったもんね!変わらずだねー?」


 ロクロータであっちゃんなのには様々な理由がある。

 が、しかし、今は割愛しよう。


 「不確定要素が多すぎるんだよ。アレ。必ず同じ反応しないし、妙に人間臭くてな。それっくらいなら直接入力ずっとやってた方がマシなくらいだ」


 キクはそうやって笑うが俺には一つ、大きな問題ができてしまった。

 仕様にゃねえぞってのも問題だが、連携も考えるとなると面倒になる。


 「俺のってことはお前のイリアも居るのか?」

 「居るよ?ってか、今は店番させてる」

 「店番?」

 「うん。代理商店。面白すぎる情報みつけちゃったから探すのにね?いやー、探した探した」


 おずおずとチュートリアが俺に尋ねる。


 「ず、随分と親しげにされてますけど、この方は一体」

 「ああ、俺が元居た世界の知り合いだ」

 「よろしくねー?キク、私の名前は、『キク』。プレイヤーネームも『キク』だから」


 そう言ってキクはチュートリアに軽く手を振る。

 繰り返して名前を教え、IRIAに認識させる。俺よっか手慣れてやがる。


 「元居た、世界の、お知り合い?まさか……」

 「そ、あんたがたの言葉でレジアン。私は幸運の神フ・ナムシーのレジアンだけどね?」

 「え、あ、その!あ、失礼しました!」

 「うわー、礼儀正しいなぁ、うちのイリア初期人格が結構幼いから仕込むの大変だけど、このっくらいならロクロータにも大丈夫そうだね?」


 軽くバカにされた気分。

 俺は全裸で座り込むと、長い話になりそうだから改めて聞いてみる。


 「お前さん、今回もまた掲示板戦士やるのか?」

 「うん!考えるだけでゾクゾクしちゃうなぁ」


 いたずらめい笑み、よりかは恍惚とした表情で一人悦に入るキクに俺はげんなりする。


 「お前に壊された市場でどれだけの人が大損こいたと思ってるんだよ。ありえねえだろあの価格競争と買い取り競争。市場にあった霊石根こそぎもっていきやがって」

 「うっふふー♪あんときはゾクゾクしたぁ♪霊石の実装と同時にぴーん!と来たもんねこれは勝てる、って」

 「需要が確かにあるけど、産出量が追いつかないから値下げ競争で下げるだけ下げて底割った瞬間に買いあさって市場から一掃したあげく、ボリ値ギリギリで捌きやがって」

 「ああやってがっつり儲けるとやめらんないのよねぇ。あの瞬間、そう、『手の平で踊れ愚民ども』って感じが最高にたまらないわ!」

 「また殺すぞ」


 キクはその後の展開を思い出したのか、腕を抱えて震え出す。


 「いやーでも、ホントすんまそん。ぶっちゃけやり過ぎましたわ。つか、あんたに殺り過ぎられましたわ。もー、ね、死体晒しとか出町とかそんなレベルじゃなくてね、なんとおっしゃりましょうか。恨み買っちゃいけないんだなーと深く自覚しました」

 「俺も大人げなかったと自覚してる。だが、最高に楽しかった」


 俺もどこか遠い目をして、呟いた。

 遠い思い出を語る俺達を訝しんでチュートリアがおずおずと尋ねる。


 「あの、その……ナニがあったんでしょうか?」

 「イリアには教えておくべきね。この男は、そんな私を見つけて執拗に街の外で殺戮を仕掛けてきたのよ?PKなんて生ぬるいものじゃないわ。殺戮よ、殺戮。狩り場で狩ってる私を横から殺すなんて序の口。街を出た直後に抹殺とかもされたし、居ないだろうと思って深夜の皆が寝静まる頃にプレイしても、そこをめがけて殺されたりもしたわ。そこから先はトラウマだから思い出したくないお……」


 寒気を感じるのだろうかキクは肩を抱えて震える。全裸の俺が平気なのに。


 「まあ、お金持って謝りに来たから許したんだがな」

 「その直後に殺したじゃない!」

 「いや、たまたま俺が狩るモブの間にキクが居たんだ」

 「そんなこと言う?言う!?あんたあんとき私の死体の上で踊りながら憤慨した私になんて言ったか覚えてる?覚えてる?」

 「『むしゃくしゃしてやった、後悔はしていない』だっけか?」

 「『プギャー!今どんな気持ちどんな気持ち!お金払って土下座して直後に殺されるってどんな気持ちプギャー!』よ。こいつ鬼かと思ったわ」

 「あれ?その後だっけか?全額巻き上げたの」

 「そうよっ!和解したと見せかけてフレ登録してもギルメンになっても容赦しなかったわよね?」

 「そうだ、思い出した。さっきのはギルメンになった時の台詞だ」

 「思い出したじゃないでしょ!私のお金全部巻き上げたでしょ!『装備までは勘弁してやろう』って言ってくれたからこれで解放されると思ったら、狩り場で3時間狩ってこれで本当に解放されたと思った瞬間に殺してきやがって!本当に屑野郎だと思いましたですよ!」

 「そん時があれだよな?『先っちょ、先っちょだけですみませんでしたーwずっぷり入って逝ってもうた!酢マン湖!ww』だよな?」


 そんな話を聞いてチュートリアがどこか遠い目をする。

 キクは思い出して腹を立てたのだろうか?だが、必死に堪える姿は俺の思うところ。


 「でも?まぁ、色々あったけど、あんたとプレイできたのは面白かったわ」

 「そりゃどうも。ま、俺も勉強にはなったがな。だけど、勘違いすんなよ?俺だって無差別にPKしてる訳じゃねえんだからな?あの時はお前が原因だ。うちのギルメン他、廃人組が根こそぎ金持ってかれた訳だからな」

 「フレ登録、ギルメン登録、それに全額まで巻き上げてあんた私に最後ナニ要求したか理解してる?」

 「あんときゃ、もうだいぶ割れてただろ?つか、2chでお前の擁護に入ったお前のリアフレが煽り耐性ゼロで煽るだけ煽ったら全部割ったじゃねえか。こりゃまずいなと思ったからだよ」

 「まさかオフで会えなんて言われるとは思わなかった」

 「近所だったからな。火消ししないと凸られても困るだろ?それなら当事者の俺の言の方がいいだろうって思ったんだよ。つか、加工画像上げるのも大変だったんだぞ?俺も嘘つき呼ばわりされたし」

 「さんざっぱら人に仲良し詐欺したお前が言うの?言うの?」

 「俺は正直だよ。主に自分には。つか、荒稼ぎして恨み買ってたのお前の方じゃねえか。だからいざPKしてもお前に擁護ほとんどつかなかったし。まぁ、そんな状況だから『ウッハ、これ飯ウマw』って殺しにかかった訳だが」

 「稼ぐことのナニが悪いの?人の心も、仕様です。欲望に駆られるから私に貢ぐことになるのよぉ?ザマァ」


 キクは悪びれることなくそう言い放つと嫌らしい笑みを浮かべた。

 チュートリアは俺とキクの関係を知って本当に遠い目をして呟く。


 「二人が仲良くしている事が、信じられない気がします」

 「まあ、一年も一緒にプレイしてりゃ色々と恩恵があるんだよ」

 「あたしは市場情報を、こいつからはプレイ情報とかレアアイテムを。相互協力は優秀なソロには多いのよ」


 俺は面倒臭そうに息をつくと、チュートリアを傍らに座るように手で指示し、キクに尋ねる。


 「で?いきなり俺を拉致したのは何でなん?リアフレっつったってロクな思い出ねえじゃねえか」

 「私もひょっとしたらと思ったけど、まさかあんただとは思って拉致らなかったわ。もう一人のあっちゃんかと思ってた」

 「赤い人か?赤い人……やってるんだろうかエルドラ。つか、何で俺と赤い人間違えた?」

 「『※※※※がガニパリヘルを倒しました』ってワールドチャットが響いたからよ。ガニパは前作と一緒でしょ?あれ開始数時間で倒せる人って限られるじゃない。ガングリのサウザンドレコード持ちって赤い人とあんたと他数人くらいでしょ?」

 「PKやってるとあそこくらいしか美味しい狩り場ないからな」

 「つか、あんたまだプレイヤーネーム入れてないの?最初にイリアに聞かれなかった?」

 「全然?」


 俺はチュートリアに振り向くが、チュートリアはどこか申し訳なさそうに弁解する。


 「えっと、全然話を聞いてくれなくて……聞く機会を失してしまいました……」

 「うわ!酷っ!もう『心折り』してる!外道!本物の外道プレイヤーを見たよ!」


 キクが耳慣れない言葉を使う。


 「『心折り』?」

 「IRIA育成の最終手段。一度、悪い癖がついたIRIAって修正が難しいのよ。そういう場合、IRIAの判断能力を奪って一から傾向を育成するんだけど、その時にやるのが『心折り』って言って自尊心とかそんなのを全部、ヘシ折って文字通り『心』を折るの。簡単にできることじゃないけど、一度心折られたIRIAはそれまでの情報はそのままに性格が素直になるって話よ?つか、具体的にどんなことをしたら『心折り』ができるの?」


 俺はひとしきり考えて答える。


 「指を入れ……」

 「言わないで下しゃい!おねがいでふ!いわ、いわないでくだひゃいぃぃ!」

 「あと、土下座してる頭に唾はきかけた」


 キクは俺から距離を取り、汚物を見るような目で見下ろす。


 「外道や……本物の外道や……」


 信じられないような物を見る目つきで俺を見て、キクは疑問に思う。


 「つか、初期レベルでイリアに勝てるの?結構、このパートナーってチートがかってるわよ?」

 「ほら、加護だかなんだかってあったろ?」

 「契約の願い、ね?私にもあったわよそのイベント」

 「これのレベルを1にしてフルボッコにした」


 キクの表情が凍り付く。

 俺、何か不味いこと言ったろうか?


 「うそ?つーか、色んな意味で……うそ?本当にそんなことしたの?」

 「なんか不味いのか?」

 「不味いってか、かなり高レベルのパートナーよこのイリア。攻略に凄い役立つじゃん!それに、契約の願いって結構強力なボーナス貰えるのよ?」

 「お前は何を願ったんだよ。つか、あれってどれくらいの物貰えるイベントなんだ?」

 「色々聞いて確認したんだけど、レベル80くらいの育成武器とか、あるいは一部スキルの初期値が80くらいになったりとか、聞いててゲームと『しては』大丈夫かと思ったレベルだったわ」


 俺はそれを聞いてチュートリアをにらみつけた。


 「何でそれ先に言わないんだよ!」

 「で、でも、状況を先に説明しないとって思って……」

 「ちきしょう!あー、ムカつく、がっつし引き離された気分!キク、お前何貰ったんだ!」

 「初期費用で200万、2m。何するにもお金はあった方がいいしね?ただ、商店とそれを開くためのホーム、あと商人ギルド登録と商売権利の獲得で1mくらいは使っちゃったけどね?」


 俺は全裸のままがっくりと項垂れ、軽鎧を装備したキクとの差を感じる。

 かたや全裸の浮浪者、かたや余裕のある商人冒険者。

 数時間の差でこれだけの差が開くとは。


 「私、てっきりなんか私の知らないボーナス貰ってそれ利用してガニパったのかと思ったんだけど」

 「拾い物のメイスと盾、あと素手で倒しました」

 「お前すげーよ!アホちゃうかっ!」

 「レベルも今21らしい」

 「21?……21っ!!信じられない!ガニパ出現とか美味しいイベント喰らいやがって!何この不平等感っ!そだ、ガニパよ!ガニパ!あんたガニパの確定レアユニ拾ったでしょ?」

 「わかんのか?」

 「世界チャットで流れたわよ『※※※※がヴォーパルタブレットを入手しました』って!」

 「赤く光ってたけど、あれってレアユニの表示だったのかっ!!今回ガニパ確定でレアユニ落とすのか?俺、宝玉の方がレアだと思ってた!」

 「いいわ、後で全部鑑定したげる。私初期スキルで鑑定取ってるから。つっても、チャレンジだけしてスキルレベル上げして後は店鑑定になるけどね。でもヴォーパルタブレットならそれだけの価値があるわ」

 「やるとは言っとらんぞ?」


 キクはそれこそ意地の悪い笑みを浮かべて笑う。


 「私はね?欲しい物は絶対に手に入れるの。一緒にプレイしたあんたならわかってるでしょ?それに、私は今、そのヴォーパルタブレットが欲しいの。欲しいなう?おけー?」

 「らしくねえな。安く買い叩くなら、自分が欲しいっていうオーラ出したら足下見られるじゃないか」

 「他の連中なら、ね?あんたから今欲しいのはそれだけじゃないから、下手な小細工はしないことにしたの。ぶっちゃけ、今ある1mじゃ足りないくらいだもん」


 俺は顎に手をあて考える。


 「詳しく話を聞く必要があるな。このアマの性根は知ってるからあえて言おう。カスであると。そのアマが俺に手札を開示するとはどういう状況か」

 「あんた思考がダダ漏れよ?そんなに人のメンタルを攻撃するのが楽しいかこの屑野郎」


 おっと、いっけねえっと。


 「ふんむ。話だけでも聞こうか」

 「ヴォーパルタブレットの効果、知ってる?」

 「なんだったかなぁ……掲示板アクセス?」

 「そう掲示板アクセス。どの場所に居ても掲示板にアクセスできるの」

 「……そりゃ、情報掲示板にもか?」

 「もちろん。情報掲示板、通称『公式ウィキ』にもアクセスできる。うちのイリアに聞いたから間違いないわ」

 「別窓開けばいいじゃねえか」


 画面外で別のウィンドウを開いて掲示板を見ればいいだけの話だ。

 ゲーム内での効果といえば臨場感があるとか、せいぜいIRIAがウィキをさらって勉強してくれるくらいだ。

 俺は面倒だから使ってなかったけど。


 「それについては、後でじっくり、がっつり教えるわ。それでこれがどれだけ凄いかを。それと、今回、私、チャージしてくるの忘れたのよ。少し遊んでからでいっかなーと思ってたんだけど。ロクロータなら6万くらいチャージしてるかなって思って」

 「チャージ?課金か?2万くらいしかチャージしてねえよ」


 耳慣れない言葉にチュートリアが口を挟む。


 「かきん?」

 「……エルドラやファルミラじゃ『シード』って呼ばれる単位のお金だよ」

 「私たちの住んでた世界のお金で交換できるお金ね。ほら、神の加護のかかったアーティファクトと交換できる奴」

 「ああっ!シードですね!確か、2万入っているから……」

 「2万いきなりぶっ込んだらそういえばあんた課金特典あるんじゃないの?」


 キクに言われ、俺はそういえば確かにと納得する。


 「だが、受け取り場所がわからん。探してるんだがどこで貰えるんだ?」

 「そんなのそこのイリアから貰えるわよ!私だってハイロゥの特典、自分のイリアから貰ったわよ!」


 俺は驚き、チュートリアを見る。


 「ちょ!おま!なんでそんな大事なこと言わないんだよっ!」

 「し、知ってるかと思ったんですよっ!」

 「俺がどうして全裸でいることに疑問を抱かなかったっ!」

 「ぜ、全裸が好きな変態かと思って!」

 「殺す、絶対に殺す。わかってるだろうが簡単に死ねると思うなよっ!」

 「いやぁああ!いやぁ!さっきの話聞いてる限り普通に死ぬのよりこ、こわあぁああ!」


 泣き出して逃げようとするチュートリアの服の裾を掴み、俺はフシュルフシュルと怒りの吐息を吐く。

 だってそうだろう?

 課金特典の武器がありゃ、俺はガニパを素手で殴る必要が無かったって話じゃねえか!


 「それは後で殺すなり犯すなりして、今は私の話を聞いてよ」

 「お前もさらりと酷いな」

 「課金武器で両手槌あれば、譲って♪」


 可愛らしくウィンクするがキクに俺は怪訝な眼差しを向ける。


 「クレクレ君か貴様」

 「もちろん、タダでとは言わないよ。それも最後に話すわ。それと、要らない装備で私たち……私と私のイリアで使える物があれば譲って欲しい」

 「俺はとりあえずブレバ志望だから、軽装と盾、片手剣は必須だな。スイッチで両手剣も使う」

 「ブレバ?ソドマスやアサシンじゃなくてブレバなんだ。まあ、いいけど。あと、あんた自分のイリアの分、考えなさいよ?私は両手槌のバーバリアン系よ。鉱石採掘や鍛冶を考えるとどうしても、両手槌のボーナスが欲しいからね。軽装はあんたとかぶるからそこまでは要求しないわ。軽装なら自分で作ってスキルの肥やしにするから」

 「鍛冶やってくれるのは助かるな。お前の相方は?」

 「シャーマン。だから、杖かなぁ。ローブ系あれば欲しいかも」


 俺はふんむと頷く。


 「お前の要求はわかった。それでいいのか?」

 「あと、シードいくらあるの?」


 俺にはわかりません。

 俺は隣で震えてるチュートリアを見る。 


 「えと、えと、あの、その今は……2万6千シードあります」

 「何その6000って」

 「一括課金ボーナスだよ。どこでもあるだろうに」

 「丁度いいわ。その6000先行投資で私に頂戴」

 「いきなりだなー。何に使うんだそんなに」

 「拡張インベントリに使う。インベントリを最大にしておかないのは私みたいなプレイヤーには死活問題だから」

 「それっくらいなら自分でチャージすりゃいいのに」

 「それがね、クレカ持ってないからできないの。私再現なく突っ込んじゃうから一度預金酷いことになってね。それからウェブマネー払いにしてたから」

 「なら、ログアウトして課金してくればいいじゃねえか」


 俺は、そこでキクからさりげなく重大なことを聞く。


 ――俺は、正直、これまでエルドラドゲートをただのオンラインゲームだと思ってた。


 ――そう、この時までは。


 「何いってんの?ログアウトできないから、頼んでるじゃん」


  ◇◆◇◆◇◆


『チュートリアの日記』さんがつにじゅうよっか つづき


 へんたいさんはろくろーたというらしい。

 きくさんというひととしりあい、らしい。

 きくさんもろくろーたさんもわたしのしらないことをいっぱいしっていてすごいなとおもいました。


 だから、だいじょうぶだとおもったんです。

 だから、おはなししてなかったんです。


 かれらはもとのせかいにかえることを『ろぐあうと』とよんでるらしいです。

 わたしはせつめいしました。


 ろくろーたはものすごくおどろいたかおで、こわがってました。

 あれだけつよくても、こわくなったりするのかとおもいました。


 そんなにこわかったんでしょうか?

 『ろぐあうと』できないっていうことが。 

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