お月さん
真っ黒な空に紺の色を塗り重ねたような夜の上に、まん丸く輝くお月さんが嬉しそうに浮かんでいます。
ぷかりぷかりと浮かぶのではなく、止まっているかのようにのんびり浮くのが好きなお月さんでした。
「やあお月さん、いい天気だね」
「やあ一等星さん、夜の晴れはなによりきれいだ」
お月さんの大好きなお友達、一等星さんが、夜空にぼうと青白くきらきら光って浮いています。
「ねえお月さん。これから毎夜、隣同士で浮いていようよ」
「うん、いいよ」
仲良しの二人は、毎晩夜空に浮かびます。
次の夜、お月さんが浮かんでいると、隣の一等星さんがお月さんに言いました。
「ねえお月さん。満月のほうがきれいだよ。これから毎夜、満月でおいでよ」
「うん、そうするよ」
次の夜から、お月さんはきれいな満月になって浮かびます。
並んで浮かぶ一等星さんは、嬉しくてきれいに光っています。
ですが、お月さんは半月や三日月や、ときには光らない夜だって恋しくなります。好き勝手に欠けさせながら、のんびり浮かぶことも、お月さんは大好きなのです。
でもお月さんは、一等星さんが大好きでしたので、我慢をして毎日丸く輝きました。
ある夜、ほうき星さんがお月さんに話しかけます。
「お月さん。毎日毎夜、満月ではつまらない。ぼくは三日月が好きなんだ」
「なにを言うんだ、お月さんは満月がいちばん光っているのに」
一等星さんはほうき星さんを追い払いました。
金星さんがお月さんに尋ねます。
「毎日毎夜、光ってばかりで飽きないかい? たまには休むこともすてきだよ」
「なにを言うんだ、お月さんは満月がいちばんきれいじゃないか」
一等星さんは金星さんに怒りました。
お月さんは、なんだか言葉が浮かびません。
夜の終わりに、一等星さんはお月さんに笑いかけます。
「お月さん。明日も一緒に光っていようよ」
「もちろんだよ」
お月さんは、一等星さんが大好きなので、決して嫌ではありませんでした。
しかし、毎晩きれいな満月でいたお月さんは、疲れきってしまいます。
次の日の夜、お月さんは光ることができませんでした。
ぽつんと一人きりで浮かんでいた一等星さんは、お月さんがいないので、悲しそうに怒ってしまいました。
「なんだい、一緒に浮いていようと約束したのに!」
次の夜、お月さんは夜天にぽつりと寂しそうに浮かんでいます。
怒った一等星さんは、夜空のどこにもいなかったのです。
「ああ、なんてことをしてしまったんだろう。約束を破ってしまうなんて」
お月さんは一人きりの夜空で、とても苦しくなりました。
きれいに晴れた夜空の下で、お月さんは、湖に浮かぶ丸い光を見つけます。真っ暗な水面にぽつりと浮かぶ満月は、水面で楽しそうに揺れていました。
「ああ、湖面の月がうらやましい。あんなふうに浮かんでいられたら、どんなに楽しかっただろう!」
「お月さん、なにを言っているのです。湖面に映っているのはお月さんです」
湖がざわざわと大きく笑って、湖面の月がばらばらに波打ちます。
お月さんは気づきました。
お月さんは、夜ごとに色々な姿でのんびり浮かぶのが、一等星さんと同じくらいに大好きなのです。
次の夜、お月さんは一等星さんに言いました。
「一等星さん、毎夜一緒に浮かぶことはできないよ。休んだり、輝いたり、休んだり、輝いたり。好きなように、のんびり浮かぶのが大好きなんだ。けれど、一等星さんと一緒に浮かぶことも大好きだ。満ち欠けを数えながら一緒に浮かぼう、わけても満月のときは、必ず一緒に浮かぼうよ」
一等星さんは、お月さんのお願いを聞いてくれました。一等星さんも、お月さんが大好きだったからです。
それからです。お月さんが毎晩違った姿をしたり、時には朝にも浮かんでいたり、自由に浮かぶようになったのは。