#8
家に着いた頃にはもう空は闇に包まれて居て、私は途中コンビニで買ったお弁当を床に広げて食べた。
携帯電話には何件かのメールと着信が入っていた。
お弁当を食べ終わって、床に寝転がりながらテレビの電源を付けた。
適当に付けたチャンネルでは恋愛ドラマがやっていて、ずっと付き合っていた仲良しの恋人が別れ、それぞれ違う道を歩み始めるのだけど、日が建つにつれてお互いの大切さに改めて気付く、と言うような内容のドラマだった。
「ミカちゃん…」
私はふとあの電車に居た女子高生の事を思い出した。
疲れたとか、詰まらないとか、飽きたなんて理由で簡単に人との繋がりを断っちゃダメな気がする。もっと大事にしなきゃ、人との繋がりをさ。
最終回だったドラマは、ミカちゃんが予想していた通りに、二人はよりを戻して終わっていった。
悔しさや寂しさや切なさが込み上げてきて、少しだけ涙が出た。
そして少しだけ前田遼平のことを思い出した。
思い出して、すぐに掻き消して目を閉じて眠った。
私は前田遼平のことがとてもすきだった。
前田遼平と別れてまだ全然時が経っていないのに、私の心は空洞化していて冷たい空気が通り抜けて寒い。
私は前田遼平のことがとてもすきなのだ。
前田遼平も今こんなことを思っていてくれたらいいな、なんてことを考えて私は思い出した彼の残像を蘇らせないように空洞化した心から追い出した。
すきだったんだ、と自分に言い聞かせながら。
朝、電話の音で目が醒めた。着信メロディが静かな1DKの部屋に響きわたる。
私はくっついた目を無理やりこじ開けながら携帯を探して電話に出た。
「もしもし?すみれか?」
電話越しに聞こえたのは友人であるそうちゃんの声だった。
「お前昨日あいつんち行ったんだって?あいつが言ってたよ~すみれが一瞬帰ってきた、って!」
心臓がびくんとなって空洞化した心が穴を縮めて元に戻っていくような感覚になった。
あいつとはきっと、あいつのことだ。
「なんだかんだ言ってさ、お前らまだ好き同士なんだろ?さっさとより戻しちまえよな~」
そうちゃんはいつものノリでそう言った。私はそうちゃんのことがあんまり好きではなかったけれど、今日はなんだかホッとした。
私は「ありがとう、そうちゃんも奏恵ちゃんと仲良くね」そう言って電話を切った。
私はお気に入りの服に着替えて、お気に入りのあのキーケースを持って家を飛び出した。
こんなことするつもりなんて無かったはずなのに、なんでだろう、気が付いたら、そうしたいと思っていた。