#6
姿の見えない携帯電話を、私は少し焦りながら探した。
クローゼットの中、引き出しの中、タンスの中、ゴミ箱の中…まるで本物の泥棒になったように、私は夢中でワンルームの部屋をあさった。
あちこち探している内に、出てくる思い出の品。2人で写っている写真とか、色違いで買った前田遼平用の紫色のマグカップとか、一緒に集めたマンガとか、私が居た頃と何も変わりのない風景に、やっぱりまた涙が出た。
滲む目線の先には、テレビの横に置かれたくまの絵の描かれたマグカップの中に入っている薄いピンク色の携帯電話が見えた。
このマグカップは、私がいつも携帯電話を入れていたマグカップだ。
さらに滲む目線の先に、ガラスのミニテーブルの上にココアの入った色違いのマグカップを置いて、並んでテレビを見る前田遼平と私の姿が見えた。
「ホワイトタイガーの赤ちゃんだって~行きたいね、動物園」
「そうだね~俺は爬虫類コーナーに行きたいよ」
「うげ~あたし無理~」
「なんでよ、可愛いじゃん」
「信じらんないわ」
「まぁ、いいけど。あ、携帯鳴ってますよお嬢さん」
「ん~取って~届かない~」
「ったく…あー!」
「ココアこぼしたー!」
「わっわっあっちい」
「楽して取ろうとするから~あはははは」
「だったらお前が取れよ~ははははは」
ばかー お前のがばかー
あほー お前のがあほー
でもすきー 俺もすきー
壁に掛けられた私の好きなキャラクターのカレンダーの今日の日付に、前田遼平の字で「バイト13時~17時まで」の書き込みを確認した後で私は時計に目をやった。
シンプルな時計は16時45分を指していた。
私は綺麗に揃えておいた靴を履き、左手に薄いピンク色の携帯電話を握って、右手で前田遼平が住むワンルームの部屋に鍵をかけた。