#4
電車の中は思ったよりも空いていて、私は窓側の席に迷わず座った。
1人で大きな段ボールを抱えて電車に乗ったあの時も、この辺りの窓側の席に座って、こうやって窓からの景色を見ていたっけ。
微かに窓に写る私の表情がなんだか泣きそうで、私は慌てて窓から目線を逸らした。
それから私はあるはずのないワンピースのポケットを探した。
「あっ…」
口をぽかんと開け、しまったと思った。
今日1日の計画を書いたあのスケッチブックの切れ端を、私は最初履いていたジーンズのポケットに入れたままにしてしまっていたのだ。
あの時、スケッチブックに何を書いたんだっけなと私は頭をうんと悩ませた。
「まぁいいか…」
私は微かに呟いて、また窓からの景色に目をやった。
まだ寒い景色の中にも、迷い込んだ春が見えた。
春色のワンピースを着ていたら、なんだか春を探しに来た子どもみたいな気分になって、私は少しわくわくした。
3つ目の駅に着いて、私は電車を降りた。
この駅から南にずっと歩いて行くと、前田遼平が住んでいるあの小さなワンルームの部屋があるアパートに着く。
駅を出る前に見た時計は13時10分を指していた。
予定では、前田遼平は今バイト中だ。
前田遼平は写真屋でバイトをしている。
写真の現像を行ったり、証明写真を撮るのが彼の仕事らしい。
カメラ好きの彼には幸せなバイトなのだろう。
私は何度か前田遼平のバイト先に出向いたことがあった。
その写真屋の近くには小学校があって、そこの小学生たちに「写真屋の兄ちゃん」なんて呼ばれて、はにかんでいたっけ。
私はくすくすと思い出し笑いをしながら、ゆっくりと南へ歩いて行った。
冬のような春のような太陽の陽射しが私をジリジリと照らしていて、私は思わず目を細めながら街の景色を見渡した。
駅から直ぐ近くにあるこのコンビニも、あの木の陰に隠れた喫茶店にも、あの今にも崩れそうな駄菓子屋にも、私は前田遼平とよく来ていた。
そんな2人の思い出が詰まったこの街に、また足を踏み入れるなんて思ってもいなかったから、私は少し変な気持ちになった。
南に突き進んで行く内に街中から少し外れて住宅街が見えてくる。大きな家や、古びた下宿アパートや、小さな公園に混ざって、私が以前、前田遼平と住んでいたあのワンルームの部屋のアパートがある。
クリーム色の壁に、錆付いた螺旋階段のそのアパートは、ほんの1日前まで私と前田遼平のお城だった。今はもう、違うのだけど。
私は見慣れすぎたその住宅街をゆっくりと見上げながら歩く。
この大きな家の出窓には置物のようにピッタリと止まったままこちらの様子を伺う猫がいたなぁとか、この下宿アパートの大家さんに何故かたくさんのお菓子を貰ったことがあったなぁなんてことを、まるで1年くらい前の出来事のように思い返した。
そして私は小さな一軒家の隣に建つ、私と前田遼平のお城だった小さなクリーム色の壁のアパートに辿り着いた。