#5
「俺ちょっとだけ寝るわ。明日は朝早いし」
「雑誌の取材だっけ?」
「そうそう」
「ゆっくり休んで」
「うん、ありがと、おやすみ」
「おやすみ」
隣の部屋へ消えてゆく恭介の背中はやっぱりどう見たっていつもの恭介の背中でしかなかった。
私は小さくため息をついて、今日のお昼にこっそり録画しておいた恭介たちのバンドが出ている番組を見た。
『今日のゲストはリグレットの恋人でーす』
静かな部屋に彼らのインタビューの声が小さく響く。
恭介のしゃべり声が聞こえる。いつもの恭介のしゃべり声が、聞こえる。
『下積み時期が長かったみなさんですが、どうですか?いまのインディーズシーンで最も注目されているバンドですよ?』
『いやー本当にありがたいですね』
『人気出てきたって実感するときとかってあります?』
『やっぱりライブやってるときですかね?最初の方は友達とかしか来てくれてなかったライブに、全然知らないお客さんも来てくれるようになって、あー俺たちもついにここまで来たのかー!って』
彼らは高校生のときからバンドを組んでいて、大学生になってから本格的に活動をし始めた。
学校に行きながら曲を作って、ライブをして、ライブ会場でデモテープやらデモCDを無料でプレゼンとして、路上で弾き語ってみたりもしていた。
そうやってるうちにどんどん良い噂が広まって、友達の友達、そのまた友達ってどんどんリスナーが増えていって今に至る。