#3
「いま、恭介たちレコーディング中なんですよ」
「ほう、新しいアルバム発売するのかい?」
「まだきっとずっと先の話ですけどね」
「でもこの間のシングルはすごく良かったよ」
「でも春にあの歌詞はちょっと…」
「でもあんな歌詞をあんなにポップに歌えるんだから、彼らはすごいよ」
店長さんは何かと恭介たちのバンドを気に入っていて、たまにお店でもかけてくれる。
お店の雰囲気にはあんまり合わない曲調だけど、構わずかけてくれるところ、店長さんの良いところだと思う。
「新しいアルバム出たら、私持ってきますね」
「じゃぁ、またお店でかけようか」
「このお店にあのバンドは合わないですって」
「でも良い曲じゃないかー」
店長さんは優しそうな顔で大きく笑った。
13時から始まったバイトは18時で終わり。
交代のバイトの子が来て、私は家へと向かった。
夕焼けが沈んで、あたりには薄紫の世界が広がっている。
「恭介たち、まだやってるのかな…」
いつもならこんなことはしないけど、私は彼らがレコーディングをしているスタジオに足を伸ばした。
恭介たちがレコーディングしている姿って、いま思えば見たことない気がする。
少しだけドキドキしながら、いつか私もレコーディングするであろうスタジオに向かう。
小さなビルの地下にそのスタジオはあって、私は受付の人に言って中に入らせてもらった。
ドアについている窓から、中の様子をちらりと見てみる。
アットホームな空間を想像していたけど、そんな想像は一瞬で壊された。
みんなから何か冷たい空気が出ていた。ピリピリした雰囲気だ。
ここに居ちゃいけない、と、なぜかそのとき思った。
私は中に居るみんなに気づかれないようにその場を去った。
私、あんな場所で、うたなんてうたえないよ…!