#2
「あーちゃーん」
「あ、光輝くん」
「どっか行くの?」
「これからバイトなの」
「バイトかぁ大変だね」
「ううん、全然楽しいよ!他にやることないし、良い暇つぶしって感じ」
「そっかそっか」
「今からレコーディングでしょ?」
「そうなんだよーちょっと遅刻なんだけどね俺」
「はやく行かなきゃじゃん!」
「恭介怒ると怖いからな~…じゃあ急いで行ってくるわ」
「いってらっしゃ~い」
光輝くんは恭介と同じバンドのメンバーでベースを弾いてる。
なんていうか、結構適当な人間。
私は家の近所の喫茶店でバイトをしている。
自営業の喫茶店で、すごく雰囲気がいい。
だけど小さいし、目立たないところにあるから、お客さんはあんまり来ない。
暇すぎず忙しすぎず…そんなちょうどいい環境で私はもう2年近く働いている。
「あっちゃん暇かい?」
「そうですねー…お客さんいませんもんね」
「だよねぇ…」
「でも良いですよね、ここの雰囲気。2年働いてますけど、飽きないですもん」
「そう言ってもらえるとすごく嬉しいねぇ」
「常連のお客さんも、きっと私と同じ気持ちですよ」
店長さんは温厚なおじさんで、すごくふわふわしている。
店長さんの雰囲気もお店に負けないくらいに落ち着く。
「彼氏とはうまくいってるのかい?」
「なんですかぁいきなりー!うまくいってますよ」
「そうかいそうかい。それは良かった」
「なんでですか?」
「いやね、この間恭介くんがお店に来てね、なんだか落ち込んでた様子だったから、あっちゃんとケンカでもしたんかと思ってね」
「…そうだったんですか」
恭介はたまに私の知らないところで落ち込んでいるらしい。
バンドでのことなのか、私でのことなのか、わからないから少しだけ苦しい。
恭介は自分から弱音を吐いたりしない性格だから、なおさら不安になる。
だけど私も、その不安を恭介に言えない性格だから、きっと恭介も不安なのかな…。