#1
恭介はバンドを組んでいる。
バンドと言っても、パンクでもメロコアでもなくて、ロックと言えばロックのような気もするけど、だけど曲調はすごくポップで可愛らしくて、歌声だってやわらかい。
だからなのか、女の子のファンが多い。
ちょっと妬けちゃう。
「きょーすけー」ってみんなが呼ぶと、恭介よりも私の方が先に反応してしまう。
もう条件反射みたいに。パブロフの犬みたいに。
「できたー!」
「できたの?」
「できたできた!超良い歌詞ができた!」
「うたってみてー」
「まだ曲付けてないからダメ~」
「えー、いじわる」
「曲付けたら聴かせてあげる」
恭介は作詞作曲を手掛けている。恭介は天才だと思う。
だってこんなに良い曲を作れるのだから。
「今回の曲でね、女性コーラス入れたい部分があるんだ。そこ、あきほがうたってくれる?」
「え?私が?」
「そう、あきほが」
「プロじゃなくていいの?」
「だって俺たちもプロじゃないもん」
「プロだよ!きょーすけたちは十分プロだよ!」
「気分はまだまだアマチュアだよ」
恭介たちのバンドはなかなかの人気がある。
マニアックだってよく言われているけど、そのわりにファンは多い方だと思う。
「お願い!あきほにやって欲しいんだ!」
「う~…わかった、がんばってみるね」
「まじで?ありがとう!」
恭介の笑顔には勝てない。
だって、本当にうれしそうに笑うから…。