#1
2階の講義室から4階の講義室へと移動する。
蒸し暑い廊下の階段を汗をかきながら上る。
「今日も暑いね」
「本当だね~」
そう言いながら、俊ちゃんは背負っていたリュックの中から去年の大学祭のうちわを出して私の顔をあおぎ始めた。
「や~!前髪オールバック~!」
「わはははは!うらちゃんだせ~!」
「私もあおいだげるー」
お互い交代であおぎながら4階にたどり着く。
講義室では、また隣同士に座る。窓側は空いてなかったから、廊下側に座った。
今度はさっきと違う教授が芸術について熱く力説をする。それもあんまり耳に入ってこなかった。
私は頬杖をつく俊ちゃんに夢中だった。
芸術について熱く力説する教授の声をBGMに、私は俊ちゃんのうとうとした表情を見ながら一緒にうとうとした。
うとうとしながら、私は夢の世界へと向かっていた。
「うらちゃん」
俊ちゃんの声が聞こえる。
私の名前はうらら。女の子。俊ちゃんはそんな私をうらちゃんと呼ぶ。
「うらちゃん、今日家くる?」
私はよく俊ちゃんの家に行く。
ご飯を作るのは私。俊ちゃんの好きな料理はハヤシライス。簡単だから、すぐに作ってあげられる。
私は俊ちゃんがだいすき。
俊ちゃんは私のことだいすきなのかな?
私は不安だった。
俊ちゃんは私に一度だって「すき」と言ったことがない。
告白したのも私から。
「ずっとすきだったんだ、今もずっと」に対しての返事は「ありがとう、僕もそう思ってたよ」。
あっけらかんだった。「僕もすきだよ」とか本当は言ってほしかったのに。
俊ちゃんはいつだって「うらちゃん」しか言わないし、私が「すきだよ」って言っても「うん、僕も」しか言ってくれない。
私は俊ちゃんの愛がほしい。
俊ちゃんからの「愛してる」の言葉がほしい。
「うらちゃん、うらちゃん!」
私は目をゆっくりと開ける。
開いた目の前には俊ちゃんの顔があった。