愛してると呼んで
ねぇ、お願い
愛してるって呼んで?
夏は嫌いだった。
暑くてイライラする。
「うらちゃん、海、行きたいねぇ」
「連れてってくれるの?」
「ん?免許取るまで待っててくれたら連れてってあげるよ?」
「う~ん…じゃあ待ってる」
宇宙についてを熱く力説する教授の話はあまり聞こえてこない。
暑いと、なんだか頭がぼんやりとして力が出ない。
隣に座る俊ちゃんも私と同じで夏が苦手。暑い日の彼は異常に女々しくなる。
窓側の席に座る私たちは、窓を全開に開いて講義を受ける。
だけど今日は無風と言ってもいいくらいに風のない良い天気だった。
「俊ちゃん、宇宙連れてって?」
俊ちゃんとの会話が途切れないように、私はとっさに話題をふる。
本当はそんなに宇宙に興味はなかったけど、なんとなくとっさに出てきた単語が宇宙だったのだ。
「宇宙~?うらちゃん宇宙行きたいの?」
「行きたい行きたい!」
「じゃあ宇宙飛行士目指そうか」
「それは無理でしょ~」
「無理かぁ、だよな~あ」
俊ちゃんは頬杖しながらとろけそうな顔をしている。
私はそんな俊ちゃんのことがだいすきだった。
宇宙について熱く力説する教授の話は耳に入ってこなかった。
だけどこの蒸し暑い空間にぽつりぽつりと集まった学生たちの中に埋もれて俊ちゃんと隣同士に座っている今がなんとなく幸せに感じた。
「うらちゃん帰ろっかー」
講義が終わると、俊ちゃんは腕をうんと伸ばしてあくびをした。
「え、まだ今日の講義残ってるじゃん」
「さぼりだよさーぼーり」
俊ちゃんのこう言うところはあんまりすきじゃなかった。
少しだけ適当なところ。私はやることはちゃんとやりたい人だから、俊ちゃんみたいに適当にはやりたくなかった。
「だめだよーちゃんと出ないと」
「いーじゃんいーじゃん」
「だーめー」
「ちぇ~」
俊ちゃんはブスッとした顔で机に突っ伏した。
「俊ちゃん、怒った…?」
「ん~?怒ってないよ」
「本当に?」
「本当に」
俊ちゃんは突っ伏していた顔をこちらに向けてにこりと笑った。
俊ちゃんの横にある窓に目をやるとそこからは青空が広がっているのが見えて気持ち良かった。
暑いのは大きらいだけど、夏の風景はなんとなくすきだった。
「うらちゃん、移動しよっか」
「うん」