#2
目が醒めると、目の前にはまだジリジリとストーブの炎が燃え盛っていた。
私は少し冷えた体を無理やりお越し、うんと伸びをした。
ストーブのせいで空気は乾燥し、私はうまく咳払いをすることもできないくらいに喉を痛めていた。
窓からは淡い太陽の光が射し込んでいて、今何時なのだろうと私は辺りを見渡した。
当たり前にまだ壁には時計など掛かってはいなくて、私は段ボールの中から携帯電話を探した。
適当に詰め込んだ洋服や、前田遼平と色違いで買ったピンクのマグカップや、お気に入りの本や、趣味で絵を描いていたスケッチブックなんかが次々と冷たいフローリングに投げ出されていく中で、私は携帯電話を見付けることが出来なかった。
頭をフルに回転させて、あの小さなワンルームの部屋を私は思い出した。
その小さなワンルームの部屋には充電器に繋がれた私の薄いピンク色の携帯電話がベッドの上に置かれていた。
私は面倒くさそうに頭を掻いてこれからどうしようかを考えた。
前田遼平と連絡を取って携帯を返してもらうにしても、携帯が無いから連絡も取れない。
今が何時なのかもわからないまま私はただ茫然と座り込んでいた。
「面倒くさくなったなぁ…」
私はまた頭を掻いてこれからどうしようかを考えた。
新しい携帯を買うか…でも今の携帯に入ったデータを失うのはさすがに嫌だ。
考えても考えても良い方法は見つからなかった。
私は近くに投げ捨てていたキーケースをちゃりちゃり触りながら、込み上げる苛立ちを抑えていた。
ふと私は触っていたキーケースに目をやった。
そこにはお互いが主張し合うようにぶつかる四つの鍵があった。
一つ目の金具に取り付けられた自転車の鍵。
二つ目の金具に取り付けられた実家の鍵。
三つ目の金具に取り付けられた小さなワンルームの部屋の鍵。
四つ目の金具に取り付けられた真新しい1DKの部屋の鍵。
革の生地に小さな花柄の模様が付いたお気に入りのキーケース。
今思えば、このキーケースは前田遼平がプレゼントしてくれたものだった。
私は物を直ぐ失くす癖があって、細々としたものは特に失くす確率が高かった。
そんな私のために前田遼平が買ってくれたのがこの小花柄のキーケースだった。
それは私の好きなブランドのオリジナルキーケースで、多分、とても高かったと思う。
そんなキーケースを見つめながら私はこんなことを考え付いた。
このキーケースに付けられた三つ目の鍵を使って、前田遼平の家に忍び込もう、と。