#8
「美佳~かーえろっ」
いつものように奏恵が言う。放課後は毎日のように私は奏恵と帰っていた。
「ごめん、今日ちょっと用事があって…」
「そうなの?じゃあそうちゃんに電話してみよっかな~!」
「そうちゃんってさっき言ってた人?仲良しなんだ?」
「さっきも話したじゃ~ん!ちょう仲良しだよ!」
「そっか、良かった」
「なにが良かったの?」
「奏恵に好きな人ができて、嬉しいの」
「美佳ぁ~ありがとぉ」
奏恵はキラキラしていた。
うらやましいくらいに、キラキラしていた。
いつもの場所に行く。昨日と同じ場所に。
「お待たせ」
小林将平が昨日と同じように黒い車の窓を開けて言う。
「おはよ」
「おはよ」
昨日と同じように適当に挨拶を交わして私は車の助手席に座った。
昨日と同じように。だけど、どこか少し違った。
私と小林将平を乗せた黒い車は、いつものラブホテルの道を進まず、違う場所へ向かっていた。
「どこ行くの?」
「窓の外、見てごらん」
冬は日が落ちるのが早い。もう空は闇に包まれていて、窓の外を見てもよくわからなかった。
聞こえたのは、波みたいな音。
「……海?」
「正解!」
暗闇に包まれた海は少しだけ紫色に見えた。
波の音が暗闇から押し寄せてきて、本当は少し怖かったけど、私は素敵ねと言った。
「美佳…」
車の中で、小林将平の唇が私の唇に触れる。
小林将平の息遣いが徐々に荒くなる。
「ん…っ」
「美佳…愛してるよ」
小林将平が26位の私を愛す。
今日は車の中で。
「…待って!」
「美佳?」
「私いやだ」
「なにが?」
「26位の女なんて」