#4
テーブルの上で携帯が鳴った。
奏恵からのメールだった。
〔魔女つかまらなくて合コン中止(T_T)魔女、彼氏いるらしい〕
私が開くその携帯の画面を隣で小林将平がのぞき込む。
「坂野からか?」
「魔女に彼氏いるからってフられたらしいよ」
「ははっ宮本やるじゃん!」
煙草に火を付けながら小林将平は笑った。それがまたちょっと切なかった。
そろそろ帰るか、と短くなった煙草を灰皿に押しつけて小林将平が言う。
私は小さくうなづいて、ベッドからおりて服を着た。
帰りの車の中で何を話したのか、あまり覚えていない。
ただ私は不意に、小林将平と初めて出会ったときのことを思い出していた。
こいつ嫌いだ、と思った、忘れかけていたあの日のことを。
あの日は肌寒い日だった。
ボブヘアの奏恵がまだロングヘアだった頃のことだ。
「美佳ー!今日あたらしい教師くるらしいよー!」
「こんな中途半端な時期に?」
「なんか、日本史の河島先生が病気して入院したらしくて、その代わりなんだって!」
「ふぅ~ん」
教師に興味は無かった。べつに好きな教師もいないし、教師なんてむしろ嫌いな方だった。
これから来る教師もどうせその辺の教師と一緒だろうと思っていたし、奏恵みたいにワクワクしながら彼が紹介されるのを待つわけでもなかった。
体育館に向かう途中、知らない男を見た。
目が合って、彼は笑って私に手を振った。私は彼に向かって軽く会釈をした。
体育館に響く校長の声が、知らない男の名前を呼ぶ。
男は校長に軽く会釈をしてマイクに向かった。
「小林将平です」
低くて綺麗な声が体育館に響く。女子生徒が少しざわめく。
だけど私は微動だにしなかった。
私はその辺の女子生徒みたいに若い教師にキャーキャー騒ぐほどバカじゃない。
私は、バカじゃない。
そう思っていたのに、しょせん私はその辺の女子生徒と同じだった。