#3
「魔女みたいなの、麻衣子は。男の子の前ですごいの、キャラが変わったり、声が変わったり、目が変わったり、しぐさが変わったり。麻衣子に落とせない男はいないよきっと」
「ははは、女なんてみんな魔女じゃないかぁ!男の前で変わらない女の方がレアな気がするよ」
「……私も魔女?」
「うーん…美佳は見習い魔女かな!下手だもんなぁ男に対するしぐさとか全部。まぁ、俺はそんな見習い魔女ちゃんがすきだけどな」
そう言ってニカッと笑う小林将平を独り占めしたかった。誰にもわたしたくなかったし、誰にも見られたくなかった。
同じクラスのあの娘にも、違うクラスのあの娘にも、学年の違うあの娘にも、私のよく知るあの娘にも、もちろん魔女にも。
ラブホテルに着くとすぐに私はテレビの電源を付ける。普通のテレビ番組を見る。
いつもなら小林将平も隣に座ってそのテレビを見ながら笑ったりしていたのに、今日は少し違った。
「今日はテレビ禁止」
小林将平はベッドに座る私を見下ろしながらテレビの電源をリモコンで消した。
「どうして?」
「美佳を愛したいから」
「……愛?」
彼の言う愛はいつものシンプルなメールではないのか?やさしく撫でる左手ではないのか?
彼は私を愛したことはなかったのか…?
そんな私の困惑した感情にもお構いなしに、彼は私に覆いかぶさる。あたたかい何かを私に与える。
初めてではないこの経験が、初めてのように感じた。
今までなんとも思わなかったこの行為を、初めて切ないと感じた。
相手が彼だったからなのか、それとも…。
「ごめん、いやだった?」
「……べつに」
私はかすれた声で言った。汗が冷えて寒かったからか、小さく泣いた後だったからか、あんまりわからなかった。
「美佳、愛してるよ」
「うん……」
いつもの言葉も、今日は切なくて聞きたくなかった。
愛してるなんて、嘘つき。