#2
放課後、奏恵は魔女を合コンに誘うって張り切って教室を出ていった。
私はそんな奏恵を見送ってからいつもの場所へ向かう。
学校からちょっと行ったところに、学校の人間はあまり通らない小さな道がある。
そこで私はいつも彼と待ち合わせをしていた。
空には明るい水色が広がっていて、薄い白い雲が煙のように泳いでいた。
私の口から吐き出されてゆく薄い白い息も雲の一部みたいに感じた。
「お待たせ」
小さな道の入り口に黒い車が停車した。小林将平だ。
「おはよ」
「おはよ」
適当に挨拶を交わして、私はその黒い車の助手席に座った。
彼の匂いをふわっと感じてまた胸がキュンとした。
「何処行く?いつものとこでいい?」
「どこでもいいよ」
いつものとこ とはラブホテルのことだ。彼はラブホテルが好きだった。
別に何をするわけでもなく、目的もなくそこへ行く。
しゃべったり、わらったり、私はそれが幸せだと思っていた。
「今日さ、奏恵が彼氏欲しいってうるさかったよ」
「まじ?坂野かわいいからすぐできんじゃん?」
「ははっ、でも奏恵は良い娘だから良い人に出会ってほしいよ」
「美佳は友達思いだなぁ」
小林将平は運転をしながら左手で私の頭を優しく撫でる。
それにまたキュンとする。
「普通だよ」
「普通って難しいじゃん?美佳はすげーよ」
照れた顔は恥ずかしいから見せない。
私は窓の外を見つめながら小さく頬を赤らめた。
「奏恵きょう合コン行くんだって」
「美佳も行くの?」
「誘われたけど断った!魔女と行くらしいよ」
「魔女?」
「宮本麻衣子」
「…宮本が魔女?」
小林将平は疑った顔で私に聞いた。
宮本麻衣子が魔女なことは彼にとってとても理解できないことだったんだと思うし、他に理由があることも私はもう知っていた。
だけどためらうこともなく、私は宮本麻衣子について話をした。