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#4


「きららー!!」


朝から元気な声を聞く。

明日香、いいことでもあったのかな。


「おはよう明日香」

「おっはよう!」

「何かいいことでもあったの?」

「それがさぁ!昨日先輩と電話しちゃったさ!」

「本当にー!?」

「なんか最初はメールしてたんだけど、メール打つの面倒だから電話にしようかってなって」

「いーなー」

「でも、きららも昨日会ったんでしょ?」

「そう!会っちゃったの!」

「あたしはさぁ、先輩4年生だからあんまり学校来ないんだよね。だから会えるきららが羨ましいよ」

「そっかぁ…。でも連絡取ってるなら、会おうと思えばいつでも会えない?」

「そうなんだけどさぁ…」

「そこシャイになっちゃだめだよー」

「だよね~」


私は例の彼に会うことができる。まぁ、偶然でしか会うことはできないけど。

だけど明日香は先輩と電話ができる。メールだってできる。いくらでも仲良くなれる。

そんな明日香が、私は羨ましい。


人それぞれに悩みがあって、人それぞれの恋があって、それには満たされている部分と満たされていない部分がある。

当たり前だけど、なんだか不思議で、それでいて切ない。


「すべてが満たされればいいのにね」

「満たされなくたっていいよ」


明日香の表情は切なくもなく、爽やかでもなく、なんでもない表情だった。


「満たされちゃったら、そこで終わり。満足して、きっと無関心になる。もう何も求めるものがなくなってしまったら、もうそれはきっとさよならの合図なのかもね」


明日香はたまにすごく大人っぽいことを言う。

普段から大人な雰囲気は出ているけど、その雰囲気はふわふわした大人で、そんな明日香からこんな言葉が出てくるなんて想像できないくらいだ。

私の周りはみんな大人で焦る。私は一人で取り残されていないだろうか…。


「ちょっとトイレ行ってくる」


明日香は私が明日香のことを大人だなぁなんて思っていることや、明日香に少しだけ憧れていることや、明日香を少しだけ羨ましく思っていることなんて知らないんだろうなぁ。

そんなことを考えながら、女子トイレの前で私は明日香の帰りを待っていた。


「リグレットの恋人ってさぁ、直訳したら何?」


私は無意識に声のする方を見た。

リグレットの恋人は私のすきなバンドだった。


「直訳したらー…後悔の恋人?」

「なんか意味深だな」

「あいつららしいよ」

「だなー」


私の目の前を通り過ぎる男2人。1人は黒髪の短髪で、野球でもやってそうな体格。

もう1人は…例の彼。私の気になる、例の彼だった。


私は急にいま自分が立っている場所に恥ずかしさを感じた。

なんか彼がこっちを見ていたような気がするし、それに少しだけ笑いかけたような気もした…。


「なんかトイレって恥ずかしい!!!!」


心の中で叫びながら、私はその場から少しだけ遠くに離れた。

トイレから出てきた明日香がきょろきょろと私を探す。


「あ、ごめんごめん。ありがと待っててくれて」

「う、うん…」

「なしたの?」

「また、会っちゃった…」

「うそー!やったじゃん!」

「私のすきなバンドの話してた…」

「いいじゃんそれ!趣味合うんじゃん!」


彼と私はどうやらなんとなく趣味が合うらしい。まだ、はっきりとはしていないけど。

リグレットの恋人なんてマニアックなバンド、この大学で知ってる人がいたなんて信じられなかった。

しかもそれが、私の気になる彼だなんて、さらに信じられなかった。


リグレットの恋人は私のすきなバンド。どこがすきなの?って聞かれてもきっと説明できない。

なんでか彼らの作る音楽がすきで、なんでか彼らから目が離せなくて、なんでか彼らの音楽を聴いてしまう。

これって、なんだか恋に似ている気がする。以前、明日香が言っていた恋の感覚に…。

そんな私のだいすきなバンドを、私の気になる彼もすきで、そしてそんな気になる彼を、私は見つけた。

それはすごく偶然で、そしてそれはすごい巡り合わせで、なんだか今なら運命の出会いってやつも信じられそうな気がした。


「次会ったら話しかければ?そのバンド私もすきですって」

「無理だよいきなりそんなことー!」

「だよねー私も無理だわ」

「でしょ?」


私はきっと、彼に話しかけることはできない。

だってとっても臆病で、とっても小心者だから。



「でも話してみたいでしょ?」

「そりゃぁ話してみたいよ」

「だったらいつかは、話かけなきゃね」

「うーん…いつか…がんばってみるよ」


話かけれるのだろうか。無理な気がする。

でも話かけないと始まらない。だけどやっぱり、無理な気がする…。



「きららー!」

「あ、うらちゃん」

「携帯なんども鳴らしたのにつながらないんだからぁ」

「えーうっそ、ごめんねぇ」

「いいけどさー見つかったし」

「どうしたの?急用?」

「今日、バイト入ってるんだけど、4講目が長引くらしくて行けないから、代わりに行ってくれる?」

「休めばいいじゃん」

「それが休めないのー」

「えー…しょうがないなぁ」

「ありがとーきらら!」


私はたまにうらちゃんのバイト先にバイトをしにいく。一卵性の双子だから、店長にバレたりはしない。

だけどバイト先のうらちゃんの先輩や友達や後輩にはなぜかバレてしまう。

やっぱり、私たちは似ていないのかもしれない。


「バイト行くの?」

「うん、そうなったみたい」

「双子ってなんだかラッキーだね」

「そうかなぁ」

「こうゆうとき、お互いを頼れるっていいなぁって思うよ」

「でも明日香にもお兄ちゃんがいるでしょ?私はお兄ちゃんが居るほうが羨ましいよ」

「あたしの兄ちゃんはダメだよ。全然しっかりしてないもん」


だけど明日香のお兄ちゃんはものすごくかっこよくてお洒落だ。

のんびりした雰囲気が私はすきだった。

恋とかじゃなくて、お兄ちゃんとしての憧れみたいな、ね。



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