#3
家に帰ってからも、私は彼のことばかり考えていた。
彼はどんな人間なのかとか、好きな女の子のタイプはどんな子なのかとか、どんな音楽を聴いてどんな本を読んでどんな家に住んでいるんだろうなんて…。
そう言うことを考えているうちに、どんどんと私は彼をすきになっていた。名前も学部も年齢も知らない彼に…。
こうやって人は恋をするの?
それともこれが、私にとって素敵な恋の仕方なの?
なんだか違うような気もしたけど、私はこの感情を止めることはできなかった。
「きらら~ごはんだよ~…きらら?」
毛布にくるまって彼のことを考えていた私は、まったくうらちゃんの声に気づくことができなかった。
「きららー!なに寝てんのー!」
「わー!寝てないよ寝てない!」
「じゃぁなんでこんな毛布にくるまってんの」
「考え事ですー」
「あらそうですかーごはんだから下りてきなさいねー」
うらちゃんは可愛い。お花みたい。
私もお花みたいかな?
「今日は2人のだいすきなハンバーグよ」ってお母さんが言った声も「きらら、チャンネル取って」ってうらちゃんが言った声も、ぜんぶ曖昧に受け流して、私は彼のことだけを考えた。
一人暮らしなのかな。
ごはん食べてるのかな。
でも実家に住んでいる気がする。
そんなイメージがある。
あーかっこいい。
かっこいいー。
「…ら、きらら!」
「はいっ」
「何ぼーっとしてんの?具合悪いの?」
「ううん、悪くないよ。悪くないけど…」
「悪くないけど?」
「なんか、胸がいっぱいでお腹いっぱい…」
「なにそれー?」
大好きなハンバーグも喉を通らない。
苦しいわけじゃないし、吐きそうなわけでもない。
ただ、私の知らない感情が胸をいっぱいにして、なんだかお腹が満たされている気分になる。
「ごめん、もういいや」
「残すのー?」
「うん、明日食べる」
「ふぅん…」
「ごちそうさま」
私はハンバーグにラップをかけて冷蔵庫に入れてから自分の部屋に戻った。
ベッドの上にあおむけに寝転がって、今日のあの一瞬を思い出す。
「かっこよかったなぁ…」
「やっぱり恋ね?」
「わっ!なんで居るのうらちゃん!」
私のため息交じりの「かっこよかった」の言葉にニヤニヤしながらうらちゃんが部屋に入ってきた。
「なんかいつもと様子が違うから、ちょっと心配になっちゃって…。でもそっかー、恋かー」
「からかうなら帰ってよね」
「からかわないわよ」
「本当に?」
「うん、だって恋って素敵じゃない」
たった10分しか違わないのに、どうしてうらちゃんはこんなにも大人なんだろう。
振る舞いとか、人生観とか、考え方とか、全部がなんだか大人っぽい。私とは、大違いだなー…。
「どんな人なの?」
ベッドの横にうらちゃんが腰かけて私に聞く。
きれいで長い髪の毛がゆらりと揺れた。
「どんな人…まだわかんない」
「おなじ学部の人?」
「わかんない」
「え?もしかして一目惚れとか?」
「…うん」
一目惚れって、なんだか恥ずかしい。彼の外見しか見ていないような感じで、面食いって思われちゃいそう。
だけどしょうがないよね。だって、だって、気になっちゃうんだもん。
「その人、かっこいいんだ?」
「そりゃあもう、うんとかっこいいよ」
「はははっ、きららのかっこいいは私にとってもかっこいいだから、なんだか複雑な気分だなぁ」
「なんで?」
「妹のすきな人がイケメンなんて、なんだか悔しいじゃん?」
いくら私のすきな人がイケメンだったとしても、4年も俊ちゃんと付き合っているうらちゃんの方が、私よりも何枚も上手だよ。
「盗っちゃいやだよ?」
「盗らないよ!俊ちゃんいるもん」
「だよねー」
「だよー」
うらちゃんは可愛く笑ってベッドに寝転んだ。
それから少しだけ俊ちゃんの話をして、自分のすきな男の子のタイプを話合って、いっぱい共感してから眠った。
うらちゃんと私は一卵性の双子だから、きっと好みが似ているなんて誰も不思議に思わないけど、私には不思議で仕方がなかった。
いくら一卵性の双子で顔や体系が似ていたって、私たちは別の人間で、うららときらら。
どうしてこうも好みまで似てしまっているんだろう。