#1
2講目、少しだけいつもよりも周りを見るようにして講義を受けた。
同じ学部のはずなのに、何百人も生徒が居るせいで、まだ全然知らない人もいる。
窓際の席であくびをする人。
後ろの席で携帯をいじっている人。
隣の席の女の子と手紙交換をしている人。
1番前の席なのに堂々と居眠りしている人。
いろんな人がいろんなところで息をしている。
私の隣の席に座る明日香は、少しだけ寝むそうな顔でホワイトボードに書かれる文字をノートに写していた。
私はそんな明日香の横で、教室をちらちらと見渡した。
「おわったー!」
「お疲れ~」
「早く学食行こー!混んじゃうし!」
そそくさと明日香は準備をして教室を出た。
私はその後をちょこちょこと歩いてついていく。
廊下には何年生なのか、何学部なのか、全然わからない人たちで溢れている。
この人よく見るな~とか、この人この間も見たとか、そんな人もたまにいるけど、だけど大半は知らない人ばかり。
少し周りを見渡しただけで、こんなにもいろんな人に出逢えるなんて、なんだか得した気分になった。
「あ!明日香!あの人お洒落~」
「本当だ~!狙えば?」
「もー!すぐそっちに持っていくんだからー!」
「だって、きららにも早く恋してほしいんだもーん」
私だってすきな人を作りたい。
明日香みたいにキラキラと輝いてみたい。
すきな人のアドレスを知ってドキドキしたい。
でも、すきってなだっけ?
すきってどんな感覚だったっけ?
「明日香はさぁ、先輩をすきになる前はどんな人をすきだったの?」
「え~何?急に~」
「ん~?なんとなく~」
「あたしはねぇ…先輩をすきになる前は彼氏のことがすきだったよ」
「彼氏いたんだぁ」
「いたいた~、1か月前くらいに別れちゃって、でもしばらくはずっとすきなままだったなぁ…」
「どんなふうにすきだったの?」
「どんなふうに?」
「うん」
「う~ん…なんだろう。どうしても意識しちゃうって言うか、どうしても嫌いになれないし、どうしても許しちゃうし、どうしても良いなって思っちゃう感じかなぁ?」
「ふぅん」
「きららはそう思ったことないの?」
「あったよーな、なかったよーな…」
「恋の感じ方なんて人それぞれだから、きららにとっての素敵な恋ができるといいね」
「自分にとっての素敵な恋かぁ…」
私にとっての素敵な恋ってどんな恋なんだろうか。
いつか明日香みたいに「どうしても何かしてあげたい」とか「どうしてもこうしてしまう」っていうような感情が生まれてくるのかな。
学食に着いて、私たちは空いている窓側の席に座った。
あまりおいしくないミートソーススパゲティを口に頬張りながら私は窓の外を見た。
「あっ」
空気が止まった。
というか、一瞬だけど、息をすることができなかった。
「どうしたの?」
明日香のなんでもないような心配した表情も言葉も耳に入らない。
ただ、時間だけが、ゆっくりとスローモーションのように流れていた。