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第23話 二重に流す嘘と、本当に守りたいもの

エルドラの朝は、静かに“仕込み”が進んでいた。


表向きはいつも通り。


市場は開き、銀行には列ができ、

河川輸送も安定して動いている。


だが――


その裏では、すべてが意図的に“調整”されていた。


「ここを少しずらす」


俺――アルクは帳簿を指差しながら言う。


ロイドが頷く。


「利益率を落とすのか」


「一時的にな」


「“儲かってないように見せる”」


セリナが口元を歪める。


「露骨な罠だな」


「でも効く」


「効かせる」


今回の戦いは、力じゃない。


――情報だ。


「スパイは?」


俺が聞くと、ロイドが答える。


「まだ動いている」


「向こうに情報を流している」


つまり――


予定通り。


「いい感じだ」


―――


同日。


バルザード。


「報告です」


ミレイアは椅子に座ったまま、指先で机を軽く叩いていた。


「エルドラ、利益低下」


「物流コスト上昇」


「銀行利用も微減」


静かな報告。


だが内容は明確だった。


「……ほう」


ミレイアが目を細める。


「効いてる?」


「はい」


一拍。


「揺らいでいるように見えます」


その言葉に、ミレイアは少しだけ笑った。


「“見える”のね」


部下が一瞬だけ詰まる。


「……どういう意味ですか」


ミレイアは立ち上がる。


ゆっくりと歩く。


「簡単よ」


一拍。


「アルクがそんな簡単に崩れるわけない」


沈黙。


「つまり」


視線が鋭くなる。


「これは“見せてる”」


―――


エルドラ。


会議室。


「……読まれたか」


俺は小さく呟いた。


エリシアが腕を組む。


「相手も相当ね」


「だな」


だが問題ない。


むしろ。


「ここからが本番だ」


全員の視線が集まる。


「次は“二重に流す”」


リナが首をかしげる。


「どういうこと?」


「嘘の中に本当を混ぜる」


一拍。


「どっちを信じても、相手が損する形にする」


セリナが笑う。


「悪どいな」


「戦争だからな」


―――


その夜。


銀行裏の小部屋。


スパイの男が震えていた。


目の前には俺。


「……次の情報を流せ」


紙を渡す。


そこにはこう書かれていた。


――エルドラ、河川輸送に不具合

――三日後に一部停止予定


男が震える声で言う。


「こ、これ本当なんですか……?」


俺は答えない。


ただ言う。


「流せ」


沈黙。


そして男は頷いた。


―――


翌日。


バルザード。


「……来たか」


ミレイアが紙を受け取る。


目を通す。


そのまま数秒、沈黙。


「……面白い」


小さく笑う。


「罠ね」


部下が驚く。


「では無視を?」


「いいえ」


一拍。


「乗る」


空気が変わる。


「どういうことですか」


ミレイアは楽しそうに言う。


「罠でも、利用できるなら使う」


「輸送停止前に、一気に圧をかける」


つまり――


「短期決戦」


―――


エルドラ。


「来るな」


俺は静かに呟いた。


ロイドが頷く。


「全力で来る」


セリナが笑う。


「いいな」


「分かりやすい」


リナが俺の袖を掴む。


「アルク……」


その声には不安が混じっている。


だが今回は違う。


俺ははっきりと言った。


「勝つ」


迷いはない。


「今回で終わらせる」


―――


その夜。


温泉。


湯気が静かに立ち上る。


だが今日は少し違う。


リナが隣に座る。


かなり近い。


自然に寄ってきている。


「……アルク」


「ん?」


「最近さ」


少しだけ言葉を探す。


「ずっと危ないことしてるよね」


「まあな」


「怖くないの?」


一瞬だけ考える。


そして答える。


「怖いよ」


リナが驚く。


「え?」


「でも」


一拍。


「守りたいからな」


沈黙。


リナの手が、そっと俺の腕を掴む。


「……私も?」


小さな声。


だがはっきり聞こえる。


俺は少しだけ笑った。


「当たり前だろ」


その瞬間。


リナの顔が赤くなる。


距離がさらに近づく。


ほとんど寄りかかるような状態。


「……アルク」


その声は、少しだけ震えていた。


その時。


ツルッ。


「きゃ!」


もう様式美だな。


抱き寄せる。


距離ゼロ。


密着。


いつもより近い。


リナの呼吸が速い。


「……アルク」


「はい」


「今日のは」


一拍。


「ちょっとだけ、離れないで」


珍しく、はっきりした言葉。


そのまま、胸元に顔を寄せてくる。


温もりが伝わる。


数秒。


静かな時間。


「……ねぇ」


小さな声。


「終わったらさ」


一拍。


「ちゃんと話したい」


その意味は――


もう分かっていた。


その瞬間。


バシャッ!!


「混ざれ」


セリナだ。


「やめろ!」


「いいとこだったのに!」


セリナが笑う。


「分かりやすすぎるぞお前ら」


リナが真っ赤になっている。


でも――


少しだけ、離れなかった。


―――


バルザード。


「準備完了」


ミレイアが静かに言う。


「一気に崩す」


そして。


「アルク」


小さく呟く。


「あなたの“本気”、見せて」


戦いは。


最終局面へ入る。


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