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第16話 奪い合いの先と、新たな交渉者

エルドラの朝は、これまで以上に騒がしかった。


石畳の通りに、いつも以上の馬車が並ぶ。

荷台には布、香辛料、金属、見慣れない工芸品まで積まれている。


「場所開けろ!新規だ!」


「銀行どこだ!?」


「契約はどこでやる!?」


人の流れが増えた。

それも、明らかに“新規”の商人だ。


「……効いてるな」


俺――アルクは広場を見下ろしながら呟いた。


昨日打った手。


通行税撤廃。

資金貸付。

物流支援。


それが想像以上に効いている。


ロイドが隣で苦笑する。


「予想以上だ」


「バルザードの商人が流れてきてる」


「想定通りだろ」


「ここまでとは思わん」


リナがきょろきょろと辺りを見回す。


「人増えすぎじゃない?」


「増やしてるんだよ」


セリナが肩をすくめる。


「その分、敵も動く」


その通りだった。


―――


「アルク殿」


一人の男が近づいてくる。


見慣れない顔。


だが装いは一流。


仕立てのいい服。

無駄のない動き。


「バルザードの商人です」


来たか。


周囲の空気が少しだけ張り詰める。


ロイドの視線が鋭くなる。


セリナは一歩だけ前に出た。


男は落ち着いた様子で続ける。


「取引の話をしたい」


俺は軽く頷いた。


「場所を変えよう」


―――


会議室。


静かな石の部屋。


外の喧騒が嘘のように消える。


男は席につくと、ゆっくりと口を開いた。


「改めて」


「私はカイル」


「バルザード商会の一員です」


ロイドが小さく舌打ちする。


「幹部クラスだな」


なるほど。


ただの使いじゃない。


カイルは微笑む。


「率直に言います」


「エルドラは脅威です」


正直だ。


「だから?」


「提案です」


一拍。


「バルザードと組みませんか?」


沈黙。


リナが小さく「え?」と声を漏らす。


セリナの目が細くなる。


ロイドは腕を組んだまま黙っている。


カイルは続ける。


「争うより、利益を分け合う方がいい」


「あなたの技術と、我々の流通」


「組めば王国最大の経済圏になる」


魅力的な話だ。


間違いなく。


だが――


「断る」


即答だった。


カイルの眉がわずかに動く。


「理由を聞いても?」


「簡単だ」


俺は椅子にもたれたまま答える。


「主導権がそっちだから」


沈黙。


カイルは一瞬だけ黙る。


そして笑った。


「鋭い」


「だが誤解だ」


「対等だと言ったはず」


「言葉ではな」


一拍。


「でも実際は違う」


ロイドが小さく笑う。


「その通りだ」


カイルの目が細くなる。


空気がわずかに重くなる。


だが彼はすぐに表情を戻した。


「……ではもう一つ」


「何だ」


「このまま戦えば」


一拍。


「消耗しますよ」


静かな圧。


だが俺は動じない。


「その前に終わらせる」


カイルが初めて表情を崩した。


ほんのわずかに。


「……面白い」


立ち上がる。


「では、次は別の形で来ます」


「楽しみにしてる」


軽く手を振る。


扉が閉まる。


静寂が戻る。


―――


リナが一気に距離を詰めてきた。


「アルク!」


「ん?」


「さっきの人、なんか嫌!」


直感的だが正しい。


セリナが言う。


「完全に探りだな」


ロイドも頷く。


「次は圧力が来る」


俺は小さく息を吐いた。


「だろうな」


でも――


「問題ない」


全員の視線が集まる。


「次の手、打つ」


―――


その夜。


温泉。


湯気の中、少しだけ静かな時間。


だが。


「……アルク」


リナがやけに近い。


というか近すぎる。


「ん?」


「さっきの人と話してる時」


一拍。


「なんかムカついた」


セリナが笑う。


「嫉妬か?」


「違う!」


でも否定が弱い。


その時。


ツルッ。


「きゃ!」


もう様式美だな。


反射的に支える。


抱き寄せる。


距離ゼロ。


顔が近い。


息がかかる距離。


「……アルク」


「はい」


「これ絶対運命でしょ」


「違う」


でも。


少しだけ笑った。


リナも小さく笑う。


「……でも」


「嫌じゃない」


その空気を壊すように。


バシャッ!


セリナが湯をかける。


「混ざれ」


「やめろ!」


湯気の中で笑い声が響く。


だが。


その裏では。


確実に戦いが進んでいた。


―――


バルザード。


商会の会議室。


カイルが報告を終える。


「……なるほど」


上座の男が目を細める。


「交渉は失敗か」


「はい」


「だが確信しました」


一拍。


「あれは危険です」


沈黙。


そして男は立ち上がる。


「なら潰す」


静かな声。


だが決定的だった。


「物流を止めろ」


「資源もだ」


「干上がらせる」


戦争は――


次の段階へ進む。


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