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第13話 選ばれなかった者たちの末路

エルドラの朝は、以前とは比べ物にならないほど騒がしくなっていた。


石畳の通りには朝日が反射し、柔らかな光が街全体を包み込む。

露店の準備をする音、木箱を運ぶ音、遠くから聞こえる鍛冶場の金属音。


それらすべてが重なり合い、都市としての“鼓動”を作っていた。


「焼きたてだ!まだ温かいぞ!」


「塩はこっちだ、まとめ買いで安くする!」


「鉄製品、新型入ってるぞ!」


人々の声は絶えない。

通貨がやり取りされ、商人たちが値段交渉を行い、子供たちがその間をすり抜けるように走っていく。


銀行の前には、今日も長い列ができていた。


金を預ける者、引き出す者、帳簿を確認する者。

すべてが秩序を持って動いている。


「……本当に回ってるな」


俺――アルクは広場の一角からその様子を見つめ、静かに呟いた。


物資、金、人。


そのすべてが循環している。


一つでも欠ければ崩れる仕組みが、今は完璧に機能していた。


隣ではリナが満足そうに腕を組んでいる。


「でしょ!」


「だからお前の功績じゃない」


「精神的支柱!」


最近そればっかりだな。


だが――


その“日常”は、長く続かなかった。


「アルク様」


銀行の職員が、少し焦った様子で駆け寄ってくる。


「昨日の方々が……また」


その一言で、空気が変わる。


俺は小さく息を吐いた。


「……やっぱり来たか」


リナが俺の袖を掴む。


「昨日の人たち?」


「そう」


セリナが肩をすくめる。


「未練だな」


―――


街の入口。


そこには、昨日と同じ顔ぶれが立っていた。


だが、明らかに様子が違う。


服はくたびれ、目は落ち着かず、余裕がない。


昨日のような“見下す視線”は、どこにもなかった。


代わりにあるのは――


焦りと、迷い。


「……アルク」


リーダーが口を開く。


声が少し震えている。


「話がある」


俺は無言で頷いた。


リナとセリナが自然と左右に立つ。


まるで壁のように。


男は一歩踏み出した。


「俺たちを……雇ってくれ」


その言葉は、重く地面に落ちた。


周囲の空気が一瞬で凍りつく。


近くにいた商人たちが、思わず足を止める。


リナの手が、少しだけ強くなる。


セリナは静かに笑った。


「……へぇ」


低く、冷たい声。


「ずいぶん都合がいいな」


男が慌てる。


「ち、違う!」


「俺たちは戦える!」


「この街の役に立てるはずだ!」


必死だった。


でも――


その必死さが、すべてを物語っていた。


俺は一歩前に出る。


「一つ聞く」


男が息を呑む。


「なんで?」


「……え?」


「なんで、追い出した俺のところに来た?」


言葉が詰まる。


視線が泳ぐ。


答えは簡単だ。


失敗したから。


でもそれを言葉にすることはできない。


その沈黙を切り裂くように、声が響いた。


「見苦しいな」


ロイドだった。


商人ギルドの代表。


彼は元パーティーを一瞥し、淡々と続ける。


「昨日、市場で見た」


「動きが遅い。判断も鈍い」


「そして何より――」


少しだけ間を置く。


「価値がない」


完全な否定。


男の顔が引きつる。


「な……」


セリナが続く。


「この街は“選ばれる場所”だ」


「弱い奴は残れない」


さらにリナが言う。


「アルクは選ばれた人だから」


その一言で、決定的だった。


男たちは理解する。


自分たちが、どれだけ“外側”にいるのかを。


俺は静かに言った。


「悪いけど」


少しだけ間を置く。


「雇わない」


短い。


だが、それ以上に重い言葉はなかった。


男の肩が落ちる。


「……そうか」


その声には、すべてが滲んでいた。


悔しさ。

後悔。

そして諦め。


その時。


一人が顔を上げた。


「……なんでだよ」


絞り出すような声。


「なんでお前なんだよ」


俺は少しだけ考える。


そして、答えた。


「やったからだろ」


沈黙。


「やるかやらないか、それだけだ」


誰も反論できない。


できるはずがない。


やらなかったのは――


彼ら自身だからだ。


やがて。


彼らは何も言わず、背を向けた。


去っていく足音が、やけに重く響く。


誰一人、振り返らない。


振り返れない。


完全な終わりだった。


―――


夜。


温泉。


湯気が静かに立ち上る。


昼の喧騒が嘘のように、穏やかな空気。


リナが隣に座る。


少しだけ距離が近い。


「……アルク」


「ん?」


「さっきの」


少しだけ言葉を探す。


「……かっこよかった」


珍しく、素直だった。


セリナが向かいで笑う。


「珍しいな」


「素直だ」


「うるさい!」


その瞬間。


ツルッ。


「きゃ!」


リナが滑る。


反射的に腕を伸ばす。


抱き寄せる。


距離が近い。


息がかかる距離。


「……アルク」


「はい」


「近い」


「すみません」


でも。


少しだけ、離れるのが遅れた。


リナが小さく笑う。


「……でも」


「ありがと」


セリナが湯をかける。


「混ざれ」


「やめろ!」


また騒がしくなる。


でもそれが、今の“日常”だった。


―――


翌朝。


エルドラの外。


元パーティーの男たちは、黙って歩いていた。


誰も喋らない。


ただ一人が呟く。


「……終わったな」


誰も否定しなかった。


彼らはようやく理解した。


あの時の選択が、すべてだったことを。


そして。


それが、取り返しのつかないものだったことを。


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