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第12話 再会と、取り返しのつかない選択

エルドラの朝は、活気に満ちていた。


石畳の通りには朝日が差し込み、露店が次々と開かれていく。

焼きたてのパンの香りが漂い、商人たちの威勢のいい声が響く。


「新鮮な野菜だ!今朝採れだぞ!」


「塩ならこっちだ、安くしとく!」


「鉄製品、まとめ買いで値引きするぞ!」


人の流れは絶えない。

馬車が行き交い、荷を運び、子供たちがその合間を縫って走り回る。


銀行の前にはすでに列ができていた。

通貨を預ける者、引き出す者、取引の確認をする者。


すべてが“回っている”。


「……完全に都市だな」


俺――アルクは広場の端に立ち、静かに呟いた。


数ヶ月前、ここはただの荒野だった。


それが今では、王国でも珍しいほどの活気を持つ都市。


隣に立つリナが、誇らしげに胸を張る。


「でしょ!」


「だからお前の功績じゃない」


「精神的支柱!」


……そろそろ禁止にしたい。


その時だった。


街の入口の方から、ざわめきが広がる。


いつもの商人の声とは違う、どこか張り詰めた空気。


セリナが目を細めた。


「……来たな」


「何が?」


「面倒ごとだ」


嫌な予感がした。


俺たちは人の流れをかき分け、門の方へ向かう。


そして――


足が止まった。


「……アルク?」


聞き覚えのある声。


忘れるはずのない声。


視線の先にいたのは、かつての仲間たちだった。


リーダー格の男。

無愛想な剣士。

後衛の魔術師。


俺を“役立たず”と切り捨てた連中。


一瞬、時間が止まったように感じた。


「……久しぶりだな」


俺がそう言うと、男はぎこちなく笑った。


「お前……生きてたのか」


「まあな」


軽く答える。


けれど内心は少しだけ静かだった。


怒りも、悔しさも、もうない。


ただ――


遠い過去を見ているような感覚だけがあった。


男は周囲を見渡す。


石畳。

整備された街路。

行き交う人々。

そして溢れる活気。


その顔が、ゆっくりと歪んでいく。


「……なんだここ」


その一言に、すべてが滲んでいた。


理解できない現実への戸惑い。


信じたくないという拒絶。


俺は淡々と答える。


「エルドラ」


「俺が作った街だ」


沈黙。


元仲間たちの表情が凍りつく。


「……は?」


「嘘だろ……」


「錬金術で……?」


信じられない、という顔。


リナが腕を組んで前に出る。


「すごいでしょ!」


まるで自分のことのように誇らしげだ。


セリナは一歩前に出て、男たちを見下ろした。


「で?」


低く、鋭い声。


「追い出したんだよな?」


その一言で、空気が凍る。


男の喉が詰まる。


「そ、それは……」


言い訳を探すように視線が泳ぐ。


その時だった。


「アルク」


静かな声が割り込む。


振り向くと、エリシアが立っていた。


銀髪の監察官。


整った貴族の装い。


元仲間たちが一瞬で固まる。


「……貴族……?」


エリシアは淡々と言った。


「王国はこの街を正式な都市として認めました」


沈黙。


重く、逃げ場のない現実。


「都市……?」


「……は?」


言葉が追いつかない。


男たちの顔から血の気が引いていく。


さらに追い打ちのように、子供たちが駆け寄ってきた。


「アルク先生ー!」


「今日の授業どうするのー!」


俺の服を引っ張る。


元仲間たちの視線がそこに集中する。


「……先生?」


エリシアが補足する。


「この街では教育制度も整備されています」


完全に、言葉を失っていた。


彼らの知る“アルク”はもういない。


その現実が、目の前に突きつけられている。


やがて。


一人が、絞り出すように言った。


「……戻ってこい」


空気が凍る。


「お前の力があれば、俺たちも――」


そこまでだった。


セリナが一歩踏み出す。


「笑わせるな」


その声には、明確な怒気があった。


「都合よすぎだろ」


男が言葉を失う。


リナも、俺の腕をぎゅっと掴んだ。


少しだけ強く。


「アルクはもうここにいるの」


まっすぐな声。


「私たちの街に」


その一言で、すべてが終わった。


彼らは理解した。


完全に遅かったことを。


取り返しがつかないことを。


もう二度と、戻らないことを。


「……」


誰も何も言えない。


ただ沈黙だけが流れる。


その場を去る足音が、やけに重く響いた。


―――


夜。


温泉。


湯気が静かに立ち上る。


昼の喧騒が嘘のように、穏やかな時間。


リナが隣に座る。


少しだけ距離が近い。


「……アルク」


「ん?」


「平気?」


昼のことだろう。


少し考える。


でも答えはすぐ出た。


「もう、関係ない」


過去は過去。


今はここにある。


セリナが向かい側で笑う。


「いい顔してるな」


その時。


ツルッ。


「きゃ!」


リナが滑る。


反射的に腕を伸ばす。


抱き止める形。


距離が近い。


湯気の中、視線が重なる。


「……アルク」


「はい」


「今のは」


「事故」


少し沈黙。


そして小さく笑う。


「……でも」


「助けてくれてありがと」


その声は、やけに柔らかかった。


セリナが笑う。


「毎回それだな」


「運命か?」


「違う」


でも少しだけ、悪くなかった。


―――


翌朝。


エルドラの門の外。


元パーティーの男たちが立っていた。


誰も口を開かない。


ただ一人が呟く。


「……終わったな」


誰も否定しなかった。


彼らはようやく理解した。


自分たちが手放したものの大きさを。


それはもう。


二度と取り戻せない。


―――


エルドラは、さらに発展を続ける。


そして物語は。


次の段階へと進んでいく。

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― 新着の感想 ―
かつての仲間は、冒険者パーティーなのか?確か追放されたのは錬金ギルドだったよね。また別の話しなのか、どうでも良いけれどね。 テンポ良く話しが進み面白いです。
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