表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王女様の王国解体宣言~王女ですが、内部から王国を壊して作り直します〜  作者: 顔のない人間


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/19

第15話 模擬戦

 その日、学園の空気は妙に重かった。


 春の陽気のはずなのに、風が冷たい。  理由は簡単だ。


 ――学園の模擬戦が始まる。


 それは単なる授業ではない。  貴族の子弟にとっては、社交界への名刺代わりだ。


 誰が強いか。  誰が使えるか。  誰が危険か。


 そして――誰が、潰すべき存在か。


 訓練場の観客席には、教師だけでなく王都の有力者が顔を並べていた。  上級生たちも、腕組みをして下級生を見下ろしている。


 その視線の中心には、一人の少女がいた。


 エルミナ・ヴァレリオス。


 王女であり、先日の魔物討伐で名を上げた厄介者。


 ルシアは隣で、息を飲んだ。


 「……うわぁ、視線が全部王女様に刺さってる……」


 ノエルは淡々と答える。


 「当然です。殿下は注目される立場ですから」


 「注目っていうか、もうこれ……暗殺対象の空気なんだけど!?」


 ルシアが小声で叫ぶと、ノエルは視線を訓練場の端へ向けた。


 そこにいたのは、黒い外套を羽織った学園関係者――いや、生徒だ。  顔は半分、影で隠れている。


 だが、目だけが異様に光っていた。


 薄い笑み。  人間を見ている目ではない。


 ルシアは背筋が凍った。


 「……なに、あれ」


 ノエルの声が少し低くなる。


 「……気をつけてください。あの男、普通ではありません」


 ルシアはゴクリと唾を飲み込んだ。


 (嫌な予感しかしない……!)


 その時、教師が前に出て大声を張り上げた。


 「これより模擬戦を開始する!」


 訓練場がどよめいた。


 「本日は特別形式! 新入生代表として、エルミナ・ヴァレリオスが――」


 ルシアが目を見開く。


 「え、まさか……!」


 教師が続けた。


 「上級生代表と連続で戦う、“勝ち抜き戦”とする!」


 訓練場が爆発したように騒ぎ出した。


 「はぁ!?」

 「新入生が上級生と!?」

 「しかも王女が!?」


 ルシアは思わず叫んだ。


 「いやいやいや無理でしょ!? 死ぬって!!」


 ノエルは静かに言った。


 「死にません。結界があります」


 「そういう問題じゃない!!」


 ルシアの悲鳴を背に、エルミナは悠々と訓練場の中央へ歩いていく。


 その姿は、まるで散歩だ。


 (なんでそんな落ち着いてるの!?)


 ルシアが頭を抱えていると、観客席から誰かが囁く声が聞こえた。


 「……王女の化けの皮が剥がれるぞ」


 「所詮、噂だけの女だろ」


 「上級生の前では泣き叫ぶさ」


 その悪意を、エルミナは気にも留めない。


 むしろ――楽しそうだった。


 教師が合図を出す。


 「第一試合! 二年生、アーヴィン!」


 現れたのは、背が高く筋肉質な男子。  剣を抜き、堂々とエルミナへ向ける。


 「王女殿下。手加減はしませんよ」


 エルミナはにっこり笑った。


 「ええ。私も手加減しないわ」


 ルシアが叫ぶ。


 「いや、するべきでしょ!!」


 ノエルは真顔で答えた。


 「殿下は手加減という概念を嫌います」


 「嫌うな!!!」


 開始の鐘。


 ――ゴォォン!!


 アーヴィンが突進する。  剣を振り下ろす。


 普通なら避けるしかない。  だが、エルミナは避けなかった。


 代わりに、足元の砂を蹴り上げた。


 「っ!?」


 砂が目に入ったアーヴィンの視界が潰れる。


 次の瞬間。


 エルミナは剣の柄を叩き落とすように蹴りを入れた。


 カンッ!


 剣が弾かれ、地面に落ちる。


 「……え?」


 アーヴィンが呆然とする。


 エルミナはそのまま彼の背後に回り、首元に木剣を当てた。


 「終わりね」


 観客席が沈黙した。


 そして次の瞬間――


 爆発したようにどよめく。


 「は!?今の何!?」

 「砂!?砂を蹴っただけで!?」

 「え、二年生負けた!?」


 ルシアは震えた。


 「……いや、汚い! 王女様、汚い!!」


 ノエルは淡々と頷いた。


 「合理的です」


 ルシアが叫ぶ。


 「褒めるな!!」


 教師が咳払いをした。


 「勝者、エルミナ・ヴァレリオス!」


 そしてすぐに次が来る。


 「第二試合! 三年生、レナード!」


 今度は魔法剣士タイプ。  剣に魔力を纏わせ、斬撃を飛ばす。


 レナードは余裕の笑みを浮かべた。


 「さっきは上手かった。でも、同じ手は通用しないよ?」


 エルミナは頷く。


 「もちろん。だから別の手を使うわ」


 ルシアが嫌な顔をする。


 「別の手……って何する気!?」


 鐘が鳴った。


 レナードが斬撃を放つ。  空気が裂け、刃の衝撃波が飛ぶ。


 エルミナは障害物の木箱の影へ滑り込んだ。


 ドンッ!!


 木箱が砕ける。


 観客席がざわつく。


 「避けた!」

 「王女、逃げたぞ!」


 だがエルミナは逃げていない。


 箱の破片の中から、何かを拾い上げた。


 ――釘。


 木箱に打たれていた釘を、数本。


 ルシアは目を疑った。


 「え、拾った……?」


 ノエルが呟く。


 「……殿下は今、武器を調達しています」


 「模擬戦で釘拾う人初めて見た!!」


 エルミナは釘を砂地に撒いた。


 まるで、罠を仕掛けるように。


 レナードが追撃しようと踏み込む。


 その瞬間――


 ズルッ!!


 足が滑った。


 釘と砂で踏ん張りが効かず、姿勢が崩れる。


 エルミナはその隙を逃さず、木剣で膝を叩く。


 「ぐっ!?」


 レナードが膝をつく。


 エルミナは首元に剣を当てた。


 「終わり」


 レナードは信じられない顔をした。


 「……な、何した!?」


 エルミナはにこやかに答える。


 「環境を利用しただけよ」


 ルシアが叫ぶ。


 「環境利用の方向性が陰湿すぎる!!」


 ノエルは淡々と呟く。


 「殿下は常に“勝てる盤面”を作ります」


 「それを作戦って言うんじゃなくて犯罪って言うの!!」


 観客席がざわつく。


 「王女、強いぞ……」

 「いや、強いっていうか……怖い」

 「戦い方が貴族じゃない」


 教師が震える声で宣言した。


 「勝者、エルミナ・ヴァレリオス!」


 そして――


 第三試合。


 第四試合。


 勝ち抜くたび、相手は格段に強くなる。  三年の主席候補、四年の剣術上位。


 普通なら、ここで止まる。


 だがエルミナは止まらない。


 彼女は剣で勝たない。  魔法で勝たない。


 ――相手のプライドを折って勝つ。


 四年生の剣士が挑発してきた時は、こう言った。


 「あなた、剣が上手いのね。家の金で買った才能?」


 剣士がブチ切れた瞬間、踏み込みが雑になり、 エルミナが足払いして終わった。


 ルシアは頭を抱えた。


 「いや煽りで勝つのやめて!? それ学園の戦い方じゃない!!」


 ノエルは静かに言う。


 「殿下にとっては、戦いとは“相手を崩す作業”です」


 「性格悪すぎるよ!!!」


 そして、ついに最終戦。


 出てきたのは――五年生。


 学園最強クラスの上級生。


 名前は、ヴァイス。


 長い銀髪。  整った顔立ち。  貴族の頂点のような気品。


 そして、圧倒的な威圧感。


 観客席が静まり返る。


 「ヴァイスだ……」

 「学園最強の一角」

 「王女、終わったな」


 ルシアは震えた。


 「いや無理無理無理無理!! 今までの相手とは格が違うって!!」


 ノエルも、わずかに目を細めた。


 「……確かに、強い」


 ヴァイスはエルミナを見下ろすように言った。


 「王女殿下。あなたの戦い方は面白い」


 「でも、上級生相手に通じると思ったか?」


 エルミナは笑った。


 「ええ。通じるわ」


 ヴァイスが剣を抜いた。


 その瞬間、空気が変わる。


 ――重い。


 殺気ではない。  圧だ。


 ルシアは思わず息を止めた。


 (怖い……! これ、本当に模擬戦?)


 開始の鐘。


 ヴァイスが踏み込んだ。


 速い。  さっきまでの相手とは比較にならない。


 剣が閃き、エルミナの頬を掠める。


 赤い線が走った。


 「……っ!」


 観客席がどよめく。


 「当たった!」

 「王女、傷を!」


 ルシアは叫んだ。


 「王女様!!」


 だがエルミナは、そこで笑った。


 その笑みは――  勝利を確信した者の笑みだった。


 エルミナはわざと大きくよろけた。


 「きゃっ……!」


 転びそうになり、地面に手をつく。


 ヴァイスが追撃する。


 「終わりだ」


 ルシアは叫んだ。


 「だめ!!避けて!!」


 ノエルは唇を噛んだ。


 だが次の瞬間。


 ヴァイスの足が、わずかに沈んだ。


 ズブッ。


 「……?」


 ヴァイスの動きが止まる。


 足元を見ると、そこは砂地の一部が妙に湿っていた。


 いや、湿っているのではない。


 ――水を撒かれている。


 いつの間に?


 ルシアが目を見開いた。


 「え……?」


 そしてヴァイスの足元には、砕けた木箱の破片が散っている。


 尖った木片。


 そこに足を取られ、踏ん張れない。


 エルミナは地面から立ち上がり、静かに木剣を構えた。


 ヴァイスが気づいた時には遅い。


 足場が崩れ、剣の軌道が乱れる。


 エルミナはその瞬間、木剣をヴァイスの手首へ叩き込んだ。


 カンッ!!


 剣が落ちる。


 そして――


 首元へ、木剣。


 完全なチェックメイト。


 訓練場が沈黙した。


 風の音すら聞こえる。


 ヴァイスは目を見開いたまま動かない。


 エルミナは涼しい顔で言った。


 「あなた、強いわ」


 「だから私は、あなたが戦えない場所を作ったの」


 ルシアが叫んだ。


 「いやそれ、勝ち方が陰湿すぎる!!!」


 ノエルは静かに呟く。


 「……殿下は、最初から地面に水を撒いていました」


 「え!?いつ!?」


 ノエルは淡々と指を差す。


 「第二試合の時に拾った水筒です。相手の落とし物を回収していました」


 ルシアは顔面蒼白になった。


 「拾得物って……そういうことだったの!?」


 教師が震える声で宣言した。


 「勝者……エルミナ・ヴァレリオス!!」


 次の瞬間、観客席が爆発した。


 「勝った!?王女がヴァイスに!?」

 「いや、あれは戦闘じゃない……罠だ!」

 「王女、恐ろしい……!」


 ルシアは叫ぶ。


 「王女様!!それ、模擬戦じゃなくて暗殺者のやり方!!」


 エルミナは微笑んだ。


 「勝てば正義よ」


 ルシアが崩れ落ちる。


 「終わってる……この王女、倫理観が終わってる……!」


 ノエルは淡々と頷いた。


 「殿下は常に最短距離で勝利を取ります」


 「いやその最短距離が犯罪寄りなの!!」


 その時、訓練場の端。


 黒い外套の男が、静かに拍手をした。


 パチ……パチ……。


 音は小さいのに、やけに耳に残った。


 男は笑う。


 「……素晴らしい」


 「大切なものが無い人間は、強い」


 ルシアは凍り付いた。


 (なに……今の……?)


 ノエルの表情が硬くなる。


 「あの男……」


 エルミナは勝利の歓声の中で、ふと視線を向けた。


 目が合う。


 黒い外套の男は、口元を歪めた。


 まるで確信しているように。


 ――次は、お前だ。


 エルミナは微笑んだまま、静かに呟く。


 「……面倒な虫が湧いたわね」


 ルシアは震えながら言った。


 「王女様……今、めちゃくちゃ悪役みたいなこと言った……」


 ノエルは静かに剣の柄に手を置いた。


 「……模擬戦は、終わりました」


 「ですが、本番は――これからです」


 その言葉が終わる前に。


 訓練場の結界装置が、ピシリと音を立てた。


 嫌な亀裂が走る。


 教師陣が顔色を変える。


 「結界が……?」


 空気が、冷えた。


 そして、黒い外套の男が、ゆっくりと口を開く。


 「では、始めようか」


 ルシアは叫んだ。


 「ちょっと待って!!模擬戦って言ったよね!?模擬戦って!!」


 エルミナは木剣を肩に担ぎ、にこりと笑った。


 「安心して」


 「私は、勝つわ」


 その笑顔が、妙に怖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ