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転生王女様の王国解体宣言~王女ですが、内部から王国を壊して作り直します〜  作者: 顔のない人間


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第13話 天才王女様は愚痴りたい

 屋敷に戻った夜。


 エルミナは寝室のベッドに腰掛け、毛布を肩まで引き上げていた。  いつもなら完璧に整える髪も、今夜だけは少し乱れている。


 ノエルは無言で湯気の立つ紅茶を置いた。


 「……どうぞ」


 「ありがとう」


 エルミナはカップを手に取ったが、飲まなかった。  じっと揺れる紅茶の表面を見つめている。


 ノエルは立ったまま、いつもの無表情。


 エルミナは小さく息を吐き、ぽつりと言った。


 「ノエル」


 「はい」


 「今日は……ちょっと、愚痴ってもいい?」


 ノエルは一瞬だけ目を瞬かせた。


 「殿下が愚痴を言うのは珍しいです」


 「そうね。だって私は王女だもの」


 「王女も愚痴を言いますか」


 「言うわよ。むしろ言わせて。今すぐ」


 ノエルは頷き、椅子を引いて座った。  背筋はまっすぐ、姿勢は完璧。


 「聞きます」


 エルミナは紅茶を一口飲んでから、静かに目を細めた。


 「……まず、社交界」


 「はい」


 「全員が全員、口を開けば『王女殿下はお美しい』よ」


 ノエルは頷いた。


 「事実です」


 エルミナは睨んだ。


 「あなたまで肯定しないで」  「そこは『そうですね』じゃなくて『大変でしたね』でしょ」


 ノエルは少し考える。


 「……大変でしたね」


 「遅い」


 ノエルは反省する様子もなく、静かに紅茶を飲んだ。


 エルミナは続ける。


 「それで、私が『飢餓が増えている』って話を聞いたのよ」


 「はい」


 「でもその貴族、何て言ったと思う?」


 ノエルは答えない。  いつも通り待つ。


 エルミナは吐き捨てるように言った。


 「『飢えている者は努力が足りない』よ」


 ノエルの眉がわずかに動いた。


 「……努力で胃は満ちません」


 「でしょ?」


 エルミナはカップを置き、両手でこめかみを押さえた。


 「努力で米が増えるなら、畑は要らないのよ」  「農具も要らない」  「全部努力で生えてくる」


 ノエルは真顔で頷く。


 「努力麦」


 エルミナは吹き出しそうになり、口元を押さえた。


 「……努力麦って何よ」


 「努力で育てる麦です」


 「嫌な単語ね」


 ノエルは淡々と続ける。


 「食べたら精神論が強くなりそうです」


 「腹は減りそうね」


 二人の間に、少しだけ笑いが落ちた。


 エルミナはそのまま話し続ける。


 「次、学院」


 「はい」


 「私が入学して二ヶ月で、いじめが発生」


 ノエルは静かに言う。


 「殿下が楽しそうに見ていた件ですか」


 エルミナは即答した。


 「楽しそうじゃないわ」  「いい音だと思っただけ」


 ノエルは首を傾げる。


 「殴打音が好みなのは、十分楽しんでいるのでは」


 「違う」  「私は音響に敏感なだけ」


 「殿下は音楽が好きですから」


 「そう。だから……殴る音もね」


 ノエルは紅茶を飲みながら言った。


 「殿下、危険です」


 エルミナは真顔で頷いた。


 「自覚はある」


 少し沈黙。


 エルミナは毛布をぎゅっと握った。


 「で、私が止めたら、加害者の方が泣き出したのよ」


 「はい」


 「意味がわからない」  「殴った方が泣くって何?」


 ノエルは淡々と答える。


 「痛かったのでは」


 「殴った側が?」


 「はい。罪悪感で」


 エルミナは目を細めた。


 「そんな高度な感情、あの生物が持ってると思う?」


 ノエルは少し考えてから言った。


 「……持っていませんね」


 「でしょ?」


 エルミナは毛布をかぶり直し、ベッドに倒れ込む。


 「なんなのこの国」  「悪いことした方が被害者面する文化なの?」


 ノエルは静かに言った。


 「伝統です」


 「伝統って言葉、万能すぎて嫌い」


 「殿下は神も嫌いです」


 「神も嫌い。伝統も嫌い。貴族も嫌い」


 ノエルは頷いた。


 「嫌い三点セット」


 エルミナは笑ってしまった。


 「……やめて。商品名みたい」


 ノエルは真顔で続ける。


 「嫌い三点セット」  「貴族、神、伝統」


 エルミナは枕に顔を押し付けた。


 「最悪の商品だわ」


 ノエルは静かに言った。


 「売れますか」


 「売れるわけないでしょ」


 「殿下は商売が下手です」


 「王女に商売させないで」


 ノエルは少しだけ目を細めた。


 「……殿下」


 「なに」


 「今日の襲撃は、怖かったですか」


 エルミナは一瞬黙った。


 そして、毛布の中から声を出す。


 「怖かったわよ」


 ノエルは頷いた。


 「殿下が馬車の中で丸まっていたので」


 「言わないで」


 「フィオナが必死に戦っていました」


 「言わないで」


 「殿下は主人公とは思えないほど――」


 「言わないで!!!」


 ノエルは淡々と謝罪する。


 「失礼しました」


 エルミナは枕から顔を上げた。


 「だって私は魔力が平均なの」  「天才でも、刃物は刺さったら死ぬのよ」


 ノエルは頷いた。


 「正しい判断です」


 「でしょ?」


 エルミナは少し得意げに言った。


 「私はね、死を賭けるほど愚かじゃないの」


 ノエルは即答した。


 「ですが、殿下は時々、自分の頭脳に酔います」


 エルミナの眉がぴくりと動いた。


 「……ノエル」


 「はい」


 「今、私を少し馬鹿にした?」


 ノエルは首を横に振る。


 「事実確認です」


 エルミナは枕を投げた。


 ノエルは片手で受け止めた。


 無音。


 完璧なキャッチ。


 エルミナは唖然とした。


 「……あなた、何なの?」


 ノエルは平然と答えた。


 「メイドです」


 「メイドって、枕投げの達人なの?」


 「殿下が幼少期に投げ続けた成果です」


 エルミナは呻いた。


 「私の教育が間違っていた……」


 ノエルは枕を丁寧に整え、ベッドに戻した。


 「殿下」


 「なに」


 「愚痴は少し楽になりましたか」


 エルミナは毛布にくるまりながら、少しだけ笑った。


 「……ええ」  「あなたに話すと、馬鹿らしくなるから」


 ノエルは真顔で言う。


 「それは良いことです」


 エルミナは天井を見上げ、静かに息を吐いた。


 「この国、ほんとに……面白いわ」


 ノエルは頷く。


 「殿下が壊すのに適しています」


 エルミナは口元を隠し、笑いを堪えた。


 「……そうね」


 そして、誰にも聞こえないほど小さく。


 「ふふ……」


 その笑いは、優しいものではない。


 愚痴の終わりに残ったのは、静かな熱だった。

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