表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王女様の王国解体宣言~王女ですが、内部から王国を壊して作り直します〜  作者: 顔のない人間


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/19

第12話 敵襲②

 森の中は、もう戦場だった。


 剣がぶつかり、血が散り、土が踏み荒らされる。  賊の数は多い。


 フィオナは剣を振るい続けていたが、息が荒くなってきていた。  鎧に傷が増え、肩で呼吸をしている。


 「……っ、まだ……!」


 目の前の賊を斬り伏せても、次が来る。  まるで底がない。


 ノエルも同じだった。


 小型剣で急所を突き、喉を裂き、腱を断つ。  動きは正確だが、腕に疲労が溜まり始めている。


 賊の一人が笑った。


 「いいぞ! 削れ削れ!」  「女二人じゃ無理だ!」


 その言葉が終わった瞬間。


 森の奥から――轟音がした。


 ドン、と空気が揺れるような音。


 賊たちが一斉に振り返った。


 木々の隙間から現れたのは、一騎。


 黒い外套を翻し、馬を疾走させる青年。


 銀髪。  整った顔立ち。  騎士服は高級で、無駄がない。


 その男は、剣を抜くと同時に叫んだ。


 「――王女殿下に刃を向けるとは、いい度胸だな」


 フィオナが息を呑む。


 「……レオンハルト様!?」


 レオンハルト・ヴァレリオス。


 王家の血筋に連なる名門。  学園でも噂される、上級生の本物の天才。


 そして――冷酷な戦場の貴公子。


 賊の一人が唾を吐く。


 「なんだぁ? ガキが増えただけだろ!」


 レオンハルトは笑った。


 「そう見えるなら、目が腐っている」


 次の瞬間。


 馬上からの一閃。


 剣が風を切り、賊の首が宙を舞った。


 血が噴き上がり、賊たちが凍りつく。


 「……なっ」


 レオンハルトは馬から降りた。  動きが静かで、無駄がない。


 そして賊たちを見回す。


 まるで――虫を見るように。


 「殿下の馬車を襲う理由は?」  「金か? 命令か?」


 賊が叫ぶ。


 「うるせぇ! 殺せ!」


 数人が一斉に飛びかかった。


 レオンハルトは、ため息をついた。


 「質問に答えないか。なら不要だ」


 剣が走る。


 一人目、腹が裂けた。  二人目、腕が落ちた。  三人目、喉が切れた。


 血が舞う。  土が赤く染まる。


 レオンハルトの動きは美しかった。  剣術というより、処刑だった。


 フィオナは唖然としていた。


 「……すご……」


 ノエルも、わずかに目を細める。


 賊たちは恐怖で後ずさった。


 「や、やめろ……!」  「こいつ、やばい……!」


 レオンハルトは冷たく言った。


 「逃げるなら背を見せるな」  「背を見せた者から死ぬ」


 賊が走り出す。


 だが――背中を向けた瞬間。


 レオンハルトが剣を投げた。


 刃が回転し、一直線に飛び――賊の背を貫いた。


 男が地面に崩れ落ちる。


 静寂。


 残った賊たちが震え始める。


 「撤退だ!」  「逃げろ!」


 レオンハルトは追わなかった。  ただ剣を拾い、血を払う。


 そしてフィオナに視線を向けた。


 「状況は?」  「殿下は無事か」


 フィオナが慌てて敬礼する。


 「はい! 馬車の中に……!」


 レオンハルトは馬車へ歩いた。


 扉の前で立ち止まり、静かに声をかける。


 「……王女殿下」  「もう安全です」


 馬車の中。


 エルミナは膝を抱えたまま、顔を上げた。


 頬は青白い。  瞳は揺れている。


 だが、涙は流していない。


 「……レオンハルト、先輩……?」


 声は小さく、掠れていた。


 レオンハルトは一瞬だけ、表情を柔らかくした。


 「ええ。遅れて申し訳ない」


 エルミナは馬車の中で立ち上がろうとして――


 足がもつれた。


 「……っ」


 その瞬間、身体が傾く。


 ノエルがすぐに手を伸ばし、支えた。


 「殿下」


 エルミナは震えながら、ノエルの服を掴む。


 「……歩けない」


 その言葉は、屈辱だった。


 だが、エルミナは言った。


 王女としての体裁より、生存を優先した。


 レオンハルトが目を細める。


 「……無理をするな」


 ノエルが淡々と言う。


 「おぶります」


 「……お願い」


 エルミナは、顔を伏せた。


 ノエルが背を向け、しゃがむ。  エルミナはその背に掴まり、ゆっくりと乗った。


 細い背中。  だが、安定している。


 ノエルが立ち上がる。


 「軽いです」


 その一言に、フィオナが叫んだ。


 「軽いとか言わないで! 殿下が傷つく!」


 ノエルは首を傾げる。


 「事実です」


 フィオナが歯ぎしりする。


 「くっ……相変わらずズレてる!」


 エルミナは、ノエルの背中で小さく息を吐いた。


 安心したわけではない。


 ただ、今だけは――思考を止めたかった。


 レオンハルトが周囲を確認する。


 「追撃はない」  「馬車は使えるか?」


 護衛兵が震えながら答えた。


 「は、はい……車輪は無事です……」


 フィオナが血を拭いながら言う。


 「殿下をすぐに屋敷へ!」


 レオンハルトは頷く。


 「私も同行する」


 その言葉に、護衛兵たちが息を呑んだ。


 王族に近い存在が、王女を送る。


 それは――護衛以上の意味を持つ。


 ノエルがエルミナを背負ったまま、馬車の近くへ向かう。


 エルミナはノエルの肩に額を預けた。


 「……ノエル」


 「はい」


 「……あなたの背中、落ち着くわ」


 ノエルは少しだけ間を置いて言った。


 「そうですか」


 フィオナが叫ぶ。


 「殿下、今のは甘えすぎです! 王女としての威厳が!」


 エルミナは小さく笑った。


 その笑いは、かすれていて弱い。


 「……威厳なんて、命があってこそよ」


 馬車が動き出す。


 森を抜け、道を進む。


 レオンハルトは馬で並走しながら、静かに言った。


 「殿下」  「賊の動きは不自然でした」


 エルミナは顔を上げずに答える。


 「……ええ」  「素人じゃない」


 レオンハルトの声が低くなる。


 「誰かが金を出している」  「そして狙いは――殿下の首」


 ノエルの背中で、エルミナの唇がわずかに歪んだ。


 (やっぱりね)


 (私の“王国解体”が、誰かの利権に触れた)


 (面白い)


 (実に、面白い)


 だが、その感情は外には出さない。


 今のエルミナは、ただの震える少女でいい。


 屋敷の門が見えた。


 使用人たちが駆け出し、騒然となる。


 「殿下!?」  「お怪我は!?」


 ノエルが門をくぐり、屋敷へ向かう。


 レオンハルトが馬を止め、静かに言った。


 「……今日は休んでください」  「殿下は、もう十分戦った」


 エルミナは小さく頷いた。


 「……ありがとうございます、レオンハルト先輩」


 フィオナが慌てて言う。


 「殿下、先輩呼びは……!」


 エルミナは弱々しく笑った。


 「……今だけ許して」


 ノエルが屋敷の扉を開け、エルミナを運び入れる。


 暖かい室内の空気が肌を撫でた。


 だがエルミナの心は、冷たく冴え始めていた。


 (賊を使うほど焦っている)


 (兄上か、それとも――別の誰かか)


 ベッドへ降ろされる瞬間。


 エルミナはノエルの袖を掴み、小さく囁いた。


 「……ノエル」  「明日から、調べるわ」


 ノエルは無言で頷いた。


 エルミナは目を閉じる。


 疲れた少女の顔で。


 しかし胸の奥では、静かに火が灯っていた。


 ――次は、私の番。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ