058.「」
冒険者を装い、街に潜伏する。
聞かされた当初こそ、荒唐無稽な策としか思えなかった。
しかし、今にして振り返れば――。
「流石は"蠱毒のムシウル"……! 今は亡き我が盟友にして、血盟の戦友よッ!!!」
時間軸は現在。
琥珀の繭を内から破り、新生を迎えたグランダムが莫大な雄叫びを轟かせる。
光を青白く反射する鉱石や結晶が、壁一面を覆う――。
そんな神秘的な岩窟の奥底にて名敵、銀剣のジルクリフ・ガレイアと相対。大きく振り上げた戦鎚のひとつを、豪壮に大地へと撃ち落としながら。
「その計略、実に見事なりッ!!!」
轟きわたる怒号のような叫びは、すでに世を去りし同胞へと捧ぐ最上の賛辞にして、もはや報い得ぬ恩義の証に他ならなかった。
「銀剣、ジルクリフ・ガレイアよ! とくと聞け、冥途の土産代わりに明かしておいてやろう!」
もはや相手にもならない。
怒涛の勢いで戦鎚を振り回し、嵐のごとく乱舞する。そうして徐々に防戦一方へと追い込まれ、険しさの増していくジルクリフの顔付きに。
(愉快、痛快……! よもやあの銀剣、ジルクリフ・ガレイアをこれほど一方的に圧倒できる日が来ようとは……! 力が躰の奥底から沸き立ち、漲ってくるかのようだ!)
すでに確信しかない、圧倒的な勝者の悦にも浸りつつ。
「ムシウルの策には、二つの大いなる目論見があったのだ!!!」
グランダムが響かせたのは、天来が如き轟声だ。
グランダムを街に冒険者として潜入させた目的。
まず1つは言わずもがな、金剣のライナルトを確実に葬り去ること。
ムシウルは言った。
『オマエが街に紛れ込んで暫くしたら、僕が強力な毒蟲を放つ。並の冒険者じゃ到底、太刀打ちできないようなとびっきり大型の奴をな。次男坊だけで処理しきれなくなれば、いずれ長男坊も出てくるだろう。そこを狙う』
セレビネラの話だと、ライナルトは基本的にあまり一人では行動しないらしい。冒険者たちを集め、連れ立つことが多いそうで。
『オマエもそこに加われ。前後から挟み撃ちにすれば必ず勝てる。奴は仲間を見捨てられないらしいからな』
そして結果は、まさにその目論見通りとなったのだ。
「貴様の兄、ライナルト・ガレイアは死んだ! 我らの――いや、我が友が遺した策、その結実が齎した勝利よ!!!」
振り下ろされた大槌の一撃に、また一際大きく岩窟が揺れる。揺るぎなき戦果、そのすべてを空の友への手向けとしたうえで。
「そして、二つ目は――」
なおも交戦を続けつつ、ニヤリ。
グランダムは得意げに、秘められたもう一つの目的も明かすのだった。
そして、その思いもよらない発言に。
(なんかよく分からないけど、二人ともタイマン勝負がしたいみたいだし。もう知ーらない。ほっとこ)
無関心さから、静観を決め込んでいた一人の少女がピクリと反応を示す。
「……なんですって?」




