049.「」
さて、それから数日が過ぎた。
ここでちょっと残念なお知らせがある。
アルメリアのポーション需要が急増したのは、"蠱毒のムシウル"が活動を本格化させたことが大きい。
故にムシウルさえ倒せば、人気もある程度は落ち着き、このてんやわんやな忙しさからも解放されるものと期待したのだが。
そうでもなかった。
目の回るような忙しさは今なお続いている。
要因の1つは、まだ森にムシウルの放った毒蟲たちがいっぱい残っていること。
「なんでぇえ……。ムシウルって幹部はライナルトさんが倒したんでしょ……? だったらそれでおしまいなんじゃないのぉ?」
発表ではそういうことになった。
金剣ルミナリスの加護により復活したライナルトが、"蠱毒のムシウル"を討ち果たした。
しかしその復調はあくまで一時的なものに過ぎず、今も彼は療養中である……みたいな。
しかし――。
「たしかにムシウルは討たれましたが……。それで既に放たれていた虫たちまで居なくなるわけではないのでしょう。中には恐ろしく繁殖力の強い毒蟲もいるようですわね……」
ヘトヘトになって音をあげるスーランに、同じく疲れ切ったギルダが解説を入れる。
だから今日も、今朝からこんな大忙しなのだが。
「でも理由はおそらく、それだけではありませんわ。……アルメリアさん」
息を切らしながら、ギルダがこちらを見やる。
「ごめんね、2人とも……」
アルメリアとしては謝るしかなかった。
ギルダの言いたいことは分かる。
なぜこうも忙しいのか。
理由のもう半分くらいはアルメリア自身に熱狂的なファンが付いていることが原因だ。
よく効く、と評判は光栄だが。
とにかく美味しいとか、可愛いとか。
本題とまったく関係ない、余計なところまで人気を博してしまっている。
それで客足が途絶えなくて。
「そう言えばまえに、買い占めようとした人もいたよね。すっごい大柄なフルメイルの人」
「あぁ、いましたね……。あれは本当にいただけませんでしたわ。足りなくなると言っても、このポーションは旨い格別だのと勝手なことばかり言って」
「あの人、どうなったんだっけ?」
「さあ? そういえば最近、見かけませんね。少なくともこの店は出入り禁止とされたはずですが。あるいはそれで不貞腐れて出ていったのでは?」
ともかく、と。
そんな余談を打ち切って。
「このままでは、またいつ同じような輩が現れるかも分かりません。以前にも申し上げましたけれど、アルメリアさん――そろそろ、大幅な値上げをご検討なさっては?」
「そうだよ、アル! この際、2倍……ううん、3倍くらいにしちゃってもいいんじゃないかな!」
スーランからも言われたけれど。
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど……。ポーションの値段ってある程度、幅が決まっちゃってるんだよね。大体ここからここまでーって、最初にギルドの人たちからも言われちゃってるし……。今さらちょっとくらいあげたって、あんまり効果ないんじゃないかな?」
此処にきた初日、オリエンテーションみたいなのでそう言われた。
「ではいっそ、味をマズくしてしまいましょう! そうすれば客足も自然と減っていくはずです!」
「あっいいね、それ名案だよ! お塩とか酢をいっぱい加えよう!?」
「そうしたいのも山々なんだけど……」
理由はアルメリアにもよく分からない。
マンドラゴラの血とはそういうものなのか。
「勝手に美味しくなっちゃうんだよねぇ……」
自分ではどうしようもなかった。




